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山田 悟 『糖質制限食のススメ その医学的根拠と指針』 
山田悟医師の著作『糖質制限食のススメ その医学的根拠と指針』は、”第一線の糖尿病専門医が書いた初めての糖質制限本”。
「糖質制限食」に関する書籍では、糖尿病専門医ではなく内科医で自身もⅡ型糖尿病を患う江部医師の著作が多数発刊されている。
糖尿病治療食としての「糖質制限食」に対しては、専門学会である糖尿病学会では公式には認められていない。
ただし、昨年5月に開催された第55回日本糖尿病学会年次学術集会では「緩やかな糖質制限療法(糖質130g/日程度、乃至は20~40g/食)をオプションの一つに追加する」がコンセンサスとなったようだ。(出典:「5/18 日本糖尿病学会が緩やかな糖質制限療法を認めた日」[目標・PinPinKorori。])
その後、7月27日付けの読売新聞では、同学会の門脇孝理事長が「炭水化物を総摂取カロリーの40%未満に抑える極端な糖質制限は、脂質やたんぱく質の過剰摂取につながることが多い。短期的にはケトン血症や脱水、長期的には腎症、心筋梗塞や脳卒中、発がんなどの危険性を高める恐れがある」と指摘。「現在一部で広まっている糖質制限は、糖尿病や合併症の重症度によっては生命の危険さえあり、勧められない」と批判しているので、学会の公式見解は結局どうなのかがよくわからない。

山田医師の「糖質制限食」は、江部医師とは糖質制限量が異なる。
糖尿病治療食として江部医師が推奨するのは「ス-パー糖質制限食」。1食あたり10g~20g、1日あたり30g~60g。それが無理な場合は、昼食のみ主食を摂る「スタンダード糖質制限食」。糖質量は1日70g~100g。
山田医師の場合は、米国のバーンスタイン医師の「低炭水化物食」の基準である1日130g以下がベース。1食あたり20g~40g、1日120g以下を糖質制限食の基準としている。

糖質制限食の医学的な根拠は、江部医師の説とほとんど変わらないように思う。
決定的に違うのは、糖質量が20g~40gと「ス-パー糖質制限食」倍量を摂取できるため、ご飯・パンなどの主食がある程度食べられること。
スーパーレベルの20g以下にしないのは、ケトアシドーシスのリスクがあるため。症例数は極めて少ないとしても、発症するケースの条件がまだ明確でない。

特に参考になったのは、「第4章バーンスタインの示す糖質制限食の効果」、「第7章糖質制限食批判への反論」。また、現在のカロリー制限食がなぜ長期的に継続するのが困難なのか、その問題点もよくわかる。
第7章では、糖質制限食に対する批判の論拠となっている海外の論文について、糖質制限食の定義・臨床試験の実施方法・分析&解釈上の問題を指摘し、糖質制限食に対する医学的妥当性のある批判になっていないと反論している
さらに、現在糖尿病学会が推奨しているカロリー制限食の炭水化物摂取比率(およびたんぱく質・脂肪の摂取比率)は、専門家の経験に基づいたコンセンサスでしかなく、科学的根拠がないこと、近年の米国糖尿病学会では「低炭水化物食」に対する評価が変化し治療食として公式に認めていることなど、米国では「糖質制限食」が糖尿病治療食としてのスタンダートの一つとなりつつあることを示している。

“糖質制限食 vs. カロリー制限食” 山田悟氏に聞く[2012/8/24,中島肇のブログ]を読むと、山田医師の基本的な考え方がわかる。

糖質制限食のススメ糖質制限食のススメ
(2012/09/01)
山田 悟

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<目次>
第1章 ゆるい糖質制限食は続けられる食事療法
第2章 糖尿病と治療食
第3章 カロリー制限食との棲み分け
第4章 バーンスタインの示す糖質制限食の効果
第5章 ゆるい糖質制限食のやり方
第6章 様々な糖質制限食と定義づけ
第7章 糖質制限食批判への反論
第8章 社会へのアピール

                            

カロリー制限食と糖質制限食の違い
カロリー制限食が続かない理由
- この食事を継続できない患者が非常に多い。計算が面倒、少ない食事で我慢、美味しい料理を我慢。
- 肥満解消のために摂取カロリーを抑える。空腹感が辛い。長期間にわたって実行できない。
- カロリー計算や栄養バランスの調整が面倒
- カロリーの上限、糖質・脂質・蛋白質の割合も決まっている。(糖質50-60%、脂質25%以内、たんぱく質15-25%)
- 食べられる量が少ない。
- 美味しいものを食べられる可能性が低い。脂質を控える設定なので、肉や魚など脂質の多い食品で食べられるものが少なくなる。

そこで糖質制限食に着目。食事に伴う血糖値やインスリンの増加を避けることが直接的な狙い。
- 血糖値が上がるのは糖質を食べたときだけ。脂質やたんぱく質を食事で摂っても、血糖値は上がらない。血糖値が下がればインスリンも少なくなり、肥満解消の効果もある。
- 計算の面倒さがない。糖質の多い一部の食品だけ注意していれば良く、大まかな目安さえ守れば計算は不要。
糖質を減らすことが目的なので、脂質やたんぱく質から取るカロリーの量は気にしなくて良い(よほど大食漢でなういかぎり、お腹いっぱい食べても治療効果がある)
- 脂質やたんぱく質に関して、食べられる種類の制限が少ないので、美味しく食べられる食品の種類が多い。(肉、魚、炒め物、揚げ物などの油料理もOK)
- カロリー制限食の弱点がカバーされて、比較的続けやすい。

糖尿病患者の家庭では、カロリー制限食を実践していると、かならず患者の食事を見張る人-「糖尿病警察」が出てくる。糖質制限食では、そういう人は必要なくなる。


糖質制限食の定義
糖質制限食のガイドラインが日本には存在しないし、明確な定義もない。
糖質を制限する治療食はアメリカ糖尿病学会のガイドラインでも公式に求められている。
日本ではカロリー制限食しか公式には認められていない。

糖質制限食の有効性を確認するには、どの程度まで糖質を減らせば糖質制限食なのかという定義がなければ、効果を確かめられない。
糖質制限食の効果を過信するケースもある。(Ⅰ型糖尿病で血糖値が下がったためインスリン注射を中止してしまい急速に病状が悪化した)
「糖質制限食をちゃんと評価するためにも、安全で有効な運用をするためにも、明確な定義が必要な状況になってきている」

現時点で最も有効な基本を与えてくれるのが、バーンスタインの定義「1日糖質量130g以内」

バーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイドバーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイド
(2009/12)
リチャード K.バーンスタイン

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Ⅰ型糖尿病患者だったバーンスタイン医師は、糖尿病の治療法として、食事の糖質を控えれば血糖のコントロールが良好になることを発見。その頃、米国でもカロリー制限が公式に認められ常識とされていたため、主治医は全く相手にしなかった。そこで、バーンスタイン医師は、仕事を辞めて医学部へ進学。医師となって糖質制限食による糖尿病治療を実践し、糖質制限食の有効性を証明していった。

バーンスタイン医師と同僚たちは、2008年に糖質制限食に関する考えをまとめた文章を発表し、「糖質制限食は1日の炭水化物量を130g以下とする」と定義した。
カロリー比率でいうと、1日の摂取カロリーが2000kcalの場合、炭水化物が26%、520kcal以下となる。
日本では、「炭水化物」よりも「糖質」が一般的。炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質。英語には「糖質」に当たる言葉がないため、「ロー・カーボ・ダイエット」という。


ゆるい糖質制限食
バーンスタインの基準糖質量1日130g以内を元に、「1食の糖質量を40g以内」をゆるい糖質制限食の基準と考える。
これはかなり緩い基準。調味料に関してはあまり気にしなくてもよくなり、主食であってもある程度食べられる。
ゆるい糖質制限食は主食を食べられる糖質制限。食事のスタイルを基本的に変えないで、家族や他の人と同じ食事を楽しめる。ゆるい糖質制限食は美味しいから続く。
摂取下限は「1食の糖質量を20g以上」とする。
糖質量を厳しく減らすと、ケトン体が増えて重症化し、稀に「ケトンアシドーシス」が起こることがあり、その頻度や患者特性が不明。「1食の糖質量が20g以上」なら、ケトン体の増加を心配する必要がない。
糖質制限食のメリットを生かすためには、あくまでも制限すべき糖質量の範囲だけを基準とすべき。総カロリーに対する糖質比率で表現すると、結局はカロリー計算が必要になる。


摂取カロリー基準の算定方法
算定方法には2通りあるが、その結果はあまりに隔たりが大きい。

厚生労働省「日本人の食事摂取量基準」:基礎代謝量から算定。男性2200~2700kacl、女性1700~2000kacl 1700~2700kcal。

糖尿病学会:標準体重から算定。1400~1680kcal(この算定方法はかなり特異)
実際の基礎代謝量測定から求めた値(実測値)よりも、標準体重を基に設定したカロリー(設定値)が大きく下回っている。
太ってる人ほどその差が大きい。低すぎるカロリー設定をしているために、食事療法を続けられない人が多い。

(参考)
江部医師も日本糖尿病学会のエネルギー量算定方法では、適正エネルギー量が少なすぎるという趣旨の記事を書いている。
「糖尿人の適正摂取エネルギー量はどのくらい?、2012年12月」


糖尿病の食事療法のガイドライン
糖尿病の食事療法について、糖尿病学会は2つのガイドラインを出している。
一般医師向け:糖質55~60%
糖尿病専門医向け:糖質50~60%。脂質比率は25%未満。
ガイドラインが異なっている理由は、カロリー制限食の科学的根拠のレベルが低い(専門家の合意のレベル)のため。

アメリカ心臓病学会の中性脂肪に関する科学的声明(2011年)には、脂質を中等量摂取したほうが、脂質を少なく摂取するよりも、Ⅱ型糖尿病患者の脂質管理に適していることが明記されている。

カロリー制限食の正しさに科学的根拠はないとはいえ、糖尿病の治療食、健康増進、アンチエイジングのための治療食としては有効。カロリー制限食の臨床的な有効性は経験的にわかっているので(血糖値は改善し、体重も減少する)、実際の治療の現場では、カロリー制限食から指導し、継続できる人はそのままにして、続けられなかった人には、糖質制限食を勧めるのが良い。


バーンスタインの示す糖質制限食の効果
1.栄養療法の主たる目的である血糖コントロールを改善し、インスリンの変動を抑制する。
2.低脂肪・カロリー制限食に比べ、少なくとも同等には減量効果がある。
根拠:ダイレクト試験(2008年,jmed,359,229)、低脂肪食・地中海食・糖質制限食の比較(jama,2007,297,979,ガードナー)
3.炭水化物を脂質に置換することは、一般に動脈硬化症に対して保護的である。(HDLコレステロールや中性脂肪の状況がよくなる)
4.メタボリック・シンドロームの構成要素を改善する。
5.糖質制限食の効果に減量は不可欠ではない。(体重減少が生じていなくても食後の血糖上昇は抑制される)


日本で根強いのは、糖質制限食は結果として脂質の摂取が増え、そのことで糖尿病や肥満が増えるという主張。
最近10年間では、脂質の摂取量は減っているのに、糖尿病と予備軍は増加している。アメリカでも同じ現象。

ゆるい糖質制限食の場合、食べ方は2パターン。
①ご飯なら半膳、パンなら半切れそ主食として、イモなどを抜いたおかずを多めに食べる。
②主食を抜いて、おかずをたくさん食べる。


糖質制限食に対する批判と反論
糖質制限食の批判の根拠となる論文には問題が多い。
●バーンスタイン医師の基準と比較して、糖質量がはるかに多いため、糖質制限食とはもはや言えない食事を対象にしている。
●元々糖質制限食に不利な条件設定や結果の解釈になっており、科学的に不平等
●非科学的な結論づけ

●高糖質を摂取しなければならない必要性には根拠がない
アメリカの食事摂取基準では、「炭水化物の必要最小量はゼロ」。
日本の食事基準でも、最低必要量は約100g/日と推定、と記載されているが、ただし書きがあり「これは真に必要な最低量を意味するものではない。肝臓は必要に応じて、筋肉から放出された乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールを利用して糖新生を行い、血中にぶどう糖を供給するからである」。
つまり、最低必要量は100g/日以下ということ。

食事で糖質を摂らないと脳が働かないというのは完全に誤り。
食事で糖質を摂らなくても、血糖値が0になることはない。
人間には糖新生という機能があり、たんぱく質などから人体が血糖を作りだすことができる。
食事に糖質が必要というのは、これまでの食習慣からくる思い込みにすぎない。

●極端な糖質制限食でケトアシドーシスがまれに発生するからといって、それ以外のゆるい糖質制限食まで問題視するのはおかしい。(極端なカロリー制限食があっても、それよりも緩いカロリー制限食まで問題視されてはいない)

●理想的とされている3大栄養素のバランスには根拠がない
食事コンサルテーション国際グループ、アメリカの医学アカデミー、厚生労働省とも、糖質摂取量が全体の50%以上でなければならないなどとは主張していない。
ゼロで良い、100g以下(1日2000kcal摂取しているなら20%に相当)と言っている。

一般に糖質は50~60%が良いと考えられている。
これは、1日に必要なエネルギーから、たんぱく質あるいは脂肪で最少限摂らねばならない量にプラスアルファしたエネルギーを差し引くと、糖質でとらざるを得ないエネルギー量が求まるという考え方をした場合、糖質が50~60%になると書かれている。
元来のエネルギー摂取量が糖尿病治療のために低く設定された場合、同じ考え方をして算出した糖質が50~60%になるわけがない。糖質の比率は低くなるはず。

アメリカ医学アカデミーはたんぱく質、脂肪のいずれも最大耐用量(これ以上摂取してはいけないという量)は設定できないと明記している。
そもそも、たんぱく質や脂肪を最小限に抑制しなければならない理由は全くない。現在の理想的とされている三大栄養比率の概念には根拠がない。

アメリカ糖尿病学会の見解では、血糖コントロールに関して糖質制限食の有効性を事実上認めており、一方カロリー制限食は生涯の治療法として実践的とは扱っていない。
ガイドラインでは、カロリー制限について記載がない。血糖コントロールに関して、炭水化物に注目することは重要だ、と書いている。炭水化物量を管理するのもいいし、炭水化物を他の栄養に交換するのもいい。
糖質制限食は体重減少について、少なくとも2年間は有効であり、明確な科学的な根拠がある...という認識で正式に認めている。


糖質制限食を適応してはいけないケース
安全性が確認されていないケースに糖質制限を用いない。
1.薬剤使用:SU剤やインスリン注射を行っていると、低血糖を起こす可能性がある。
2.たんぱく質の割合が高くなるので、腎症のある人は実行しない。
3.Ⅰ型糖尿病の人は慎重に。インスリン注射を中止してはいけない。
4.子供や妊婦の場合も慎重に。長期にわたって実行した場合の子供の成長に問題がないかどうかは、安全性が確認されていない。妊婦では、少数例では安全に、血糖コントロールの改善に有効であった報告がある。


<参考情報>
注目される糖質制限食 食事療法の新たな潮流か[2013/3/11、糖尿病ネットワーク]
「インスリンフォーラム 2013」における山田悟医師の講演要旨。
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Author:Yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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