アルフレッド・パール ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集 

2012, 07. 05 (Thu) 18:00

たまたま見つけたamaznoのレビューに興味を惹かれて、HMVでもとても評判が良かったのが、アルフレッド・パール(Alfredo Perl)の『ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集』。
廉価盤レーベルのさほど有名ではないピアニストの録音に高評価のレビューが多い場合は、ネームバリューは関係ないので、演奏内容そのものが良いのは間違いない。
もともとはBMG傘下のドイツの廉価盤レーベルArte Novaに1993年~96年にかけて録音した全集で、Oehms Classicsから2003年に再販されたもの。
Arte Novaというと、ジンマン&チューリヒ・トーンハレ管のベートーヴェン交響曲全集が有名。リリース当時、店頭でよく見かけたので、あまりに安さに分売盤を何枚か衝動買いしてしまった。

アルフレッド・パールというピアニストは、名前も演奏も全然知らなかった。
アラウと同じチリ出身(パールはサンティアゴ市)のピアニストで、1965年生まれ。
9歳で演奏会デビューし、ブゾーニ国際コンクールやウィーンのベートーヴェン国際ピアノコンクールで入賞。
ケルンやロンドンでピアノを学び、英国、ドイツ、オーストリアでは知られているらしい。
1996年と97年にロンドン、サンティアゴ、モスクワでベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行っている。
今はドイツのデトモルト音楽大学の教授。
ブゾーニコンクール入賞歴から言えば技巧面は確かだろうし、ベートーヴェン・コンペティションでも入賞したくらいだから、もともとベートーヴェンとは相性が良いに違いない。
録音は結構多く、レーベルはArte NovaとOehms。リスト作品を中心に、シューマン、グリーグ、シマノフスキ、それにベートーヴェンとブラームスの室内楽など。珍しい録音としてはブゾーニの《ヨハン・セバスティアン・バッハによる幻想曲》、シマノフスキの《交響曲第4番「協奏交響曲」》。
録音評によると、パールのスタイルに最も合っているのがベートーヴェン。それ以外で優れた録音はリストの《ダンテ・ソナタ》。
プロフィール:英文WilipediaNaxos(NML)


パールがこのピアノ・ソナタ全集を録音した時は、30歳前後という若さ。
その若さでさほど知名度も高くなかった(と思う)ピアニストが全集録音を出すことができたのは廉価盤レーベルゆえのことだろうけど、彼を選んだプロデューサーの耳は確か。
"深遠な"ベートーヴェンではないけれど、下手にあれこれこねくりまわさず、オーソドックスに丁寧に弾きこんだ"正統派"と言いたくなってしまう。30歳になるやならずで、これだけのベートーヴェンを弾いていたなんて...。 

Complete Piano Sonatas & DiabeComplete Piano Sonatas & Diabe
(2004/04/20)
Alfred perl

試聴する(allmusic.com/ArteNova原盤(抜粋))
ワルトシュタインの第3楽章の後に、《Andante favori》が収録されているのが珍しい。ディアベリ変奏曲も収録。


全集盤以外に、標題付きピアノ・ソナタ6曲を収録した廉価盤も出ている。
これが2CDで600円(amazon価格)と異常な安さ。有名なピアニストの名盤に拘らないのであれば、ベートーヴェンの有名曲をまとまって聴きたいという人には良さそう。個性的な解釈・演奏の斬新さや面白さとか、(グルダのような)スピード感と指回りの良さで技巧鮮やかなベートーヴェンを期待する人には不向き。もし好みに合わなかったとしても、この価格ならあきらめもつくかと。

Beethoven: The Great Piano SonatasBeethoven: The Great Piano Sonatas
(2011/02/01)
アルフレッド・パール

試聴する(amazon)
musicline.deの試聴サイト(1トラックの試聴時間が1分と長い)


試聴してみると、私の好きなベートーヴェン演奏のイメージにぴったり。
極端なアゴーギグや独自の解釈が目立つような個性的な演奏ではなく、オーソドックス(と思う)な解釈で丁寧に弾きこんでいるので、好感度はとても高い。
特に目立つことや変わったことはしていないのに、無理のないメリハリのある豊かな表情が魅力的。このクセのなさが物足りないと思う人もいるだろうけど。
そうあるべきときに力強くドラマティックになるので、ベートーヴェン特有のダイナミックなディナーミクに欠けるというわけではないと思う。
高音はやや線が細い気がしないでもないけれど、低音部やフォルティシモは力感・量感とも充分。ほどよい残響で柔らかさと膨らみがでて、音は素晴らしく綺麗。
粘りのないタッチで、テンポの極端な設定や不自然な伸縮がなく、強弱のコントラストとアーティキュレーションも明瞭で、曲の輪郭はくっきり。
特にワルトシュタインの第3楽章はソノリティがとても美しい。膨らみのある響きがふわ~と膨らんで包み込むような感覚がとても心地良く。
全体的にタッチが丁寧で、落ち着いた色彩感と濁りのない暖かみのある美しいソノリティに加えて、安定した技巧と過剰・過不足のない表現で、粘らず、淀まず、力まず。瑞々しい若さとパッションや自然に湧き出てくるような叙情性を感じさせるのがとても良いところ。

お試しで抜粋盤を買おうかと思っていたら、試聴すると波長がぴったり合ってしまったので、全集盤の方に変更。
そういえば、この前読んだオピッツのインタビューで、最近のベートーヴェン演奏について、「若いピアニストを残念な気持ちで見ることがありますね。楽譜に対する敬意が少し足りないように感じます。個性的な演奏をして人から注目を集めたい、という気持ちが大きいのではないでしょうか。7割が自分の解釈で、ベートーヴェンはたったの3割という演奏が多い。」と辛口のコメントをしていた。(レコード芸術2009年4月号)
パールの演奏にはその指摘は当てはまらないので、その点では安心して聴ける。思いがけずこんなに素敵なベートーヴェンを弾くピアニストに出会ったのがとても嬉しい。

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