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小曽根真&ゲーリー・バートン 『Virtuosi』
小曽根真とゲーリー・バートンのデュオの『Virtuosi(ヴァーチュオーシ)』は、バロックから現代のクラシックを中心にした今までとは一風違ったジャズアルバム。
2002年の第45回グラミー賞"Best Classical Crossover Album"にノミネートされている。

「virtuosi」とは、virtuoso(ヴィルトオーソ)の複数形。クラシックの世界で「ヴィルトオーソ」というと、超絶技巧を持つ演奏家のことを言う場合が多い。
名人や達人といった意味合いもあるので、どちらかというと"鮮やかなテクニックで音楽を奏でる達人たち"というところだろうか。

収録曲の多くは、クラシックのピアノ曲をが素材にしている。
クラシックのジャズバージョンというと、原曲の旋律にジャズ風の伴奏をつけただけ..みたいなものが少なくない気はするけれど、小曽根&バートンのデュオなら、そんなつまらないアレンジになるわけもなく、原曲の旋律を使いつつも自由自在に動き回って、さすがにどの曲も素敵。
クラシックをこんなに面白くアレンジしているジャズピアニストというと、私がすぐに思い浮かぶのはリッチー・バイラーク。彼のアルバム『哀歌』、『Round About Mompou』、『Round About Bartoks』は、どれも凝ったアレンジで原曲を忘れてしまう。

クラシックの原曲を知っていれば、雰囲気の違いや編曲の面白さを楽しめるし、原曲を知らなければ知らないで、いつものモダンジャズとは違ったクラシカルなタッチのジャズが聴ける。
聴いたことのないクラシックの曲は、ラフマニノフ、ガーシュウィンの前奏曲、ドリーブ。それに、カルドーソはアルゼンチンのクラシックギタリスト、コンフリーはジャズピアニスト。
小曽根のデビュー盤『クリスタル・ラブ』を聴いて以来、ピアノ&ヴィブラフォンというフォーマットは、ピアノトリオよりも好きなので、なおさら楽しいアルバム。

ヴァーチュオーシヴァーチュオーシ
(2010/05/26)
ゲイリー・バートン&小曽根真

試聴する(米amazon)


最後のオリジナルを除いて、各曲とも、冒頭は原曲の主題をシンプルに演奏し、その後、ジャズらしい即興演奏に入り、最後に原曲の旋律を凝ったアレンジで演奏して終るという展開。
原曲はピアノ独奏曲が多いので、ヴィブラフォンとピアノのデュオだと音色も多彩で、両者の息の合った即興でのやりとりも入って、とても面白く聴ける。
ガーシュウィンのピアノ協奏曲だけは、原曲の記憶への刷り込みが邪魔して、音も演奏もスケールダウンしたような感覚を覚えたので、もう一つ楽しめないところはあったけれど。

特に好きなのは、クープランとラフマニノフの前奏曲、ブラームスの奇想曲。スカルラッティのソナタも面白い。特にクープランが鮮やかに思えたし、ブラームスは原曲が好きなので、この2曲はとりわけ気に入ったもの。
それに、ラストの小曽根のオリジナル。他の曲と脈絡のない気はするけれど、やっぱり彼のオリジナルはいつ聴いても良い感じ。



1. ラヴェル 《クープランの墓》 第1曲「前奏曲」
ラヴェルの瀟洒で軽妙なプレリュードは、無機質なメカニカルさを感じさせるところがあり、冷たい輝きを放つ宝石のようにクールな感じがする。
でも、ヴィブラフォンの音色が柔らかく温もりがあるし、小曽根のピアノの音色も明るい色調で、原曲とは少し違った感覚。
ヴィブラフォンとピアノがユニゾンで弾く旋律は、速いテンポで軽やか。全編を流麗なフレージングと軽快なリズム感で淀みなく流れてとても鮮やか。とても明るくて楽しそうなラヴェル。このアルバムの中で特に好きな演奏の一つ。
小曽根真のピアノは、原曲をソロで弾いたとしても安心して聴けそう。

2. バーバー 《遠足》 第1曲 作品20
あまり演奏されることのないバーバーのピアノ作品が原曲。
これはどこかで聴いた事があるモチーフ...と思って曲名を見ると、《遠足》。
珍しい曲名なので、すぐにバーバーだと思い出した。
即興部分でも、不可思議な雰囲気の漂うやや不協和的な和声や、ピアノの左手伴奏部のオスティナートなどが使われているので、原曲の現代的なタッチがよく伝わってくる。

Gary Burton & Makoto Ozone - Barber
これはCDとは違う音源のライブ映像。




3. ラフマニノフ 《13の前奏曲》第8番 作品32の8
ラフマニノフはあまり聴かないけれど、冒頭の旋律がとても面白くて、原曲をどうしても確かめたくなってしまった曲。
冒頭の最初の2小節の旋律がフーガのようにあちこちで現れ、全編、まるで何かに追い立てられているような急迫感。
中間部の即興に入ると、ヴィブラフォン、次にピアノが、速いテンポで疾走して鮮やかなソロ。
ラフマニノフの前奏曲って意外にわかりやすくて面白いかも...と思えてきたので、いくつかある前奏曲集をまとめて聴いてみた方が良さそうな気がしてきた。

4. カルドーソ 《ミロンガ》
苦手なタンゴもバートンのヴィブラフォンなら、雰囲気やリズムがちょっとまろやか。

5. ガーシュウィン 《前奏曲》 第2番
物憂げな雰囲気にどっぷりつかったガーシュウィン。
有名な《サマータイム》も苦手なので、こういうタイプの曲はやっぱり好みとは全然違う。

6. スカルラッティ 《ソナタ》 K.20 L375
ハープシコードの尖った音を模したような、弾むように軽やかなスタッカートなタッチがとってもメカニカル。でも、ヴィブラフォンとピアノの可愛らしい音色は、陽気で楽しそう。
ちょっとデフォルメ感があるのがユーモラス。ヴィブラフォンとピアノのユニゾンがお茶目な感じ。
即興部分に入ると、スタッカート的なタッチを少し残しながらも、短調の和声の響きが華麗な雰囲気。
単調になりがちなバロックのシンプルな旋律でも、長調と短調が頻繁に交錯し、表情がコロコロと変化していくのが面白い。

Gary Burton & Makoto Ozone - K20
これもCDとは違う音源のライブ映像。



7. ゼズ・コンフリー  《スリー・リトル・オディティズ》より 「即興曲」
コンフリーは「ノベルティー・ピアノ」の第一人者。「ノベルティー・ピアノ」とは、技巧的で描写的ラグタイムで”新奇さ、奇抜さ”が強調されたものらしく、、「ノベルティー・ラグ Novelty Rag」というジャンルがある。
コンフリーの自作自演が、『鍵盤上の子猫~ゼズ・コンフリー/ノベルティ・ラグの名技』で試聴できる。
下降音型と余韻漂うヴィブラフォンの音色が、どことなく曖昧模糊とした不安げな雰囲気をかもし出している。

8. ガーシュウィン/《ヘ調のピアノ協奏曲》~第3楽章
旋律自体は原曲で聴き慣れたものなので違和感はないけれど、ピアノがタッチがやや軽い感じがするのと、楽器が2つだとオケ伴奏に比べて色彩感や音の厚みがないので、どうしても迫力不足。
原曲を聴き慣れているだけに、ピアノ&ヴィブラフォンだとどうも調子が狂ってしまう。原曲は忘れて別ものと思って聴かないと...。
原曲の旋律をなぞっている冒頭部分と終盤部は(個人的な好みとしては)もう一つだったけれど、原曲からかなり離れた即興部分とか、元の旋律をジャズ風にアレンジして弾いているところは、スピード感があって技巧鮮やかで、聴き応え充分。

9. ドリーブ 歌劇《ラクメ》メドレー
《ラクメ》自体は見たことも聴いたこともないけれど、メドレーに使われている旋律はどこかで聴いたことがある。
これはごく普通のジャズらしい華麗なタッチ。

10. ブラームス 《8つの小品》 作品76 ~ 第2曲「カプリッチョ」
ブラームスのピアノ小品をモチーフにしているのは、ブラームス好きには嬉しい選曲。
ピアノソロで聴いても、面白いリズム感でお茶目な感じがする曲なので、ヴィブラフォン&ピアノのデュオで弾くにはぴったり。
"奇想曲"らしさのある軽妙でちょっと不思議な雰囲気が良く出ていて、ピアノソロで聴くよりも曲想に似合っている気がするくらい。
中間部に挟まっている即興部分は、流れるように華麗なタッチに変わり、原曲とはかなり違った雰囲気。

11. 小曽根真 《サムシング・ボロウド、サムシング・ブルー》
しっとりとした叙情感が心地良い小曽根のオリジナル。
ゆったりと呟くようなヴィブラフォンとピアノの旋律と余韻漂う和音の響きが美しくて、ちょっとセンチメンタルな気分。
なぜか、戦いすんで日が暮れて、心地良い疲れに浸っている...ような感覚がする。


tag : 小曽根真

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こんにちは。小曽根さんのリサイタルに一度だけ行ったことがあります。そのときにラヴェルを弾いてくれたのが気に入って、このアルバムを買いました。クラシック中心に聞いている自分としては新鮮で、小曽根さんのラヴェルの粋な演奏に再度、心魅せられました。
彼のラヴェルというと
chokujin様、はじめまして。
ご訪問、コメントどうもありがとうございます。

小曽根さんのリサイタルに行かれたのですね~。
私はかれこれ20年以上前に、バートンとのDuoリサイタル(ジャズばかりでしたが)をシンフォニーホールで聴いたことがあります。
今ではもうすっかりメジャーなジャズピアニストになりました。

最近は、演奏会でもクラシックをときどき弾いているようですし、ショパンをモチーフにしたアルバムが出てましたね。

ラヴェルはクールに弾くと冷たく光る宝石のような趣きを感じますが、小曽根さんの演奏なら、即興も入ってたのでしょうね。
お洒落でセンスの良さが光ったラヴェルになっていたのでは...と想像してしまいます。
カッチェン
http://youtu.be/QAllE7GORcc
これご覧になりましたか。
このcapitantottiさんのyoutubeチャンネルはいいですよ。
カッチェンのライブ映像
Kaz様、こんばんは。

ご連絡ありがとうございます。
そのYoutubeの動画は、3曲とも別の方々が以前からYoutubeにアップしていますので、全て視聴ずみです。
元の映像は、EMIからDVDで発売されています。

正規のDVDでリリースされていないYoutube動画は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(プラハ音楽祭)のライブ映像くらいではないかと思います。
(この映像は、海賊盤らしきDVDで昔出回っていたらしいですが)
ライブ映像のなかでは、これが曲も演奏も一番好きなのです。
第1楽章しか聴けないのがとても残念です。いつか全楽章を聴くことができれば..と願ってます。
追伸です。
Kaz様、こんばんは。

ご紹介いただいたYoutubeのライブ映像には、シューベルトの即興曲が入っていますね。
すみません、見落としてました。
これはEMIのDVDに入っていないらしく(たぶん)、Youtubeにも音源がなかったはずです。
クレジットを見ると、INAのアーカイブ映像らしいですね。
フランスのTV局で放映されていたのか、放送用録画が残っていたのでしょう。
とても珍しい映像でした。教えてくださって、どうもありがとうございました。
すっかり最近は小曽根さんを聴くように
こんばんは.
一昨年に小曽根さんのショパンもののコンサートへ行ってから,気にして聴くようになりました.年々,ピアノが自然に豊かに鳴ってきているように思えます.以前はゲイリー・バートンというとチック・コリアだったのですが,小曽根真もその域だと思っています.

ジャズ奏者のクラシック曲アレンジですとFred Herschが大好きです.このアルバムでは同じラヴェルのクープランの墓があります.
http://blog.goo.ne.jp/ken_jazz/e/daab46e96bc4e84790110f417ab81fc5

ここでリンクを貼ったドビュッシーも原曲の曲想を維持し,少し軽やかなピアノトリオに仕立て上げられています.
http://youtu.be/wEMWZM3k_q0


ハーシュも面白いですね
ken様、こんにちは。

小曽根さんは、初期から好きだったのですが、結婚後はほのぼのと暖かな音楽をするようになって、以前のような斬新さや切れが感じられない気がしていました。
最近は、クラシックなど新しい音楽にもアプローチしているせいか、音色などのテクニカルな部分だけでなく、音楽の幅も広くなって内容もとても豊かになっていますね。
自由自在というか、おっしゃるように内面から音楽が自然に湧き上がってくるように思えます。

Fred Herschは、メルドーのお師匠さんですね。何枚かCDは聴いてました。
リンクしていただいたCDはもう廃盤らしく試聴ができないのですが、ドビュッシーの方は原曲の旋律を生かしたアレンジになっていますね。

もうお聴きかもしれませんが、ハーシュの作品集”Concert Music (2001-06)”がNAXOS盤で出ていますが、このアルバムはなかなか素敵ですね。
モチーフやテーマはクラシカルなのですが、中身はクラシックとポピュラー・ジャズが融合したような面白さがあって、わりと好きなのです。
バッハの変奏曲は、変奏が進むと原曲の主題からかなり離れて行く気がしますが、24も変奏を書くのに苦労した感じがします。
特に好きなのは、ピアノ三重奏の「叙情的小品」。ちょっとヤナーチェクに似ているような気もします。リリカルですが、現代的な雰囲気が満ちていて、センスの良さを感じます。

ハーシュは
おはようございます。
ハーシュのアルバムはNAXOSのライブラリで随分と見つけることができますね。仰せのアルバムは驚きました。演奏集でなく、作品集なのですね。驚いた。
実はハーシュを聴くより、メルドーを聴くことのほうが多いです。メルドーの聴きはじめで、あの美音に引っ張られています。ボクの中ではハーシュも同等ではありますが。ハーシュのソロも驚くほど美しく、素晴らしい。ジョビンの曲集がいいです。もう死期が近い(ゲイでAids発症で何回か危篤になったよう)ので、そのようなことが反映しているように思えます。
http://youtu.be/cGYQVGZ0LwY
ハーシュの美しさ
ken様、こんにちは

NMLはジャズのレーベルも参加しているのが良いところですね。
それにしても、NAXOSがハーシュの作品集を録音しているのを見つけたときはびっくりしました。NAXOSのCDはクラシックだけだと思っていたので。
ジャズのピアノトリオとは、楽器編成は違いますが、楽器3つで演奏する形式のせいか、ピアノ三重奏曲はとても良いですね。
ハーシュを初めて聴いたときは、メルドーに似ているように感じました。メルドーの方が音楽が理屈っぽいところはありますが。

ハーシュのJobimのアルバムは、スローテンポの曲はある種耽美的というか、独特の美しさを感じます。
全体的に、右手と左手との音色・タッチの違いで声部の弾き分けが明瞭なせいか、音楽が立体的で、2台のピアノで弾いているように聴こえてきます。
試聴したところでは、”Corcovado”が冒頭だけ聴いても素敵でしたし、”O Grande Amor”は、対位法的な曲で、ちょっとクラシカルな趣きがあって、面白いです。
Youtubeの”Luiza”は、内省的で息詰まるような濃密感がありますが、晩年のエヴァンスの演奏で感じる濃密感に似ている気がします。
ハーシュもやはり死期が近づいていることを意識していたのでしょうか。
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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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