*All archives*



アルフレッド・パール ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集
たまたま見つけたamazonとHMVのレビューでとても評判が良かったのが、アルフレッド・パール(Alfredo Perl)の『ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集』。
廉価盤レーベルのさほど有名ではないピアニストの録音に高評価のレビューが多い場合は、ネームバリューは関係ないので、演奏内容そのものが良いのは間違いない。
もともとはBMG傘下のドイツの廉価盤レーベルArte Novaに1993年~96年にかけて録音した全集で、Oehms Classicsから2003年に再販されたもの。

アルフレッド・パールについては名前も聞いたことがなかった。
アラウと同じチリ出身(パールはサンティアゴ市)のピアニストで、1965年生まれ。
9歳で演奏会デビューし、ブゾーニ国際コンクールやウィーンのベートーヴェン国際ピアノコンクールで入賞。
ケルンやロンドンでピアノを学び、英国、ドイツ、オーストリアでは知られているらしい。
1996年と97年にロンドン、サンティアゴ、モスクワでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行っている。
今はドイツのデトモルト音楽大学の教授。
ブゾーニコンクール入賞歴から言えば技巧面は確かだろうし、ベートーヴェン・コンペティションでも入賞したくらいだから、もともとベートーヴェンとは相性が良いに違いない。
録音は結構多く、レーベルはArte NovaとOehms。リスト作品を中心に、シューマン、グリーグ、シマノフスキ、それにベートーヴェンとブラームスの室内楽など。珍しい録音としてはブゾーニの《ヨハン・セバスティアン・バッハによる幻想曲》、シマノフスキの《交響曲第4番「協奏交響曲」》。
録音評によると、パールのスタイルに最も合っているのがベートーヴェン。それ以外で優れた録音はリストの《ダンテ・ソナタ》。
プロフィール:英文WilipediaNaxos(NML)


パールがこのピアノ・ソナタ全集を録音した時は、30歳前後という若さ。
その若さでさほど知名度も高くなかった(と思う)ピアニストが全集録音を出すことができたのは廉価盤レーベルゆえのことだろうけど、彼を選んだプロデューサーの耳は確か。
"深遠な"ベートーヴェンではないけれど、下手にあれこれこねくりまわさず、オーソドックスに丁寧に弾きこんだ"正統派"と言いたくなってしまう。30歳になるやならずで、これだけのベートーヴェンを弾けるというのは凄い。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集
(2011/2/1)
アルフレッド・パール

試聴する(allmusic.com/ArteNova原盤(抜粋))
ワルトシュタインの第3楽章の後に、《Andante favori》が収録されているのが珍しい。ディアベリ変奏曲も収録。


全集盤以外に、標題付きピアノ・ソナタ6曲を収録した廉価盤も出ている。
これが2CDで600円(amazon価格)と異常な安さ。有名なピアニストの名盤に拘らないのであれば、ベートーヴェンの有名曲をまとまって聴きたいという人には良さそう。
個性的な解釈・演奏の斬新さや面白さとか、(グルダのような)スピード感と指回りの良さで技巧鮮やかなベートーヴェンを期待する人には不向き。

Beethoven: The Great Piano SonatasBeethoven: The Great Piano Sonatas
(2011/02/01)
アルフレッド・パール

試聴する(amazon)
musicline.deの試聴サイト(1トラックの試聴時間が1分と長い)


試聴してみると、私の好きなベートーヴェン演奏のイメージにぴったり。
極端なアゴーギグや独自の解釈が目立つような個性的な演奏ではなく、オーソドックス(と思う)な解釈で丁寧に弾きこんでいるところが良い。
特に目立つことや変わったことはしていないのに、無理のないメリハリのある豊かな表情が魅力的。このクセのなさが物足りないと思う人もいるだろうけど。
そうあるべきときに力強くドラマティックになるので、ベートーヴェン特有のダイナミックなディナーミクに欠けるというわけではないと思う。
高音はやや線が細い気がしないでもないけれど、低音部やフォルティシモは力感・量感とも充分。ほどよい残響で柔らかさと膨らみがでて、音は瑞々しくて素晴らしく綺麗。
粘りのないタッチで、テンポの極端な設定や不自然な伸縮がなく、強弱のコントラストとアーティキュレーションも明瞭で、曲の輪郭はくっきり。
特にワルトシュタインの第3楽章はソノリティがとても美しい。膨らみのある響きがふわ~と膨らんで包み込むような感覚がとても心地良く。
全体的にタッチが丁寧で、落ち着いた色彩感と濁りのない暖かみのある美しいソノリティに加えて、安定した技巧と過剰・過不足のない表現で、粘らず、淀まず、力まず。瑞々しい若さとパッションや自然に湧き出てくるような叙情性を感じさせるのがとても良いところ。

お試しで抜粋盤を買おうかと思っていたら、試聴すると波長がぴったり合ってしまったので、全集盤の方に変更。
そういえば、この前読んだオピッツのインタビューで、最近のベートーヴェン演奏について、「若いピアニストを残念な気持ちで見ることがありますね。楽譜に対する敬意が少し足りないように感じます。個性的な演奏をして人から注目を集めたい、という気持ちが大きいのではないでしょうか。7割が自分の解釈で、ベートーヴェンはたったの3割という演奏が多い。」と辛口のコメントをしていた。(レコード芸術2009年4月号)
パールの演奏にはその指摘は当てはまらないので、その点では安心して聴ける。思いがけずこんなに素敵なベートーヴェンを弾くピアニストに出会ったのがとても嬉しい。

tag : ベートーヴェンパール

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

2022年、パールのベートーヴェン・ピアノソナタCD10枚組を購入しました。
「パール愛」記事を見つけて嬉しくなった勢いで投稿します。
パールの演奏の繊細にして叙情的、躍動感や力強さも備えた感性の豊かさに魅入られました。
どの曲も新鮮なリズム感に支えられていて楽しい。
これまでのベートーヴェンに対する固定観念が覆されたみたいな感じ。
素晴らしいピアニストに出会うことができて感動しています。
 
ミケ様、コメントどうもありがとうございます。

パールの全集は廃番のため入手しにくいのですが、購入出来て良かったですね。
若い時の録音なので若々しさを感じますが、ベートーヴェンらしい力強さと繊細で豊かな情感がバランス良く、”正統派”と言いたくなるようなベートーヴェンを弾いていたというのは凄いと思います。

コメント下さったので、久しぶりに何曲か聴きましたが、以前に聴いた時よりもパールの演奏の素晴らしさがよくわかります。豊かな響きとダイナミックでメリハリのある自然な表現でスケールも大きく、音楽の内容がとても豊かで本当にいいですね! 新しい発見がありそうなので、また全集を聴き直すことにしました。
カレンダー
08 | 2023/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。