コロリオフ&デュオ・コロリオフ ~ バッハ作品集・編曲集

Youtubeで聴いたバッハの編曲ものの演奏がとても良かったので購入したのが、デュオ・コロリオフによるバッハ作品集・編曲集アルバム”Bach: Original works and transcriptions”。
TACETレーベルの”The Koroliov Series”の第12巻。2010年11月のスタジオ録音。
コロリオフのソロ演奏と、奥さんのリュプカ・ハジ=ゲオルギエヴァ(Ljupka Hadzi-georgieva)とのデュオ演奏が収録されている。

Piano Duo Koroliov[Evgeni Koroliov Homepage]
コロリオフとマケドニア(旧ユーゴスラヴィア)出身のリュプカさんが知り合ったのは、ともにチャイコフスキー音楽院に在学中だった。
優秀な成績で卒業後、チャイコフスキー音楽院で教えていたコロリオフは、ユーゴスラヴィアの音楽院で教えていたリュプカさんと結婚するため、教職を辞して1976年に旧ユーゴに移住したという。
1977年に、クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝、1978年に、当時旧西ドイツに属していたハンブルクの音楽院(ハンブルク音楽演劇大学:Hochschule für Musik und TheaterHamburg)の教授職に就任、2015年まで教えていた。現在は(おそらく定年退官したため)emeritierter Professor(名誉教授)。
ソ連とは異なる独自の社会主義政策をとるユーゴへ移住した当時、ロシア(旧ソ連)はまだ強固な社会主義体制下にあったから、ソ連から西側の国へ移住するのは難しかったかもしれない。


Vol. 12-Koroliovol. Series-Bach-Original Works & TVol. 12-Koroliovol. Series-Bach-Original Works & T
(2010/11/15)
Duo Koroliov

試聴ファイルなし


試聴ファイルがなかったので、どういう曲・演奏なのかわからない曲が多かったけれど、CDで全曲聴くと、やはりコロリオフのバッハはオリジナルだけでなく、編曲ものの演奏も素晴らしい。
それに、評判どおりTacet盤は音が美しく、本当にうっとりする。特に高音が繊細なAKGのヘッドフォンで聴くとその美しさがよくわかる。
収録曲は、バッハの編曲もののなかでも聴く機会がほとんどないものが多くて、いつもとは違った新鮮さや発見がある。[収録曲リスト(HMV)]


音楽の捧げ物 BWV.1079~第5番「6声のリチェルカーレ」
ピティナの作品解説によると、”リチェルカーレ RICERCAR”は、「フーガ」様式が出来る前の古い呼び名。
《音楽の捧げ物》というと、もともと管弦楽曲かと思い込んでいたけれど、楽器指定があるのは2曲のみ。
ブログ「色々な話」の”バッハ「六声のリチェルカーレ」”では、チェンバロを初め、ピアノ、オルガン、弦楽重奏、弦楽オケなど、楽器のことなる音源が紹介されている。
ピアノソロ版はニコラーエワくらいしかないらしい。コロリオフもピアノソロ。
ゆったりとした静かな巨大なフーガなので、緩徐楽章苦手な私には最後まで聴くのに苦労した。それに、そもそも暑苦しい夏の明るい室内でじっくり聴く曲ではない気がする...。
真夜中に照明を消した部屋で一人静かに聴いていると、身体と音楽がシンクロしたように、何の違和感もなく音楽にすっと入り込んでいける。
時間と環境によってこれだけ聴こえ方が変わるというのは、とても不思議な感覚がする。


ハンガリーの作曲家ジェルジ・クルターク編曲「4手のピアノのための編曲集」
これはかなり珍しいジョルジ・クルターク(György Kurtág)の4手編曲版。全部で6曲。
6曲のなかで、何度も聴いたことがある有名なコラールは、ブゾーニも編曲していたコラール「アダムの墜落によりてすべては朽ちぬ/Durch Adam's Fall Ist Ganz Verderbt」BWV.637。
「いと高きところにいます神にのみ栄光あれ/Allein Gott In Der Hoh' Sei Ehr」BWV.711も聴いたことがある。

普通の4手連弾演奏は、音がごちゃごちゃと聴こえるのであまり好きではないのに、この編曲と演奏ならそういうこともなく、音も演奏もすっきりと濁りなく澄んでいる。
透明感のある音が美しく、声部も高音から低音まで、くっきり明瞭に弾き分けられて、風通しのよい軽やかさがある。
声部ごとにかなり違った色彩・質感のある音色なので、1台のピアノで弾いているのに、色彩感がとてもカラフル。
なぜか、高音の響きがリコーダーか木琴のように、木質感のあるコツコツした音に聴こえる時があること。
クルタークの編曲とデュオ・コロリオフの演奏には、ブゾーニなどの編曲版に多い音の過密さがなく、すっきりと澄んだ響きが美しい。

落ち着いた雰囲気の格調高さに加えて、無垢な遊び心に満ちた自由さが溢れる曲(トリオソナタ第1番やBWV711)もあり、いつも聴くバッハ編曲とは少し違った味わいがとても魅力的。

BWV711 Allein Gott in der Hoh sei Ehr Evgeni Koroliov 2010


BWV525 Trio Sonata No.1 in Eb 1 Allegro moderato Evgeni Koroliov 2010


心穏やかな安息感に浸れるのは「ソナチネ」(カンタータ第106番「神の時こそいと良き時」)。
BWV106 Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit 1 Sonatina Evgeni Koroliov 2010



パッサカリア ト短調BWV.582
この曲のピアノソロ編曲版はいくつかあるけれど、これはコロリオフ自身が編曲した珍しい2台のピアノ版。
ピアノソロ版ではかなりドラマティックな演奏が多いけれど、このデュオ・コロリオフの演奏はやや抑えたタッチから叙情と威厳がじわじわと滲みでてくるような感じがする。
<過去記事>バッハ/パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582


クラヴィーア練習曲第3巻
別名「オルガン・ミサ」と呼ばれる各コラールの鍵盤楽器用編曲集。
21曲のコラールと4つのデュエット、その両端はプレリュードとフーガ。
そのうち、11曲のコラールをコロリオフ自身がピアノ独奏用に編曲している。
ピアノ編曲版で一番有名なブゾーニ編曲集《10のコラール前奏曲 KiV B27》で編曲されていない曲ばかり。
編曲自体は、ブゾーニと違って、コロリオフは厚みのある和音を多用していないシンプルな編曲。
元々有名なコラールを編曲しているブゾーニ版と比べると、初めて聴く曲集ということもあってか、旋律は綺麗だけれど穏やかで地味な印象の曲が多い。(聴き慣れれば、また印象も変わるのだろうけど)


前奏曲とフーガ イ短調BWV.543(リスト編曲)
最後に収録されているのが、リスト編曲で有名な《前奏曲とフーガ イ短調BWV.543》。
この曲自体がもともと好きな上に、Youtubeで聴いたコロリオフの演奏がとても良かったので、そのためにこのアルバムを買ったようなもの。
今まで聴いた中では、パッショネイトで迫力あるユージナ(1954年のライブ録音、1952年のスタジオ録音)、それに次いで清楚なリーズ・ドゥ・ラ・サールの演奏が好きだった。
この端正な叙情感が美しいコロリオフは、それ以上に素晴らしく、このCDを買った甲斐があったというもの。
CDをステレオで聴くと音が数倍美しく、残響がやや多くとも一音一音芯のしっかりしたクリアな音で明瞭に響くので、混濁感はない。
しっとりとした潤いのあるソノリティとやや抑制されたタッチから湧き出てくる深い叙情感がとても美しく、特にフーガは何度聴いても惚れ惚れとする。


BWV543 Prelude & Fugue in a (F.Liszt) Evgeni Koroliov 2010


<過去記事>コロリオフ~バッハ=リスト編曲/前奏曲とフーガ BWV543

タグ:バッハ クルターク コロリオフ

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コメント

「浄夜」聴きました。

こんにちは。

ご紹介いただいた、カンディンスキートリオの「浄夜」を聴きました。ピアノトリオとはいえ、違和感がまったくないのに驚きました。
ピアノがうまく全体を支えていますね。面白かったです。

本記事に関係なくてスミマセン。

さすがシェーンベルクのお弟子さんです

ポンコツスクーター様、こんばんは。

感想をわざわざコメントいただいてどうもありがとうございます。
たしかにピアノトリオ版は、意外と違和感なく聴けますね。
楽器が少ないので、音楽もすっきりと見通しよく、声部の動きと絡みがよくわかります。
編曲者のシュトイアーマンはピアニストでもありますから、ピアノパートの使い方が上手いのでしょう。

シュトイアーマンはシェーンベルクのピアノ曲集も録音しています。
これは同曲集の多数ある録音のなかでも、最良のものの一つだと思います。
自ら録音したり編曲したりしているのは、師シェーンベルクの音楽の本質や多様性を、わかりやすく伝えようという思いがあるからなのでしょうね。

是非とも聴いてみたいです

yoshimiさん、こんばんは。お久しぶりです。

昨年yoshimiさんのブログを通して出会ったコロリオフ。
コロリオフのバッハが本当に好きになりました。フーガの技法もとても良かったです。

ご紹介の編曲作品集、「音楽の捧げ物」からリチェルカーレト短調、カンタータから第106番のソナチネ、コラールのピアノ編曲作品集などバッハ好き、コロリオフファンの私には、たまらない魅力的なアルバムです。
是非とも聴いてみたいと思います。

ぜひ聴いてみてくださいね!

ANNA様、こんばんは。

お久しぶりです。
ようやく涼しくなって、音楽を聴くには良い気候になりましたね。

コロリオフの「フーガの技法」は、ソコロフとは方向性がかなり違いますが、私にはコロリオフの方が構造がわかりやすくて、聴きやすく感じました。

この編曲集は、選曲がユニークなのが良いですね。
さらに、コロリオフのソロも奥さんとのデュエットも素敵です。
バッハとコロリオフと両方の魅力がたっぷり味わえますから、とてもオススメしたいアルバムです。

期待どおりの素晴らしいアルバムでした

yoshimiさん、こんばんは。

ご紹介のコロリオフのバッハ作品集・編曲集、期待どおりの素晴らしいアルバムでした。普段あまり手に取ることのないリスト編曲の「前奏曲とフーガ」が素晴らしく!熱が入って、高揚してもフォルムが崩れないというのでしょうか。

今年も素晴らしい音楽と演奏家の出会いをたくさんいただきました。
来る日も来る日も、くり返し聴いたアルバム…エゴロフとコロリオフのアルバムでした。
新しい年もまた素晴らしい音楽との出会い、楽しみにしております!

エゴロフとコロリオフ

ANNAさん、こんばんは。

このアルバム、とてもお気に召したようで、オススメして本当に良かったです。
コロリオフは、シフやペライア、ヒューイットほどに人気があるというわけではないと思いますが、彼のバッハは素晴らしいです。

リスト編曲の「前奏曲とフーガ」は、バッハ編曲物のうちでも、私のベスト3に入るくらい好きな曲です。
なかでもコロリオフの演奏は、チェンバロ奏法のようなルバートが小刻みに入ってクセがあるように思いますが、それが音楽の流れを遮ることなく流麗で、パッショネイトで瑞々しい叙情感があり、しかもフォルムが崩れることなく明晰であるところが凄いです。

エゴロフとコロリオフ、素晴らしいピアニストですね!
2人とも外面的な派手さはないのですが、演奏の魅力をわかっていただけてとても嬉しいです。
これからも、ピアニストとの貴重な出会いのきっかけになることができれば幸いです。
では、良いお年をお迎えくださいませ。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

先日、このCDを購入しました。いやー、期待に違わぬ、素晴らしい内容でした。奥さんとの連弾曲も良かったですが、やはり最後の「前奏曲とフーガ」が特に良かったですね。ゆっくりしたテンポで弾き始めてどんどん盛り上げていくところや、一音一音を慈しむようなタッチも感動的です。

この編曲版はこれまで色々なピアニストの演奏を聴いてきましたが、コロリオフの演奏が一番のお気に入りになりました。なんというか、高潔さを感じます。ワイセンベルクやファジル・サイのケレン味たっぷりの演奏も面白いですが。やはり、彼は現役最高峰のバッハ弾きなのだな、と再認識しました。

ところで、このCD、Amazonに在庫がなくHMVから購入したのですが、廃盤なんですかね?もっともっと多くの人に聴いて頂きたいのですが…。

 

かかど様、新年おめでとうございます。
新年早々コメントくださいまして、ありがとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

このバッハ編曲集は、選曲がユニークですね。
私も最後の「前奏曲とフーガ」が一番素晴らしく思いました。
さすがに音質の良さが評判のレーベルなので、ピアノの音もしっとりと潤いがあって美しいです。
チェンバロ奏法的にルバートを頻繁に使っているにしては、もたれることなく、音楽の流れが滑らかで自然に感じますし、おっしゃる通り、高潔さ漂う演奏だと思います。
「現役最高峰のバッハ弾き」というのも本当に同感です。

Tacetのウェブサイトでは購入できますので、廃盤ではなさそうです。
中小レーベルなのでプレス数は少ないですから、レーベルやショップの在庫が無くなったら、追加プレスせずに廃盤になる可能性は高いでしょうね。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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