耳鳴り治療のための音響・音楽療法(12) Serenade Tinnitus Treatment System

2012.09.02 10:00| ・ 聴覚/耳鳴
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Serenade Tinnitus Treatment Sysytem の概要
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”Serenade system”はFDAの承認を得た携帯型サウンドジェネレーター。
開発企業はシリコンバレーのベンチャー起業SoundCure社。

”S-Tones”と呼ばれる低周波で変調(modulate)されたカスタマイズ音源を組み込んでおり、イヤフォンを通じて治療音を聴く。
治療音は3種類のカスタマイズ音(S-toneが2種類、狭帯域音)、広帯域音(ブロードバンド音)。
耳鳴りから注意を逸らす目的の耳鳴マスキングとは異なり、耳鳴りの基底にある神経学的な原因を治療し、耳鳴りの抑制と知覚低減を目的とする。
一般的な治療に使われている無変調音や高周波数のホワイトノイズよりも、耳鳴り緩和に効果がある。

”Serenade system”は、2011年8月にFDAの承認を得て(510(k) summary)、2011年9月に“Serenade® Tinnitus Treatment System”として、耳鼻科医に総合的なトレーニング(耳鳴りの評価法&治療法)付きで試験的に提供開始。

医療機器の"Serenade"は、耳鼻科専門家のいる医療機関で処方されるが、治療音は患者の耳鳴特性・症状に応じて、カスタマイズされる。
耳鳴緩和は一時的なもので”Serenade system”を利用している間だけ効力がある。長期的な耳鳴緩和プログラムの一部として、Serenade system”利用することも可能。

”Serenade system”の特徴
- 個々の患者の耳鳴特性に応じてカスタマイズされた音響療法
- 3種類の治療音
- データロギングで患者の利用状態を記録
- SleepAssist technology:リラックスして睡眠するための60分の自動オン・オフタイマー
- 独立した左右の音量コントロール

一つの端末のなかに複数の音響療法が組み込まれた新しいツール。
耳鼻科専門家が患者を検査して個々人に応じた治療法を決定し、治療用パラメーターを"Serenade device"にダウンロード。
カスタマイズシステムに関して、Soundcure社がトレーニングとサポートを行う。
短期的緩和、および、長期的緩和のためのアプローチがあり、 トレーニングで"standard habituation model"(患者の"habituation"(馴化)をどうやって達成するかというガイドライン付き)を提供している。

”S-Tones”の特徴
医療機器"Serenade"に収録されているのは、複数のソフトな治療音"S-Tones"。
"S-Tones"は時間的パターンをもつ、患者ごとにカスタマイズされた新しい治療音。(主に変調されたパルスレートのシグナル)
”S-Tones”のユニークな点は、音量レベルが耳鳴りと同等かそれ以上に設定されるマスキング手法と異なり、耳鳴りよりも低い音量レベルで耳鳴緩和が得られること。
音響療法プログラムの一部として、即時または長期間の耳鳴り緩和を可能にする。
元々はUniversity of California, Irvine (UCI)の研究者の研究によって開発された技術。

"S-Tones"は、聴覚皮質内に同期した健全な神経活動を生み出すように設計されている。
過度に遅く,または速くパターン化された音は効果がなく、適切なレートでパターン化された音が、ニューロンを音響刺激に対して同期発火させる。
研究者たちの複数の研究により、"S-Tones"を使うことで耳鳴抑制を促進する役割があるのではないかと示唆された。
UCIの研究者によると、"S-Tones"が耳鳴抑制をもたらすメカニズムは耳鳴マスキングのメカニズムとは異なる。マスキングは患者の注意を耳鳴から逸らすことである。耳鳴抑制は生理的プロセスであり、音(この場合はパターン化された音)が聴覚皮質の活動を調整(modulating)し、耳鳴の発生を妨げているのかもしれない。

神経活動の同期化については、ある研究論文で、“被験者は、30秒以内に耳鳴りが抑制され始め、2分後までに耳鳴りが聴こえなくなったと報告している。これは100%抑制の例である”という症例がある。


開発経緯
"S-Tones"に関する研究は、2006年に始まった。
突発性難聴と耳鳴りを発症したミュージシャンで音響エンジニアのMichael(仮名)は、様々な治療を試みた末に、最後の手段として人工内耳を移植したが、耳鳴りは消えなかった。
移植手術を担当した医師から、University of California, Irvine (UCI)のFan-Gang Zeng医師(Anatomy and Neurobiology学部の教授)を紹介されて、音響療法を開始。
Zeng医師は耳鳴治療の専門家ではなかったが、彼の医療チームは医学文献を調査し、ほとんどあらゆる音響刺激を試してみた。
しかし、従来の治療法では耳鳴りが緩和されることはなく、人工内耳に穏やかで心地良く聴こえる低周波音(40 ~ 100 Hz)をある電極上で使用したところ、劇的な緩和効果があった。
今でも、Michaelの耳鳴りは音量が非常に大きく煩わしいため、治療継続中。耳鳴り緩和のために"Serenade"を時々使っている。
Michaelは耳鳴りがさらに改善すると信じているし、もはや薬は全く必要なく、ミュージシャンとして活動している。

この技術を人工内耳で聴いた音から、誰でも聴き取ることができる音へと変換して、"S-Tones"が生まれた。
"最初の150秒間、この低周波刺激を与えても患者は刺激音と耳鳴りの療法が聴こえるだけで何も起こらなかった。180秒後、患者はこの2年間で初めて、高周波の耳鳴りが聴こえなくなった。彼に聴こえているのは、低周波刺激が生み出す穏やかで心地良い音だった。"
多くの研究者は、高周波の刺激(3000~8000 Hz)が耳鳴治療に有効であるかもしれないと理論づけていたため、これは予期しない結果だった。

Johns Hopkinの研究者の論文(2001年、および2002年のフォローアップ) で、"哺乳類の脳活動と低レート刺激"を扱った研究があった。耳鳴りに特化したものではないが、40~120 Hzの低レートパルス変調により、持続的で同期化された健全な脳神経活動が生まれるが、その範囲外の周波数では(高くても低くても)、脳は反応しない。
科学的研究という点では、数タイプの被験者でこのアプローチを検証する必要があるため、米国耳鳴協会(ATA)へ研究助成を申請し、20人の慢性耳鳴患者を対象とした研究に対して、助成金が2年間支給された。(試験結果は後掲)
現在、この療法の研究が進行中で、治療音の研究が続けられている。米国耳鳴協会(ATA)は、この研究に対して、2012年6月に$138,000の助成を決定。

SoundCure Serenade Tinnitus Treatment System.wmv (SoundCure社の提供動画)




<出典>
- Soundcure社ホームページ(専門家向け):<our solution><the science>
- "Novel Sound Therapy: SoundCure Harnesses Research on Brain Science in Fighting Tinnitus"
[Hearing Review,Issue Stories, August 2012]
- "Quieting the ringing in the ears"  [University of California Reserch Explore stories,Tuesday 26 June 2012]
- "Michael's Story"[American Tinnitus Association,June 20, 2012]


<SoundCure, Inc.の企業情報>
耳鳴治療法に革命をもたらすことをミッションとした医療機器会社。
投資会社 Allied MindsがUCIの研究を知り、技術ライセンスを受けて、SoundCure社を2009年に設立した。
Allied Minds社は、米国の大学と政府系研究機関から生まれた初期段階の科学技術を元に新しい事業(startups)を開始し、資金援助・マネジメント・企業設立を行っており、多数の子会社(subsidiaries)を保有している。
- Allied Minds社ホームページ
- Allied Mindsのsubsidiaries


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論文
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"Research Article: Temporary Suppression of Tinnitus by Modulated Sounds"
Reavis KM, Rothholtz VS, Tang O, Carroll JA, Djalilian H, Zeng FG.
Journal of the Association for Research in Otolaryngology (JARO), 2012;13(4):561-571

ATA(米国耳鳴協会)の助成うけた研究論文が、Journal of the Association for Research in Otolaryngology(JARO)より出版された。

<試験目的・方法>
- 増幅・周波数変調された音が一時的に耳鳴を抑制する、という効果的な方法を報告。
- 被験者は慢性耳鳴患者20人。17種類の外部音と主観的耳鳴りとの相互作用を調べた。
- 変調していない従来型の音響刺激(純音、ホワイトノイズ)と、中枢聴覚経路内で持続的な神経活動の同期を生み出すことで知られている動的に変調された複数の音響刺激を使用。
- 外部音は全被験者に対して、ランダムに提示。音量レベルは耳鳴りの音よりも低く設定。
- 合計340試行。試験音を聴く前、聴いている最中、聴いた後の3ポイントで、被験者が耳鳴りの症状を主観的に評価する。

<試験結果>
- 少なくとも被験者の90%で、17刺激のうちのどれか一つで、音量的な耳鳴抑制効果があった。
- 比較的ノーマルなloudness growthを持つ被験者では、音量と周波数を変調させた刺激音(耳鳴りピッチに近いキャリア周波数を持っている)を使った場合、大幅な耳鳴抑制効果があった。
- 耳鳴りに関係する神経活動の過剰反応を低減させるのに、変調音は従来型マスキング手法(無変調な純音とホワイトノイズ使用)よりもさらに有効でありうるかもしれない。
- 「変調音がもたらす長期的な耳鳴緩和効果と根底にあるメカニズム」が調査されるべき。


"SoundCure Announces Publication of Clinical Tinnitus Study Results" [Press Release May 15, 2012]
- "S-Tones"による耳鳴緩和効果は、ホワイトノイズ使用の場合の4倍となりうる。
- 低減効果は、70%以上のケースが被験者の35%、30~50%のケースが被験者の35%、30%未満の場合は被験者の30%。副作用は報告されていない。


"Patterned sound therapy for the treatment of tinnitus"
By Kelly M. Reavis, Janice E. Chang, and Fan-Gang Zeng
August 2011,soundcure.com


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進捗状況
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"American Tinnitus Association Launches June 16 Walkathon, Recognizes Gains in Sound Therapy with Novel Approach from SoundCure" [Press Release June 11, 2012]
治療法のさらなる研究・開発に対して、American Tinnitus Association (ATA)が$138,000の助成決定。

"Veterans Affairs Department Awards Contract to Provide SoundCure Serenade to Treat Tinnitus" [Press Release,August 10, 2012]
アメリカ合衆国退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs:VA)は、耳鳴治療にSoundCure社の医療機器"Serenade"を導入する契約締結を決定。
同省は、170以上のメディカルセンターと350のローカルクリニック、さらに海外にも医療施設を擁している。
記録に耳鳴症が記載されている退役軍人は、2011年時点で80万人。
VAの聴覚専門家により、検査・プログラミング後、患者向けにカスタマイズされる。


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備考
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記事中の日本語訳は、英文原文を要約したものです。
正確な内容については、英文原文でご確認ください。


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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

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