ロジェ・ムラロ ~ メシアン/幼な児イエスにそそぐ20の眼差し 

2013, 05. 12 (Sun) 12:00

メシアンを弾くピアニストと言えば、すぐに思い浮かぶのは、ロリオ夫人、エマール、ベロフ。
大久保賢さんのブログ<Le plaisir de la musique 音楽の歓び>の記事で、ロジェ・ミュラロ(日本ではムラロと呼ぶことが多いらしい)のメシアン演奏が紹介されていた。
ムラロのことは全然知らなかったので調べてみると、”現代最高のメシアン弾き”とも言われている人らしく、エマールと同じくロリオ夫人に師事しているし、メシアン自身も彼の演奏には賛辞を寄せている。
ムラロのプロフィール[トッパンホール]
ムラロのインタビュー記事(鋭い打鍵が埋もれた日常を引き裂き、水晶のごとき音塊が空間に放たれる)[水戸芸術館音楽紙[ヴィーヴォ]2004年9月]


ムラロは『メシアン独奏曲全集』(ACCORD)をすでに録音している。
メシアンのピアノ独奏作品の全集録音は少ない。ベロフもエマールも全集録音はしていない。ロリオ夫人なら録音しているかも。
私が知っているのは、アウストボのNAXOS盤。随分昔、アウストボの《鳥のカタログ》を聴いた時にどれも似たような曲に聴こえて(耳が慣れていなかったせいもある)、メシアンの音楽とは合わないと思った記憶がある。アウストボとムラロの録音を少し聴き比べてみるとそれも納得。
アウストボのメシアンは、ややタッチが緩くて音もきりりと引き締まった感じがせず、演奏の緊張感も弱い感じがする。個人的な好みとしては、全集盤ならムラロの方を選ぶ。


ムラロの『メシアン独奏曲全集』。分売盤をそれぞれ買うよりもずっとお得なBOXセット。
最近の円安の影響もあってか、マイナーレーベルのCDなので結構高い。それでも試聴していると、これは手に入れたくなってくる。
Messiaen-Integrale Piano SeulMessiaen-Integrale Piano Seul
(2005/05/11)
Roger Muraro

試聴ファイル


<収録曲>
- 幼な児イエスにそそぐ20の眼差し(1944)
- 鳥のカタログ(1956~58)
- 8つの前奏曲(1928~29)
- 鳥の小スケッチ(1985)
- 4つのリズムの練習曲(1949~50)
- カンテヨジャーヤ(1948)
- ロンドー(1943)
- 滑稽な幻想曲(1932)
- ピアノのための前奏曲(1964)
- ポール・デュカスの墓のための小品(1935)


《幼な児イエスにそそぐ20の眼差し》の演奏はDVDでも出ている
Messiaen: Vingt Regards Sur L'Enfant Jesus [DVD] [Import]Messiaen: Vingt Regards Sur L'Enfant Jesus [DVD] [Import]
(2005/05/11)
Roger Muraro

商品詳細を見る



《幼な児イエスにそそぐ20の眼差し》を試聴ファイルとYoutubeの音源で聴いてみると、全体的に速めのテンポで、リズム感が凄く良い。
クリスタルのように研ぎ澄まされたソノリティは硬質でクール。演奏自体も理知的で明晰さを感じさせる。
ムラロのメシアン演奏については、「まるで針先で音を磨くように、水晶のように澄んだ音色」「持ち前の豊かな響きと鍵盤に切り込むような鋭いリズム」という評を見かけたけれど、これは全くその通り。

エマールのメシアンは、音が柔らかく弱音のニュアンスが内省的・瞑想的なので、独特の茫漠とした、ちょっと霞がかかったような雰囲気を感じる。
どちらかというと、響きに耽溺している気がしないでもないけれど..。
エマールと比べると、ムラロはタッチ・音がずっとシャープでクリア。
音色・ソノリティの色彩感と弱音の微妙なニュアンスはエマールほどに多彩ではないように感じはするけれど、演奏自体は隅ずみまで明晰でリズム感・テンポ感が良く、曲の内部へ切り込んでいくような集中力と凝縮感があり、強いメッセージ性を感じる。
ムラロのメシアン演奏は「解像度が高い」というのは、試聴ファイルを聴いていても実感できる。


《幼な児イエスにそそぐ20の眼差し》(DVD)のTrailer。
Olivier Messiaen | Vingt Regards sur l'Enfant-Jésus d'Olivier Messiaen with Roger Muraro | Trailer



第11曲”Première Communion de la Vierge”(聖母の最初の聖体拝受)
Messiaen - Première Communion de la Vierge - Roger Muraro



《幼な児イエスにそそぐ20の眼差し》の第6曲”VI. Par Lui tout a été fait”(御言葉によってすべては成されたり)。
エマールはテンポがかなり遅いけれど、和声や音色の色彩感の変化がよくわかる。演奏がちょっと重たい感じがして、あまり急迫感が感じられないところは結構気になる。
ムラロ(それにベロフ)の演奏はいずれもテンポが速く、追いたてられるような切迫感がある。ムラロはリズム感が凄く良くて、弾けるように切れの良い音でダイナミック。
どちらのメシアンが好きなのかは、はっきり言い難いところがあるけれど、エマールなら和声・ソノリティの多彩さや瞑想的な雰囲気が聴けるし、ムラロはクリアなソノリティと躍動的なテンポ感・リズム感でダイナミズムと曖昧さのない明晰さが体感できる。
聴いた後に残る印象は、ソノリティの美しさよりも、音楽のもつ緊張感と強いメッセージ性を感じるせいか、ムラロの方が(私には)強い。

Olivier Messiaen | Regard sur l'Enfant-Jésus n°6 by Roger Muraro



こちらはエマールの演奏。ムラロとの違いがはっきりわかる。
(1/2) Messiaen: Vingt Regards - VI. Par Lui tout a été fait - Pierre-Laurent Aimard


タグ:メシアン ムラロ

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2 Comments

ken  

確かにいいですね

ご無沙汰しています。最近はジャズ・レコード中心の日々ですが、メシアンは時折聴いています。ジャズにも大きな影響を与えている境界領域の音楽のように思います。ご紹介の奏者、いいですね。エマールとの対比はまさにそうですね。久々にメシアンのCDが欲しくなりました。
ありがとうございました。

2013/05/15 (Wed) 02:11 | REPLY |   

yoshimi  

日本では有名ではないのですが

Kenさま、こんにちは。

お久しぶりです。
このごろ読書の方に時間をとられていまして、音楽を聴く時間が減っていますが、なぜかメシアンが最近とても面白く感じられていろいろ聴いてます。
メシアンを聴くと、馴染んでいる音楽とは全く違う世界なので、情緒面でニュートラルになれるようです。純化された音の世界がとても気持ち良く感じます。

ムラロの「鳥のカタログ」も試聴しましたが、ウゴルスキとは方向性が違っていて、これも私の波長に合うようです。
こういう方向性の違った演奏を聴き比べていると、わかりにくいと思っていた現代音楽でも、アプローチの特徴とか自分の好みがよくわかるので、面白いですね。

マイナーレーベルということもあってか、ムラロは全然知らなかったピアニストでした。
CDもいろいろ出てますし、ミュンフンと共演したりしてますから、(少なくともフランスでは)メシアン弾きとしてはかなり知られている人のように思いました。
定期的にチェックしている音楽専門家の方のブログがいくつかありますが、ムラロのような日本で知名度の低い人の情報が載っていたりするので重宝してます。

2013/05/15 (Wed) 11:58 | EDIT | REPLY |   

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