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ポール・ルイス ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第20番D959
シューベルトのピアノ・ソナタの中では、昔から好きなのが第19番D958と第20番D959。
初めて聴いた録音は、第19番がエゴロフのライブ録音(これは今でも一番好きな録音)、第20番がアラウのスタジオ録音。
アラウの第20番は1982年の録音。やや指回りが悪くなっている晩年のもので、テンポは遅めでアラウ独特の重たさはあるけれど、長調の明るい色調の曲想がアラウに良く似合っている気がした。
好きな曲といっても、もともとシューベルトはほとんど聴かなったので、ベートーヴェンのピアノ・ソナタのようにはしっかり聴いてはいなかったけれど。

第20番はマイベスト盤と思えるCDを持っていなかったので、いろいろ試聴してみると、どうやら"若手のシューベルト弾きでは最高"と評判のポール・ルイスが一番合いそうだった。
ルイスよりもドラマティックで濃厚な叙情表現のソコロフのライブ録音もかなり好きだけれど、これはCD化されていない。

Piano Sonatas D 959 & 960Piano Sonatas D 959 & 960
(2003/06/10)
Pual Lewis

試聴する(仏amazon)


ルイスの第20番は、彼のピアノ・ソナタ録音を集めたサンプラー盤のような『Sonatas』に第19番と一緒に収録されている。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ2曲も入ったお得な2枚セット。(結局、第21番も聴きたくなる気がしたので、こちらは買わず)

INITIALES - ポール・ルイス (Sonata / Paul Lewis) [2CD]INITIALES - ポール・ルイス (Sonata / Paul Lewis) [2CD]
(2011/11/10)
ポール・ルイス

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ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959 [ピティナ作品解説]

ずっと昔にアラウの録音を聴いて以来、第1楽章と第4楽章の長調の和やかな主題旋律がとても印象的だったので、最後のピアノ・ソナタ3曲の中でも、一番明るい雰囲気の曲...と思い込んでいた。
最近ソコロフとルイスの録音を立て続けに聴いて、実は明るいどころではなく、ベートーヴェン的な疾風怒濤の第19番よりもさらに悲愴で暗澹として劇的、運命を受け入れたような第21番の境地に至るまでの苦しさや哀しさが全編に流れているように思えてきた。

ルイスのシューベルとは、弱音がとても柔らかく微妙なニュアンスが交錯する繊細さがとても印象的。
神経質的な繊細さは全くなく、内面から滲みでてくるような自然な趣きは、いつも夢を見ているようで、ひとり心の中で呟いているような気がするシューベルトには良く似合う。
ことさら陰翳を強調した情緒過剰さはなく、その逆の理性的なクールさが強いわけでもなく、"等身大のシューベルト"のように感じるせいか、そのまますっと音楽に入っていける。

第1楽章 Allegro
ブレンデルは『対話録「さすらい人」ブレンデル』で、「ベートーヴェンは夢を見ているときでも建物を造っている人で、シューベルトはたまに働いているときでも夢を見ています」と語っていた。
この楽章を聴いていると、この言葉が実感として納得できてしまう。

冒頭の力強い和音は、現実を肯定するようにポジティブで堂々とした安定感。
弱音で弾く長調の主題は、幸せな夢想に耽っているように優しいけれど、その中に時折現われる短調の旋律は、現実世界に暗雲が垂れ込める予感のような不安感を帯びている。
テンポも曲想に応じて頻繁に変化し、短調でフォルテになると加速して切迫感が強まり、長調の幸福感に満ちた旋律になるとゆったりとしたテンポに戻る。
まるで季節の移ろいを見ているようにテンポの移り変わる流れが自然。
明暗・緩急が絶えず交錯し、長調と短調の間を頻繁に転調し、いくつもの主題のモチーフが次から次へと現われては消えていくのは、いろんな感情が交錯し葛藤している内面のドラマを見ているような気がする。

ルイスのシューベルトを聴いていると、シューベルト特有の冗長さを感じることもなく、どの旋律も湧き出てくる清流のように滑らかで、歌を歌っているような自然な抑揚がとてもしっくりと馴染んでくる。
曲の構造を考えながら聴いていると段々迷路に迷いこんで行くので、ピアノが弾く旋律の流れのままにシンクロして聴くのが、一番無理なく聴けるとようやくわかってきた。

第2楽章 Andantino
"哀しい"という気持ちを音楽にすれば、こういう曲になるような冒頭の儚げな主題。
深刻で苦痛に満ちたように弾くピアニストとは違って、ルイスは表面上は静かで淡々としているので、透明感のあるさらさらとした哀感が美しい。
やがて、霧が垂れ込めるような経過的なアルペジオから、激しく渦巻くようなパッセージがフォルテで現われる。
嵐が吹きすさんで、世界がぐるぐると急回転している感覚。まるで"運命の一撃"が襲ってきたかのような衝撃。
その後に凪のような旋律が訪れるけれど、呟いているような叙情的な単旋律が、感情を叩きつけるような激しい和音で時々遮られる。
主題再現部は、冒頭の主題よりも、左手低音部のトリルや他にも断片的な旋律が挿入されて、はるかに重苦しく、不安感と悲愴感が増幅されている。

第2楽章は感情的な動揺の激しい楽章なので、どっぷり情緒と感情に浸って演奏する人も少なくない気がする。
ルイスの場合は、どちらかというと、強弱のコントラストは強くつけても、深刻・大仰な表現で情念過剰になることがなく、理性的に抑えた慎み深さを感じる。

Franz Schubert - Piano Sonata In A, D 959 (piano:Paul Lewis)



第3楽章 Scherzo: Allegro vivace
第2楽章の悲愴感から一転して、スタッカートのフレーズは、軽やかでスキップしているように楽しげで、全体的に明るいスケルツォ...のはずだけれど、なぜかもの哀しい気がしてくる。
この楽章の陽気な雰囲気に、無理やり心を浮き立たせている印象を受けるのは、第2楽章があまりに重くてそれを引きずっているように感じるせい?
途中で弱音の緩徐部分が何度か挿入されている。ここを聴いていると、ふと我に返って、やっぱり哀しい...と、ひとりぽつんと呟いているような気がする。

第4楽章 Rondo: Allegretto
伸びやかで開放感のある冒頭主題で、第2楽章の余韻も消えてしまったような清々しさと明るさ。
ルイスが弾く旋律は、柔らかく優しいタッチ。力強さは全くなく、(D960に繋がるような)透明感のあるさばさばとした明るさがある。
短調に転調した部分は、他の楽章と違って不安感や哀感を感じさせるというよりも、避け得ない運命は受け入れるしかないと悟ったような力強さ。

もう一度アラウの弾くD959を聴けば、今ならどう感じるんだろうか...と気になってきた。昔は全然聴き取れなかったものが何か聴こえてくるかもしれない。

tag : シューベルト ルイス

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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