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レーゼル ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第2番(ライブ録音)
レーゼルの珍しいブラームスのピアノ協奏曲第2番の録音は、2004年5月デッサウでのライブ録音(Antes Edition盤)。
伴奏は、ゴロー・ベルク指揮デッサウ・アンハルト・フィルハーモニー。
Antes Editionは、ドイツのレーベルなのに、なぜかエイノ・タンベルグ、ヘイノ・エッレルなどのエストニア作曲家の作品が多い。
このアルバムでも、1932年生まれのエストニアの作曲家ヤーン・ラーツの交響曲第5番がカップリングされている。
録音場所は、ザクセン=アンハルト州デッサウにあるアンハルト歌劇場。「バレエや演劇部門を含む総合劇場で1794年に設立された宮廷劇場を前身に持ち 当時はヨーロッパ最大級の劇場であった。旧東独時代に改築された現在の建物はゆったりした客席と両壁画の桟敷席を有する雄大な白亜の殿堂」(e-onkyo musicの紹介文)で、「北のバイロイト」とも呼ばれる由緒ある歌劇場らしい。歌劇場のオーケストラ、デッサウ・アンハルト・フィルハーモニーも歴史は古く、設立は1766年に遡る。
1968年生まれの指揮者ゴロー・ベルクは、デッサウ・アンハルト劇場の音楽総監督をしていた人で、時々来日して日本のオケを指揮している。

レーゼルのディスコグラフィには、名曲・難曲のピアノ協奏曲から、ブラームスの独奏曲集までかなり膨大な録音があるのに、なぜかブラームスのピアノ協奏曲のスタジオ録音が全然なかったのが不思議。
ピアノ協奏曲第1番の方は今でも正規録音がなく、クルト・ザンデルリングとロスフィルによるCD-R盤(ということは海賊盤)のライブ録音のみ。音質が良くないのでピアノの音がやや遠めでくすんで、ピアノパートを聴いても印象はもう一つ。
それに、音質が明るく透明感があり叙情表現も粘りがなく爽やかなレーゼルのピアニズムには、疾風怒濤のパッショネイトな第1番よりも、明るく堂々としたシンフォニックな第2番の方がよく似合っている。

この第2番は、ライブ録音にしてはピアノの音が前面に出て明瞭で、音も伸びやか。スタインウェイのピアノがよく鳴っている。
シンフォニックな曲とはいえ、レーゼルのピアノはオケよりも存在感があるかも。
ブラームスだからといって、どんより重厚長大にならず、速めのインテンポで切れの良い打鍵は、60歳直前の演奏にしてはとても若々しい雰囲気。
レーゼルらしく、粘りのないストレートで爽やかな叙情感が瑞々しくてとても気持ちよい。こういうところは、若いころに録音したブラームスのソロ演奏を思い出す。

旧東独の崩壊後、レーゼルの新規録音はほとんどなかったので、ライブ録音とはいえ本当に久しぶりの録音だった。
旧東独時代の演奏にあった生真面目な硬さの角がとれたかのように、60歳代のレーゼルのライブ録音には生き生きとした躍動感と自由さが溢れている。
これは半年前に全集録音が完成したベートーヴェンのピアノ・ソナタでも感じたこと。
年を重ねたことに加えて、旧東ドイツの崩壊により環境が激変するなかで苦労したこともあったらしく、それが良い意味で演奏に現われているのかもしれない。

Brahms: Piano Concerto No 2Brahms: Piano Concerto No 2
(2005/09/05)
Peter Rosel,Dessau Anhalt Philharmonic, Golo Berg

試聴する(NAXOS)

米NAXOSのの試聴ファイル:画面右下のFREE PREVIEWから入って、"rosel brahms concerto"で検索すれば、一番上に音源が表示されます。

このCDのレビューはネットショップの紹介文(ピアノ協奏曲第2番(レビュー集)[湧々堂])があるくらい。文章表現は大袈裟だけれど、ピアノパートに関するコメントはまったくその通り。
英文サイトでも”MusicWeb International”のレビューしか見当たらない。この英文サイトのレビューがわりと面白い。
- レーゼルは、実力のわりにあまり知られていない、共産主義国の東ドイツでキャリアを築いたので西側のリスナーが聴く機会は限られていた。
- レーゼルの録音では、《展覧会の絵》とブラームスピアノ作品集の録音の評価が高い,
- このコンチェルトの演奏は、リヒテルのように興奮ではじけることも、コヴァセヴィチのように深い感情と喜びを与えるものでもないが、暖かみのあるリラックスした演奏で、暑い夏の日の午後に似合っているし、聴いていると微笑みたくなる。ファーストチョイスではなくても、聴く価値はある。
- レーゼルは、ケンプのドイツ的伝統とギレリスの思慮深さの間にあるピアニズムのスタイルを受け継いでいる人(custodian:保管者)。


                        

ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83
[ピティナ作品解説]/楽譜[IMSLP]:2台のピアノ版(ブラームス編曲)オーケストラスコア

ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番と並ぶ演奏至難の難曲と言われるらしく、ピアニストに”血と汗を要求する”と評した人もいる。
60歳近くになっても、旧東独時代のように技巧的な精密さと安定感があるので、実演でも大きなミスタッチは無く、安心して聴ける。
レーゼルらしい硬質で濁りのない音色と一音一音輪郭の明瞭な打鍵は、低音でも厚みのある和音でも、変わりない。
重音が連続するパッセージから、細かいスケール・アルペジオのフレーズまで、綺麗に粒も揃って、音が濁ることなく、メリハリをつけつつも淀みなく滑らか。
録音音質の影響もあるだろうけれど、昔よりも音の響きと色彩感が豊かになり、演奏もレーゼルにしては熱気が篭もって叙情豊か。音楽が生き生きとして自由度がずっと増している。

第1楽章 Allegro non troppo
4つの楽章のなかでも、力技のオンパレードのような楽章。楽譜を見ながら聴いていると、難曲と言われるのがよくわかる。
重音部分はfffが頻出し、Sfが重音のスタッカートやトリルについていたり、それが広範囲に跳躍しながら出てきたりするので、この曲を大したミス無く弾くこと自体が至難の業に違いない。

レーゼルは基本的にはインテンポで、ルバートもそれほど使ってはいないし、どんなフレーズでも淀みない。といっても、フレージング中のアクセントがよく利き、リズム感もよく、メリハリがあって、平板なことはなく。
左手低音部の重音も、レーゼルらしい弾力のある引き締まったタッチで、厳めしさや濁りがなく綺麗に響く。
フレーズ最後に弾く和音にクセがあって、ベートーヴェンを聴いていても感じたように、ややアクセントを強くつけて勢いよく打鍵するせいか、音が上向きに伸びやかに響く。
不明瞭になりがちな重音のトリルも、音の粒がくっきり明瞭。そのせいか、アルペジオやスケールの滑らかさが引き立ってくる。

(どんよりと)重厚さや濃い陰翳はないけれど、かっちりとして堅牢な構成感と響きの重層感があり、きりっと引き締まって力感豊か。それに明るい音色と硬質の澄んだ響きが美しく、私がこの曲で聴きたい演奏のイメージにぴったり。
若い頃に録音したブラームスのピアノソロの演奏に似て、澄んだ音色で明るく爽やかな開放感があり、以前は急速楽章で技巧が前面に出すぎる部分もある気がしたけれど、このコンチェルトではそういうこともなく、全編に流れる瑞々しい叙情感がとても爽やか。

一番好きな部分は、曲のちょうど半ばあたりの146小節以降。(スコアで12頁、2台のピアノ版の14頁)
156-158小節のアルペジオの第1音のアクセントが強めで、クリスタルのように済んだ煌き響きが綺麗。
続く159小節は、楽譜を見ると、重音のスタッカートやトリルに、同音連打の入ったオクターブ跳躍(168-170小節のそれぞれ最後のパッセージ。トリルのように聴こえる)で、鍵盤上を低音部から高音部へと競りあがっては急降下したり。
この部分は、ほんの少しだけ形を変えて(フレーズ末尾のオクターブ跳躍を和音に変えているので、弾きやすくなっている)、終盤にもう一度出てくる。

技巧的にも体力的にもかなり厳しいのか、どのピアニストの演奏を聴いてもかなり力が入っているし、テンポが落ちたり前のめりになったり、打鍵が重かったり、トリルやオクターブ跳躍のパッセージが明瞭でなかったりする。
この部分をテンポを落とさずにきれいに弾けているのは、若い時のポリーニとツィメルマン。彼らのように若くはないゼルキンも安定しているし、レーゼルも速めのテンポのまま、和音の打鍵は力感も豊かで歯切れよく、粒立ち良い音が濁らずに明瞭。
名だたる名盤やライブ音源をいろいろ聴いても、ライブ録音・スタジオ録音の違いに限らず、もたついたり打鍵ミスが残っている録音が多い。ここはほんとに難しいのだと思う。


レーゼルの音源が見当たらないので、これはポリーニが若い頃にアバドと録音した演奏。難所は7:08~。
昔聴いたときは、叙情表現が直線的な気がしたけれど、久しぶりに聴くとやはり若い時のポリーニの技巧的な切れ味の鋭さは爽快。でも、技巧と力で押しているので潤いに欠ける気がする。
Brahms Piano Concerto No.2 Pollini Abbado Wiener Philharmoniker 1.avi



第2楽章 Allegro appassionato
楽譜をみると、第1楽章よりもシンプルな音の配置。そのわりに相変わらず厚みのある響きと力感豊かで、切々と訴えかけるように強い叙情感が流れている。

レーゼルは、シャープでクリアな打鍵で符点のリズムもシャープ。
第1拍目のアクセントがよく利いて、引き締まったリズム感がある。左手の和音移動(82小節以降)のリズムがちょっと面白い。
レーゼルにしてはかなり表情の起伏が多く、叙情感が強い。ヒートアップした情熱ではなく、青白い炎が燃え立つような鋭くクールなパッションが瑞々しく爽やか。


第3楽章 Andante
チェロ独奏とオケのトゥッティに続いて、第23小節から始まるピアノソロは、穏やかで安らぎに満ちた牧歌的な旋律。
その後短調に転調し第35小節からは、夢から覚醒したように、トリルの入った符点のリズムと数オクターブを下行するアルペジオ。とても力強く昂ぶる気持ちが抑えられないような情熱的なフレーズ。
その間に、近接する和音が続くパッセージがで入ってくるので、強弱硬軟が交錯し、ゆったりとしたテンポなのに、ダイナミック。
深い森のなかで木漏れ日が差し込んでくるように明暗が交錯し、人の気配のない自然のなかで流れる水の動きの激しさや草木がざわめく情景が浮かんで来る。

冒頭のチェロの主題は、《5つの歌曲Op.105》の第2曲"Immer leiser wird mein Schlummer"(まどろみはますます浅く)に転用されている。詩はHermann von Lingg。
それに、中間部でクラリネットが吹いている旋律も、歌曲《Todessehnen/死へのあこがれOp.86-6》へ転用されている。(これはかなりわかりにくいかも)

第4楽章 llegretto grazioso
イタリアの陽光が差し込むような明るさと陽気と軽快なリズム感がとても開放的。
スタッカートがついていないパッセージでも、符点のリズムが入っているところが多いし、2/4拍子でも三連符が続くパッセージは舞曲的で、全体的にとてもリズミカル。
それだけだと単調になるけれど、短調に転調するとボヘミアン的(?)な憂愁と陰翳が漂って、ここはとても素敵。
レーゼルは速いテンポで、とても軽やかなスタッカート。音が尖らず柔らかさがあり、リズミカルで心が弾むよう。
この終楽章をこんなに軽やかに、明るく楽しそうに弾いている人はあまりいないかも。


ここ数年は第1番ばかり聴いていたけれど、第2番は明るく開放感のある堂々とした曲想がとても良いなあと再認識。
やっぱり第2番の方が、曲としては聴き応えがある。それに、楽譜を見ながら聴くと、音だけ聴いている時とは違った面白さや発見があるのも楽しい。
このライブ録音は、充実した和声の響きと切れ良い打鍵で技巧面では安心して聴けるし、粘らず淀まず大仰ではない表現から湧き出てくる自然な叙情感がすがすがしく爽やかなレーゼルらしいブラームス。


tag : ブラームス レーゼル

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ブラームスピアノ協奏曲2番
私は1番よりも絶対に2番の方が好きです!
ホルンが好きなので、冒頭でもうすでに大感動なのです(笑)!!
ピアノばっかりが目立だずに、ピアノ入り交響曲って感じなのが好きです。

ラフマニノフは聴いていて、すっごく超絶技巧に感じるのに、私にはブラームスはなぜかそんな風に聴こえないのですが(私だけかな?)、実際に演奏シーンを見たら、やはり難しそうかも。

若かりし頃のアバド&ポリーニのアルバムを持っていますが、演奏は素晴らしいんだけど、音がどうも古臭くて押し入れで眠ったままになってます(爆)。それで新しい録音のものが欲しいんだけど、どれがいいのかな~?と探しているところです。レーゼルも良さそうですね。
難曲でもそういう風には聴こえないのかも
Tea316様、こんにちは。

やっぱり第2番は良いですね~。ホルンやチェロが好きな人にも人気があるようです。
ブラームスの書き方は「難曲でも難しく聴こえない」と言われていたと思います。
たしかに、ラフマニノフのような華やかなヴィルトオーゾピースには聴こえないところがありますね。
ピアノソロでも、《ハンガリー舞曲集》のピアノ独奏版(最初の10曲分)は弾くのはかなり大変なのですが、そう聴こえないんですよね。
でも、実演の映像や楽譜を見ると、やっぱり難しいんだろうな~と思えてきます。

若かりし頃のアバド&ポリーニの録音は、DVDとCDの両方出ていますね。
DVDなら、ポリーニの熱のこもった演奏する姿を見るのが面白いです。

この曲は名盤が多くてCDはかなり集めました。
最近の録音にはアンゲリッシュ((試聴だけしました)などがあるようです。
難曲なので録音するピアニストも少ないですし、新譜自体が減ってますから、なかなか良いものが見つかりませんね。
どの演奏が良いかどうかは好みの問題が多分にありますが、レーゼルの演奏は、少なくとも名盤とされるギレリスの(重厚で暗めの)演奏が好きな人には全然向いてないと思います。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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