帚木蓬生『閉鎖病棟』

『安楽病棟』の次に読んだのが、『閉鎖病棟』。
あらすじ紹介を読んだときは、病院内での殺人事件を軸にしたミステリーかと思っていたら、読んでみると全然違っていた。
『安楽病棟』と同じく、殺人事件が小説の軸ではなく、殺人事件に関わった人たちの生き方を淡々とした筆致で、共感を込めて描いたノンフィクションノヴェルのような話だった。
実際の殺人事件を題材にしたわけではないので、あくまでフィクションなのだけれど、登場人物の過去や病院内の生活の描写にかなりリアリティがあるので、ノンフィクション的に思えたのかもしれない。

構成や文体のスタイルは『安楽病棟』と似ている。
最初は、登場する主要人物の過去の話が順番に出てくる。
『安楽病棟』とは違うのは、看護士の眼を通して見た一人称ではなく、より客観的な三人称で語られていくところ。
その方が、登場人物の行動や内面描写が詳しく、人物造詣に深みが出て、私にはこの文体の方が読みやすいし、登場人物に共感しやすい。

閉鎖病棟 (新潮文庫)閉鎖病棟 (新潮文庫)
(1997/04/25)
帚木 蓬生

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『閉鎖病棟』というのは、精神病院特有の病棟。
精神病院というイメージに比べて、登場する患者たちの病院内での生活や言動に、それほど極端に病的なところが感じられない。
私には、『安楽病棟』に出てくる認知症患者の行動の方が風変わりに思えることもある。

ただし、登場する患者たちの過去は暗く思い。
精神的な病のために家族を殺してしまったり、家に放火したり、死刑執行が失敗して死に損なった死刑囚だったり。院内殺人に至る原因となった女子高生の話も痛々しい。
文体が描写的で淡々としているわりに、話の中身自体はかなり衝撃的。

『安楽病棟』の方は、介護者としての眼を通して書いているので、ワンクッションあるというか、フィルターをかけて読んでいるような感覚がある。
それに、介護士・看護士の苦労話とか、入院患者たちの奇矯な言動とかの話が、『閉鎖病棟』よりもずっと多いように思える。

両方に出てくるのは、患者たちが外でレクリエーションを楽しむ場面。
こういうシーンは、開放感があって、読んでいても楽しそうな情景が浮かんでくる。
『閉鎖病棟』の院内イベントで、患者たちが劇に出演する話は面白いのだけど、これは、出演した患者のクロさんが(後で)死んでしまう話の伏線になっている。
医師も登場するけれど(『安楽病棟』では安楽死を密かに実行している医師、『閉鎖病棟』で最後に登場する新任の女性医師)、患者達に比べると、存在感が薄い。

精神的に「異常な」患者たちに対して、チュウさんの「正常な」妹夫婦の金銭欲に憑りつかれた姿は見苦しい。
こういう親子兄弟の間の財産争いは世間でよくある話。一体どちらがモラリティが高いのか、道理があるのかは、読んでわかる通り。

『安楽病棟』の院内での安楽死事件と同じく、『閉鎖病棟』で院内殺人に至る話の流れは、いくぶん唐突な感じがしないでもない。
殺人事件後の話になると、チュウさんや秀丸さんは、それに、女子高生の島崎さんは、どうなるのだろうかと、気になってしまったくらいに、読ませるものがある。

最後は、過去に死に損なった場所である拘置所へと再び戻ってしまった秀丸さん。
それとは逆に、「閉鎖」された病棟から退院して、「開放」された自分の家で暮らす昭八さんとチュウさん。
それに、登校拒否状態から脱して看護学校に通い始めた島崎さんの話で締めくくられる。
秀丸さんが「重宗」を殺したことで、結果的に、チュウさんと島崎さんを救ったのだという結末になっている。

『安楽病棟』よりも『閉鎖病棟』の方が印象がはるかに強く、読んだ後にずっしりと重たく残るものがある。
第8回山本周五郎賞を受賞したのも納得できる内容の小説だった。


この小説は『いのちの海 Closed Ward』のタイトルで1999年に映画化されていた。
あらすじを読むと、ほぼ原作どおりの筋書き。
構成上、冒頭は殺人事件の裁判シーンで、そこから過去に遡って、院内の生活や殺人事件に絡む伏線などの話が展開するらしい。
私の知っている役者は少ないので、配役を見ても、ピンとこない人が多い。
「梶木秀丸」役の中村嘉葎雄は、キャラクター的にぴったりはまっているに違いない。
秀丸に殺されてしまう粗暴な「重宗」役は、安岡力也。これもぴったりかも。

タグ:帚木蓬生

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コメント

ご紹介ありがとうございます

紹介の文を読んで、いろいろ思うところがあり
早速購入しました。
衝撃を受けるところもあると思いますが読んでみようとおもいます。
ご紹介ありがとうございました。
(^v^)

良書だと思います

Leaf Pie様、こんにちは。

amazonのカスタマーレビューが非常に良い作品なので、大きく外れることはないと思います。
精神医学関係の本は学生時代から時々読んでいたので、少し以前から気になっていた本でした。
読んでみるといろいろ重たい話が出てくるのですが、淡々とした筆致で、読後感は意外なくらい爽やかでした。
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好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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