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帚木蓬生『安楽病棟』
古典となった文学作品や昔読んでいた作品を除いて、小説を読むことはほとんどなくなっているけれど、現役の精神科医で作家でもある帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏の小説を珍しくも読んでいる。
医学をテーマにしたものでは『安楽病棟』、『閉鎖病棟』。『臓器農場』という医学サスペンスもあるので、これも読もうかと。
著者は元々は東大仏文科出身。医学以外のテーマの小説も多く、日本からヒトラーへ防具が送られていた事実を素材にした小説『ヒトラーの防具』(旧題:総統の防具)などもある。

最初に読んだ『安楽病棟』は、病院での高齢者介護と認知症患者の安楽死がテーマ。
どうやらミステリー仕立てだったようだけれど、全然サスペンスタッチではないので、私はそうとは気づかず、ノンフィクションノベルみたいな感覚で読んでいた。

安楽病棟 (新潮文庫)安楽病棟 (新潮文庫)
(2001/09/28)
帚木 蓬生

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最初の数章は、主要登場人物が自身の人生を語る...というスタイル。
どの章も文体が似通っているので、同一人物なのか別人なのか、最初はわからなかった。(本書自体が、どの章も文体が似ていて、全体的にモノトーン的)
こういう話は、本書で読まなくても、似たような話はどこでも読めるので、あまり興味はなかったけれど、この独り語りは、後から描かれる高齢者の病棟生活の伏線にもなっている。

この最初のセクションで、私が一番印象に残った話は、(まだ元気だった頃に)妻が入院中、好きだった大判焼きを1個だけ買って行っては、食べさせていた...という「大判焼」の話。
この後に出てくる介護病棟の話のなかでは、その妻も亡くなり、自身が介護病棟に入院中、時たまおやつに大判焼が出てくる。1つの大判焼を、まず半分に割ってから、片方は自分の分、もう片方は亡くなった妻の分...と言って、食べていた。

次のセクションでは、認知症などで入院している高齢者病棟の看護士の視点から、病院での日常が綴られている。

病棟生活の部分は、多分にノンフィクション的。病院介護現場のことを知るにはとても参考になる。
訪問介護の方は、最近読んだ『無縁介護』(タイトルは、NHKの番組『無縁社会』をもじっている)というルポルタージュがリアル。独居高齢者の介護と孤独死の現実がよくわかる。

とても良いなあと思ったエピソードは、いわゆる”老いらくの恋”。
お互い伴侶に先立たれた高齢者同士の入院してたまたま出会ったのが縁でいろいろ身の上話をしていくうちに好意が芽生えてきて、結局、一緒に暮らすことになったというお話。

この『安楽病棟』で、最も驚きを覚えたのが、オランダの安楽死法とその実情を紹介した医師の講演録の章。
本の構成上、この話が挿入されているのには、唐突でトーンも異なり流れが不自然。この章だけが異質に思える。
でも、これがこの小説のテーマだったのだと、最後の方になってわかったので、これは重要な伏線だった。
この本は一応ミステリー仕立てなのらしいけれど、終盤になるまで全然気がつかなかった。
実際、ミステリーにしてはトーンが平板。終盤でようやく謎らしきものが現れてくるし、謎解きにしても、主人公の看護士が犯人を告発して、ようやく謎と犯人とが一緒に読者に明示されるという、(普通思い浮かべる)ミステリー小説とは言い難いところはある。
ノンフィクションノヴェルとでも思って読んだ方が自然に読める。

それにしても、いつの間にか、安楽死というのがこれほど積極的に実践されているとは、全然知らなかった。
オランダでは、認知症にも安楽死が適用された事例もある。
調べてみると、オランダ以外にも安楽死を法制化した国はいくつかあり、さらにスイスには外国人の自殺幇助を行う団体まで設立されている。

安楽死や自殺幇助が合法化された国々で起こっていること[WEBRONZA]
認知障害進んだ患者で初の安楽死、オランダ[AFPBB News,2011年11月10日]
「自殺幇助は合法」スイスの流儀~世界で最も進歩的な安楽死制度を支持し外国からの「自殺ツーリズム」も受け入れるスイス人の人権意識[ニューズウィーク日本版、2011年6月1日号]
「さまよう安楽死団体」[swissinfo.ch]


オランダの医療・介護・福祉制度に関する本はたくさん出ているけれど、タイトルがいささか衝撃的だったのは、後藤 猛『認知症の人が安楽死する国』。
内容は、オランダの医療・介護制度の解説が多く、内容もタイトルほどにはショッキングではない。
認知症の安楽死には、かなり厳しい条件が付されているので、実際の事例は極めて少ない。(認知症以外の安楽死のケースに関しては、稀というわけではない)
認知症の人が安楽死する国認知症の人が安楽死する国
(2012/10/25)
後藤 猛

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考えさせられます
親の介護に専念している方を何人か知っています。
つい最近も親の介護の為に会社を辞めた男性がいました。
勉強をし、真面目に仕事をし、地位を築きこれからというときに
親の為に辞める。まだ若く才能があるのに…。
お世話になった親の為とはいえ、今まで築き上げてきたものを捨ててしまうことに悲しくなってしまいます。
認知症の親だと、介護をする子にねぎらいの言葉もかけられない。
子供の顔もわかりませんからね。
社会の仕組みが何とかならないものかと考えてしまいます。
介護がリスクになる時代
Leaf Pie様、こんばんは。

長生きすればするほど、親の介護、自分自身の介護が”リスク”になる時代になりましたね。
私自身は親の介護リスクはありませんし、まわりに親の介護をしている人もいないので、そういう視点では読まなかったです。
それよりも、自分が認知症になったら(若年性アルツハイマー病というのもありますから)ということと、介護職の大変さ、それに安楽死問題について、考えるところがありました。

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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