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コヴァセヴィチ ~ ブラームス/ピアノ協奏曲&ピアノ作品集
久しぶりに出会った心惹かれるブラームスは、スティーブン・コヴァセヴィチのPhilips時代の録音。
いい録音がないかと、アックス、アンゲリッシュ、グリモーのブラームスといろいろ聴いたけれど、もう一つピタっとくるものがなく、ペライア、シフ、パイク、メルニコフは試聴どまり。
結局、試聴した時から強くシンクロするものを感じたのが、コヴァセヴィチのブラームス。

コヴァセヴィチは、Philipsに1868年~1983年の間にピアノ協奏曲2曲と独奏曲を録音し、その後EMIにピアノ協奏曲第1番&第2番を1992年に再録音。
試聴してみたところ、EMI盤は残響過多(かペダル多用のため)な音質が聴きづらい。
それに、コヴァセヴィチのベートーヴェンやブラームスの録音レビューをチェックすると、”Bishop”と名乗っていた頃の演奏の方が良いというコメントを度々見かける。

Philips盤の試聴ファイルを聴いてみると、音質はEMI盤よりもずっと良いし、ピアノ協奏曲は若々しく力感のあるタッチが切れ良く、独奏曲も叙情豊かだけれどベタベタした情緒過剰なところはないのが良い。
《バラードOp.10》の第4曲は、珍しくもカッチェンやレーゼルと同じような速いテンポで、私の好きな弾き方。
《スケルツォ》もキビキビとして切れの良いタッチで、量感と音量たっぷり。ピアノがよく鳴っていて気持ち良い。力強い躍動感に加えて、弱音部の叙情感に瑞々しい美しさがあり、濃いロマンティシズムが素敵。
結局、ピアノ協奏曲も独奏曲も両方聴きたいので、Philips盤の4枚組を購入。

この2曲は、Philips盤のなかでは一番新しい1983年の録音。
Brahms / Stephen Kovacevich, 1983: Ballade in B, Op. 10, No. 4


Stephen Bishop Kovacevich: Scherzo in E flat minor, Op. 4 (Brahms) - Philips, 1983


philips盤の4枚組セット。
Stephen Kovacevich Plays BrahmsStephen Kovacevich Plays Brahms
(2005/11/07)
Stephen Kovacevich、Brahms 他

試聴する(英amazon)



NEWTON CLASSICSは、ユニバーサルの正規ライセンスを得て過去の音源をリリースしている新興レーベル。
これは、Philipsのライセンス盤らしきCD2枚組。Philips盤の協奏曲入りCD2枚分を収録。
収録曲は、ピアノ協奏曲2曲とスケルツォ&バラード、8つの小品(Op.76)。
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番 他ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番 他
(2010/07/27)
サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団,スティーブン・コヴァセヴィチ

試聴する(amazon.de)


                           

Philips盤を全曲聴くと、旋律の歌い回しや低音の太く量感のある響きに陰翳のある叙情感など、やっぱり私の波長にぴったり合うブラームス。
とりわけ、”Bishop”と名乗っていた頃の1968年に録音した曲は、独特のものがあってかなり個性的。
収録曲の録音年がかなりばらついているので、彼のピアニズムが徐々に変わっているのがよくわかる。
 1968年 ヘンデルバリエーション、ピアノ小品集(Op.117,Op.119)
 1979年 ピアノ協奏曲第1番・第2番
 1981年 ワルツ集、2つのラプソディ、ピアノ小品集(Op.118)
 1983年 スケルツォ、4つのバラード、ピアノ小品集(Op.76。Op.116)

1968年に録音したピアノソロは特に素晴らしく、この時代のコヴァセヴィチのピアニズムは今とはかなり違う。
1979年のピアノ協奏曲2曲も好きな演奏。でも、昔の演奏とは変わってきたかなと感じるところもあり、1981年以降の録音ではその変化がさらに明確になっているように思える。

コヴァセヴィチが”Bishop”という名前(母の再婚相手の姓)から、実父の姓である”kovacevich”に変えた(戻した)のが1975年。(その後は、”Stephen Bishop Kovacevich”と名乗って時期がある(1983年録音のLPなど))
コヴァセヴィチのインタビューでは、名前を変えてから「現在は生まれ変わった気持ちで演奏に臨んでいる」という。
この辺の事情はよくわからない。名前を変えたことは、彼にとっては人生の重要な転機だったように思えるし、演奏スタイルにも陰に陽に影響しているのかもしれない。
 インタビュー記事:スティーヴン・コヴァセヴィチ[伊熊よし子のブログ]


”Bishop”時代の1968年に録音した曲は、どれも聴き惚れてしまう。
《ヘンデルヴァリエーション》は、軽やかで上品な雰囲気が漂って、繊細な情感が篭もっている。
急速・強奏部でも強打することなく音も綺麗で、リズムや旋律の歌いまわしにも細やかな工夫がある。
今まで聴いたこの曲の演奏のなかでも、ピアニストの感性がはっきりと刻まれているので、ブラインドで聴いてもコヴァセヴィチの演奏だと間違いなくわかる。
後期ピアノ作品集(Op.117とOp.119)は、短調のスローテンポの曲に特に惹かれる。
抑制気味のタッチのまったりとした音色と物思いに耽るような弱音、旋律の歌回しに独特の繊細さが漂う。
ルバートはそれほど強くかけず、情緒的なしつこさのない濃い叙情感が瑞々しい。
この叙情感は後年になっても完全に消えることはなく、緩徐系の曲や緩徐部分(ピアノ協奏曲第1番第2楽章やOp.79のラプソディ第1番の中間部など)で聴き取れる。この叙情性はコヴァセヴィチの演奏(ブラームスに限らず)のコアとなる部分なのかもしれない。

”コヴァセヴィチ”と名前を変えた1975年以降の演奏で気がつくのは、強演部のタッチの強さとペダルの多用によるソノリティの厚さ。
f,ffを強打するようになり、響きの重層感が増して、ガンガン響きすぎて混濁しかねないくらいにピアノがよく鳴っている。
1981年と83年に録音した曲を聴いていると、Op.76の第8曲やOp.118の第3曲など、フォルテのタッチが強すぎて、ちょっと荒騒々しい。太い量感のある音でペダルも多用してソノリティも厚いので、余計にそう聴こえる。
これはピアノ小品の”Capriccio”に共通して言える。反面、リズミカルで生き生きとした躍動感のあるダイナミズムがあるので、こういうところは表裏一体なのかも。
昔はフォルテも美しく、ペダルは部分的に細かく入れたりアルペジオなどで効果的な使い方をしていたので、ソノリティが濁ることがなかった。
この変化は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音のEMI盤とPhilips盤を聴き比べても、よくわかる。
それに、緩徐部・弱音部では昔のような抑制されて内面へと篭もっていくようなところは残っているけれど、感情表情がより率直にダイナミックになって、叙情感がより濃く深くなっていると思うところもある。
”Intermezzo”などの緩徐系の曲は、録音年や長調・短調に限らず、どの曲も繊細で流麗な叙情感がとても素敵。長調の穏やかで夢見るような美しさや、短調の陰翳のある悲哀感まで、騒々しい”Capriccio”を弾いていたピアニストとは別人のよう。
Philips盤を聴く面白さは、コヴァセヴィチのピアニズムの変化が聴き取れるところ。
特に”Bishop”時代の個性的なピアニズムや、”Kovacevich”になってからも弱音部分や緩徐楽章・緩徐部分の叙情性の美しさにはとても心惹かれてしまう。

<参考レビュー>
ブラームスのピアノ協奏曲第2番をコヴァセヴィッチの演奏で聞く[鎌倉スイス日記]
このピアノ協奏曲第2番は、Philipsで録音したブラームス作品のなかでベストの演奏だと、コヴァセヴィチ自身が言っていた。


tag : ブラームス コヴァセヴィチ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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