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武満徹/弦楽のためのレクイエム、精霊の庭
昔はさっぱり受け付けなかった武満作品も、今ではピアノ作品は普通に聴けるようになったし、普段はあまり聴かない管弦楽曲や室内楽曲も少しづつ聴いているところ。
そうすると、好きな曲は追悼曲として書かれた曲が多いのに気がついた。
ピアノ独奏曲では、《リタニ-》(マイケル・ヴァイナーの追憶に)、《閉じた眼》(瀧口修造の追憶に)、《雨の樹素描》(メシアンへの追憶に)、管弦楽曲では《弦楽のためのレクイエム》、《ノスタルジア》(アンドレイ・タルコフスキーの追憶に)。
追悼曲というタイトルはついていないけれど、ヴァイオリン&ピアノのデュオ《悲歌》やも曲想としては追悼曲に似ている。
追悼曲は、他作品と比べて感情的なものが込められているせいか、旋律が叙情的で比較的わかりやすく、聴きなれてしまうと普通に聴けるし、ロマン派の感情の横溢した曲よりも、陰鬱さが漂う抑制された叙情感の方が逆にシンクロしやすくも感じる。

追悼曲ではないけれど、いろいろ聴いてみると、管弦楽曲のなかでは《精霊の庭》も惹かれる曲。
どうやら演奏時間が長い曲を最後まで聴きとおすには、私の集中力が続かないので、10分前後くらいの曲が私には一番聴きやすいみたい。

「音楽を作る時に形というもの(ソナタとかロンドなどのの形式、主題とか展開とか)には興味がない。心理的に音を聴いて、それで必ずしも視覚とは言わないけれど、心象的なものを作りたい。」という趣旨のことを武満自身言っている。

そういう主題や展開がなくて形式的な自由度の高い音楽なので、ピアノ作品ならそれでも結構聴けるのだけれど、もともとあまり聴かない管弦楽曲になると、長時間聴くのは私にはかなり疲れるものがある。
形式・構造を追わずに、旋律が流れるままに、美しい音の色彩感と和声の響きに心をゆだねるように聴けがよいのかも。


弦楽のためのレクイエム
《弦楽のためのレクイエム》の有名なエピソード。
1959年に来日中のストラヴィンスキーが、日本の現代音楽のテープをNHKの放送局でいろいろ聴いていたという。
あとの記者会見で、特に印象に残った曲としてこの《弦楽のためのレクイエム》をあげた。ストラヴィンスキーがこのレクイエムを評した言葉は、”実に厳しい”。
ストラヴィンスキーから武満徹に、会いたいという申し出があり、ストラヴィンスキーが滞在しているホテルへ夫人と一緒に訪問した。同席していたドナルド・リーチが通訳してくれたそう。
武満徹は、回想でもストラヴィンスキーに大変感謝していると言っている。
日本の楽壇ではほとんど認められていなかったので、かの世界的に有名な作曲家が評価してくれたのだから、天にも昇るほど嬉しかったに違いない。
これがきっかけで、武満作品がアメリカで演奏されるようになり、海外での知名度と評価が上がっていった。

武満徹:弦楽のためのレクイエム
若杉弘指揮読売日本交響楽団


調性音楽のような甘美で悲壮なレクイエムの雰囲気とは違って、陰鬱なトーンの旋律と和声で覆われている。
私の好きな《ノスタルジア~アンドレイ・タルコフスキーの追憶に》に少し似た感じはするけれど、《ノスタルジア》の方が、緩やかな起伏で瞑想的・モノローグ的な静けさが漂っている。
《弦楽のためのレクイエム》は、全編にわたってぎりぎりと突き詰めていくような緊張感が張りつめ、強い悲愴感が貫かれているように感じる。
4:30くらいで、悲痛さが噴出したように激情的な旋律が急に出てくるし、幾層にも重なる旋律と和声お響きは濃密で重苦しい。
不思議なくらいに、旋律とか展開を意識して追わなくても、最後まで集中力が途切れることなく、引き込まれるように聴き続けてしまう。
これほど強い印象を受けた現代音楽のレクイエムといえば、吉松隆の《朱鷺によせる哀歌》を思い出した。


この曲の作品解説と構造分析は、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」考[鎌倉スイス日記] がわかりやすい。
武満作品の演奏というと、小澤征爾が指揮した録音がよく聴かれているのかもしれないけれど、記事中で紹介されている録音は、若杉弘指揮東京都交響楽団の演奏(DENON盤)。
小澤盤・若杉盤ともCDを持っているので、一度しっかり聴き比べてみれば、その違いが実感できそう。

武満徹:管弦楽作品集-1「ノヴェンバー・ステップス」/「弦楽のためのレクイエム」、他武満徹:管弦楽作品集-1「ノヴェンバー・ステップス」/「弦楽のためのレクイエム」、他
(2009/01/21)
東京都交響楽団 若杉弘

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精霊の庭
精霊の庭》を聴いていると、タイトルから連想したせいか、京都の神社仏閣にある日本庭園を思い浮かべていたけれど、この曲のイメージの源泉は、古川町という町らしい。
この曲について、武満自身はこう書いていた。

「いま私は、岐阜の美しい町、古川町からの委嘱で、久しぶりに日本のオーケストラのために、この夏初演される曲を書いている。古川の自然や、あの町の人々の優雅な生活(暮らし)のたたずまいを思うと、小手先細工のようなものだけは作りたくない。古川町の春の祭りに鳴らされる太鼓の深い響きは、意義を正した古老のような人格を具えているように感じられる。あの響きの中から聞きとれるものを、少しでも聴き出せたらいいのだが、それにはまだ訓練が足りないようだ。曲の題(タイトル)は、Spirit Garden(精霊の庭)とした。」(「音、それは個体のない自然」より/『時間の園丁』収録)

Toru Takemitsu - Spirit Garden (1994)


タイトルどおり、超自然的な何かが蠢いているような神秘的な雰囲気が漂い、不可思議で不気味なオドロオドロしさもあって畏敬の念のようなものを感じてしまう。
オーケストラ作品なので、《弦楽のためのレクイエム》よりも、響きが多彩で色彩感がカラフル。
ホルン(?)が時折、突然鳴らすアルペジオのフレーズが威圧的で恐ろしげ。
ハープの響きが妖精みたいに幻想的。
なぜかフルートの音が尺八のように聴こえる。
似たような音型が何度も繰り返し形を変えて出てくるので、主要なモチーフはあるのだろうけれど、形式性がどの程度あるのかは私にはわからない。
そういうことを考えて聴くとわけがわからなくなるので、何も考えずに音の流れのままにひたすら聴くのが良さそう。

<追記>
CDのブックレットには、武満自身の解説が載っていた。
武満自身の解説を読むと、ようやく標題の意味と作曲意図がわかった。

「Spoirit Garden」(精霊の庭)という題を附したのは、この作品が委嘱された飛騨古川国際音楽祭の本拠である、岐阜、古川町の侵し難い品格を具えた、聖なる空間の暗喩としてである。が、それと同時に、作品の構造とも、密接な、関りを持つ。
 曲は、12の音からなる音列を基に、それから得た、それぞれ四音から成る3つの和音を素材としている。3つの和音は、音色的変化を作って(或る場合は拡大されたり、また縮小されたて)、音楽的庭園を構築する基礎として、常に、作品の底流に響いている。
 その庭園に配置される音響的デザイン(或る場合はそれは旋律であり、また音色構造としての断片である場合もある)は、すべて基本素材から派生したもので、それによってコスモロジカルな(音楽的)統一感を意図している。庭園を回遊する視点の変化によって、庭に配置された(音響)オブジェもその貌(すがた)を変える。
「Spoirit Garden」(精霊の庭)は標題音楽ではない。オーケストラ的色彩と、旋律に関する、現在の、私なりの試みであり、論究である。


武満自身は「標題音楽」ではない言っているけれど、「聖なる空間の暗喩」という意味では、超自然的なものを感じるのも間違いではないかも。

tag : 武満徹

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武満作品
こんにちは。
ご紹介の、若杉指揮都響の武満のCDを持っています。なかでは「ヴィジョンズ」という作品が印象的です。たぶん、持っている武満のCDはこれだけだったかと。。
武満、音楽もよいですが、髪型にも惹かれます。
音楽は体を表すが如く
ポンコツスクーター様、こんにちは。

「弦楽のためのレクイエム」ばかり聴いていたので、「ヴィジョンズ」はしっかり聴いていませんでしたが、摩訶不思議な感じがした記憶があります。(武満作品にはそういう曲が多いですが)

彼のヘアスタイルは、細面の顔と細身の体と、さらに黒い詰襟の服と相まって、ぴたっと決まってますね。
文章も彼の音楽と外見を感じさせるような、繊細な美しさを感じます。
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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