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リストの葬送曲
”葬送”が曲名になっているピアノ曲で一番ポピュラーなのは、たぶんショパンの「葬送行進曲」(《ピアノ・ソナタ第2番第3楽章》)。
次に、ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第12番》。第3楽章が「葬送行進曲」なので、別名《葬送ソナタ》。
それに、リストの《詩的で宗教的な調べ》の第7曲「葬送」。
すぐに思い浮かんでくるのはこの3曲。リストの「葬送」は、ショパンやベートーヴェンほどには有名ではないと思うけど。


《詩的で宗教的な調べ》第7曲「葬送/Funérailles」(S173/7)(1853年)
10曲で構成されている《詩的で宗教的な調べ》では、第3曲「孤独の中の神の祝福」とこの「葬送」が有名で、単独で録音されているのをよく見かける。
「孤独の中の神の祝福」はアラウの1969年録音を初めて聴いて以来、これが私の定番。
「葬送」を初めて聴いたのは、カッチェンのモノラル録音。
特に好きな曲というわけではなかったけれど、昨年末にカッチェンの来日ライブ録音を聴いていると、(好みが変わったせいか)私が好きなタイプの曲だった。


ピティナの作品解説によると、「1849年10月オーストリアのメッテルニヒによる反動政策に反抗して失敗し、処刑された祖国ハンガリーのリストの友人たち、リヒノフスキー侯、テレキー男爵、バッティヤニー伯爵に対する追悼の念がこめられた作品だとされる。(その月の17日に亡くなったショパンへの追悼の念がこめられている、とされる説もある。)」。

冒頭序奏部分は、葬列の行進のような冒頭がオドロオドロしい。
ここは弔いの鐘を模したらしく、かなり印象に強く残る旋律なので、頭のなかでリピートしてしまう。
徐々に上行していくところは、ちょっと回転性があって、くらくら眩暈するような感覚。
序奏部分が終わると、静かに回想するような沈痛で陰鬱な主題が現れ、さらに、哀切感で詩情豊かな旋律に変わる。
ここは「孤独の中の神の祝福」を連想させるように詩的で綺麗。

中間部になると、左手がオクターブ伴奏になり、行進曲のような旋律。
まるで、ショパンの《英雄ポロネーズ》のようなヒロイックな雰囲気がする。(ショパンの追悼曲といわれても違和感がない)
再び、冒頭の主題が力強いフォルテで再現されて、痛惜さが一層強く。再び「孤独の中の神の祝福」のような旋律と英雄ポロネーズ風の旋律が順番に回想されて、エンディング。
曲想がかなり違う部分が次々に移り変わっていくところは、《死の舞踏》みたいに絵巻物を見ているよう。


カッチェンの録音は、Decca盤1953年モノラル録音と最近リリースされた『TBS Vintage Classics初来日公演ライヴ(1954年)』の2種類。

ムソルグスキー:展覧会の絵ムソルグスキー:展覧会の絵
(2004/10/27)
カッチェン(ジュリアス)

試聴ファイル
輸入盤あり

TBS Vintage Classsic ショパン:幻想即興曲他TBS Vintage Classsic ショパン:幻想即興曲他
(2013/11/13)
カッチェン(ジュリアス)

試聴ファイル


これはスタジオ録音の音源。左手のフォルテは量感・力感豊かで力強く、オドロオドロしさが増している。
モノラル録音のせいか、残響の少なめのゴツゴツとした音が、かえって葬送の厳粛さに合っているのかも。

Liszt - Funérailles (Julius Katchen)



リストの作品一覧を調べてみると、他にも”葬送曲”を数曲書いている。

《巡礼の年 第3年》第6曲「葬送行進曲/Marche funèbre」(S163/6)(1867年)。(ピティナの作品解説
1867年6月19 日に処刑されたメキシコ皇帝マクシミリアン1世の追悼曲。

《巡礼の年 第3年》の収録曲では、単独でよく演奏される「エステ荘の噴水」だけはよく聴くけれど、全巻通してしっかり聴いていないので、「葬送行進曲」の方は覚えていなかった。
晩年に書かれた曲なので、1853年の「葬送」のようなわかりやすさは少なく、陰鬱さが一層増しているし、中間部の緩徐部分は音が少なく、ぼそっと呟くような単線的な旋律がとても内省的。

Liszt - Années de pèlerinage - III - 6. Marche funèbre




《モショーニの葬送/Mosonyis Grabgeleit》(S.194)(1870年)
Youtubeの音源に記載されている作品解説によると、《モショーニの葬送》は、1870年に逝去したモショーニへの追悼曲。
モショーニ(Mihály Mosonyi) は、19世紀ハンガリーの著名な作曲家の一人で、リストに対して好意的だったらしい。
作曲から数年後、この曲は、《The final movement of the Hungarian Historical Portraits/ハンガリーの歴史的肖像》のなかの第7曲「Michael Mosonyi/モショーニ・ミハーイ」でも使われている。
2つの曲が唯一違う点は、短いコラール風のコーダの部分。結末を強調するために、《Portraits》ではいくつかの要素をリピートしている、とのこと。

《モショーニの葬送》でも、リストが書いた他の葬送曲を連想されるような旋律が出てくるし、構成も似ている。
厳しい主題と再現部とは対照的で、中間部の緩徐部分が詩的で美しい。
最後は、モショーニが安らかに眠りにつくのを祈るように、鐘の音を鳴らすような和音で美しく終わる。

Liszt - Mosonyi's Funeral Procession


《モショーニの葬送》は、リストの全集版以外で録音されることは少ないらしく、探してみるとブレンデルの『リスト後期ピアノ作品集』に録音あり。
「リスト:後期Pf作品集」巡礼の年第3年~2,4,5番,忘れられたワルツ1番,モショーニの葬送,他「リスト:後期Pf作品集」巡礼の年第3年~2,4,5番,忘れられたワルツ1番,モショーニの葬送,他
(1980/01/01)
A.ブレンデル(pf)

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《葬送前奏曲と葬送行進曲/Trauervorspiel und Trauermarsch》(S.206)(1886年)
この曲は、今まで曲名を見たことも聴いたこともなく。
音源を探してみると、Trauervorspiel(S.206/1)、Trauermarsch(S.206/2)は、続けて一緒に演奏されるものらしい。
リストの”葬送曲”のなかでは、最晩年に書かれた曲。
《葬送前奏曲》は、1853年に書かれた「葬送」(S173/7)の序奏部分を変形したような旋律で始まり、最後は鐘が打ち鳴らされるように低音部を連打。
続いて演奏される《葬送行進曲》部分は、最初はゆったりとした足取りで、何か(死神?)がヒタヒタと近づいてくるような不気味さ。
それから、アッチェレランドしてそのまま展開していくのかと思ったら、テンポが急変してスローダウンして、音がまばらで静寂なピアニッシモになったり。
最後は、左手低音部のオクターブが連打され、右手旋律は半休止したような中ずり状態で終わったかのよう。
他の曲とは違って、結局、救いが訪れたのかどうかわからないような感じ。

いくつか音源を聴いてみると、カツァリスのライブ録音はテンポ設定が絶妙で緩急のコントラストが強く、曲想の変化がくっきり鮮やかに浮かび上がってくる。

Liszt - Trauervorspiel - Cyprien Katsaris - Live in Vredenburg,Utrecht,Netherlands(+-1983)


Liszt - Trauermarsch - Cyprien Katsaris - Vredenburg live +- 1983


カツァリスの2011年スタジオ録音(↑のライブ録音とは異なる音源)
Katsaris Plays Liszt Vol. 1Katsaris Plays Liszt Vol. 1
(2011/01/10)
シプリアン・カツァリス

試聴ファイル


tag : フランツ・リスト カッチェン カツァリス

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リストの葬送曲
こんばんは。
S.173/7の葬送曲は、正直ほかの「詩的で宗教的な調べ」に収録されている「死者の追憶」や「孤独の中の~」ほど好きではないのですが、リストにとっては重要な曲ですね。曲集「詩的で~」の中で、取り上げられる機会が最も多い曲だと思いますが、その理由はホロヴィッツの1932年録音がピアニストたちに大きな影響を与えたからだとどこかで読んだ記憶があります。逆に言うとそれ以前はあまり取り上げられなかったようです。

S.206/2の葬送行進曲は、モショーニの葬送と同様に、曲集「ハンガリーの歴史的肖像」に組み込まれていますね。第4曲テレキ・ラースローです。

S.206の2曲はあまり演奏される機会がありませんが、意外にもベルマンやオグドンの録音があります。

それにしてもこのようにわかりやすくまとめてある記事は素晴らしいです。ありがとうございます。
”葬送曲”もややこしいです
ミッチ様、こんばんは。

いろいろ教えてくださってありがとうございます。
いつもながら、リストには似たようなタイトルの曲が多くて、調べたことを記録しておかないと、また頭の中が混乱しそうになります。

S.173/7の「葬送曲」のような、オドロオドロしい曲はわりと好きなのです。
いかにも若い頃のホロヴィッツが弾きそうな曲ですね~。
わかりやすくて弾き映えする曲なので、これだけ取り出して録音する人が多いのも納得できます。

S.206/2の「葬送行進曲」も、「ハンガリーの歴史的肖像」に転用されているのは気がつきませんでした。
”テレキ・ラースロー”は、少し短縮されているようですね。
リスト弾きのベルマン、オグドン、カツァリスが録音しているというのは、どうしてなのでしょうね?

「詩的で~」の葬送曲だけは、一部分だけ聴いても判別できそうなのですが、他の曲はもう少し聴き込まないと、どれがどの葬送曲かこんがらがりそうです。

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

愛聴するのはベートーヴェンとブラームス、それにバッハ。ロマン派ならリスト。​さらに現代(20​世紀)の音楽を探検中。特に好きなのはピアノ音楽(ソロ、コンチェルトに室内楽)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなピアノ曲:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30・31・32番,ピアノ協奏曲第3番&第4番。ブラームス/ピアノ協奏曲第1番&第2番、ヘンデル変奏曲、後期ピアノ作品集。バッハ:パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲

好きなヴァイオリン曲:バッハ・ベートーヴェン・ブラームスのヴァイオリンソナタ(ピアノ&ヴァイオリン)、シベリウス/ヴァイオリン協奏曲

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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