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アラウ&ガリエラ/フィルハーモニア管 ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集
アラウのベートーヴェン/ピアノ協奏曲の全集録音は、全部で3種類。全てスタジオ録音。

 ガリエラ指揮フィルハーモニア管 (1955年[第4番、モノラル]、1958年,EMI)
 ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管 (1964年,Philips旧盤)
 ディヴィス指揮シュタッツカペレ・ ドレスデン (1984年-87年,Philips新盤)

ライブ録音では、全集版はなくて、クレンペラー/フィルハーモニア管の伴奏による第3番~第5番のロンドンでのライブ録音(TESTAMENT)が残っている。

<ディヴィス指揮シュタッツカペレ・ ドレスデン/Philips新盤>
3種類の全集録音のうち、おそらく最も良く聴かれているのが、晩年のPhilips新盤の第4番と第5番。
特に第4番は人気のある録音で、レビューもすこぶる良い。ただし、この超スローなテンポを受け入れられるならという条件はあるけれど。
個人的な感想をいえば、いつも新盤で聴くのは、ほとんど第4番のみ。すこぶるスローなテンポで、アラウが弾いているとすぐわかるほどに独特。
でも、この透明感、包容力、慈愛に充ちた演奏は、多少指回りの悪さを感じるところはあっても、そういうことは関係なく素晴らしい。
第1番、第3番になると、さらに後年の録音のため、技巧的な衰えが進み、タッチの切れも悪く、ダイナミックレンジも狭くなっている。
淡々とした表現で、演奏に勢いがなく、物足りない感じがする。第3番の第1楽章は、ロマンティックというよりは、枯れたもの哀し差を感じてしまう。
第1番~第3番は若い頃のベートーヴェンの作品なので、もっと生気と覇気のある演奏を聴きたい。

Piano Concertos 4 & 5: EmperorPiano Concertos 4 & 5: Emperor
(2001/03/13)
Ludwig van Beethoven、 他

試聴する(米amazon)


<ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管/Philips旧盤>
ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管の伴奏は、新盤のディヴィス指揮シュタッツカペレ・ドレスデンやEMIのガリエラ指揮フィルハーモニア管の伴奏に比べて、ややオケの存在感がやや薄く感じる。
どの曲も音質は良いけれど、ピアノだけやたら前面からよく聴こえてくる。アラウのピアノが細部までよく聴き取れるので、それはそれで悪くはないけれど。
全体的に、ピアノの音が綺麗で細部までくっきりと聴き取れて、サラサラと流麗。起伏がEMI盤に比べて少し緩やかで、タッチの切れがやや鈍く、音もまろやか。
全体的に整った美しい演奏だとは思うけれど、勢いやスケール感やロマンティシズムが薄くて、あまり強い印象が残っていない。
1960年代以降のアラウのスタジオ録音は、どこか"おとなしい"感じがするときがあり、これはライブ盤と比較するとよくわかる。
緩徐楽章は、全体的にテンポが遅くなってゆったりと沈潜していくようになり、この傾向は年を経るに連れて強くなっていく。
この旧盤で、この曲が絶対に聴きたいと思うものがない。あえて言うなら、5曲の協奏曲のなかでは、第4番が一番良いように思うけれど、第4番なら、新盤かバーンスタイン指揮バイエルン放送響のアムネスティコンサートのライブ録音の方を聴いてしまう。

Complete Piano Sonatas & ConcertosComplete Piano Sonatas & Concertos
(1999/11/09)
Beethoven、Arrau 他

試聴する(米amazon)


<ガリエラ指揮フィルハーモニア管/EMI盤>
ガリエラが指揮するEMI盤がPhilips盤よりもずっと良いというレビューをいくつも見かけたので、探し回っていた録音。
長らく廃盤だったけれど、ようやくBOXセットに収録されて再リリースされた。
評判どおり、このベートーヴェンのピアノ協奏曲全集、それに、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の録音が素晴らしく良かったので、それだけでしっかり元はとれたはず。

Icon: Claudio Arrau-Virtuoso Philosopher of the PiIcon: Claudio Arrau-Virtuoso Philosopher of the Piano
(2011/02/28)
Claudio Arrau

試聴する


ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、第4番のみ1955年のモノラル録音で、他の曲は1958年録音のステレオ録音。
それにしては、音が鮮明できりきりっとしたシャープなところと適度なざらつき感があって、とても聴きやすい。
いつも第2番と《皇帝》はほとんど聴かないので、残り3曲について。
第1番と第3番は、Philips新旧両盤よりもはるかに良く、EMI盤だけで充分と思えるくらい。
きびきびとした生気と勢いのある演奏を聴くと、まだ55歳頃のアラウのピアニズムがどういうものだったのかよくわかる。
第3番の緩徐楽章は、ゆったりとして深く物思いに沈んでいくところは、晩年のアラウの演奏を彷彿させるようなところがある。

ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
第1楽章冒頭オケのトゥッティは勢いよく、躍動感があって、まだ若い時に書いたベートーヴェンの曲らしい雰囲気。
アラウのピアノも、Philips盤とは打って変わって、タッチの切れが良く、リズミカル。
速いテンポで指回りの良さを感じさせるような、やたら元気な演奏とは違う。
アラウらしい一音一音がくっきりと明瞭なマルカート的なタッチは、きびきびと軽快。
ピアニッシモは柔らかくて滑らかなレガートが美しく、溌剌さと優美さがブレンドされて品良く。

第1楽章のカデンツァは、途中で楽譜が消失している未完成版の方。
この版を弾いている演奏を聴いたのは、レーゼル、アンダ、ブレンデルなど。
消失した部分以降は、それぞれ処理が違い、自作のオリジナルを弾いたり、完成版のカデンツァを接続したりしている。
アラウは、消失部分以降は、残された2つのカデンツァの一部分を取り出して、繋ぎ合わせているようで、特にスケール部分がとてもダイナミック。

第3楽章も、さほど速いテンポでもないけれど、軽快なタッチ。
リズム感やアクセントをやや強調して、きびきびと気持ち良い。
線が太めで弾力がある音なので、骨太感があって、落ち着きと安定感がある。


ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37 
この全集録音中、一番好きな演奏は第3番の第1楽章。
冒頭のトゥッティからぞくぞくっとするようなドラマティックな雰囲気。
伴奏は、全体的にダイナミックレンジが広くて、クレッシェンドにも急迫感があり、メリハリの強いところは、Philips新旧盤よりも、このEMI盤が一番良い感じ。
わりと速めのテンポをとり、ピアノソロが始まると、線の太めな力強いタッチと柔らかなピアニッシモとを取り混ぜ、スケールやアルペジオにも勢いがあり、後年よりもずっと生気と張りがある。
カデンツァのアルペジオも、一音一音の発音が明瞭で重なりあう響きが力強い。
この曲で一番最も好きなカッチェンやルプーほどに、感情移入というか叙情表現が濃くはないので、端正なロマンティシズムといった感じ。

第2楽章は、晩年のように瞑想的・思索的ではないけれど、ゆったりとしたテンポでピアニッシモが深く沈潜していくような静けさが漂う。
第3楽章は、リズム感を強調した装飾音がアラウ独特。高音のトリルも高速で粒立ちも良くて、よく響く。
平板な演奏ではないけれど、それほど哀感が強くない感じがする。

ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58
第4番は1955年のモノラル録音なので、聴きづらいほどではないけれど、ちょっと音が古めかしい。
Philips盤よりも全体的にテンポが速く、より明るく快活な感じ。
高音の響きの優美さや、ピアニッシモの密やかなところと、フォルテの力強さがほどよい感じ。
第1楽章のカデンツァも品の良い美しさ。
どこかしら静寂な佇まいがあるように感じるのは、どの時代の録音でも同じ。
特にアムネスティライブから最後のPhilips新盤の録音にかけて、その静寂さがさらに強まり、テンポが遅くなっていく。
アムネスティのライブ録音は、透明感と優美さのある落ち着いた気品がある。
晩年のPhilips新盤になると、かなりのスローテンポ。
"静かに微笑みを浮かべる聖母"のような静けさと慈愛に満ちた雰囲気が独特。

1950年代のアラウの録音に関して、『アラウの対話』の中で著者のホロヴィッツがこう言っている。
「次の10年ほどの間に録音された演奏はもっと荘重な歩調となっている。策を練る余裕を与えられて、駆け出すよりもためらっている様子である。輝かしい力のみなぎるパッセージでも、静寂に充ちたパッセージでも同じようにさえを見せている。しかし同時に、純粋な演奏のために弾き手が冷淡に見えることもある。」

「輝かしい力のみなぎるパッセージでも、静寂に充ちたパッセージでも同じようにさえを見せている」というのは、全くその通り。
技巧の安定感、生き生きと輝きのある音色、力強さと静けさが入り混じり、気品のある演奏は、どの年代の録音よりも美しく感じてくる。

<関連記事>
 アラウ&ホロヴィッツ『アラウとの対話』~「レコードで聴くアラウ」 

(EMI盤とPhilips旧盤を比較した部分)

「ベルナルト・ハイティンク指揮によるベートーヴェンの『皇帝』では、冒頭のカデンツァと冒頭のトゥッティが、まるで別々の演奏から抜き出していたかのように聴こえる。アルチェオ・ガルリエーラ指揮のベートーヴェンの場合は、アラウのカデンツァはハイティンクのときよりよく融け込んでいるが、独奏部分ではピアノがふつうより大きく響く。推察するところ、機器のつまみをいじったり、テープのつぎはぎをしたせいであろう。」

「鍵盤の織りなすテクスチュアのどれもこれもが、表面に押し出されてひしめく細部によって構成されるようになると、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番のような作品に要求される光と影の絶え間ない戯れも、その別なく曖昧になってしまう。ハイティンク指揮によるアラウの盤にみられるのがこの例である。それに比べると、鮮明度が落ちるガルリエーラ指揮による盤は、アラウの漂うピアニッシモをかえってより確実に再現し、そのファルティシモはいっそう豊かである。」

「アラウの吹き込んだ2種類のベートーヴェン協奏曲集のうちでは、ガルリエーラ指揮によるEMI盤の演奏が、ハイティンク指揮によるフィリップス盤を凌ぐ。特に、アラウとがルリエーラの協奏曲第4番は非凡な演奏である。ハイティンクより、あるいでDGGコンサート録音で聴くレナード・バーンスタインよりも、ガルリエーラは冒頭のトゥッティに対するアラウのメランコリックな幻想を共有している。アラウは悲しみのオルフェウスに擬した4つの音が叩く動機を使って、楽章全体にヴェールを投げかけている。そのため、この楽章は来るべき嘆きの淵に危うくとどまって終る」

 アラウ&ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管~ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集

 アラウ~ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番





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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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