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耳鳴り治療薬情報(5) 内耳ドラッグデリバリーシステム
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米国
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Draper Laboratory
3月下旬、米国国防総省が内耳ドラッグデリバリーシステム(DDS)に関する研究を独立系研究機関に委託したというニュースが報道されていた。以下は、ニュース記事の要旨。
"Buzz Kill: Self-Dissolving Tinnitus Treatment Gives New Hope"(自己溶解型耳鳴り治療法が新しい希望 ~ ペンタゴン(米国国防総省)の耳鳴り治療技術研究)(Scientific American,2012.3.23)
"Tiny in-ear drug vial could ease ringing noise"(耳の中の小さな薬瓶が耳鳴りを緩和できるかもしれない)(Boston Globe,2012.3.26)
※Buzzは、ハエの羽音のようなうるさいブンブン音を指すので、"煩い耳鳴り音を殺す"という意味だろうと思う。また、「Buzz Kill」(バズキル)という製品もあり、これはロードバイクのハンドルエンド部に差し込んで振動を減らすアイデア商品。

ペンタゴン(米国国防総省)が、Draper Laboratory(マサチューセッチュ州ケンブリッジ)に、耳鳴り緩和を可能とする薬剤放出装置のコンセプトを詳細に肉付けするように研究委託した。Draper Laboratoryは、1973年にMITからスピンアウトした独立系非営利の研究機関。
米国退役軍人省によると、中東(アフガニスタンとイラク)からの帰還兵の40%が耳鳴りを発症し、耳鳴りに対する高度障害給付支払予算は年間10億ドル。
医師たちが有効な耳鳴り治療ができないのは、内耳へ効果的に薬を投与するシステムがないからだ。
内耳へ薬剤を注入するインプラント可能なポリマーベースのマイクロスケール薬剤放出システムという手法により、耳鳴り治療をめぐる状況が数年以内に変わりうる。
このシステムは、内耳と中耳を隔てている膜に覆われた窓(直径3mm足らず)付近に挿入して、内耳へ薬剤を放出する。
装置の材質はポリマーカプセル。(Draper は内耳への注入薬は開発しない。)
計画では、患者や医師が投薬量をコントロールできるように、無線通信手段をカプセルに埋蔵する。
カプセルは、薬剤の放出を完了すると自己溶解する。
Draper's projectはまだほんの初期段階。臨床試験に至るまで数年はかかる。

すでに研究者のBorensteinは、難聴治療に的を絞ったDDSを開発しているが、それとは違った新しい技術的にも挑戦しようと決めている。それは最近新しく出てきたプラスチック性の電子機器分野のものであり、患者の必要に応じて投薬を制御する能力は、耳鳴りのコントロールや治療に新しい強力な手段を提供することができる。
1年間10万ドルの助成金で実験室内で使うプロトタイプの製作が可能であり、それが成功すれば動物実験、最後には人間で試験する必要がある、という。
使用する薬物は何か、その装置が機能する時間はどのくらいか、多くの疑問点は残っている。

ドラッグデリバリーシステム(DDS)は現在の一般的な耳鳴り治療法(深呼吸や、音を使ったマスキング・馴化訓練など)の多くのものよりは、はるかに期待できる。
鼓膜へのステロイド注入は、ある種の聴力障害・平衡障害には効果がある場合もあるが、患者の会話・呼吸や立ち上がったりすると、耳自体がこの薬剤を排出し始める。患者は複数回の薬剤注入に耐えなければならず、耳鳴りが緩和するまで注入後しばらく動けない状態が続く。
ジョン・ホプキンス大のLloyd Minor教授によれば、"概して耳鳴りに有効な治療法は多くはない。Draperの研究は、耳鳴り治療薬の注入方法としては斬新な方法となるポテンシャルがある。一般的には、内耳へ薬剤を効率的に注入するために使いたいと思うような種類のドラッグデリバリーシステムがない。"

耳鳴り治療に対して、Otonomy,Incなどで先進的なアプローチが数年間研究されているが、多くはまだ市場化の段階にはない。
Otonomy,Incは、徐放性のあるデキサメタゾン(dexamethasone:ステロイドの一種)ジェルをテスト中。このジェルはゆっくりと自己溶解し、聴力障害・平衡障害治療薬を内耳へ注入する。

Massachusetts Eye and Earの聴覚・神経学専門家Dr.Michael McKennaの見解は、「神経刺激アプローチは、現時点では内耳へのドラッグデリバリー法をベースにしたアプローチよりも、大きな期待が持てる。薬物ターゲティング療法の効果は疑わしいところがある。耳鳴りの原因は多様で、加齢に加えて難聴や外傷、循環機能障害などがあり、症状の重度も異なる。」
※神経刺激アプローチの研究例:MicroTransponder(テキサス大学からスピンアウトした医薬機器開発企業)は、てんかん治療用で耳鳴り患者にも有効なインプラント方式の有線神経刺激システムの用途拡大を研究中。(「耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (7) Serenity System™ therapy (アップデート版)」参照)

Minor教授は「様々な研究を組み合わせて、耳鳴り緩和を可能とする治療法が完成するだろう。万能薬はない。さらなる技術開発が必要。Draper社の技術が期待通りに機能すれば、この分野で大きな進展となるポテンシャルを持っている。」


Otonomy社の開発中製剤
Otonomy, Inc.(本社:米カリフォルニア州サンディエゴ)は、現在、複数回にわたる内耳注射を不要とする画期的製剤を開発中。幅広い治療に応用可能。
この製剤の重要な構成要素は感温性(熱応答性)ジェル。中耳内の滞留時間を増やすことで、内耳の薬物曝露時間をより高いレベルにすることが可能。
臨床前の研究では、drug delivery profileが保持されていること、solution-based製剤よりも利点があることを確認ずみ。

候補となる2つの製剤(OTO-104とOTO-201)の開発が進行中。
「OTO-104」は、ステロイドであるdexamethasone(デキサメタゾン)の徐放性製剤。
現在の難聴・平衡障害治療におけるステロイド経口/鼓膜内注入の実施状況から考えると、「OTO-104」がターゲットとする市場規模は、米国内だけ毎年患者数100万人以上。
メニエール病患者における臨床試験が始まっている。将来的な研究対象としては急性難聴が計画されている。

「OTO-201」は、徐放性抗生剤(antibiotic)で、tympanostomy tube(中耳腔換気用チューブ)の埋込手術をした中耳炎患者のために開発された。
Otonomyは、「OTO-201」の臨床試験実施申請資料(INDA:Investigational New Drug Application)提出を2011年半ばと予想している。
また、その他の耳疾患(加齢による難聴、耳硬化症、耳鳴りなど)に対する医薬品候補についても調査中。

参考:メニエール患者での臨床試験結果概要"Otonomy Presents Positive New Findings from Phase 1b Study of OTO-104 in Ménière’s Disease at International Conference"
多施設無作為化二重盲検対照試験(Phase 1b)を実施。めまいと耳鳴りについて医学的に有意な改善効果があった。

参考文献
デキサメタゾンの耳鳴り治療効果に関する論文""Cortisol suppression and hearing thresholds in tinnitus after low-dose dexamethasone challenge."(抄録)論文全文(PDF)
BMC Ear Nose Throat Disord. 2012 Mar 26;12(1):4. [Epub ahead of print]
Simoens VL, Hebert S.(Cognitive Brain Research Unit, Cognitive Science, Department of Behavioural Sciences, University of Helsink/BRAMS, International Laboratory for Brain, Music, and Sound research、Canada)
-耳鳴り症状のある患者と症状のない対照群各21名。デキサメタゾンゾ0.5 mgを初日23:00に投与。Cortisol levelsを翌朝、1時間ごとに測定。デキサメタゾン抑制試験前後に、聴覚の検出閾値・不快域値を測定。
-両群とも基礎コルチゾール値は似ている。デキサメタゾン投与後、耳鳴患者はより強く長く持続するコルチゾール抑制を示した。
-耳鳴り患者の耳でコルチゾール抑制が発生すると、不快閾値は低下した。


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日本
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日本では、京都大学などで内耳ドラッグデリバリーシステムの研究・開発が進められている。

京都大学の研究・開発情報
IGF-1ゲル内耳治療第Ⅰ-Ⅱ相臨床試験
試験完了。試験結果は以下のサイトに記載。
「急性高度難聴症例に対する生体吸収性徐放ゲルを用いたリコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1内耳投与による感音難聴治療の検討」

IGF-1ランダム化臨床試験
現在、試験実施中。試験概要は以下のサイトに記載。
「急性高度難聴患者に対する生体吸収性徐放ゲルを用いたリコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1の内耳投与による感音難聴治療のランダム化対照試験」
実施される治療法は2種類:
1)IGF1治療:リコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1(IGF1:商品名ソマゾン)含有ゼラチンハイドロゲルの内耳への投与
2)対照治療:ステロイド(デキサメタゾン:商品名オルガドロン)の内耳への投与

ドラッグデリバリーシステムに関する参考論文
「内耳疾患の治療をめざして―基礎研究の最前線 薬物の経正円窓投与」
(中川隆之・京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科、「第109回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム」、2008)
「徐放化ドラッグデリバリーシステム(DDS) 医薬品を用いた最先端治療法の開発」
(田畑泰彦京都大学再生医科学研究所生体材料学教授、「京都大学先端医療開発スーパー特区連携推進プログラム」)


参考情報(ドラッグデリバリーシステム全般)
「ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発動向」
(『科学技術動向』2002年12月号,丸山典夫・多田国之、文部科学省科学技術政策研究所)
ドラッグデリバリーシステム(DDS)[治験ナビ]

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備考
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この記事は、現在行われている研究・開発のうち一部について情報収集したものです。
記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
正確な内容については、英文原文(ホームページ、論文など)をお読みください。


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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

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