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吉松隆/自叙伝 『作曲は鳥のごとく』 と 《朱鷺によせる哀歌》
大河ドラマの音楽で、とうとう一般にも広く知られる作曲家になった吉松隆の自叙伝『作曲は鳥のごとく』が面白い。
音大で作曲を学ぶ-というごく普通のコースを経ず、無調全盛期の現代音楽主流派とは正反対の調性音楽を志向していたので、独学&反主流の苦労がひしひしと感じられる。
今では、現代音楽もかつての前衛的な無調や実験的音楽から、新古典主義や調性感のある音楽へと回帰してきているので、彼の音楽は時代を先取りしていたのかも。

作曲は鳥のごとく作曲は鳥のごとく
(2013/03/19)
吉松 隆

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<目次>
第1章 少年時代(1950~60年代)(鳥のごとく;少年時代の原風景 ほか)
第2章 浪放時代(1970年代)(音楽のスイッチON;高校進学と慶應 ほか)
第3章 鳥の時代(1980年代)(朱鷺によせる哀歌;鳥のシリーズ始動 ほか)
第4章 飛翔の時代(1990年代)(『地球にて』―初めての作品集CD;サクソフォンと『ファジーバード』 ほか)
第5章 作曲する人生(2000年代)(作曲とは…;作曲の仕方 ほか)
(出所:紀伊國屋書店ウェブストア)


現代音楽を聴くきっかけになったのが、吉松隆の《朱鷺によせる哀歌》とメシアンの《異国の鳥たち》。
随分昔、たまたまNHK-FMを聴いていた時に流れてきた《朱鷺によせる哀歌》は、本物の絶滅しつつある朱鷺の鳴き声が聴こえるような、緊張感に満ちた研ぎ澄まされた音楽の美しさに、”滅亡の美学”を感じたものだった。
《異国の鳥たち》はそれとは正反対で、いかにも南国の極彩色の鳥のように色彩感豊かで賑やかで面白かった。

吉松隆の作品は昔からCDを買い集めていたので、(最近の録音は除いて)カメラータの国内盤やCHANDOSの輸入盤でほとんど聴いてきた。
そのなかで私が好きなのは初期の頃の作品。なかでも《朱鷺によせる哀歌》が一番。
本書によれば、完成までに9年間かかった《朱鷺によせる哀歌》の書法は、クラシックにロック、ジャズ、さらには雅楽..と西洋と日本・クラシックとポピュラーといったいろいろな音楽の影響が反映されている。
- 基本は現代音楽的な「トーンクラスター」や「群作法」に近い手法で書きながら、響きとしては無調ではなく明確な調性感を出すことが、最大のポイント。
- 無調のクラスター代わりにDドーリアのコード(協和音)が背景になり続ける、これは、雅楽やシベリウスからの影響と共に、ピンク・フロイドの『エコーズ』から得たアイデア。
- 朱鷺が飛翔しているようなサウンド-「自由なパッセージの交錯」というべき書法は、シュトックハウゼン、ブーレーズ、武満徹の影響。無調のランダムな響きを旋法でハーモナイズするという発想。
- 曲の途中から鳴り始めるピアノは、ビル・エヴァンスとキース・ジャレットがルーツ。途中からアドリブ的な演奏になるのは、前衛音楽あるいはフリージャズのピアノの影響。
- 最後に朱鷺の歌声が彼方からエコーするのは、雅楽の「追い吹き」や尺八の「呼び交わし」のイメージ。

吉松 隆「朱鷺によせる哀歌」

山田一雄指揮日本フィルハーモニーの演奏なので、初演時のライブ録音かもしれない。


鳥たちの時代鳥たちの時代
(2009/08/25)
吉松隆

試聴ファイルなし


《朱鷺によせる哀歌》の後日談。
3回行われた演奏会の著作権使用料の入金額は、合計でわずか7500円。
10年近く心血を注いで作曲し、初演には楽譜の制作からチケット代まで数十万円を負担し、ようやく初演が認められて再演されるまでになったのに、演奏1回の対価が2600円。
電話で著作権協会からこの金額を聴いた時は、大変なショック。「電話口で顔面蒼白になったまま、暫く動くことができなかった」という。



クラシックでは珍しいサクソフォン協奏曲《サイバーバード》
第1楽章の終わりで雅楽的な響きが入ったり、吉松独特の音使いはすぐわかる。
第2楽章「悲の烏」(Bird in Grief)は、「悲しみの烏の独自と、その横で夢を紡ぐように歌う烏たちのアンダンテ」。
冒頭は鬱々と息が詰まりそうな重苦しさで、これがモノローグ。やがて叙情的な旋律に変わり、とても美しい鳥たちの歌。
この曲は、彼の妹さんがガンの闘病生活を送っていた時に病院に泊り込みで看病しつつ、作曲したというのは、よく知られている。本書にもそのときの様子や彼の思いが書かれている。
全楽章完成後、亡くなった妹への追悼曲として《鳥と虹によせる雅歌 Op.60》も作曲した。

Takashi Yoshimatsu - Cyberbird Concerto
第2楽章は8:50~。CHANDOS録音なら、サックスはたぶん須川展也。


Symphony 3 / Saxophone ConcertoSymphony 3 / Saxophone Concerto
(1999/07/20)
BBC Philharmonic Orchestra

試聴ファイル



『平清盛』の音楽もかなり人気があるようだけれど、昔から吉松作品で最もポピュラーな曲と言えば『プレイアデス舞曲集』
本書によると、『プレイアデス舞曲集』は、四分音符と八分音符の組み合わせだけで、一小節ごとに拍子が目まぐるしく変わる。楽譜面の印象は「きわめて数学的」で「ストラヴィンスキー」みたいな音楽。
でも、ピアニストの田部京子が弾いた録音のデモテープからは、「気が遠くなるような美しさでゆったりとした光の粒のような音がきらきらと流れてくる」。
これを聴いた吉松隆は、イメージとは全然違うけれど「これがいい!」。

吉松隆「プレイアデス舞曲集第3集」田部京子(p)


吉松隆:プレイアデス舞曲集(第I集~第V集)吉松隆:プレイアデス舞曲集(第I集~第V集)
(2010/08/18)
田部京子

試聴ファイル


他にも、普通の作曲家コースとは逸脱した音楽修行遍歴を始めとして、作品が生まれていった経緯やエピソードが満載。
CHANDOSの社長が決めた吉松とのレジデント・コンポーザーの契約は、”なんでそんな日本の聞いたこともない作曲家の曲を録音するのか”と、同社内ではかなりもめたらしい。
独学とはいえ、作曲家の松村禎三氏のもとに出入りしていて、一応は師匠と弟子。作曲家デビュー当初は「松村禎三氏に師事」と書いていたが、そのうち「独学」と経歴に書くようになる。
師匠から「師匠が弟子を破門することはあっても、弟子が師匠を破門するなんて聞いたことないよね」と、ずっと後になって言われたという。

彼の音楽と同じく、文章も読みやすくて語り口も上手い。吉松作品に興味のある人には、異色(異端?)の作曲家の辿ってきた道や、頭と心の中が垣間見れて面白いだろうし、作品の解説やエピソードを読むと久しぶりに聴きたくなってきた曲もある。
それにしても、現在に至るまでの数々の苦労が実を結んできたのは、彼にとっては作曲することが天職だったからに違いない。

 吉松隆 交響曲工房(ホームページ)
 八分音符の憂鬱~作曲家:吉松隆の21世紀クラシック音楽界放浪記 


<過去記事>
吉松隆/朱鷺によせる哀歌

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お返事です。
いつもお読みいただいてありがとうございます。

この本は還暦を迎えた彼の辿ってきた道や、作曲・演奏にまつわるエピソードなども満載で、とても面白く読めました。

昔からの吉松ファンなら、「朱鷺に寄せる哀歌」をご存知の方も多いと思います。
確かに雅楽的な響きがしますね。
CHANDOS盤の録音も持っているのですが、日本のオケとは若干響きが違うように感じました。
華奢な朱鷺の姿から連想する儚さのニュアンスにしては、ちょっと線が太くて音も強い感じがします。この曲を聴くなら、日本のオケの録音がおすすめです。
朱鷺は日本の風景によく似合っていますが、絶滅の危機にある(あった)生き物という点では、西欧圏の人たちには鯨やイルカの方がイメージしやすいのかも..という気がします。
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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