『鎮魂のソナタ』

件の代作騒動もひとまずほとぼりが冷めてきたようではあるけれど、オンラインショップでCDが販売中止になっているのは相変わらず。
渦中の作品《交響曲第1番》はニコニコ動画サイトで全曲聴いたけれど、これはCD買うほど好きではなかったので、結局購入せず。(第3楽章の盛り上がり方とエンディングのコラールは良かったけれど)
室内楽曲の方は、試聴した限りでは、好きなタイプの曲がたくさんあったので、『シャコンヌ』とこの『鎮魂のソナタ』の両方をヤフオクで購入。(前者はほぼ定価、後者は定価よりも若干安かった)

佐村河内守/新垣隆『鎮魂のソナタ』佐村河内守/新垣隆『鎮魂のソナタ』
(2012/11/14)
ソン・ヨルム

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<収録曲>
ドレンテ~子どものために~
ピアノ・ソナタ第1番
ピアノ・ソナタ第2番

CDのブックレットの解説は、今になって読むと、表面上の作曲者S氏の言動を紹介しているところが、かなり笑える。
作品解説自体は、音楽評論家が曲のモチーフとか構成とかを書いているので、誰が作曲者であろうとそう変わるものではないだろうし、かなり詳しく書かれている。(でも、第2番の解説は表まで書いていて、そんなに詳しく解説せずとも良いのに..と思うけど)

ドレンテ ~子供のために~
作曲者の新垣隆氏は、前衛的・実験的な作風が本流と自ら語っている。
でも、書こうと思えば、ロマンティックな曲の書き方のツボを押さえたこんなに美しい曲も書けるくらいなので、かなり器用な人だと思えるくらい。

スタジオ録音の音源がないので、これは「chopinist100」というアカウントのピアノサークル団体さんが公開している動画。
演奏者はアマチュアの方だけれど、ミスタッチもなく、この曲の美しさを味わうには充分。

ドレンテ ~子供のために~



ピアノ・ソナタ第2番
このCDを聴く目的は、このソナタ。現代的なところはあっても、前衛性は希薄で聴きやすい曲。
40分近くある長大なソナタ。曲想がころころ変化しているので、この長さのわりに飽きずに聴ける。
私が感じた限りでは、第1楽章は後期ロマン派のような叙情性があり、技巧華やか。
ショパンの影響が濃厚なスクリャービン前期(ピアノ・ソナタ第3番あたりまで)、リスト的な華やかでダイナミックな超絶技巧、シマノフスキの幻想性、リゲティの(ジャジーな)エチュードなどの作風を融合させたような感じがする。
ところどころ、たぶんショパンの作品の旋律(プレリュードかエチュード?どの曲か思い出せない...)が使われているので、ショパンへのオマージュみたいなところもあるのも。

第2楽章は、音も随分少なくなって、モノローグのように内省的。これは第1楽章よりも現代風な曲想。
右手が単音で弾く星がまたたくようなパッセージとかを聴いていると、なぜか「宇宙戦艦ヤマト」で、宇宙や惑星の神秘を表現するときによく使われていた劇伴音楽を連想してしまう。
この不可思議な雰囲気は、内省的というよりも、瞑想的・神秘的といった方が良さそう。
終盤10分半以降は、再び第1楽章のような曲想に変わり、前期スクリャービン&ショパン風にパッショネイトな叙情感。
ラストは、冒頭のように静寂さが訪れ、再びショパンのモチーフが変形されて、フェードアウト。

第3楽章の冒頭は、リゲティのエチュード風。
時々、テンポを大きく落として緩急の変化をつけながら、細かいパッセージが速いテンポで縦横無尽に鍵盤上を走り回っている。
この楽章も、途中までは、叙情的というよりも、ダイナミックな疾走感に幻想的・神秘的な雰囲気が融合して、現代的。
9分あたりで、今までの緊張感から解放されたかのように、静かにショパン風の叙情的な旋律が流れる。
時々、それを霍乱するように、全く違うタイプの和音とかフレーズが、短く挿入されてながら、静かにエンディング。
第1楽章と第3楽章は、クラシック音楽とはいえど、現代的な”カッコよさ”みたいなものを感じるのは、交響曲やヴァイオリンソナタと同じように、この曲でも”ポピュラー音楽の要素”を入れ込んでいるせいかもしれない。

"パッチワーク的"と言われれば、そういう気がしないでもないけれど、面白く聴けるので私は全然かまわない。
名曲として残るかといえば?だけれど、それ以前に、著作権の帰属問題が解決しないと公開演奏することもできない。
それに、いわく付きの曲なら、よほどの名曲でなければ、演奏しようという人は少ないかも。


<参考サイト>
佐村河内守プロデュース新垣隆 ピアノ・ソナタ第1番を聴き込んでみて[信心の王者たれ!]



ピアノ・ソナタ第2番
《ピアノのためのレクイエム》を元に、ソナタ形式で拡大したという演奏時間40分あまりの曲。
第1番よりも、さらにショパン風な風合いが濃い感じ。
第1楽章は、冒頭の序奏に続いて、バッハ風(インベンションに似ている)の旋律が現れる。ここは《ドレンテ》風の叙情感が美しい。
第3楽章は、リストとショパンが融合したように、ピアニスティックで情熱的。(ここまで来ると、人工的に作り上げられた印象が強くなる)
結局、全楽章聴いても、私の好みのタイプの曲ではないのがわかったというところ。
特に、《シャコンヌ》と同じく、バッハ的なフレーズを使っているところに、居心地の悪いセンチメンタリズムを感じる。
同じ感傷的な旋律でも、《ドレンテ》のように、いかにもロマティックなポピュラー的な旋律の方が違和感なく聴ける。
それに、40分という演奏時間は長すぎるのではなかろうかと。
発注者であるかのプロデューサー氏の設計なので変えようがなかったのだろうけど、私には冗長に聴こえる。
20分くらいに凝縮されたピアノ・ソナタなら、少しは好きになれそうな気がする。
作曲上の信条が実験音楽である作曲家が、こういう長大な叙情的ソナタを書くというのは、第1番のような現代風ソナタよりも、ずっと苦労するのかも。


<参考音源>
✕ 佐村河内守 → ◯ 新垣隆 - ピアノ・ソナタ第2番 (excerpt) [ニコニコ動画]


<参考情報>
【連載】「どこまでがドビュッシー?(十七)」(岩波図書 2014年4月号)[青柳いづみこオフィシャルウェブサイト]
新垣氏の作風について、なるほどと思ったのが、ピアニスト&文筆家の青柳いづみこさんの分析。
新垣氏の”本流”である現代音楽作品は、「時代・ジャンルともに雑多な音楽のコラージュにテキストやパフォーマンスを組み合わせたもので、全体として浮かびあがってくるのは、わざわざ陶酔からよびさますような「天の邪鬼」の精神。」
「新垣氏は、佐村河内名義作品では聴衆を泣かせ、本人名義では人を笑わせるのである。演劇でも、泣かせるより笑わせるほうがむずかしいときくし、それを両方こなせる役者は数少ない。これはすごいことではないだろうか。」

タグ:新垣隆

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コメント

名曲の数々

こんにちは。
初めてコメントさせていただきます。
新垣隆さんの作品は素晴らしいですね。
あらゆる年代の作品を現代によみがえらせる力量をお持ちなのでしょうね。
ソナタは1番も2番も好きです。作風は違っていますが、それぞれに魅力があります。
ドレンテも清楚で美しい作品ですね。
DVDに入っているピアノのためのレクイエムもよく聴いております。
新垣隆さんの大曲も聴いてみたいですが、ピアノやバイオリンの小品もたくさん聴いてみたいです。
天才新垣隆さんのご活躍を願っております。
6月7日の白寿ホールでのコンサートは素晴らしかったです。
心が温まりました。
6月28日には、小金井市民交流センター小ホールでコンサートがあるので、楽しみにしております。
今、私の楽しみは窓を閉めて、大きな音量で新垣隆さんの作品を聴く事です、至福の時 です。
ブログ主様、お元気で良い日々をお過ごしください。

新しい作品を聴いてみたいですね

井村様、はじめまして。

ご訪問、コメントどうもありがとうございます。
「ドレンテ」と「ヴァイオリンのためのソナチネ」はロマンティックな名曲ですね。
私は現代曲もよく聴きますので、「ピアノ・ソナタ第1番」と「弦楽四重奏曲第1番」もとても好きな曲です。

新垣さんは、最近だいぶ落ち着かれたようですね。
ピアノ演奏されている姿を何回かライブ映像でお見かけいたしましたが、特に現代曲とポップスを組み合わせた即興演奏が大変印象的でした。
これからも、演奏だけでなく、いろんな作品も書いていただきたいと切に願っています。

No title

はじめまして。
YouTubeのドレンテ動画の演奏者です。
かなり時間が経ちましたが、偶然ブログにたどり着きました。
好意的な評価をいただき、有難うございます。

当方、普段はサラリーマンをしているアマチュアでして、佐村河内、新垣両氏と面識はないのですが、楽曲の美しさに惹かれ、耳コピした次第です。
後で検証したところ、いくつか採譜ミスが見つかりましたが、ある程度雰囲気は出せたかと思います。

「ゴーストライター」が今年の流行語大賞にノミネートされましたが、楽曲は来年以降忘れ去られてしまうかもしれません。
末永く演奏され続けることを願っています。

(なお「chopinist100」は、私個人のアカウントではなく、ピアノサークルのアカウントです。)

あまりに美しくて

Ueda様、はじめまして。
コメントくださって大変恐縮です。
とても美しい曲でしたので、勝手ながら、動画を共有させていただいてます。
どうもありがとうございました。

曲自体が美しいのですが、硬質でクールなピアノの音が良く似合っていて、この曲の瑞々しく凜とした叙情感がよく伝わってきます。
小品ですが、新垣氏の作品のなかで最も好きな曲の一つです。

新垣氏は最近音楽のお仕事が随分増えているそうなので、「ゴーストライター」という肩書きよりも、ご自身のお名前で作曲家として注目されていますね。
Youtubeで彼の作品を聴く人も、これから増えていくと思います。
販売中止になったCDを買うことはできなくても、Youtubeで「ドレンテ」を聴かせていただくことができますし、あまりに美しい曲なので、他の作品ほどには知られないとしても、忘れ去られることはないように思います。

追伸:ピアノサークルさんのアカウント等について、本文を訂正しております。表現に不適切な点があるかもしれませんので、その際はコメント欄にてお教えくださいませ。
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◆プロフィール◆

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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