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スティーヴン・ハフ ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番&第2番
発売予定日が繰り上がって、1週間以上早く届いたハフの新譜『ブラームス:ピアノ協奏曲集』。

最初に全曲聴いた感想は、私の好みとはちょっと違う優美で繊細な叙情感漂うブラームス。
最も好きなカッチェンの録音は、構造堅牢で力感豊かで男性的な演奏なので、そういうものを期待していると、最初に聴いたときはどうももう一つしっくりこないし、よくわからない...。
特に、緩急の変化がかなり大きく、時々リタルダンドでテンポが異様に遅くなる。急速部もアッチェレランドせずに安定したテンポでしっかり打鍵していくので、急迫感があまり出てこない。
(それに、残響が多い録り方のせいか、音が煙幕のように広がって音がごちゃごちゃしてクリアに聴こえないので、好みとしてはもっとすっきりした響きで聴きたい。)

ちょっと波長が合わないところがあるので、耳の慣れの問題もあろうかと何回か聴き直してみると、ボリュームをかなり上げればピアノの音がしっかりと聴こえて力感・量感・迫力も増し、印象が格段に良くなった。
それに、ソコロフのかなり大胆な表現の個性的なブラームスのライブ演奏や、ゆったりしたテンポで情感豊かなアラウのEMI盤を何度も聴いた後だったので、ハフの演奏にも耳が慣れたせいかもしれない。

Piano Concertos Nos.1 & 2Piano Concertos Nos.1 & 2
(2013/12/10)
Stephen Hough (piano), Mozarteumorchester Salzburg, Mark Wigglesworth (conductor)

試聴ファイル(hyperion)
英国amazonサイトのCDレビューは、さすがにイギリスで大人気のハフだけあって、高評価。

hyperionのホームページで、12月リリース予定のアルバムのサンプラーが無料ダウンロードできる。
収録されているのは、各CDの収録曲の一部(または一曲)。
ハフの新譜は、ピアノ協奏曲第2番第4楽章の一部(4'26)を収録。
Hyperion monthly sampler – December 2013

第1番、第2番とも、表現の奥行きや彫りの深さは、若い頃の旧盤の演奏とは全然違う。
ハフの洗練されたタッチから生まれる硬質で澄んだ色彩感のある音色、それに繊細なニュアンスのソノリティがとても美しくて、魅惑的。特に弱音の繊細さと美しさにはうっとりするくらい。
テンポとディナーミクの変化も細部まで細やか。弱音部の深い静けさとテンポ設定はかなり独特。
緩急の変化がかなり大きく、特に印象的なのは、緩徐部から急速部へ移行するときに、大きくテンポを落としてディミヌエンドしていき、静止したような”間”をとるところ。
旧盤の急速部では、速いテンポで鋭く力強いタッチが疾風怒涛のような雰囲気で、性急で直線的すぎるように思えたところもあった。
特に、第1番の急速楽章は、再録音の方がテンポが若干遅くなり、昔のような性急さも直線的な単調さがなくなっている。
それは良かったのだけど、逆に、力感や疾走感が抑えられて、盛り上がりや白熱感、急迫感が薄くなっているところはある。
第2番は、旧盤でかなり冗長さを感じた第1楽章のテンポ(特に冒頭部分)が若干上がって、もっさり感が大分解消されている。(それでもテンポは遅めだと思うけど)
2曲とも、力強さと拮抗するくらいに、曲の中に込められた内面の繊細な感情を強く表現しようとしたような気がする。

<録音時間>
旧盤:(No.1)22:27/14:19/11:56 (No.2)19:00/9:03/13:09/9:44
新盤:(No.1)22:53/13:28/12:41 (No.2)18:19/9:10/11:52/9:30



<第1番>
疾風怒濤的な激情よりも、若いブラームスの脆く儚い繊細な内面を強く表現しているように思えるくらいに、美しい叙情感がとても印象的。
第1楽章冒頭は、かなり精悍できびきびと引き締まったオケのトゥッティ。音がシャープで力感はあっても、響きの厚みがそれほどないので、すっきりと風通しの良い感じ。
ハフのピアノが始まると、線がやや細くて澄んだ音色がとても綺麗。テンポや強弱にかかわらず、打鍵は精密で丁寧。
特に弱音は柔らかく儚いような繊細さがあり、弱音部でリタルダンドすることが多く、静寂で内面に沈潜していくような内省的な雰囲気が漂うところは、この曲にしては珍しいかも。(私にはちょっとメロウ過ぎてもたれるけれど)
弱音部分に対して、テンポと強弱に強いコントラストをつけた強奏部分では、速いテンポと力強い打鍵で、力感豊か。
特に、終盤20分台の弱音部から強奏部へと移行していく部分は、かなりゆっくりとテンポを落としてゆき、フェードアウトするように静止して、一瞬”間”をとり、それから、急に覚醒するようにテンポを上げて駆け上がっていく。
緩急・静動のコントラストが鮮やかで、ドラマティックな効果があってとても印象的。

第2楽章は、ハフにしてはかなりゆったりとしたテンポのadagio。
儚い憧れ、夢想、甘美でほろ苦くもあるもろもろの感情を込めたような弱音と静寂さがとても美しい。
こんなに叙情的なピアノを弾く人だとは思わなかったくらい。

第3楽章は、旧盤のような疾風怒濤のような力強く直線的な演奏とはすっかり変わっていて、ハフがなぜ再録音したのかよくわかる。
強奏部は、強打しすぎず丁寧なタッチで、テンポもそれほど速くならないので、力強さや鋭い急迫感はちょっと弱く感じる。
逆に、弱音部はとても柔らかな音とフレージングで叙情美しく、終盤のカデンツァも色彩感の綺麗な音色で優美さが漂っている。
この楽章は、最初聴いたときは私の好みとはかなり違っていて、もうひとつシンクロできなくて不完全燃焼気味。
でも、CDレビューで、”間接音が多くて、遠くで鳴っているように聴こえる。かなり大音量で聴かないと演奏の良さが伝わって来ない録音”と書いてあったので、いつもよりもボリュームを上げてヘッドフォンで聴いてみると、ほんとに不思議なことに印象が変わる。
疾風怒濤的でないのは変わらないけれど、打鍵したピアノの音の芯がしっかりして鋭さと力感が増し、繊細さと優美さに加えて、堂々としたスケール感も出てきて、私が聴きたかったハフらしいブラームス。



<第2番>
第1番とは違って、第2番の方は好みとかなり違う...というほどでもなかったので一安心。
第1楽章は、試聴したときと同じく、テンポはやっぱり遅め。若いときはさらに遅かったので、そういう演奏解釈なのだろう。
重たい和音のパッセージでも音が濁らず、フォルテもやや粘りのあるリズムで全ての音を鳴らすように力強い。
弱音のパッセージの音は蝶が舞うような軽やかで、第1楽章は弱音部の優美さが印象的。(好みとしてはもっと速いテンポの演奏が好きなんだけど..)

第2楽章以降は、私には文句のつけどころのないくらいに素晴らしく良くて。
第2楽章はテンポも上がって、打鍵の切れ良く、テンションも高くてかなりパッショネイト。
流麗な叙情感も美しく、特に、トレモロやそれに続く高音の弱音は、内面でつぶやくようなニュアンスの儚げな響きが独特。

Andanteの第3楽章は、ハフの洗練されたタッチの美しさがとてもよく映えている。
柔らかく淡い音色と響きは、木漏れ陽が差し込む森の中に佇んでいるような静けさ。
細かく速いパッセージが静かに激しくかき鳴らされると、時折木々がざわめくようでもあり、内面で激しい感情が沸き立っているようにも思える。
特に、中盤のチェロ独奏に入る直前(6分あたり~)のピアノソロがとても素敵。静かで柔らかな響きは、激しく高ぶっていた感情が穏やかになり、心地よい疲れで眠りに落ちるかのよう。

第4楽章はテンポはやや遅め。軽やかではあっても、落ち着いたタッチでいくぶん優雅な感じもする。
ノンレガートがかったフレーズがちょっとユーモラスだったり、トレックするような足取りや蝶が舞うような動きを連想したり、多彩に変化するリズム感やフレージングを聴くのが面白くて楽しめた楽章。

ハフが20年以上前に録音した旧録を聴き直してみると、再録音ははるかに深化しているのがよくわかる。
よく練られたアーティキュレーションは、タッチ・リズム・テンポ・ディナーミクから音色・ソノリティまで、変化が多彩。
ハフの切れの良い技巧と色彩感と残響の美しい音色が相まって繊細で優美な叙情感は、カッチェンとアラウのブラームスと同じくらいに気に入って、マイベストの一つになるブラームスだった。

tag : ブラームス スティーヴン・ハフ

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ハフのブラームス
こんにちは!

実はまだ購入してません。
グリモーの2番があまりにもショックで(笑う)、彼女の1番は好きでたまに聴きますが、今はちょっとブラームスのピアノ協奏曲は食傷気味になっています。

ハフも期待しているだけに、もし自分の好みに合わなければ大ショックだし(爆)。

yoshimiさんは、期待以上に素晴らしかったと仰っているので、食傷気味が解消されたら考えようかな~と思っています。
好みが分かれそうです
Tea316さん、こんばんは。

私は、すっかりブラームスモードに入ってしまったので、技術的にそれほどひどくない限り、許容範囲がかなり広くなってます。
今年中に、ソコロフとポリーニのブラームスについて、記事を書こうかと。正反対のタイプの演奏なんですが、どちらも好きなんですよね~。

ハフの叙情表現は、グリモーよりも深く繊細だと思いますが、グリモーのような主情的なものは感じないので、私は大丈夫でした。
ただし、私はハフに対しては、プラス方向のバイアスがかかっているので、私のコメントはあまり信じない方が良いかも。(タッチの丁寧さ、音の美しさ、技巧的な安定度については、間違いないです)
特にテンポ設定と弱音部の表現は、かなり好みが分かれるはずです。
ハフのブラームスには、かなりもたれそうなところはあるので、またブラームスが聴きたくなるまで待つのが良さそうですね。
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
お返事です
おはようございます。

>細やか過ぎて(?)ちょっと疲れる演奏かな?
というのは、全くその通り。もたれてしまう人も多いような気がします。
私も最初聴いたときは、う~ん..という感じでしたが、すぐに慣れることができたのは運が良かったかも。
慣れと好みは個人差が随分あるので、一度全部聴いてみるのが一番です。
急いで聴かなくても大丈夫ですから、その気になったときにでも聴いてくださいね。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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