ポール・ルイス ~ シューベルト/即興曲集 D935 第2番 

2012, 05. 12 (Sat) 12:01

若手ピアニストの中では"最高のシューベルト弾き"と評されているイギリス人ピアニストのポール・ルイス。
彼が今まで録音した曲の多くは、シューベルトとベートーヴェン。
ベートーヴェンはピアノ・ソナタ全集とピアノ協奏曲全集のCDをすでにリリースしている。
どちらかというと彼の弾く、時にしなやかなベートーヴェンよりは、シューベルトの方が私にはしっくりくる。

シューベルトの即興曲集はD899とD935の2つ。
D899は4曲とも好きだけど、D935で好きなのは第1番と第2番。
特に第2番を聴くとほのぼのとしたものがあって、これを聴くととても心穏やかな気分。

ルイスの即興曲集の録音はD899のみ。D935はまだ録音がないらしい。
彼の《3つのピアノ小品》D946の録音を聴いていると、変ホ短調で急速系の第1曲よりも、変ホ長調のゆったりとした叙情的な第2曲の方が私にはずっと良い感じ。これは即興曲D935でも同じで、第1番よりは第2番の方が好きだった。

この映像はルイスが弾く即興曲集D935の第2番。
この曲は、D899第3番に相当するような曲想で、両方とも好きな曲。
最初はゆったりと甘くレトロな雰囲気の旋律で始まるけれど、中間部で短調に転調して感情的な激しさを垣間見て、再び元通りの穏やかな冒頭主題に戻っていく。

Paul Lewis - Franz Schubert/ Impromptu no. 2 D935



《楽興の時》D780の第4番。
Paul Lewis - Franz Schubert/ Moments musicaux no. 4 D780



この2曲の演奏は、オランダのテレビ局VPROのTV番組"Vrije Geluiden (Free Sounds)"で弾いていたもの。
場所は現代的なガラスウォール・ビルディングは、アムステルダムで有名なジャズのライブハウス"Bimhuis"。(建物全景写真
ガラス越しに見える都市風景をバックにシューベルトを弾く...という珍しいセッティング。
人工的な照明のコンサートホールで弾くよりも、明るい自然光が差し込む空間で弾く方が自然な感じがする。


同時に収録した"Vrije Geluiden"のインタビュー映像もある。
このインタビューを見ていると、ルイスはやや控え目で真面目な思慮深い人...なのかなという印象。やっぱり好感度が高い。

Paul Lewis - Interview


インタビュー内容は、子供時代の音楽的環境、ブレンデルのLPを聴いて感じとったもの、一連のシューベルト録音、シューベルトとベートーヴェンの音楽の違いなど。(子供時代の音楽的環境については、後掲の王子ホールでのインタビューの内容と重なる)
彼のお気に入りだった録音はブレンデルの初期のLP。彼はずっと後にブレンデルに師事することになる。

ルイスがシューベルトの最後のピアノ・ソナタD960に対して感じるのは"Acceptance of something"。
それ以前の晩年数年間に書かれた作品では、多くの"struggle"(苦悶、葛藤)があったが、B flatソナタになると、もはやそれはなくなり、"Acceptance of fate"(運命を受け入れること)のようなものが現われている。
シューベルト晩年の作品に流れているのは、ノスタルジーやもはや手にすることはできないであろう希み(Longing)。

ルイスは、ベートーヴェンとシューベルトは似ているものもあるが、違いの方がはるかに大きく、それを次のように表現している。
ベートーヴェンは、作品のなかである問いを投げかけては、その答えを見つけ出す。最後には探していたものを勝ち取る(win)。
しかし、シューベルトの場合は、同じ様に問いかけはしても、答えを見つけることなく、時にはその問いが増えていき、結局、未解決のまま。


<参考情報>
 インタビュー ポール・ルイス(王子ホールマガジン Vol.31)
コンサートピアニストとしては、ピアノを本格的に練習し始めたのが、珍しくも12歳の時とかなり遅い。
それに、両親とも音楽家ではないし、クラシック音楽愛好者でもない非音楽家の家系。
いわゆる神童タイプの人でも、超絶技巧派でもないのも、人気のある若手ピアニストたちのなかでは珍しい。
彼が最も得意とするレパートリーがシューベルトとベートーヴェン(他にもいろいろ弾けるのだろうけど)というのも、納得してしまう。

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2 Comments

Tea316  

こんにちは。はじめまして!
音楽日誌、凄いですね!のちほどゆっくり読ませていただきます。

私はルイスのシューベルトのリサイタルをラジオで聴いて好きになり、アルバムを即買い、今でもよく聴いています。彼のシューベルトは、格別です。
でもベートーヴェンの方は、まだ聴いたことがありません。

ルイスのシューベルトとベートーヴェンの音楽の違い、興味深いです!

2012/05/22 (Tue) 10:18 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ルイスのシューベルト、良いですね

Tea316さま、はじめまして。
ご訪問、コメントをどうもありがとうございます。

ルイスのシューベルトはとても素敵ですね!
昔からシューベルトは苦手な作曲家なのですが、最近は大分聴けるようになりました。
なかでもルイスのシューベルトは、お師匠さんのブレンデルの演奏よりもずっと自然に入っていけます。
ルイスのCDは3種類とも買って少しづつ聴いてますが、好きなD959はとても良かったですね。曲のなかに篭められている諸々の感情の移ろいが、自然に湧き出てくるように感じます。

彼のベートーヴェンは、少しシューベルト的なところがあるのかもしれません。
どちらかというと、緩徐楽章の方が彼のピアニズムに合っているような気がします。
急速楽章になると、曲によっては、やや力感が弱いというか、しなやかすぎる気がしますが、これは私が好きなベートーヴェン演奏がアラウやレーゼルだから、余計にそう感じるのでしょう。
むやみに慌てず、騒がず、自然な情感と音楽の流れが感じられるのは、シューベルト演奏と相通じるものがあるように思います。

Youtubeでルイスのベートーヴェン録音がいくつか聴くことができますので、お時間のある時にでもお聴きくださいませ。

No.5 (1)
http://www.youtube.com/watch?v=bNiYhHix5WU

No.8 (3)
http://www.youtube.com/watch?v=M3RbocVZqY4

No.30 (2)
http://www.youtube.com/watch?v=cxxcBDKPCyc

No.31 (1)
http://www.youtube.com/watch?v=HF_l0C8k4_E

2012/05/22 (Tue) 14:11 | EDIT | REPLY |   

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