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アンデルシェフスキ ~ シマノフスキ/メトープ-3つの神話
ブレハッチの新譜はドビュッシーとシマノフスキ。
最初は少し意外な選曲だったけれど、ブレハッチだけでなく、ツィメルマン、アンデルシェフスキといったポーランド人のピアニストは、シマノフスキをリサイタルや録音で弾いている。

シマノフスキのピアノ曲を初めて聴いたのは、ロシア人のミハイル・ルディのシマノフスキ作品集。
10年以上も昔のことだったので、ドビュッシーやスクリャービンもほとんど聴いていないこともあって、どうも良くわからない音楽だった。
印象主義や現代音楽を聴き慣れた今となっては、シマノフスキも何の抵抗もなく普通に、それに、面白く聴ける。
シマノフスキは、ドビュッシーよりも和声は神秘的で、音楽はより描写的。同じく神秘的な作風だった後期スクリャービンとは違って、不気味なオカルティズムめいたところは全くない。

シマノフスキの作品のなかでは、ヴァイオリン協奏曲第1番と第2番は演奏会のプログラムで時々みかける。
ピアノ曲は、実演はともかく、録音は意外と多い。比較的よく知られているのは、《メトープ》、《12の練習曲》、《仮面劇(マスク)》、《マズルカ集》。他に、3曲のピアノ・ソナタ、《前奏曲とフーガ》、《変奏曲変ロ短調》、ピアノコンチェルト風の交響曲第4番(協奏交響曲)など。

ルディは、ウズベキスタン生まれで、ソ連とフランスでピアノ教育を受けたらしく、今はフランス国籍。スクリャービンのピアノ・ソナタ全集で定評があり、シマノフスキもレパートリーに入っているのも納得。
彼のシマノフスキアルバムは、《メトープ》、《12の練習曲》、《仮面劇(マスク)》、《マズルカ集》と定番の組曲集中心。
アンデルシェフスキのCDには、《メトープ》、《仮面劇(マスク)》に加えて、シマノフスキのピアノ作品のなかで最も前衛的で難解と言われる《ピアノ・ソナタ第3番》が入っている。
ブレハッチの録音は初期の作品のみ。《ピアノ・ソナタ第1番》《前奏曲とフーガ》(別盤で《変奏曲変ロ短調》)と、選曲がユニーク。
ツィメルマンのCDは、若い頃に録音したヴァイオリンとピアノのための詩曲《神話》のみ。リサイタルではピアノ独奏曲を時々弾いているけれど、録音は出していない。

アンデルシェフスキといえば、バッハやベートーヴェンのディアベリ変奏曲の録音で有名。
彼のシマノフスキアルバムはあまり聴かれていないだろうけれど、評価は高い。
実際、異聴盤を聴いていると、標題音楽的な曲であっても、物語性を強調したドラマティックな脚色は少なく、音自体で完結した世界。その音と響きの類稀なる美しさに幻惑されてしまいそう。
やはりアンデルシェフスキのシマノフスキは素晴らしい。

Szymanowski: Piano Sonata No 3Szymanowski: Piano Sonata No 3
(2008/08/12)
Piotr Anderszewski

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Meropy - 3 Poematy /メトープ-3つの詩 Op.29 [作品解説(ハインの好きなクラシック)]

シマノフスキのピアノ曲のなかで最も幻想的だと思うのは、《メトープ》。
《メトープ》はフランス語で、建築用語の浮彫石板のこと。ギリシアの神殿建築などの柱の上に置かれた物語性のある彫刻を施された部分をさす。
《メトープ》の3曲のタイトルは、いずれもギリシア神話に登場する女神/女性に由来。
メトープの実物:セリヌンテC神殿メトープ[パレルモの優雅な?生活]

どの曲も、楽譜を見て読解するのが大変だろうなあ..と思うような、独特の和声と複雑なパッセージが聴こえてくる。
音だけ聴いてもそう思うけれど、アンデルシェフスキのライブ映像を見ていると、一層そう思えてくる。
実際に楽譜を見ると、3段譜を使っている部分が多く、ドビュッシーの《前奏曲集》や《映像》よりもさらに音が過密で臨時記号も多く、音符が複雑に入り組んでいる。(単に音符を音に置き換えていくことだけでも、苦労しそうな気がする)
楽譜ダウンロード(IMSLP)


第1曲:Wyspa syren/セイレーンの島
”セイレーン”で連想するのは”セイレーンの魔女”。[セイレン(怪物森羅万象)]
美しい歌声で船乗りたちを惑わして船を沈没させる...という神話は、ギリシア神話以外にもある。

タイトルどおり、セイレーンの神秘的な歌声が全編に流れているような曲。
トレモロは水面の波動のように波打ち、高音部の右手旋律がセイレーンの歌声のように幻惑的。
波の音に紛れてどこからか歌声が漂ってくるようで、ドビュッシーの音楽よりもさらに神秘的。
いつのまにか心を惑わせて、麻痺させてしまうように美しい。
後半になると曲想が激しくなっていくところは、船乗りたちを襲っているセイレーンたちの恐ろしさ?

アンデルシェフスキのピアノの音は、柔らかくて透明感があり、漂うような軽やかさがあって、とってもファンタスティック。
声部ごとに色彩感やソノリティが違い、和声の響きも澄んで、声部の分離も明瞭。
幻想的な雰囲気を漂わせつつ、複雑に絡み合った各声部の動きが立体的で、よくわかる。
バッハ弾きのデルジェフスキらしい演奏。

Karol Szymanowski - Metopes, Op. 29 (1/2)



第2曲:Kalipso/カリュプソ
「カリュプソー」は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』に登場する海の女神。
トロイアから帰還する途中、船が難破してオーギュギア島に漂着したオデュッセウスを7年間引き留め、2人の息子も生まれた。
「海」の女神なので、これも波打つようなトレモロが入っていたりして、ところどころ「セイレーンの島」に似ている。
最初は姿を現さずに歌声だけが聴こえるセイレーンよりも、オデュッセウスと暮らしたこの女神の方が実在感が強いせいか、「セイレーンの島」よりは和声の響きに厚みがあり、幻想性がやや薄く、逆に粘着的な圧迫感を感じる。

Karol Szymanowski - Metopes, Op. 29 (2/2)



第3曲:Nausicaa/ナウシカア
”ナウシカ”というと、すぐに連想するのは宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」のヒロイン。
アニメの主人公ナウシカのモデルは、『堤中納言物語』の「虫愛づる姫君」。名前はギリシアの叙事詩『オデュッセイア』に登場する「王女ナウシカア」に由来する。
『オデュッセイア』では、ポセイドーンによっていかだを嵐で吹き飛ばされ、スケリア島の海岸に漂着したオデュッセウスを助けたのが、ナウシカア。

第1曲と第2曲とは違って、音がびっしり敷き詰められた濃密で妖しげな叙情感や幻想性はなく、具体的な情景が浮かんでくるような写実的なタッチ。
冒頭は、ゆったりとしたテンポでまどろむように優しく包み込むような旋律。しとやかで可愛らしい王女ナウシカアのイメージ?
やがて、軽やかでスキップして遊び回っているように楽しげな旋律に変わる。
徐々にテンポが上がり、音も増えて和音があちこち飛び跳ねて、気が動転して慌てふためいているかのような錯綜した雰囲気。
A tempo(Vivace)は、右手4度と左手5度のスケールから右手左手が交互に重音のffに変わりながら、一気に鍵盤を駆け下りる。締めくくりは、とうとう決着したような右手和音と左手トレモロ。音が水面で飽和して広がっていくような感覚。
ここは、お城の外で遊んでいるときに、海岸に倒れているオデュッセウスを発見して、走り回って大騒ぎしている情景のようにも思える。
最後は、波が引いて水面が静止していくように音がまばらになり、静かに密やかにフェードアウト。

「セイレーンの島」の夢の中のような神秘的な雰囲気とは違って、「ナウシカア」は現実世界の人間や情景を描いたような曲。
楽譜を見ても、幻想性の強いアルペジオが少なくなり、スタッカートの重音や規則性・運動性のあるパッセージが並んでいる。旋律もリズムもわかりやすく、躍動感の強いパッセージが多くて面白い。《メトープ》のなかでは一番好きな曲。

tag : シマノフスキ アンデルシェフスキ

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アンデルジェフスキ
こんにちは。
シマノフスキのピアノ曲も、アンデルジェフスキのピアノも初めて聴きました。この3曲はドビュッシーの前奏曲を思わせる風情がありますね。
高音がキラキラとしていて、透明感があってキレイです。

じつは昨日、中古屋でアンデルジェフスキのショパン曲集を購入しました。近いうちにレビューを書いてみますね。
シマノフスキは意外とわかりやすいですね
ポンコツスクーター様、こんばんは。

この曲は、シマノフスキ作品の中でも、ドビュッシー風の色合いの濃い曲です。ドビュッシーよりも音が複雑に入り組んでいて、弾くのが難しそうですが。
シマノフスキの録音はいくつか聴いていますが、個人的にはアンデルジェフスキが一番良かったです。その次は、ミハイル・ルディでしょうか。
もうすぐブログ記事にも書きますが、ルディの方が音はもっと煌びやかで表現も濃いですが、幻想的な雰囲気はアンデルジェフスキの方が強いですね。

アンデルジェフスキのショパンのCDが出ているのは知っていますが、試聴したことはありません。
彼のバッハとベートーヴェンの録音はほとんど持っているのですが、ショパンを聴くのは得意ではないこともあって、彼のショパンというのがどうもピンとこなかったので...。また記事で感想をお聞かせください。
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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