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ヘイミッシュ・ミルン ~ ロシアのバッハ・ピアノ編曲集
Hyperionの『バッハ編曲集シリーズ』(Bach Piano Transcriptions)のVol.5は、ロシア人作曲家による編曲集。
このシリーズは、編曲者別にバッハのピアノ編曲版を収録したもの。編曲者は以下の通り。

Vol.1&2– Ferruccio Busoni
Vol.3 – Friedman, Grainger & Murdoch
Vol.4 – Samuel Feinberg
Vol.5 – Goedicke, Kabalevsky, Catoire & Siloti
Vol.6 – Walter Rummel
Vol.7 – Max Reger
Vol.8 – Eugen d'Albert
Vol.9 – A Bach Book for Harriet Cohen
Vol.10 – Saint-Saëns & Philipp

このシリーズで持っていたのは、好きなピアニストのマルクス・ベッカーが弾いているマックス・レーガー編のみ。
Vol.5で収録しているロシア人編曲者は、ゲディケ(Goedicke)、ジロティ(Siloti)、カバレフスキー(Kabalevsky)、カトワール(Catoire)。
ジロティはバッハ編曲者として有名なので何曲か聴いたことはあるけれど、他の3人の編曲版は聴いたことがない。
いろんな編曲者の作品が入っていると、曲のバラエティが広がって面白いし、試聴した時から選曲・演奏ともかなり良かった。
実際、CDで聴いてみてもとても満足できたので、このCDを買ったのは正解。

ピアニストは、ヘイミッシュ・ミルン(Hamish Milne)。
イギリスのベテランピアニストで、メトネルの研究により”世界的権威”と言われる人らしい。
メトネルはメジューエワやキーシンの録音を少し聴いた程度なので、ミルンのことも全く知らなかった。

Bach Piano Transcriptions, Vol.5: Russian Transcriptions - Goedicke, Kabalevsky, Catoire & SilotiBach Piano Transcriptions, Vol.5: Russian Transcriptions - Goedicke, Kabalevsky, Catoire & Siloti
(2005/06/14)
Hamish Milne

試聴する(hyperionサイト)


HMVのCD情報によると
- 当時の東欧で一流ピアニストとして評価を受け指揮者としても活躍していたジローティ
- 作曲家、オルガニストとして活躍しモスクワ音楽院で教鞭をとっていたゲディケ
- 言わずと知れたロシアの大作曲家カバレフスキー
- カバレフスキーの師であり、あのアムランも作品を取り上げたカトワール
- ピアニストのヘイミッシュ・ミルンはロシアの作曲家メトネルの世界的なスペシャリストとして有名。現在は英国王立音楽院で教鞭を執りながら演奏や録音活動を行っている。

<収録曲>
- 前奏曲とフーガ ト長調 BWV541(ゲディケ編曲)
- 前奏曲 ロ短調 BWV855a(ジローティ編曲)
- カンタータ第35番より《前奏曲》(ジローティ編曲)
- 前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539(ゲディケ編曲)
- 管弦楽組曲第3番ニ長調より《アリア》(ジローティ編曲)
- ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ短調 BWV1018より《アダージョ》(ジローティ編曲)
- フーガハ短調 BWV575(ゲディケ編曲)
- 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調 BWV1003より《アンダンテ》(ジローティ編曲)
- パッサカリア ハ短調BWV582(カトワール編曲)
- フルート・ソナタ変ホ長調BWV1031より《シシリアーノ》(ジローティ編曲)
- トッカータとフーガ ニ短調BWV538(カバレフスキー編曲)


バッハのピアノ編曲版のCDとしては、オルガン曲、無伴奏ヴァイオリンにヴァイオリンソナタ、管弦楽曲と、原曲がバラエティ豊か。旋律がとても有名な小品も数曲入っているので、編曲物に慣れていなくてもわりと聴きやすい。
オルガン曲をピアノ編曲した《前奏曲とフーガ》(ブゾーニのBWV532やリストのBWV548など)や《トッカータとフーガニ短調》は好きなので、このアルバムに収録されている曲(どれも初めて聴いた)も、好みにぴったり。
小品では、有名な《G線上のアリア》や《シシリアーノ》だけでなく、原曲自体がとても好きな《アンダンテ》や《アダージョ》が入っているのが、よくある編曲集とは少し違うところ。
このCDを買うきっかけになった《パッサカリア》も編曲・演奏とも素敵。

前奏曲とフーガ ト長調 BWV541(ゲディケ編曲)
ゲディケがオルガン曲がピアノソロ用に編曲したものは、ブゾーニ風の作曲技法が散りばめられ、オクターブを多用した厚みのある和音や、オルガンの多数の声部と教会の自然な響きを意識してピアノで表現したもの。
《前奏曲とフーガ》BWV541は、祝典曲のように明朗快活な曲。
BWV532もクリスマスの朝のように晴れ晴れとした曲だし、こういう曲想の曲は聴いていても、とても楽して気分も明るくなってきそう。


前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539(ゲディケ編曲)
フーガはどこかで聴いたことがあると思ったら、《無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番BWV1001》の第2楽章の編曲版だった。
《無伴奏ヴァイオリンソナタ》がオルガン版に編曲され(オルガン曲の方が原曲だという人もいる)、さらにそれをピアノ編曲したもの。原曲よりもかなり凝ったつくりになっている。


トッカータとフーガ BWV538”Dorian”(カバレフスキー編曲)
”Dorian”は、カバレフスキーの編曲。
カバレフスキーといえば、子供用のピアノ小品を書いているので、幼少のみぎりに練習した覚えはある。(曲名は忘れてしまったけど)
《トッカータとフーガ》はニ短調BWV565が有名。この”Dorian”はニ短調のように荘厳で重苦しい雰囲気ではなく、特にトッカータは同じ音型の旋律が楽章を通じて両手に頻繁に現れ、フーガのように疾走感と躍動感がある。


ジロティの編曲版のなかでは、カンタータ第35番「心も魂も乱れ惑わん」の《シンフォニア》は速いテンポで躍動感があり、クリアな響きと軽快なタッチで(管弦楽演奏よりも)引き締まった曲に聴こえる。
小品の《G線上のアリア》《アンダンテ》《シシリアーノ》は、原曲の美しい旋律で有名なだけあって、ピアノソロで弾いてもやっぱり美しい。
《G線上のアリア》は以前に記事に書いたことがあり(「ピアノ編曲版 バッハ/G線上のアリア」)、この曲はどの楽器で弾いても名曲中の名曲なのだけど、とりわけ素晴らしいと思うのは、ケーゲルが最後の来日公演で演奏したアンコール。

アンダンテ(ジロティ編曲)
このCDで、ピアノ編曲版として一番好きな曲が《アンダンテ》。原曲は《無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番》。
フランク・ペーター・ツィンマーマンのアンコール曲の定番なので、バッハの無伴奏のなかでも《シャコンヌ》の次によく聴いている。
ピアノ独奏で《アンダンテ》を聴くと、旋律と和声の美しさが引き立っている。
煌きのある澄んだ高音とペダルで重なる和声の響きがとても美しく、優しく寄り添うような温もりと安らぎに満ちた音楽。
無伴奏ヴァイオリンの演奏よりもずっと甘く優しく聴こえるせいか、別の曲を聴いているような気がしてくる。

Bach-Siloti - Andante from the Violin Sonata BWV 1003 (Alessio Bax, piano.)



無伴奏ヴァイオリンソナタの《アンダンテ》
J. S. Bach - Sonata for Solo Violin No. 2, BWV 1003 (Proms 2012)
Frank Peter Zimmermann, violin



アダージョ(ジロティ編曲)
原曲の《ヴァイオリンソナタ第5番》は無伴奏と比べると聴いたことがある人はずっと少ないだろうけれど、ピアノソロでも原曲のイメージを壊さず流麗で美しい。
ジロティの編曲は、重音が連続する旋律であっても、流麗なレガートとペダルを使った和声の響きがとても美しい。それに、ミルンもやや柔らかいタッチで音が尖ることなくまろやか。


シシリアーノ(ジロティ編曲)
フルートソナタ第2番が原曲。この《シシリアーノ》だけを抜粋して、いろいろなバージョンで編曲されている。
ピアノ独奏版で有名なのはケンプの編曲版。
それと比べると、ジロティの編曲版は右手主旋律以外の音が多くて和声に厚みがあり、1つの和音の音域が広いせいか、分散和音で弾いていたりする。和音が縦の線で綺麗に揃わないこともあってか、ごちゃごちゃと装飾が多くて、やや煩く聴こえる。

Alessio Bax | Bach - Siciliano from the Flute Sonata in Eb major



ケンプ版は右手主題を伴奏する旋律がとてもシンプルで、和声も濁りなくすっきり。
高音部の主題旋律も、内声部の旋律もくっきりと浮き上がり、落ち着いた雰囲気のなかに、もの哀しさが漂っている。
ケンプ自身の演奏で聴くと、やはり他のピアニストにはない味わいがある。

Bach-Kempff - Siciliano from Flute Sonata No 2 BWV 1031




パッサカリアとフーガハ短調 BWV582(カトワール編曲)
CDのブックレットの解説によると、ピアノ編曲はダルベール版の方がカトワール版よりも有名らしい。
ダルベール版は冒頭からフォルテで威厳を強く出している一方、カトワール版は冒頭はやや抑え気味。
ピアノで力強さを唸らすよりも、変奏の特徴を表現するために、美しく豊かな色彩感とソノリティを重視したような編曲。
数日前に両方の編曲版を聴いたけれど、ダルベール版はフォルテが強くて騒々しく、ミルンの弾いていたカトワール版の方が肩に力が入りすぎず、音も綺麗で流れも滑らかでずっと印象が良い。
ミルンの弾き方とカトワールの編曲とが上手くかみ合っていたみたい。

tag : バッハ ジロティ ミルン

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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