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ロバート・L.シュック『新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち』
ロバート・L・シュックの『新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち』は、100万分の1の成功確率とも言われる創薬プロセス~研究・開発・新薬承認から製造・販売まで、プロジェクトX風に描いたノンフィクション。
本書で紹介されているのは、世界的に有名な7つの画期的新薬。
内容は、医薬品が対象とする疾患、従来の治療法・治療薬に関する解説、新薬の科学的説明、研究~開発(臨床試験)~新薬承認までのプロセス、開発企業内での新薬をめぐる取り組み、製造方法、販売方法(MRチーム、医師へのアプローチ方法など)、患者たちの新薬に対する反応など。医薬品や業界に詳しくない門外漢でも読みやすい。

同時に読んでいた『医薬品クライシス』に書かれていた内容-創薬の難しさとリスクの高さ、具体的な研究・開発・製造過程、バイオ医薬(抗体医薬)とベンチャー企業、医薬業界の再編の動きなど-が、『新薬誕生』では具体的な事例になっていたので、2冊とも読むとそれぞれの内容がずっと理解しやすくなった。

新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち新薬誕生―100万分の1に挑む科学者たち
(2008/07/04)
ロバート・L.シュック

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<目次>
第1章 エイズと闘う――ノービアとカレトラ (アボット)
第2章 心の病から人生の再出発――セロクエル (アストラゼネカ)
第3章 本物に勝った人工インスリン――ヒューマログ (イーライリリー)
第4章 喘息の辛さを救った薬――アドエア (グラクソ・スミスクライン)
第5章 奇跡のバイオ医薬品――レミケード (ジョンソン・エンド・ジョンソン)
第6章 癌治療の扉を開く――グリベック (ノバルティス)
第7章 世界一の薬はこうして生まれた――リピトール (ファイザー)

この中では、「奇跡のバイオ医薬品――レミケード」が一番興味を惹かれた章。
目次には、"ジョンソン・エンド・ジョンソン"の医薬品のように書かれているが、開発したのはバイオベンチャーのセントコア。
レミケードの新薬承認後、ジョンソン・エンド・ジョンソンがセントコアを買収して、今はJ&Jグループ企業となっている。

この章では、セントコアの創成期、最初に開発した医薬品「セントキシン」の失敗、その後に開発した「レオプロ」と「レミケード」の成功、ジョンソン・アンド・ジョンソンによる買収までの歴史が書かれている。
バイオベンチャーという企業特性や資金調達手法、抗体医薬(高分子医薬)と低分子医薬の違い、臨床試験の設計上の論点、米国FDAの審査プロセス、新薬承認前に承認を見込んで行った工場建設、安定供給の必要性と重要性、MRの人選・組織づくりと方法など、新薬の研究~販売に至るまでの経緯が書かれている。

大企業での新薬開発とは違ったベンチャー企業特有のリスクは、一つの医薬品開発の失敗が、株価と経営に致命的な影響を与えること。
最初に開発した敗血症治療薬「セントキシン」は、欧州では承認されたが、FDAの承認が得られず、再度臨床試験をしなければならなかった。
しかし、その試験中、セントキシンを投与された敗血症患者グループの一つで、プラセボ群よりも死亡率が高くなったため、試験は中止。同時に、すでに承認済みの欧州10カ国でもセントキシンを回収する事態になった。
経営的にかなり苦境に至るが、どうにか製薬企業イーライリリーから融資を受け、セントキシン開発での数々の失敗を教訓にして、「レオプロ」、そして「レミケード」の開発を成功させる。

セントキシンと並行して開発中であった血小板凝集抑制薬「レオプロ」は、足掛け8年、合計200億円を投資して、無事成功。セントコアは自力存続できるようになる。
「レミケード」は、1998年にクローン病治療薬として承認されたが、その後、リウマチ、乾癬、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎など16の疾患治療薬として承認されている。
いずれの病気もTNF(腫瘍壊死因子)が関連しており、TNFが過剰に生産されると、慢性炎症状態や自己免疫疾患などに悪影響を与えるため、TNFの抑制が炎症反応を抑えることになる。
普通の医薬品は低分子医薬で化学的に合成されるが、バイオ医薬品は化学的反応では合成できず、生きている生物の細胞を遺伝子操作で加工してできた高分子の医薬品。

レミケードは当初リウマチの治療薬として開発されていたが、クローン病患者に投与したところ、素晴らしい効力を発揮した。
開発費用・期間の制約があるため、クローン病とリウマチとどちらで先に承認申請するか悩まざるを得ない。
リウマチ治療薬としては、予想外に費用と期間がかかるとわかったため、クローン病での新薬承認を先行させた。
クローン病治療薬として販売できれば、その利益をリウマチ治療薬への開発投資に回すことができ、結果的にリウマチ治療薬としての開発を加速することができる。
セントキシンの経験から、臨床試験の規模が大きくなればなるほど、新薬の承認が遅れる。
そこで、クローン病患者のうち中~重症の患者に限定することで、対象患者数と市場規模を絞ることにする。
その結果、希少疾患を対象とするオーファン・ドラッグの指定を受け、FDAの優先審査も適応された。

1998年8月、レミケードはクローン病の治療薬として承認される。
翌99年11月には、既存の治療薬「メトトレキセート」単独では治療効果が不十分なリウマチ患者に対して、レミケードとメトトレキセートの併用が承認される。

セントコアのストーリーを読むと、新薬開発のために巨額の費用がかかり、臨床試験での失敗の可能性もかなりあること、特に資金力の乏しいバイオベンチャーにはハイリスクなビジネスなのだということがよくわかる。
セントコア経営陣の2人、シューメーカーとウォールは「考えが小さいとは誰にも批判されたことがないくらい楽天的」なメンタリティの持ち主。リスクテイカーで、失敗すれば会社が破産しかねないほど、セントキシンに巨額投資をしていた。
FDAがセントキシンを承認しなかったため、会社中が意気消沈しているときに、シューメーカーは「そう、じゃあ、もう1億ドル集めなくちゃいけないな。次の製品を進めよう」と言って、実際1億ドルの資金を集めてしまった。
これくらいポジティブな思考と行動力がなければ、生存競争の激しいベンチャー企業の経営はできないに違いない。


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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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