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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (5) ②Short and Intense Tailor-Made Notched Music Training
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短期集中型 "Tailor-made Notched Music Training(TMNMT)"
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以前に記事で取り上げた耳鳴り治療法としての音楽療法”Tailor-made Notched Music Training(TMNMT)”に関して、最新論文"Short and Intense Tailor-Made Notched Music Training against Tinnitus: The Tinnitus Frequency Matters"が昨年9月に公開された。
最新論文では、前回のフォローアップ研究として、より効率的なトレーニング方法である短期間の集中コースを開発し、実際に被験者で試験した結果が報告されている。
また、2012年6月13-16日に開催された耳鳴り研究の国際会議である「TRI2012」(6th International Conference on Tinnitus)のPoster Sessionで、経頭蓋直流刺激(tDCS)を同時に行った複合療法の臨床結果が公表されている。

(以下、論文抄録の要約)

 "Short and Intense Tailor-Made Notched Music Training against Tinnitus: The Tinnitus Frequency Matters"

【実施要領】
対象者:慢性でTonal型の耳鳴り
被験者群:耳鳴周波数が低周波数群(8kHz以下、10名)、高周波数群(8kHz超、10名)の2グループ
訓練期間:短期間(5連続日)
訓練時間:第1日&第5日:3時間/日、第2日~第4日:6時間(3時間×2回)/日
指定使用機器:クローズド型ヘッドフォン(Beyerdynamic DT-770, 32 Ohm Edition)
音量:被験者が快適な音量で設定。
音楽加工:被験者が最も好きな音楽を用意(6時間分)し、患者の耳鳴周波数を中心に1オクターブ分の周波数を音楽のエネルギースペクトラムから除去。

【評価ポイント】
効率性:行動面、脳磁図のデータにより測定・評価
効果持続性:訓練後4週間で測定・評価

<行動面の評価方法>
- 耳鳴に起因する苦痛度:E+C subscale of the German version of the Tinnitus Questionnaire
- 評価時点:(i)TMNMT開始直前 (ii)TMNMT完了直後 (iii)TMNMT完了後3日 (iii)同17日 (iv)同31日


【結果と考察】
(1)訓練の効果
訓練完了後、低周波数群(耳鳴周波数が8kHz以下)で、主観的な耳鳴の大きさ、耳鳴りがもたらす苦痛度、耳鳴に関連した聴覚皮質の活動が、いずれもかなり低減した。
高周波数群(同8kHz超)では、大きな変化は見られなかった。
耳鳴音の低減効果は持続的なものではなく、訓練終了後3日経つと低減効果は測定できなかった。

訓練によって引き起こされた可塑的変化は単に機能的なものであって、本質を変化させるものではなかった。
従って、より安定的で持続的な効果をもたらすためには、より長期間(少なくとも数週間~数ヶ月)のトレーニングが必要である。

(2)効果の持続性
8kHz以下の耳鳴周波数患者では、訓練終了後、耳鳴りがもたらす苦痛の低減効果は、耳鳴音量の低減効果よりも、さらに長期間にわたって測定できた。
精神面での改善効果が大きければ大きいほど、時間が経過してもより安定して効果が持続するようになる。
従って、TMNMTを長期間実施することを奨励する。クリニックでの標準的治療法として導入されることが望まれる。

(3)耳鳴周波数と訓練効果の関係
重要な発見は、TMNMTの訓練効果は耳鳴周波数に左右されるという点。
音楽加工の時点で、音楽に含まれる高周波数域を増幅し、さらに比較的、非常に高周波数を伝えやすいヘッドフォンを使用した。
それにも関わらず、 TMNMTは平均的に、8kHz以下の耳鳴周波数患者で効果があったが、8kHzを超える耳鳴周波数患者では効果が無かった。

理論的には、この結果は複数の理由で妥当である。
(i)極めて高い周波数では、人間の蝸牛の感度は相対的に低くなる。従って、高周波数の音を聞こえるようにするためには、音圧レベルをより高く設定されなければならない。
(ii) 加齢による難聴は高周波数から低周波数へと進むため、極めて高い高周波数に対する蝸牛の感度が低くなる。
(iii)音楽は通常、極めて高い周波数域をほとんど含んでいない。
(iv) 結局、リスニング中、患者は無意識に、音楽知覚や娯楽として考えれば高周波数よりも適当な低周波数の方へ、注意を向けていたのかもしれない。(歌手の声など)

これらの論点は、非常に高い周波数のコーディング(符号化、記号化)を目的とする神経活動を、効果的に抑制することはかなり難しい課題だということを示している。
8kHz超の耳鳴周波数患者に対して、TMNMTは原理的に作用するものなのか、依然として調査課題のままである。

そのようなケースでは、治療用刺激が充分な量の高周波数エネルギーを含むべきだと仮定するのは合理的に思える。
一方では、治療用刺激や戦略が、可塑性を促進すると考えられる注意および報酬系(attention- and reward-related)脳内ネットワークを作動させるほどに、充分に興味深くモティベーティブであることが重要だと推定している。
一つの可能性としては、ハイパス・ノイズを付加することで、高周波数帯での音楽スペクトラムをより増強することがあげられる。


"Combining “TAILOR-MADE NOTCHED MUSIC TRAINING (TMNMT)” with left auditory cortex tDCS: an explorative study"
(Teismann H., Wollbrink A., Okamoto H., Pantev C.)

短期集中型"Tailor-made notched music training"とtDCS(経頭蓋直流刺激)との複合療法により、耳鳴緩和効果があった。
tDCSが"脳の可塑性への扉を開く"という前提に基づき、 短期型TMNMTの治療効果向上のためtDCSも実施。
TMNMT療法コース:トーナル(Tonal)型慢性耳鳴りの被験者30人に対して、10日連続で1日あたり2.5時間、合計25時間。
tDCS:TMNMTコースの当初5日間、治療用音楽を聴いている最初の30分間に、左聴覚野に対してtDCS実施。(anodal、cathodal、shamの被験者は各10人、電流の強さ:2mA)

"Music-induced cortical plasticity and lateral inhibition in the human auditory cortex as foundations for tonal tinnitus treatment."
Front Syst Neurosci. 2012;6:50. Epub 2012 Jun 27.
Pantev C, Okamoto H, Teismann H./Institute for Biomagnetism and Biosignalanalysis, University of Münster Münster, Germany.



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現在の研究内容
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研究機関(Universität Münster)のホームページには、現在の研究計画と被験者募集告知が記載ている。

【被験者条件(共通)】
 - トーナルな耳鳴(ピー、ホイッスルの音のような)
 - 3ヶ月を超える慢性耳鳴
 - 重度の難聴がないこと(60dB未満)
 - 神経学的・精神医学上の疾患がないこと
 - 年齢:18~60歳

【試験期間】 
 Tailor-made notched music and brain stimulation
Münster大学で連続5日間(月~金)、1日あたり3時間実施。

 Advancement of music customization
期間は3ヶ月。自宅で1日1~2時間実施。

[注]以上の情報は、現在ホームページから削除されています。被験者募集が終了したためと思われます。


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参考:《過去記事》耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (5) Tailor-made Notched Music Training
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備考
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新論文を読んだ個人的な感想:
前回の研究結果では、8khz超の高周波数耳鳴患者が対象になっていないことが課題となっていた。
従って、高周波数の耳鳴患者に対する長期的訓練の効果は不明だった。

今回の新論文では、短期間の訓練では高周波数耳鳴患者に対して効果がないということはわかる。
しかし、長期間にわたって訓練した場合に効果があるかどうかは、依然として不明なまま。

人為的に高周波数域を増強した音源を使用しても、日常的に聴いている音楽とはかなり異なるため、通常の音楽知覚能力では反応しにくい可能性があると推測されている。
高周波数域を様々な方法で増強した訓練用音源は、通常聴く音楽とは違って特殊なものなので、どれほど効果が期待できるかは、今後の検証次第。

気になる点は、高周波数域を増強した音楽を高周波を伝えやすいヘッドフォンを使って聴いていること、また、周波数に関わらず耳鳴音が大きい人は、音楽を聴く時にボリュームをかなり上げていると思われること。
こういう条件で、1日数時間、それも長期間にわたって訓練していたら、耳にかなり悪そう。ヘッドフォン難聴のリスクがあるように思える。
被験者が自由に設定する音量レベルは数値で確認した方が良いと思うし、可能なら音量制限機能つきのハードウェアを使った方が無難では。
ヘッドフォンをつけずに聴いた方が耳には負担がかからないと思うので、ヘッドフォンの有無でどのくらい訓練効果の差があるのかデータで確認してみたいところ。

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利用上の注意
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記事中の英文和訳部分は厳密な正確さを期したものではありません。正確な内容については、論文およびホームページの英文原文をご確認ください。



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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

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好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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