菊池寛作品集

菊池寛の文章は簡潔明瞭、端的に言葉を書き連ねて描写していくので、美麗で凝った文章を書く芥川龍之介とは正反対。
句点が非常に多いため文節が短く、無駄ないというか直截的にどんどん描写していくので、いくぶんジャーナリスティックな感じもするし、文章を味わうというところはない。
まさに書かれている内容そのものを読むというタイプ。
でも、文章は歯切れ良いテンポでリズム感と勢いがあり、語り口にもリアリティがあり、何より話自体が面白いので、どんどん読み進んでしまう。

菊池寛の作品集で今簡単に入手できるのは、新潮文庫、岩波文庫、ちくま文庫版。
岩波文庫版の『無名作家の日記 他九篇』以外は、代表的な短編集を収録し、現代物は少なく、歴史物が多い。
収録作品がそれぞれ重なっているものが多いので、収録数が最も多い『菊池寛 (ちくま日本文学 27)』(ちくま文庫版)と『半自叙伝・無名作家の日記 他四篇』(岩波文庫版)を最初に購入。
これがとても気に入ったので、他の文庫版も買ってしまった。

オンライン図書館「青空文庫」でも、多くの菊池作品が登録されている。
文庫に未収録の作品や内容を早く知りたい場合は、「青空文庫」で読めるものもある。
作家別作品リスト:菊池 寛[青空文庫]


ちくま日本文学 27 菊池寛(ちくま文庫)
菊池寛 (ちくま日本文学 27)菊池寛 (ちくま日本文学 27)
(2008/11/10)
菊池 寛

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<収録作品>
勝負事、三浦右衛門の最後、忠直卿行状記、藤十郎の恋、入れ札、島原心中、恩讐の彼方に、仇討禁止令、弁財天の使、好色成道、大力物語、女強盗、屋上の狂人、父帰る、話の屑篭、私の日常道徳。解説は井上ひさし。

新潮・岩波文庫版では未収録の「勝負事」「父帰る」「島原心中」が入っているのは良いところ。
逆に、「蘭学事始」と「大島が出来る話」も入っていたらなお良かったけど。

主人公は、ある一つのことに捉われて、良くも悪くも、それに人生を左右されるパターンが多い。
「勝負事」は賭け事、「恩を返す話」は命を助けられた恩を返すこと、「ゼフール中尉」は議論でドイツ軍のベルギー侵攻の予想が当たったこと、「忠直卿行状記」は忠直の剣術の腕前を家臣が陰で揶揄していたこと、「恩讐の彼方に」は贖罪のためのトンネル掘り。

テーマ自体は、生活の苦しさや悲惨な身の上話などが多く、あまり明るいものではない。
それにしては、ラストは一抹の光明が差したような明るさがあり、ポジティブな人間観・人生観を感じさせるせいか、読後は爽やかで心晴れるような気持ちになる話が多い。

巻末の井上ひさしによる解説「接続詞「ところが」による菊池寛小伝」も面白い。
菊池寛自身の「半自叙伝」を読んでいれば、井上ひさしの一風変わった解説のタイトルの意味がよくわかる。
幼少期から経済的に苦労した人ではあるけれど、窮地に陥ったときに、なぜか助け舟が現れるという事が度々あり、ある意味では幸運に恵まれていた。「人間万事塞翁が馬」を地で行くところがあるような...。

好きな話は、「勝負事」(オチが面白くてほのぼの~)、「島原心中」、「恩讐の彼方に」、「仇討禁止令」(これは幕末維新期の話で、とても好きな短編)、「好色成道」(これもオチが”瓢箪からコマ”みたい)など。


藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)
藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)
(1970/03/27)
菊池 寛

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<収録作品>
恩を返す話、忠直卿行状記、恩讐の彼方に、藤十郎の恋、ある恋の話、極楽、形、蘭学事始、入れ札、俊寛

ちくま文庫版の方が収録作品数は多いけれど、価格が新潮文庫版の倍くらい。
「俊寛」「蘭学事始」が収録されているので、購入。
新潮文庫版には、「父帰る」は収録されていないけれど、代表的な短編はほぼ収録されている。
初めて買うなら、新潮文庫版が一番手頃。
最後に掲載されている吉川英治名義の解説は、実は菊池寛自身が書いている。
発刊当時、GHQにより公職追放処分を受けていたため、自著の解説を自分で書くわけにもいかず、他人名義の解説で自分の考えはっきりと伝えたかったのだろう。

恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 (岩波文庫)
恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 (岩波文庫)恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇 (岩波文庫)
(1970/12)
菊池 寛

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<収録作品>
恩讐の彼方に、忠直卿行状記、三浦右衛門の最後、藤十郎の恋、形、名君、蘭学事始、入れ札、俊寛、頚縊り上人

新潮文庫と収録作品がかなり重複するので、これは買っていない。
岩波文庫版は、カバーがしっかりした紙質で、装丁もシンプルなので、長期保管するのに新潮文庫より良いのだけれど、文字が小さめで字体も少し古めかしい。
それに価格が高めなので、収録作品を比較しながらどちらにしようかちょっと迷うことが多い。


無名作家の日記 他九篇 (岩波文庫)
無名作家の日記 他九篇 (岩波文庫)無名作家の日記 他九篇 (岩波文庫)
(1988/04)
菊池 寛

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収録作品:身投げ救助業、ゼラール中尉、恩を返す話、無名作家の日記、死者を嗤う、ある抗議書、島原心中、勝負事、慎ましき配偶、愛児不死。

収録作品に特徴があり、他の文庫版では収録されていないような、あまり知られていない短編が多い。
難点といえば、リクエスト復刻版なので、旧字体を使っているため、読みづらく感じるところ。
重複して持っている短編が結構あっても本書を買ったのは、菊池自身の経験を振り返って書かれた「大島が出来る話」が収録されているから。
これは学資や生活の面倒を見てくれた恩人夫婦に関する回想。いわゆる私小説的な作品。
余計な修飾や、私小説作家のようなくどくどした心情吐露のない簡明な文章なのに、夫人に対する感謝と哀惜の念がしみじみと伝わってくる。


真珠夫人(文春文庫)
数年前に、菊池寛の通俗小説といわれる”真珠夫人”がTVドラマ化されていたという。
テレビは見ないので、TVドラマのことは全然知らなかったし、そもそも「真珠夫人」をいう本も読んだことがない。(最近、BOOKOFFの本棚にこの「真珠夫人」が並んでいるのをよく見かける)
もともと大正時代の新聞連載小説で、当時は絶大な人気を誇っていたらしく、演劇として頻繁に上演されていた。(私のイメージでは、シドニー・シェルダン的な小説という感じ)
文学界の狭い世界では有名な芥川と比べて、菊池寛の名は世間一般の人に広く知られるほど大きくなり、大人気作家になっていった。
そういう意味で、菊池の人生において、最大の転機となった作品。

真珠夫人 (文春文庫)真珠夫人 (文春文庫)
(2002/08)
菊池 寛

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<書評>
菊池寛『真珠夫人』[松岡正剛の千夜千冊/1287夜]


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yoshimi

Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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