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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 2 』 ~ ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 Op.57
ペーター・レーゼルが録音した「熱情ソナタ」は2種類。
最初の録音は、旧東ドイツ時代の1980年にドレスデンのルカ教会で録音したスタジオ録音(ドイツ・シャルプラッテン。今はキングレコード国内盤で入手可能)。
2回目の録音は、2008年10月、東京・紀尾井ホールでのライブ録音(キングレコード)。
この演奏を収録したCDは、ライブ録音とセッション録音が混在しているらしいので、音源がどちらかわからない。(ライブ特有の熱気というか臨場感があるので、ライブ録音ではないかと思うけれど)

ベートーヴェン:三大ピアノ・ソナタ「月光」「悲愴」「熱情」ベートーヴェン:三大ピアノ・ソナタ「月光」「悲愴」「熱情」
(2008/01/09)
レーゼル(ペーター)

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ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集2ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集2
(2008/12/25)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調 「熱情」 Op.57[作品解説/ピティナ]

熱情ソナタはCDで20枚近く持っているけれど、ぴったりくる演奏がなかなか見つからない。
それでも、昔はゼルキンと、FMか何かで聴いたポリーニ(1986年くらいの東京リサイタル)の熱情ソナタは好きだった記憶がある。
同じく苦手な月光ソナタは、第3楽章をレーゼルのライブ録音で聴いてから、すっかり好きな曲に変わってしまったので、もしかしたら、この熱情ソナタも同じかも...と思って聴いてみたら、やっぱり正解。

レーゼルが東独時代にスタジオ録音した熱情ソナタと比べると、それから30年近く経ったライブ録音では、音楽の深みがずっと増しているのがはっきりと聴き取れる。
旧盤は澄んだ音色が清々しく、新盤よりもストレートな表現が若々しい。ピアノの違いか、録音音質のせいか、ライブ録音に比べて音が少し軽い感じがする。
ライブ録音の方は、音に深みと重層感があって、特に低音のフォルティッシモの響きが重厚で磐石。
両盤とも、硬質で精密な打鍵で音もクリアなのは変わらないけれど、ライブ録音の方が音に尖りが少なく、弾力があってまろやか。
昔も今も、急速部分ではアッチェレランドしていることはあっても、前のめりになることは決してなく、テンポがよくコントロールされている。
芯がしっかりした澄んだ響きが瑞々しく、ペダリングも巧みなので、密度の高い和音や連続するアルペジオでも、濁りなく重層感のある響きが豊かで美しい。
何よりもライブ録音の両端楽章で感じるのは、ヒートアップした熱気が噴出する赤い炎のようなパッションではなく、あからさまな派手さはなくても、じりじりと底から燃え立ってくるような青白いパッション。
端正でありながら、クールな情熱がほとばしるような凝縮された美しさと緊張感がある。


第1楽章 Allegro assai
比較的遅めのテンポで、じっくりと一音一音を丁寧に弾きこんでいく。
旧盤、新盤とも同じくらいのテンポなので、30年間経っても、テンポ設定は変わっていない。

(録音時間)旧盤・スタジオ録音 10:19/新盤・ライブ録音 10:24
        グルダ 7:35/ポリーニ 9:21/ゼルキン 9:16/アラウ 11:18/
        ブレンデル 10:06。
9分くらいだとちょっと速く、アラウは遅すぎてややもたっとした感じ。グルダはあまりに速すぎてせかせか慌しい。
演奏時間が10分くらいの速さが私のテンポ感覚にぴったり。

第1楽章はシンプルな構成と旋律なので、強弱のコントラストをつけるために、強奏部分をガンガンバンバンと叩きつけるように弾く演奏が多い気がする。これが耳に痛く響きがち。
レーゼルのタッチは強奏部分でも丁寧で、音が割れることもなく、芯のしっかりとした深みのある響きが美しく、左手バスの和音の響きが力強く重厚。

レーゼルは元々打鍵が精密で力感もしっかりあるので、音が一粒一粒クリア。
音に圧力・力感がしっかり篭もって、じわじわとした底から立ち上がってくるような力強さと緊張感がある。
遅いテンポの方が、緩徐・弱音部分での静けさが深くなり、その直後に現われる急速でf/ffで弾くパッセージとの対比が鮮やか。
美しい陰翳のある彫の深さがあり、引き締まったフォルムと淀みない流れが瑞々しくて端正。
旧録よりも、ライブ録音の方が弱音部分の静寂さが深くなっている。

どのパッセージも和音も、全ての音が充実した響きで鳴り、濁りもせずに澄んでいる。
高音部はしっとりと潤いのある響きには、品の良い叙情感があってとても美しい。
速いパッセージで弾く高音の粒立ちのよい音は、優雅に蝶がパタパタと羽ばたいているようなイメージが浮かぶ。
右手高音が数度開いた音でカスケードのように徐々に下がってくるパッセージは、水滴がコロコロと転がり降りてくるように淀みなく滑らか。
ゆったりと立ち上がっていくクレッシェンドになると、力感と弾力のある音でじりじりと盛り上がっていく感覚がする。

Piu Allegroに入る直前、218小節から出てくる両手で受け渡しする分散和音、その後の右手のアルペジオのパッセージが素晴らしく綺麗。
力感のこもったシャープな輪郭の粒立ちよい音で、音色も研ぎ澄まされ、それが鍵盤上を淀みなく上下行し、緊張感とダイナミズムで張り詰めた美しさがある。

第2楽章 Andante con moto
第2楽章の緩徐楽章は、束の間の安息...のような穏やかで安らぎに満ちた曲。
変奏曲形式なので、冒頭はゆっくりしたテンポの主題が低音~中音部で弾かれて、パストラル的なのどかさ。
次に第1変奏に入り、右手の高音部に主旋律が移ると、ずっと明るく伸びやかに。
第2変奏から第3変奏へ進むにつれて、 16分音符から32分音符へと音価が短くなって、パッセージも細かく、曲想が軽快で動的になっていく。
レーゼルは落ち着いたタッチで音楽の流れが滑らか。
低音~中音域はまろやかな響きで、高音のパッセージの澄んだ響きがとても綺麗。
特に最後に右手の32分音符のパッセージに変わると、蝶が舞うように軽やかで優雅。
余計な飾りのないシンプルでありつつ、自然で豊かな情感が流れている。


第3楽章 Allegro ma non troppo
この楽章は8分台前半くらいの速さで弾かれることが多い。
レーゼルは8分弱と速い方。インテンポで打鍵は精密、音の輪郭も明瞭。特に弾力と重層感のある左手の低音の響きが力強く、堅牢・磐石な安定感がある。
1拍目におかれた両手で弾くfの和音は、岩のような鋭く重みのあるタッチ。全ての音を鳴らしきったような重厚で、濁りのない響きの迫力にはゾクゾクっとする。

アルペジオの重なる響きに膨らみがあって、和声がとても綺麗に響く。
54小節のような低音部から立ち上がってくる連続するアルペジオには推進力と立体感があり、クレッシェンドとデクレッシェンドの変化も波のうねりのように淀みなく自然。
184-200小節の弱音のアルペジオは、柔らかく霧に包まれたような響きがファンタスティック。(旧盤よりもずっと幻想的な雰囲気が漂っている。)
Prestoのコーダの速いテンポでも、弾力のある力強い明瞭な打鍵と引き締まった響きで、集中力と緊張感に満ちたエンディング。


この東京でのリサイタルについては、ブログ記事のレビューがいくつか。
"10・2(木)ペーター・レーゼル ベートーヴェン・リサイタル"[東条碩夫のコンサート日記]のレビューは、CDを聴いても、全くその通り。
レーゼルの「自然でありながら、強い説得力をもった」熱情ソナタは、何度聴いても全く疲れません。


tag : ベートーヴェン レーゼル

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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