【新譜情報】 マリア・ユージナ名演集 (The Russian Archives)

『マリア・ユージナ・ロシアン・アーカイヴス』(8枚組)のうち、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト録音の一部を抜粋した『マリア・ユージナ名演集』(3枚組)がBrilliant Classicsからリリース予定。
抜粋盤はメジャーな作品が多いので、ユージナを初めて聴くには良いかも。
ただし、演奏は極めて個性的。好みに合うかというより、このピアニズムを受け入れられるかがはっきり分かれるので、まず試聴ファイルやYoutubeの音源で、ユージナの演奏を聞いてみた方が無難。
 ユージナのプロフィール:”マリア・ユーディナ 〜ソ連の女傑ピアニスト〜”[花の絵],”ユーディナ,マリア”[総合資料室/一世による歴史的ピアニスト紹介]


Brilliant Classicsのウェブサイトにある『マリア・ユージナ名演集』の紹介文が面白い。(以下要約)

マリア・ユージナは20世紀ロシアの偉大なピアニストの一人。妥協しない、時には荒々しい(ruthless)演奏が、ソヴィエト政権に苦しめられたこの謎めいた(enigmatic)ピアニストを特徴づけれている。

リヒテルがかつてユージナにこう訊ねた。
"Why do you play this Bach prelude so loud?"(バッハのプレリュードをそんなに声高に弾くのはどうして?)
ユージナが答えた言葉は、
"Because there is a war on!" (闘っているからよ!)


たしかにバッハの平均律の演奏は、音量も大きく力強いタッチだとは思うけれど、それ以上に、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番を聴いていると、第1楽章だけでなく第2楽章でさえも”there is a war on”なのだと思えてくる。
こんな風にこの最後のソナタを弾くピアニストは、ユージナしかいないに違いない。


『マリア・ユージナ名演集~バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト』(3枚組)
マリア・ユーディナ(pf)名演奏集マリア・ユーディナ(pf)名演奏集
(2012/10/10)
マリア・ユーディナ(pf)

商品詳細を見る
 9/13現在、日本・米国amazon、HMVでは予約のみ。英国amazonでは販売中。

【収録曲】
 J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガBWV.903
 J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第19番~第24番
 J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第3番BWV.1016(マリア・コゾルポヴァ:ヴァイオリン)
 J.S.バッハ=リスト編曲:プレリュードとフーガBWV.543
 リスト:バッハのカンタータ『泣き、歎き、憂い、怯え』の主題による変奏曲
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番
 ブラームス:ラプソディOp.79-2
 ブラームス:間奏曲Op.116-2
 ブラームス:3つの間奏曲Op.117
 ブラームス:6つの小品よりOp.118-1、Op.118-4、Op.118-6
 シューベルト:即興曲D.899-2、D.899-4、D.935-2


『マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス』(8枚組)
マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス(8枚組)マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス(8枚組)
(2009/02/10)
バッハ、 他

商品詳細を見る


amazon/MP3ダウンロードサイトにあるユージナの音源

                     

リストが編曲したバッハの《前奏曲とフーガBVW543》は、バッハの編曲ものでは特に好きな曲。
ユージナの1953年のライブ録音は、力強く切れ味の良いタッチと線のしっかりした骨太の演奏。決然とした雰囲気が漂い、特に厳粛で迫力のある低音の響きが圧倒的。
前奏曲は、力強くも叙情美しく、明るい輝きが差し込んでいる。
飾り気なく淡々と始まるフーガはほのかな哀感が漂い、重たく厳めしい低音が地鳴りのように鳴り響く終盤になると、息もつかせず荘重でドラマティック。
一心不乱に神にささげる祈りのように、ひたひたと核心に迫っていく。ストイックで求道的な雰囲気が漂い、このバッハには惹き込まれてしまう。
ユージナが最も愛したのはバッハ。敬虔な信仰の人でもあったユージナにとって、バッハのコラールは神へ通ずる道となる音楽だったのでしょう。

Maria Yudina plays Bach-Liszt Organ Prelude & Fugue, BWV 543
(Live recording, Moscow 1953)

この曲の録音はいくつかあり、BrilliantのBOXセットに収録されているのは1952年のスタジオ録音。
この1953年(54年かも)のライブ録音と比べると、音質がはるかに良く、ユージナの鮮やかな色彩感のある音色とペダリングによる多彩なソノリティの美しさが良くわかる。それに加えて、タッチも丁寧で表現にも繊細さがあり、力強くも端正なバッハ。(ライブ録音よりは、音の切れ味や凄みがやや弱くなっている気がしないでもないけれど)
多少荒々しいタッチで音質が悪くでも、集中力と求心力、教会建築の如き荘重さはライブ録音の方がはるかに強い。私はこの骨太な演奏の方により強く惹きつけられてしまう。
(このライブ録音の音源はおそらく、THE YUDINA LEGACY VOLUME XX:Solo recital at the Column Hall of Trade Unions,Moscow, October 20, 1954)

ベートーヴェンの最後のソナタ第32番は、第1楽章が圧倒的な迫力。
ユージナ独特の峻厳・激烈な演奏がこの楽章には相応しい。
第2楽章は主題と第5変奏への移行部、コーダなど緩徐部分は静寂な叙情感があるけれど、それ以外のところは一気に駆け抜けていく。ひたすら目的地へと、わき目も振らず突き進んでいくように。
演奏時間は14分ほど。速さという点ではバックハウス(13~14分の演奏が多い)と良い勝負。
第1変奏と特に第4変奏のテンポ・ディナーミクとシャープなタッチは、とてもありえない気がする..。
最後まで聴き終えると、しばし呆然...。
それでも3回も聴けば耳も慣れるし、なぜか違和感を感じなくなるところが不思議。
何より、自らが思うところのベートーヴェンを弾くのだという妥協のなさと潔さに、好みや解釈云々ということを超えて、こういうベートーヴェンもあるのだと納得するしかない。

Maria Yudina plays Beethoven Sonata No. 32, Op. 111 (1/3)(第1楽章)


第2楽章の音源:(2/3)(3/3)[Youtube]


ユージナは、いつもこんなに激しいベートーヴェンを弾いていたわけでもない。
《ピアノ協奏曲第4番》の第1楽章は、硬質で輪郭明瞭な音と歯切れ良いタッチ、フォルテはユージナにしては穏やか。かっちりした構成感とさっぱりした叙情感は調和がとれ、きりりとして爽やか。
カデンツァは聴いたことがないバージョン。形式的にかなり自由で叙情濃いロマンティックなカデンツァは、ユージナの自作かも?

Maria Yudina plays Beethoven Concerto No. 4 in G major (1/4)
(Conductor - Sanderling)




<参考情報>
ユージナ(ユーディナとも表記される)の録音は複数のレーベルから出ているが、曲名が一緒でも、音源が一緒かどうかはわからない。
シリーズものでは、上記のBrilliant盤以外に、Vista Vera盤『Legacy of Maria Yudina』、Entertainment Group International(MP3ダウンード/音質はわりと良さそう)、Venezia盤(大半が廃盤)など。

”Maria Yudina の CD” [Clear Sky Way]
この記事の情報では、「ロシアのユージナのサイト」というホームページから、ユージナのCD音源がダウンロードできる。(International Maria Yudina Foundationという団体が作った音源集らしい)
- ダウンロード音源リスト:ボリュームタイトルをクリックするとダウンロードサイトと音源ファイルが表示される。(全てロシア語)
”Maria Yudina その2”[Clear Sky Way]
ユージナの録音シリーズ(3種類)の簡単な紹介あり。(Brilliant盤については言及なし)


<関連する過去記事>
ソロモン・ヴォルコフ著 『ショスタコーヴィチの証言』
スターリンのためにLP1枚を急遽勢作して届けるために、モーツァルトのピアノ協奏曲を徹夜で録音した時のエピソードが面白い。
時間に間に合わなければ何が起こるかわからないという重圧下で、指揮者が次々と精神的に参って交代するなかで、ユージナは平然としてピアノを弾いていた。
この度胸の良さと彼女自身が作り出す音楽のおかげで、反体制的な言動にも関わらず、収容所送りになることもなく、ピアニストとして無事にスターリン時代を生き延びたのかもしれない。


<ユージナに関する記事>
 ”Great Pianists of The 20th Century Vol.99 マリア・ユージナ” [フランツ・リストに花束を]
 ”リヒテルは語る ~ユージナのバッハ変奏曲~”[フランツ・リストに花束を]

 ”Franz Schubert :Piano Sonata №21 B-flat majorD.960”(モンサンジョン著「リヒテル」に載っている批評) [Sviatoslav Richter(1915-1997)] 

 <書評> カレートニコフ著『モスクワの前衛音楽家』[宮澤淳一]


タグ:ユージナ バッハ ベートーヴェン フランツ・リスト

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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