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レーゼル ~ シューベルト/さすらい人幻想曲、即興曲集D899
レーゼルのピアノ独奏曲BOXには、なぜか収録されていなかったシューベルトの《さすらい人幻想曲》と《即興曲集D899》。
あまり有名でなさそうな小品数曲がBOXセットに入っていたけれど、シューベルト苦手な私にしては、意外にも気に入った曲が多かったので、それはそれで良かった。
このごろはシューベルトの曲を聴くことがなぜか多い。ようやく耳が慣れてきたのか、好みが多少変わったのか、それとも演奏が好み似合うのか、まあ以前とは違って抵抗感なく聴けるようになったのが嬉しい。

《さすらい人幻想曲》の録音はいくつか持っているけれど、今までまともに聴いたことがない。
レーゼルの《さすらい人幻想曲》と《即興曲集》(いずれも1971年録音)は、Berlin Classicsの分売盤がでている。
Capriccioレーベルにも、1984~89年にかけて、《さすらい人幻想曲》とピアノ・ソナタ4曲(第4,6,9,21番)を録音している。《さすらい人幻想曲》は89年の録音。
結局、2枚ともオーダーして、先に届いたのがBerlin Classics盤。
試聴した時から良い感じだったけれど、CDをステレオで聴いてみると、1971年の録音にしては音質がかなり良い。
特に《さすらい人幻想曲》の方は、当時26歳という若々しいレーゼルのピアノの音が明るく輝いて、演奏も力強く堂々とした雰囲気で、とってもいい感じ。

18年後の44歳のときに再録音したCapriccio盤《さすらい人幻想曲》も、相変わらず技巧の切れがよくて爽快。
緩徐部や弱音部、緩徐楽章の第2楽章は、旧盤よりも表現の起伏が細やかで、より叙情豊かな歌い回しになっているような気がする。
両盤を聴いてみると、Berlin Classics盤の方が、音がかなり前方から聴こえ、音が太めで力強い。特に低音の圧力感が強くて、ピアノ線が振動しているのが空気振動で伝わってくるようにボンボン響いている。
全楽章通しで聴いていると、この音だと第3楽章から第4楽章に進むにつれて、ちょっと聴き疲れてしまう。
Capriccio盤の方が、やや音が柔らかくて軽やかな歯切れよさがある。圧迫感が少ない音なので、こちらの方が聴きやすい。


Berlin Classicsの分売盤は、ジャケット写真が異なる2種類。私はジャケットが好きな上の方のCDを買ったけど。
トラックが1つにまとめられてしまっているのがちょっと不便。
Wanderer Fantasy & ImpromptusWanderer Fantasy & Impromptus
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴する(独amazon)
※試聴ファイルは別の分売盤のもの。

Wanderer-Fantasy/ImpromptusWanderer-Fantasy/Impromptus
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴する(独amazon)



Capriccio盤は、トラックが楽章ごとに4つに分けられている。MP3ダウンロードもあり。
Piano SonatasPiano Sonatas
(2001/04/24)
Peter Rosel

試聴する



さすらい人幻想曲 Wanderer Fantasy, D.760 (Op.15) [ピティナ作品解説][楽譜ダウンロード]

Schubert - Peter Rösel (1987-88) - Wanderer Fantaisie D 760
この音源は演奏時間から判断して、Capriccio盤。Berlin Classics盤よりも数十秒ほど長い。




《さすらい人幻想曲》は、シューベルトにしては、技巧的な難所が多い。楽譜をみるとシンプルに見えるけれど、シューベルト作品の中では一番の難曲。他の作曲家の作品も含めて、数あるピアノ独奏曲全体の中でもかなり難易度の高い曲らしい。
CDのブックレットの解説を読むと、ピアノリサイタルで弾く人は少ないという。その理由は、”難しすぎるから”というわけではなく(プロのピアニストの能力なら十分弾ける範囲)、その難しさが目に見えて明らかではないから。
これは後期のベートーヴェンやブラームス作品にも言えることで、ブリリアントに聴こえず、弾き甲斐がない(報われない)..と解説に書いてあった。

レーゼルはテンポも速めでタッチも切れが良く、輪郭のはっきりした音と濁りなく引き締まった響きがとっても気持ちよい。
ルバートやタメを入れることはほとんどなく、基本的にインテンポ。全ての音が明瞭に打鍵され、粒立ちよくて、力強くてきりっとした弾き方。若々しい爽快さがとっても気持ち良い。
レーゼルらしい生真面目で楷書的な演奏スタイルが、幻想曲とはいえ、基本的には古典的な端正さとがっちりとした構成感のあるこの曲には良く似合っている。
フォルテの和音で弾く部分が頻出していても、レーゼルのタッチは力感がありつつもバンバンと騒々しくなることもなく、全ての音が充実したクリアな響きで鳴っている。
和音・重音・アルペジオだらけの曲は、技巧確かなピアニストなら、速いテンポで一気に弾ききっていく方が重たくならないし、鮮やかに聴こえる。(技巧優れたポリーニの若い頃の録音では、珍しいことに遅いテンポで弾いているけど)

第1楽章 Allegro con fuoco, ma non troppo
冒頭のフレーズがシンプルだけど、とても印象的。
さわりを聴けば、すぐにこの曲だとわかるトレードマークみたいな主題。
途中に弱音主体の優美な旋律に何回か交代。ここは、柔らかいタッチとペダルを使った柔らかい響きが綺麗。
緩急・強弱がすぱっと明瞭に交代していくので、まるで全力疾走しては、少し歩いて休憩して、また全力で駆け出していく長距離走みたい。

第1楽章の有名な難所は、終盤近くに出てくる十六分音符のオクターブに開いた和音連打の部分。フォルツァンドで弾かないといけない。
譜面自体は入り組むこともなくてシンプルだけれど、自分で弾いてみればすぐわかるとおり、ここは本当に力技。
レーゼルは、新盤でも旧盤でも、その少し前の小節から徐々にテンポを落としている。新盤の方が少しテンポが遅い感じする。
ここはテンポを落として弾くピアニストがほとんど。テンポを落とさないと正確に打鍵できないので。
カッチェンやリヒテルのライブ映像を見ると、テンポを落とさずに弾いているけれど、きちんと打鍵できていないのがはっきりわかる。こういうところで、ピアニストの性格が現われてくるみたい。


第2楽章 Adagio (Der Wanderer)
この楽章は、他の3つの楽章とはテンポも曲想も違って、美しく叙情豊かな楽章。
主題は歌曲《さすらい人》D649。
旧盤はテンポをそれほど揺らさず、強弱も大仰にはつけていないので、淡くさらさらとした静かに流れる叙情感が清々しくてとても綺麗。新盤の方が、少し細かなテンポの揺れや微妙な起伏のある表現になっているので、より情感深い感じがする。
他の楽章がフォルテの重音が多くて似たようなテクスチュアなので、この第2楽章の美しさが引き立ってくる。
特に終盤近くで、右手高音部で64分音符の単音で弾くスケールのような旋律は、カスケードのように下行しては上行していき、高音が煌くように輝いて華麗でロマンティック。

第3楽章Prestoの冒頭は、第1楽章の主題の反行形にしたような旋律。3/4拍子で符点のリズムも多いので、第1楽章よりは少し優雅で軽快な印象。
第4楽章Allegroになると、第1楽章と同じ4/4拍子と調性に戻っている。フィナーレらしく、冒頭からオクターブの連打が力強く華やか。

シューベルトには珍しいベートーヴェン風の構築感と力強さがあるので、ベートーヴェン好きな私にはとても聴きやすい。
でも、第2楽章以外は、第1楽章の主題やその変形が多いので、どれも似たようなテクスチュアに聴こえる。
自分で楽譜を読み込んで練習しないと、どの旋律がどの楽章のものだったか混乱してきそう。
変奏曲が得意なベートーヴェンなら、第3楽章と第4楽章は変奏曲風に主題も伴奏もいろいろ展開していくのでは..とか思ってしまった。
それでも全体的にスピード感と勢いの良さがあるので、(新盤の聴き疲れしない音だと)何度でも全楽章通しで聴ける。
特に第2楽章の流麗で美しい旋律はシューベルトならでは。



即興曲集 Impromptus (D899/Op.90)  [ピティナ作品解説]

旧盤にカップリングされていた《即興曲集D899》。
この曲集は何度聴いても全然飽きないので、たぶんシューベルト作品の中では一番良く聴いている。
レーゼルは全体的にテンポが速く、どちらかというとやや強弱のコントラストを抑えた感じで、あっさりとした叙情感。
第1番はさっぱりとした叙情感で聴きやすい。もう少し旋律を歌わせて欲しい気はするけど。
第2番はテンポが速くてタッチが強く鋭いので、勢いが良いけれど、一本調子的なところがあるので、好みに合わず。
第4番は、右手が落ち葉のようにハラハラと高音部から下降するフレーズが、粒立ち良く滑らかでここはとても綺麗。
その後の短調部分はあまりフォルテを利かしていないので、感情的な盛り上がりがもう一つ。ちょっと不完全燃焼的な気分になる。

結局、この4曲の即興曲のなかで一番好きな演奏が、第3番。
右手主旋律はやや丸みをおびた落ち着いた響きがまろやか。左手伴奏はレーゼルらしく線が太めのしっかりとした力強さと安定感がある。
包み込むような暖かさのある明るい音色と安定したテンポで、表現も粘りがなくてさっぱりしているので、流麗な叙情感というよりは、ほのぼのとした穏やかさと安らかさ。ゆらゆらと波間に漂う小舟でまどろんでいるように心地良い。

シューベルト 即興曲 作品90の3 演奏:ペーター・レーゼル




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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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