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児玉桃『impressions ~ ドビュッシー作品集』
最近とても興味を魅かれているピアニストは児玉桃さん。
『IMPRESSIONS』は、今まで聴いたなかでは、特に素晴らしく思えるくらいに気にいったドビュッシー作品集。
国内外と問わず、CDコレクターをしたいほどに興味を魅かれる”女性”ピアニストというと、マリア・ユーディナくらいだったので、私にしては女性ピアニストに興味を持つこと自体珍しい。
その理由を考えて見ると、女性ピアニストにありがちな”女性らしい繊細さ”に寄りかかることも、情緒過剰気味のところもなく、考え抜かれた音色・ソノリティの選択と演奏解釈を通して、奇抜ではなくとも個性的。
どういうドビュッシーを弾きたいのかがはっきりわかる。

明晰な音と色彩感・ソノリティの多彩さ、自由に移り変わるテンポ、一音一音にニュアンスに篭もったような表情の豊かさは、今まで聴いたドビュッシー録音のなかでもかなり際立っている。
個性的なドビュッシー録音といえば、フランク・ブラレイの「ドビュッシー・ラヴェル作品集」。(偶然にもアルバムタイトルが同じく『IMPRESSIONS』)
ブラレイの場合は音の色彩感と大胆な強弱のコントラストがかなりのインパクト。
そのブラレイと並ぶくらいに、表現もニュアンスも豊かではあるけれど、強弱のコントラストを強調するのではなく、音の色彩感と特にソノリティの多彩さで、万華鏡のように表現がカラフルに変化する。
フレーズ内での起伏の変化が大きく、テンポも微妙にコロコロと変化するのに、フレージングがとても滑らかなので音楽の流れに違和感がない。
とりわけ魅かれるのが和声の響き。和声感覚が独特というのか、長短・硬軟のソノリティの重ね方がかなり凝っている。他のピアニストでは聴けないような響きが新鮮。
それに、右手と左手のタッチがかなり違うので、まるで2人のピアニストが弾いているような立体感を感じるのも面白い。
リズム感も良くて、どこか軽妙でエスプリを感じさせる。
ペダリングが上手く、録音環境・方法も良い(と思う)ので、ペダルを多用して残響も長いのに、和声の響きが混濁することなく、一音一音が明瞭に聴こえる。

幼少の頃から欧州で育ち、今もパリで暮らしているせいか、ドビュッシー(やフランス音楽)に対して、日本生まれの日本育ちの日本人とは違った皮膚感覚的な何かを身につけているのかも。

彼女が得意とするのはメシアン。《みどり児イエスにそそぐ20の眼差し》も、試聴した時にかなり良かったので、注文ずみ。
数日前にリリースされた最新録音は、ECM盤《鐘の谷~ラヴェル、武満、メシアン:ピアノ作品集》。
試聴したところ、興味を惹かれるのは、メシアンの《ニワムシクイ》、苦手の武満徹《雨の樹素描》。ラヴェルは私のイメージとはちょっと違うかも。
ショパンアルバムの方は、試聴したところ、今まで聴いた録音とは一風違っている気がする。(そもそもショパンはほとんど聴かないので、よくわからない)

ドビュッシー作品集ドビュッシー作品集
(2008/01/23)
児玉桃

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このアルバムで一番面白く聴けたのが、《子供の領分》。
ピアノのレッスンで弾いたこともあるので馴染みのあるわりに、今まで何度聴いても全然好きになれない。
児玉桃のピアノで聴くと、今まで聴いたことがないと思うような面白さ。
視覚喚起力が強く、想像力を刺激する”イマジナティブ”でもあり、ピアノで物語るような”ナレーティブ”でもあるので、”曲が好き”というよりも、”演奏”が好きなのだと思う。

メカニカルなパッセージが続く「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」は、単調さが全くなく、多彩なソノリティが美しく華麗。
特に、面白かったのは、2曲目の「象の子守歌」。
この曲は、遅い(というよりノロい)テンポで音価が長い音符が続くので、いつもは退屈してしまう。
彼女の演奏は、テンポの移り変わりとフレージングの語り口が上手く、不思議と音自体に面白みが篭もっていて、本当に子象が眠って夢を見ている雰囲気がいっぱい。
「人形へのセレナード」は可愛らしい人形の姿が浮かんで来るようだし、「雪が踊っている」の躍動感は、シンシンと降り注ぐ雪が意志をもっていて踊っているよう。
まるでピアノが子供たちに物語りを話して聞かせているようなわかりやすさと面白さで、このアルバムでは一番聴いていて楽しい曲集。

《子供の領分》よりも華麗で豊かな響きと表現の《ベルガマスク組曲》も素敵。
「前奏曲」は、華麗さとほのかに漂う哀感が美しく交錯するし、標題音楽ではないけれど、とても詩的。
「メヌエット」と「パスピエ」は、軽妙さと華やかさが入り混じって、楽しげで、品の良い美しさ。
「月の光」は、静けさのなかに温もりのある響きは、春の月夜のように明るく心地良い。

「仮面」は、全集録音くらいでしか聴いたことがないので、あまり記憶になかった曲。(ピティナの作品解説)
ラヴェルの「道化師の朝の歌」とか、スペイン風の音楽を連想させるようにパッショネイト。
スペイン風の「グラナダの夕べ」はあまり好きではないけれど、この「仮面」はスタッカートのオスティナートの旋律とリズムがとっても面白い。
それに、曲半ばでなぜか東洋風(に私には思える)のアルペジオが出てきたり、(たぶん)前奏曲「夕べの大気に漂う音と香り」のような厳めしい低音が響いたり、他にもドビュッシーらしい旋律がたくさん。


これはチッコリーニの「仮面」。
Aldo Ciccolini plays Debussy (vaimusic.com)



《版画》の「パゴダ」は荘重華麗で幻想的。
この曲もタッチやソノリティが多彩に変化して、柔らかいレガートなフレーズがファンタスティックに響き、低音は厳めしく荘重で、まるでお伽噺の竜宮城のようなお城が目の前に立ち現れてきたような臨場感。
「雨の庭」は、冒頭のスタッカートのパッセージはやや軽い感じがするけれど、タッチと響きの変化で庭に降り注ぐ雨足が変わる様子や、それに連れて庭の表情も移り変わっていく情景を見ているかのよう。

「喜びの島」は、青柳いづみこさんの解説「恋の喜びとエロスの充満─ドビュッシー《喜びの島》」(特集 音楽に恋愛を聴く/「音楽の友」2004年12月号)を読むと、曲のイメージがずっと膨らむ。
この曲は標題のごとく”喜び”に満ちている曲。冒頭は小鳥のさえずりで目覚めるように始まり、気持ちの浮き立つ旅立ちの爽やかな雰囲気から、終盤は”喜び”が爆発したようにダイナミック。

児玉桃が弾くドビュッシーは、何度聴いても飽きることがないくらいに、とっても気に入ってしまった。
《前奏曲》や《映像》など他のドビュッシー作品も聴きたくなってくる。そのうち録音してくれれば嬉しいのだけど。

<収録曲>
《子供の領分》
 1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士
 2.象の子守歌
 3.人形へのセレナード
 4.雪が踊っている
 5.小さな羊飼い
 6.ゴリウォーグのケーク・ウォーク
《2つのアラベスク》
 1.Andantino con moto
 2.Allegretto Scherzando
《ベルガマスク組曲》
 1.前奏曲
 2.メヌエット
 3.月の光
 4.パスピエ
「仮面」
「スケッチ帳より」
《版画》
 1.塔
 2.グラナダの夕べ
 3.雨の庭
「レントよりも遅く」
「喜びの島」



<関連情報>
MOMO KODAMA(英文サイト)
演奏・インタビュー映像集
アーティスト情報[KAJIMOTO]

tag : ドビュッシー 児玉桃

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(非公開コメント受付中)

いいですね
このドビュッシー本当にいいですね。MP3で日本のアマゾンだと全曲2400円なのがアメリカだと8.99ドルなのでつい買ってしまいました。いつもいい音楽をありがとうございます。
知名度は高くないのですが
Kaz様、こんばんは。

児玉桃さんは日本国内でもさほど有名ではないようですが、メシアン録音は定評がありますし、このドビュッシーも良いですね!
同じ印象の方がいらして、嬉しいです。
名だたる名盤に引けをとらないくらい良いのでは...と思えます。
少なくとも、私の波長に一番ぴったり合っていました。

日本国外では、MP3が安いですし、それにつられて新譜以外のCDもかなり値下がりしてますね。
日本ではMP3を買うメリットがほとんどないので、たいてい輸入版のCDを買ってます。
一部のCDは、Naxos系列のClassicsonlineを使えば、日本からでもかなり安くMP3をダウンロードできるので、たまに使ってます。
児玉桃さん
こんにちは!

一年半くらい前かな、姉の麻里さんと桃さんのピアノデュオをびわ湖ホールに聴きに行きました。

麻里さんはベートーヴェン、桃さんはドビュッシー、二人でストラヴィンスキーの春の祭典を演奏されました。

桃さんは「月の光」「水の反映」「運動」の三曲を演奏されました。とても美しくて、ドビュッシー再発見!でした。ドビュッシーの作品は、とにかく生演奏に限ると思っていますが、桃さんの演奏だったから、より一層綺麗!と思ったのかな。
ドビュッシーとメシアンはいいですね
Tea316さん、こんばんは。

そういえば、ご夫婦か姉妹(ラベック、ペキネル姉妹とか)で有名なデュオは結構ありますね。兄弟デュオはすぐには思い出せませんが..。
ディスコグラフィやコンサートプログラムを見ると、桃さんと麻里さんのレパートリーはかなり違うようですね。

桃さんはソノリティが特に美しいので、音響の良いホールなら、ドビュッシーはとてもよく映えると思います。
「水の反映」「運動」は録音されていないので、そのうちドビュッシーの全集録音を出して欲しいものです。

調べてみると、埼玉でメシアン・プロジェクトというシリーズものの演奏会が数年前にありました。
メシアン作品のレクチャーコンサートや麻里さんとデュオで《アーメンの幻影》を弾いたりと、面白い企画でした。
この種の企画(特に現代音楽もの)は、首都圏でないとなかなか聴けないのが残念。
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2008/m0913.html
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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