音楽家を描いた2つの映画 『カルテット』,『A Late Quartet』

2012.11.02 18:00| ・ 音楽(Books&Movies)
音楽家、それも高齢になった音楽家を廻る2つの映画がアメリカとイギリスで製作されている。日本ではいずれも未公開。

一つは、音楽専用老人ホームの生活をコミカルに描いた『カルテット』。もうすっかりお年を召したダスティン・ホフマンの初監督作品というのも話題の一つ。

もう一つは、パーキンソン病を患ったチェロ奏者と彼がメンバーになっている弦楽四重奏団の物語『レイト・カルテット(A Late Quartet)』。

いずれも、チェロを演奏されるyoshiさん(吉岡さん)のブログ<善福寺手帳>で紹介されていた映画。
映画の内容については、ブログ記事をご覧ください。予告編の動画が載ってます。
”もうひとつ映画「カルテット」”(善福寺手帳、2012.10/25)
”レイト・カルテット(A Late Quartet)”(善福寺手帳、2012.9/12)


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引退した音楽家のための「憩いの家」
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映画『カルテット』は、引退した音楽家のための老人ホームで暮らすオペラ歌手4人が、作曲家ヴェルディの誕生日を祝うために、「リゴレット」の四重唱を歌おうとするお話。
この”音楽家のための老人ホーム”に興味があったので、少し調べてみた。

音楽家を対象とした老人ホームというのは、世界でもイタリアに一つしかないらしい。
19世紀イタリアのオペラ作曲家ジュゼッペ・ヴェルディがミラノに建設した『音楽家のための憩いの家(Casa di Riposo per Musicisti)』。
今はジュゼッペ・ヴェルディ財団が運営している。
映画では、”オペラ歌手がヴェルディを歌う”という話なので、この”憩いの家”がモデルになっているに違いない。(イギリスで撮影したので、建物は別物だろうけど)


<参考情報>
ダスティン・ホフマン、監督デビュー!『カルテット』撮影がイギリスで開始[cinematoday]

ジュゼッペ・ヴェルディ財団 音楽家のための憩いの家
施設内のホールで若手音楽家のコンサートが開催されたり、最近は音楽学校の学生も受け入れ、入居者の演奏家たちが学生に教えているという。
生活の場であると共に、現役を引退しても若い演奏家に教える場でもあるというのは、普通の老人ホームとは違う、音楽家のための施設ならではのユニークなところ。


 『人生の午後に生きがいを奏でる家―終の棲み家は、どこで誰と暮らすのか 音楽家ヴェルディが遺した「憩いの家」に学ぶ』
オペラ評論家の加藤浩子さんの著書。(これは未読)
加藤さんのホームページ<憩いの家>に、ヴェルディの”憩いの家”の簡単な紹介文も載っている。
ヴェルディ没後100年の2001年には、NHKが「憩いの家」のドキュメンタリー番組を放送したという。

人生の午後に生きがいを奏でる家―終の棲み家は、どこで誰と暮らすのか 音楽家ヴェルディが遺した「憩いの家」に学ぶ人生の午後に生きがいを奏でる家―終の棲み家は、どこで誰と暮らすのか 音楽家ヴェルディが遺した「憩いの家」に学ぶ
(2003/09)
加藤 浩子

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音楽家の加齢による機能障害
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映画『レイト・カルテット』のストーリーは、25年間活動してきた国際的な弦楽四重奏団のメンバーのチェロ奏者が初期のパーキンソン病だと診断され、演奏活動から引退することに。その後のカルテットの運営を廻って、メンバーの間にさざ波が立っていく。
引退するチェリストのラストコンサートのプログラムは、ベートーヴェンの作品131《弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調》。

パーキンソン病のチェロ奏者役は、クリストファー・ウォーケン。
ウォーケンといえば、『ディア・ハンター』が有名。私は、スティーブン・キング原作で、デヴィッド・クローネンバーグが監督した『デッド・ゾーン』の主人公役が一番好きだった。

パーキンソン病が原因で引退した音楽家といえば、N響の名誉指揮者でもあったオトマール・スウィトナー、カラヤンとの共演で有名なアレクシス・ワイセンベルク、それにピアニストのヴィルヘルム・ケンプが思い浮かぶ。

ドイツで製作されたドキュメンタリー映画「父の音楽 指揮者スイトナーの人生」(原題:Nach der Musik)にスウィトナーが出演した時、パーキンソン病で指揮活動から引退したと語っていたそうです。

ワイセンベルクは30年間もパーキンソン病と闘病していたと、彼の訃報を知らせる年初の記事に書かれていた。
EMIの「ワイセンベルク録音集BOX」では、一番新しい録音が1986年のフランク《前奏曲、フーガと変奏 Op.18》。
1990年代には新譜を見かけなくなっていた。90年代からずっと闘病生活を送っていたためで、事実上の引退と同じことだった。

パーキンソン病に限らず、加齢によって視覚・聴覚機能の衰え深刻な視力・聴力障害にかかり、演奏活動に影響したり、引退することもある。
ピアニストのルービンシュタインは、「飛蚊症」が原因で視力低下が著しく、1976年に引退。
ピアニストのホルショフスキも、ルービンシュタインと同様の視力障害を患い、視野の中心部が見えなくなっていた。彼の場合は、”鍵盤などよく見えなくてもピアノは弾けるよ”と言って、演奏活動を続けていた。
ホルショフスキのライブ録音を聴くと、ミスタッチはあるけれど、大きく音を外すことはなかったし、99歳になっても、リサイタルで弾いていた。ここまでくれば、もう神業みたいなもの。

リヒテルは、聴覚の障害のため、60歳代あたりからリサイタルでも楽譜を置くようになった。(音が以前よりも高く聴こえるため、運指に影響するらしい)
ラローチャも同じ障害にかかっていたけれど、80歳で引退するまで暗譜で弾き続けた。
青柳いづみこ「リヒテルの耳」(「文学界」2004年6月号)

脳神経科医オリヴァー・サックスの著書『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)-脳神経科医と音楽に憑かれた人々』によれば、神経系機能が衰えていくなかでも、音楽に関わる神経系は強靭だという。
これは音楽家に限ったことではないので、音楽を利用した認知症の治療(「音楽療法」)も行われている。
「認知症と音楽療法」という章では、認知症が進行していっても、音楽への反応は失われない例がいくつか紹介されている。

特に強く印象に残っているのは、88歳のある著名なピアニストの話。
(認知症のために)言語能力を失っていたけれど、毎日ピアノを弾いていた。弟子と連弾するために楽譜を読み合わせていると、反復記号を見ずとも、指で前や後ろを指し示していた。(これは、暗譜した記憶が消えていないということ)
それに、1950年代に録音した時の演奏よりも、最近一緒に録音した演奏や着想の方が弟子は好きだという。
弟子の言葉によれば、「音楽で病気を超越している」。

<過去記事>
”音楽家のジストニー”&”認知症と音楽療法”~オリヴァー・サックス著『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)- 脳神経科医と音楽に憑かれた人々』より

コメント

No title

NHKのそのドキュメンタリー番組、観た記憶があります。80歳をこえたおばあさんが、ベートーヴェンの月光ソナタの終楽章を(たしか暗譜で)弾いていたように思います。
指が覚えているんですね。
私は、楽器はもともと無理だから、詩をいくつか暗唱する老人になりたいです。

暗譜・暗唱は脳に良さそうです

ひでくんママ様、こんばんは。

この老人ホームは、海外でも、随分昔にドキュメンタリーで紹介されていたようです。
プロのピアニストなら、自分の得意なレパートリーは何歳になっても暗譜で弾けるでしょう。
練習も含めて、少なくとも数百回、多ければ千回以上は弾いている曲もあるのではないでしょうか。

ずいぶん大人になってから、楽器演奏を始める人が増えているようですよ。
「大人のための○○レッスン」とか、大人向けの楽器教室の広告をよく見かけます。
音楽には脳細胞を刺激する効果があるようですが、楽器を弾かずとも、歌ったり、詩を暗唱するのも脳には良さそうですね。

デッドゾーン

こんばんは。

年初に、どきどきしながらコメントを書かせていただいたブログ「うさぎの〜」です。
「デッド・ゾーン」に惹かれて、また失礼します。
この映画を観たくて何度もレンタル屋さんに足を運びました。ネットでの店舗在庫表示はあるというのに、お店に行ったら無いのです。半分、探すのが楽しみというのもあります。でも、これはDVDを買うしかなさそうですね。
また、そのドキュメンタリーのことですが、わたしも見ました。毎日、きちんと服装を整えてから散歩する紳士(楽器は失念)や、エリーゼのためにの最初の小節を弾き続ける女性ピアニスト(後遺症が残っていて〜)が記憶に残っています。
私は目が悪いので楽譜があまり見えませんが、呆け防止で大人のピアノを楽しめて、有り難く思います。脳と体を使うので楽器演奏はいいですね。

最後に、いつも音楽や食べ物などのご紹介がシックで素敵、ありがとうございます。寒くなりますので、お体、ご自愛ください。

デッドゾーンのDVD

sankakumado様、こんばんは。
コメントをどうもありがとうございます。

映画版「デッド・ゾーン」のDVDなら、TSUTAYAかDMMの宅配レンタルで借りれるようです。DMMなら大丈夫そうです。
1ヶ月のお試し無料レンタルができますので、他のDVDやCDとあわせてレンタルされるとお得です。(以前に利用したことがあります。今は休会してますが)
それに、「デッド・ゾーン」のTVドラマシリーズのDVDも見つけましたが、これは知りませんでした。amazonのレビューでも評判良いので、ちょっと見たい気がしてきました。

私はTVは見ないので、このドキュメンタリー番組は見たことがありませんが、何歳になっても音楽(と音楽仲間)と共に暮らせる生活って、良いですね。
楽器を弾くときは手・足・指の筋肉も使うので、それが脳を刺激することにもなって、脳細胞の活性化に役立ちそうです。
最近視力がかなり悪くなってきているので(年のせいでしょう)、暗譜すれば楽譜は見なくてよくなりますし、記憶力維持の訓練にもなって良さそうです。

もう街中ではクリスマスソングが流れてますね。
sankakumadoさんのブログでご紹介されていたレーガーの「Weihnachtstraum」、昨年購入したクリスマスアルバムのCDに入っていて、聴いたことがあります。
とても素敵な曲ですね!クリスマスにぴったりです。
あの巨漢レーガーがこんなに清楚で可愛らしい曲を書いているなんて、イメージとのギャップが面白いです。
この曲を聴きながら、素敵なクリスマスを過ごしたいですね。
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◆プロフィール◆

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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