*All archives*



アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第7番
今まで集めたきたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集で、ぴたっと波長が合うのは、最近完結したレーゼル、偶然見つけたアルフレッド・パール、それに昔から聴いていたアラウ(新盤ではなくて旧盤)。
レーゼルは木質感のある柔らかい音色と流麗なレガートが美しく、充実した和声の響きと重みのある低音に安定感があり、パールは30歳前後の録音なので、切れ良くほどよい力感のあるタッチが若々しくてとても爽やかさ。どちらもアーティキュレーションやテンポに変なクセがなく、オーソドックスで自然な趣き。
アラウは、2人に比べれば、独特のフレージングとやや重たくゴツゴツとした構造感が深い感情移入と融合して味わい深いコクがある。
曲によっては、やっぱりアラウの演奏でないと...と思ってしまう。

アラウの録音が、私の抱く曲のイメージに近かったのが、第7番と第13番。テンペストの第3楽章、ワルトシュタインの第1楽章、ピアノ・ソナタ第31番も、アラウ独特の解釈と彫の深い表現は、他のピアニストでは聴けないものがある。

第7番は初期の作品のなかでは4楽章構成と規模も大きく、Prestoの第1楽章と緩徐楽章の第2楽章がとても印象的。
特に第2楽章の沈鬱な悲愴感は、ピアノ・ソナタ第31番のアリオーソのように痛切で、それがずっとストレートに書かれているような気がする。

Complete Piano Sonatas & ConcertosComplete Piano Sonatas & Concertos
(1999/11/09)
Claudio Arrau

試聴する(米国amazon)



ピアノ・ソナタ第7番ニ長調 Op.10-3 [ピティナ作品解説]

第1楽章 Presto
エリック・ブロームは冒頭の主題を評して、「ほとんどヴァーグナーの『ライトモチーフ』のような機能。それが旋律的な主題ではなく、それを積み上げていくことにより驚くべきほど堅固な構造を成立させる一種のシンフォニックなレンガであるという意味で」(パウル・バドゥーラ=スコダ著 『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈』)

両手とも元気よく動き回っているので、躍動感と力強さに溢れた雄渾な雰囲気。
ユニゾンで一気に駆け上がる第1主題、颯爽とした第2主題の両方とも、開放的で颯爽としている。
鍵盤の上を縦横無尽のごとく、絶えず上行・下行を繰り返していく、
アラウの音色は線が太くて量感・力感があり、響きも厚くて、骨太なタッチ。
クレッシェンドして上行してゆくフレーズには、最後に跳ねるような勢いがあり、軽快さよりも力強いダイナミズムの方が強い。
途中で前打音がついた音型では、アラウ独特の装飾音の弾き方。前打音がかなり短く、直後の第1拍目が若干強めで符点のようなリズム。(悲愴ソナタの第3楽章でも似たような弾き方をしている。ギレリスとなると、さらに符点的なリズム)

第2楽章 Lento e mesto
バドゥーラ=スコダの解説によると、「ベートーヴェンが彼の稀有な苦痛の個人的体験をすでにその我侭な転調の動きを通じて表現しようとしたことは明らか」という緩徐楽章。
第1小節の減4度音程は、昔から苦悩の象徴(バッハではよく十字架の語と一緒に扱われている)であり、さらに、古典派の音楽で使われるあらゆる悲痛表現の手段(短調、減和音と変化和音、旋律中の音程の圧縮、半音階、とくに悲痛な身振りの旋律法)が使われているという。

たしかに第1楽章の躍動感と開放感がすっかり打ち消されて、深い悲痛感の沼に沈みこんでいくような雰囲気。
アラウはとてもゆったりとしたテンポ。それに陰鬱な音色と沈み込むような重たい響きで、一音一音にとても深い感情移入を感じさせる。
展開部の始まりは長調かと思ったけれど、すぐに短調に変わり、左手の和音が太く重みのある響きで、息苦しい重々しさ。
途中で再び長調に転調したところは明るいというより、涙が滴り落ちているように哀しげ。

再現部終盤の第62-63小節で、力を振り絞って叫ぶようなフォルティッシモの和音。
これでエネルギーも使い果たしたように、弱々しい6連符のアルペジオ。
やがてフォルテになり、押しつぶされそうな不安感と悲痛感で気持ちが激しく揺れている。
最後は、右手の旋律が上昇しようとしてもしきれず、あえなく左手低音部のあたりまで下降してしまう。
エピローグでは、冒頭の重苦しい和音が解体されるように密度が薄くなり、両手の旋律が単音主体に変わって、息も途切れそうにか細いピアニッシモで終わる。

第3楽章 Menuetto,Allegro
第2楽章の重苦しさから解放されて、ようやく息がつけるようになったようなメヌエット。
アラウのテンポはややゆったり。とても優しげなタッチで穏やか。
でも、屈託のない明るさはなく、力強さのなくなったような脱力感と透明感のある哀しさが漂っている。
展開部はトリオ。それほど快活ではなく、ちょっと重たい感じで弾いている。
トリオは、旋律の途中の中途半端なところで、突然打ち切られて終わる。

第4楽章 Rondo,Allegro
バドゥーラ=スコダが感じたのは、「終曲のロンドは見かけの陽気さにかかわらず、複雑で絶えず停滞する曲であり、解放的というよりも、諦観的な印象」。

問いかけるような冒頭の第一主題は、最初は3度の跳躍で始まっても、それが逆転して、3度の下降となってしまう。
9小節目から、細かいパッセージ変わってテンポが上がるけれど、最後は下降して、再び最初の主題に回帰する。
展開部の34小節目も、突如駆け出したかのような勢いの良い第2主題で始まるけれど、これも長続きせずに、最後は力を失ってピアニッシモで、再び最初の主題に回帰する。
どんなに勢いよく快活なフレーズが現われても、いつも最後には勢いを失って、この最初の第1主題へ戻ってしまう。
エンディングはピアニッシモで、もやもやとした雰囲気。
左手はひたすら下降し続け、右手は上行と下行を繰り返し、最後は、先に終わった左手最後のバスの音まで、ふらふらとアルペジオで下降して弱々しげに終わる。
第2楽章の重苦しい悲愴感の精神的ダメージが延々と尾を引き、立ち直ろうとしても立ち直れなかったような最終楽章。
アラウのどこかためらいがちで吹っ切れないような快活さと、答えのない問いかけを繰り返す主題のか弱さが、その雰囲気をよく表わしている。

tag : ベートーヴェン アラウ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。