*All archives*



「ユダの福音書」(佐藤優『インテリジェンス人間論』より)
佐藤優『インテリジェンス人間論』の「ユダの福音書」の章は、キリスト教とは全く無縁の私でも、とても興味を惹かれる内容だった。

新約聖書がまとめられた経緯、そこでの「ユダの福音書」の位置づけ、「ユダの福音書」の要点、神学と一般信者との「ユダ」観の乖離、寛容・多元主義としてのキリスト教など、「ユダの福音書」を廻る話がいろんな角度から書かれている。(以下は、要点のメモ)

インテリジェンス人間論 (新潮文庫)インテリジェンス人間論 (新潮文庫)
(2010/10/28)
佐藤 優

商品詳細を見る



(キリスト教における「ユダの福音書」の位置づけ)
筆者の見解では、キリスト教神学の世界では今世紀最大の発見。
その影響が実際に神学の世界に現れるのは、20~40年くらいの時間が必要。
新約聖書に含まれるのは27文書。
編纂当時には、他にも複数の文書が存在していたが、それらは除外され「偽典」とされてきた。この「ユダの福音書」もそれに含まれる。


(キリスト教における正統と異端の違い)
「正統」と「異端」の違いは、”使徒性”で、使徒に遡ること=確実なキリスト証言であるということ。
ところが、確実なキリスト証言であると確定することは、ほぼ不可能。
聖書学者が100年にわたって研究した結果、紀元前1世紀にイエスという人物がいたことも、いなかったことも、客観的には証明できないという結論になってしまった。
この結論により、多くの神学者が無心論者に転向した。(フォイエルバッハなど)
ただし、当時イエス・キリストを神の子であり救い主と確信した集団があったことは確か。
その教義を研究した神学者たちが、キリスト教神学を形成していった。


(キリスト教神学と信者のユダ観の乖離)
学術的神学と一般信者のキリスト教観の間には、簡単に埋まらない溝がある。
神学と信者の間ではユダの位置づけが大きく異なる。
ユダという言葉自体が忌み嫌われているが、神学の世界ではユダは単なる裏切者とはされていない。
神学者カール・バルトのユダ像は、「ユダの福音書」の内容と驚くほど整合性がある。
バルトは、ユダが使徒の一人であり、実は神によって特別に選ばれたものであると論じている。
ユダの裏切りによって、結果的にイエスが救い主だということが認識されるようになったのだから、ユダの裏切りは神の意志に適っていたと説いている。

「ユダの福音書」のユダ像も、最も誠実なイエスの友人であり弟子である。
官憲へイエスを引き渡すという大きな犠牲を求められたのがユダであり、しかもそれを要求したのがイエス自身。
イエスの一番弟子のペテロと他の弟子たちも、結局はイエスを裏切った。
つまり、ユダの裏切りは、12使徒=キリスト教徒全体を代表して行われたものということになる。


(グノーシス主義と正統派教会の教義の違い)
「ユダの福音書」はグノーシス主義の系統に属する。
グノーシス主義では、救済を得るためには、思索・瞑想が必要だという学識を重視する教義。
正統派教会は、洗礼と聖餐(キリストの肉であるパン、血であるワインを飲む儀式)という原理原則。(その方が布教しやすい)
キリスト教は知識に対する不信が大きいという基本的性格を持つ。


(一元主義と多元主義、寛容性)
キリスト教の主流であるカトリシズム、プロテスタンティズム、正教は、エイレナイオスの流れを引いている。
エイレナイオスの方法論は、キリスト教世界の中で敵と味方の線を引き、敵を殲滅することで問題の解決を図る。そのため、宗教戦争が絶えなかった。

「ユダの福音書」には、キリスト教は本来、ユダの裏切りさえ許容する寛容性を持ち、多様な価値観を受け入れる性格があること、一元主義が神の意志とは異なり、イエス・キリストが多元性と寛容を説いていたことを示している。



<参考情報(ナショナルジオグラフィック・ホームページ)>

「特集 ユダの福音書」[ナショナルジオグラフィック]
ニュース:1700年前のパピルス文書『ユダの福音書』を修復・公開、ユダに関する新説を提示
「ユダの福音書」の持つ意味[ナショナルジオグラフィック ニューJune 27, 2011]

『ユダの福音書イエスと”裏切り者”の密約』(DVD)
再現ドラマを交えたドキュメンタリー。紹介映像

ナショナル ジオグラフィック[DVD] ユダの福音書 (<DVD>)ナショナル ジオグラフィック[DVD] ユダの福音書 ()
(2006/07/05)
ナショナル ジオグラフィック

商品詳細を見る



『ユダの福音書を追え』
「ユダの福音書」を再現しようとする学者たちと、その解釈に関するノンフィクション。今、ちょうど読んでいるところ。

ユダの福音書を追えユダの福音書を追え
(2006/04/29)
ハーバート・クロスニー

商品詳細を見る


『原典 ユダの福音書』
原典 ユダの福音書原典 ユダの福音書
(2006/06/02)
ロドルフ・カッセル、 他

商品詳細を見る


tag : 佐藤優 伝記・評論

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

No title
yoshimiさん、こんにちは

「ユダの福音書」が発見されていたのですか。初めて知りました。新訳聖書の福音書が沢山ある中の一部であること、また、例えば、マタイの福音書と言っても、実際はマタイが生きていた時よりかなり後に書かれたことは知っていましたが、まさか、ユダの福音書があったなんて思ってもみませんでした。

私は宗教については興味がないので、教義についてはよくわかりませんが、沢山の福音書があったと言うは、仏教でも、釈迦の言葉集以外に、色々なお経があるのと同じようなことなのでしょうね。
世紀の大発見なのかも
matsumo様、こんばんは。

私も佐藤さんの本を読んでいて、初めて知りました。
「ユダの福音書」の内容がほぼ事実だとすれば、天地が逆転するようなコペルニクス的大転回なのでしょうね。
でも、これが定説化するにはかなり長い時間がかかるそうなので、当分は従来のユダ像が変わることはないようです。

聖書をめぐって話題になった文書といえば、「死海文書」や「ダ・ヴィンチ・コード」が思い浮かびました。(「薔薇の名前」は、聖書とは直接関係はなかったような記憶があります)
仏教経典では、そういう話は出てこないですね。
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。