カッチェン ~ ブラームス/6つの小品 Op.118 

2012, 03. 17 (Sat) 09:00

年度末の慌しい合間に聴いたのは、ブラームスの後期ピアノ曲集のなかでも、とりわけ人気のあるOp.118。
なかでも人気のあるのが第2曲。安らぎに満ちた主題は一度聴くと忘れられないくらいに印象的。
落ち着いて音楽を聴く時間がない時でも、この聴き慣れた小品集を聴くとほっとくつろげてしまう。

Op.118は全6曲。それぞれ曲想がはっきり違っているので、晩年の作品とはいっても、いろんな情感が篭もったブラームスが聴ける。
ブラームスの小品集は他にも、いくつかあるけれど、このOp.118が一番気に入っている。それに、Op.119とOp.117の第1曲も。この3つの曲集(とヘンデルバリエーション)は、自分で練習して何曲か弾いていたほどに好き。

Op.118のCDは、好きなピアニストの録音を集めていくと、いつの間にか溜まってしまう。
覚えているのは、カッチェン、レーゼル、ルプー、ケンプ、バックハウス、グールド、アックス、グリモー。抜粋なら、キーシンとかもあったはず。
ブラームスを聴くときは、カッチェンかレーゼルのどちらか。それに昔は良く聴いていたルプー(最近の写真をみると、白くぼさぼさと伸びたおひげとおぐしがブラームスにとてもよく似ている)、たまにケンプ。
でも、昔も今もこれからも私のベスト盤はカッチェン。『ブラームス/ピアノ作品全集』は、30歳代半ばのカッチェンのピアニズムがきらきらと煌いて、録音を残しておいてくれてほんとに良かった。
多用するルバートでテンポは激しく伸縮しているけれど、嫌味も淀みもなくて流れが自然なところがカッチェンらしいところ。
太目の力強いタッチで、重量感のある低音が支えのようにがっちりと響き、陰翳と情熱と繊細さが交錯し、堅牢な構造の間からこぼれおちてくる情感には独特のコクがあって、何とも言えません。

Brahms - Julius Katchen - Klavierstücke op. 118



No.1. Intermezzo in A minor. Allegro non assai, ma molto appassionato
いくぶん華やかな雰囲気があるところは、まるでこの曲集のプロローグ。
カッチェン(に限らないけれど)はかなりテンポを伸縮させていて、リズムもとりにくく、クレッシェンドとデクレッシェンドの移り変わりも急激なので、まるで息を吸ったり吐いたりしているような曲。

No.2. Intermezzo in A major. Andante teneramente(1:54~)
ラームスらしい子守歌風の主題が愛らしいけれど、中間部は今まで抑えていた強い感情が噴出してとってもパッショネイト。
カッチェンは、ルバートを多様して、テンポが激しく伸縮しているけれど、それでも淀むことなく流れていく。
丸みのあるやや篭もったような音に、どこかしら懐かしさのようなものを感じてしまう。

No.3. Ballade in G minor. Allegro energico(7:59~)
とても情熱的なバラード。カッチェンらしい速いテンポで、線のしっかりした重みのある和音が力強くて切れも良く、一気に駆け抜けていくような勢い。中間部は長調に転調して、颯爽としてとても爽やか。

No.4. Intermezzo in F minor. Allegretto un poco agitato(11:40~)
悲愴感か不安感か、落ち着かない心で胸さわぎがするようなインテルメッツォ。
中間部はほんのひと時気分が静まるけれど、その後の再現部は冒頭よりもさらに激しい感情が渦巻いている。

No.5. Romance in F major. Andante(13:37~)
有名なNo.2と以上に穏やかで安らぎに満ちたような夢想的なロマンス。
昔はNo.2ばかり聴いていたけれど、なぜかNo.5が同じくらい良く思えてきたのは、年のせいか、好みの変化か?よくわからないけど。
過去の幸福なひとときをしみじみと追憶するように、安らかで愛情に満ちたような主題がとても美しく。
中間部も短調に転調することなく、夢のなかで蝶が舞い上がっているように軽やか。
再現部は、過ぎ去っていく時間に哀惜の念を強く感じてるように盛り上がっていき、ゆっくりとフェードアウト。


残響が濁ることなく重なりあって美しいレーゼルのRomanceもとっても素敵。
Brahms - Peter Rösel - Klavierstücke op. 118- No. 5 'Romance' in F major



No.6. Intermezzo in E flat minor. Andante, largo e mesto(17:49~)
幸せなRomanceが過ぎ去った後のような寂寥感に満ちた主題が陰鬱。
中間部はそれを振り切ろうとするかのように力強いパッションが溢れ出ている。
再現部は振り絞った気力も萎えてしまったかのような陰鬱さ。
最後に鳴るフォルテの和音は、逆らえない運命の響きか、それとも、逆らおうとする決然とした意志なのか、どちらなのだろう。
この侘びしげなIntermezzoに続けて、Op.119の第1曲を聴くと、しっとりと水のような潤いのある哀感がさらに美しく聴こえてくる気がする。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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2 Comments

吉田  

カッチェン

こんにちは。
カッチェンというピアニストは、ブラームスの全集があるというくらいで、あまりよく知りませんでした。
いままでご紹介いただいた音源を聴いてみると、バランスがよいことに加えて、技巧的にもかなり優れていますね。

もしかしたら家にも、カッチェンのピアノ音源が埋もれていたような…。
探してみます^^

2012/03/17 (Sat) 18:40 | EDIT | REPLY |   

Yoshimi  

レパートリーも多くて、いろいろ楽しめます

吉田さま、こんにちは。

カッチェンというと”ブラームス”なんですが、ブラームス以外の録音も多数あって、いろいろ楽しめます。
私はベートーヴェンのピアノ協奏曲全集や最後のピアノ・ソナタもとても好きですが、面白いのは、マントヴァーニと録音したガーシュウィンの「ピアノ協奏曲」とか、ショルティと録音したラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」。
ラヴェルの「左手のピアノ協奏曲」も良いですね。これはカッチェンが亡くなる5ヶ月前、最後の録音です。

指回りはすこぶる良くて切れ味よく、太目のしっかりした音で安定感があります。
テンションが高くなると勢い余って暴走したり、いつも速いテンポなので細部はちょっと粗くなるときもありますが、これはご愛嬌というところでしょう。
ロマンティックであっても、ウェットでない爽やかな叙情感と、しっかりした構成感が彼の持ち味だと思います。
Youtubeにも音源がいろいろありますので、また聴いてみてくださいね。

2012/03/17 (Sat) 19:11 | EDIT | REPLY |   

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