スティーブン・ハフ作品集 『Broken Branches』

2014.04.05 18:00| ♪ スティーヴン・ハフ
スティーブン・ハフのリリース予定の新譜に収録されている《ピアノ・ソナタ第2番「夜の光」》が気に入ったので、第1番のピアノ・ソナタも録音しているかも...と探してみると、BISからCDでリリースされていた。
このアルバムは、ハフが50歳になったことを祝って、2011年に録音されたハフ作曲作品の自選集。
ピアノを作曲者のハフ自身が弾いているのはもちろん、共演者がベルリン・フィル木管五重奏団のハーゼルとラインハート、チェロがイッサーリスと、豪華な顔ぶれ(らしい)。
前衛的な無調の曲とかは入っていないので、比較的聴きやすい曲ばかり。
ピアノソロに室内楽曲、歌曲、チェロ協奏曲とジャンルはいろいろ。
冒頭だけ試聴したときはそれほど楽しめる気がしなかったアルバムだったけれど、CDで全曲通して聴くと、予想外なことに、かなり好みに合っていた。
特に《ピアノ・ソナタ第1番》は期待以上に良くて、このアルバムでは一番好きな曲。
室内楽曲も楽器編成が変わっていて面白く、ピアノパートや(歌曲の)ピアノ伴奏も凝っていて、ハフのピアノを聴くのも楽しめる。

作曲家 スティーヴン・ハフ (Broken Branches compositions by Stephen Hough)作曲家 スティーヴン・ハフ (Broken Branches compositions by Stephen Hough)
(2011/12/05)
スティーヴン・ハフ

試聴する(BIS)
不思議なことに、BISの試聴サイトでは、全曲最初から最後までフリーで聴ける。ハフのCDだけそうなのかと思っていたら、他のCDもリリースから一定期間すぎると全曲聴けるものがある。

<収録曲>
ピッコロ、コントラファゴット、ピアノのための三重奏曲
ピッコロ・ソナチネ
ブリッジウォーター(Bridgewater)~ファゴットとピアノのための
秋の歌(Herbstlieder)(リルケ詩)~バリトンとピアノのための
ピアノ・ソナタ『折れた枝』(Broken Branches)
チェロと管弦楽のためのエレジー『最深の孤独の荒野』(The Loneliest Wilderness)

                       

ハフ自筆のライナーノートによると、初めて作曲したのが、(なんと)6歳のとき。
ピアノもその頃から弾き始め、20歳のときまで作曲は続けていた。
しかし、その頃に ‘owing to a combination of diminishing time and fading compositional self-confidence’(作曲に時間をとられるし、作曲に対する自信がなくなったために)、作曲をほぼ止めた。
ピアノ編曲は続けていたところ、1990年代後半、NYのリサイタルの後で作曲家のコリリアーノから、「自分自身の音楽を作曲するべきだよ。編曲と作曲の実際の違いというのは、他人の主題ではなく自分自身の主題を使うことくらいだ。」と言われてから、徐々に作曲を再開したという。
”The Loneliest Wilderness”(2005年)は、ハフにとっては過去20年の間で初めて書いた深刻な(シリアスな/serious)作品。その後、2つのミサ曲などを作曲。


ピッコロ、コントラファゴット、ピアノのための三重奏曲”Was Mit Den Tranen Geschieht”
ハフがたびたび共演しているベルリン・フィル木管五重奏団のMichael Hasel と Marion Reinhardのために書いた曲。
ピッコロとコントラファゴット(コントラバスーン)という珍しい組合わせ。決して同じピッチ上で会うことはない2つの楽器による異化(alienation)作用があるという。
高音域だけのピッコロと低音域だけのコントラファゴットが、決して溶け合うことなく掛け合っていくのが面白く、そこに媒介役みたいに(?)加わっているハフのピアノは、色彩感のある豊かな響きでとても華麗。第2楽章では、ピアノのアルペジオがきらきらと煌くように綺麗。
主題旋律はシェーンベルクの《浄められた夜》のモチーフに似ている。《浄められた夜》は好きな曲なので、既視感があるせいか馴染みやすい。


Bridgewater(Romantic Idyll)/ブリッジウォーター~ファゴットとピアノのためのロマンティックな牧歌
30歳代後半まで、”Bridgewater Canal”から数マイル足らずのところにハフは住んでいたので、よく狭い川辺を散歩していたという。
標題どおり、穏やかでのどかな川辺の風景を連想させるような美しい曲。ファゴットのくぐもった音色が黄昏れた雰囲気。

Stephen Hough: Bridgewater, Romantic Idyll for Bassoon and Piano (2008)
Thomas Crespo (bassoon) and Matthew Brower (piano)



Herbstlieder/秋の歌~バリトンとピアノのための
詩はリルケの「秋の歌(Herbstlieder)」より、1.Herbsttag/2.Klage/3.Tranenkruglein/4.Besturz Mich, Musik/5.Herbst。
少し調性感が曖昧なところはあっても、どれも聴きやすい曲。
ピアノ伴奏が凝っていて、それだけ聴いていても面白いのがハフらしいところ。
「3.Tranenkruglein」はファンタスティックで綺麗。「4.Besturz Mich, Musik」は、(マーラー歌曲みたいに)ドラマティック。


ピアノ・ソナタ第1番”Broken Branches”
都会の夜の光を表現したような《ピアノ・ソナタ第2番》よりも、ずっと静的で、冒頭から内省的なものを感じさせるソナタ。旋律も比較的メロディアスで、曲想や展開もわかりやすい。

ハフの作品解説では、相互に関係性のある未完結の16セクション(各数分)で構成。
Prelide(Autmen)- desolato - fragile - inquieto - piangendo - immenso - sentimento - malincolico - passionato - freddo - valando - ritimico - non credo - morendo - crux fidelis - Postlude(Spring)
緩急・静動の取り混ぜて変化していき、徐々に音楽が激しくなってクライマックス(non credo)へ盛り上がっていき、最後は全てが解決されたような終曲。
”non credo”は、ハフが作曲したミサ曲のCredoの素材に基づいたもの。

3つの意味がある”Broken Branches”:
1)"fragments of fragility"(壊れやすさの断片)。テーマに関連してはいるが、不完全で損なわている。
2)ヤナーチェクのピアノ曲"On an overgrown path(草かげの小径にて)"への遠まわしの(oblique)トリビュート。
※たしかに、時々、旋律&和声に左手のオスティナートや休止のとりかたとかが、ヤナーチェク風。
3)”spiritual dimension"に関連
※イエス・キリストの言葉や自作のミサ曲のことが書かれている。

冒頭は、”Prelide(Autmen)”で始まり、最後は”Postlude(Spring)。この最後の曲は、”Branches beginning life anew in a new spring"。
物哀しく肌寒い秋から、曇天で暗く底冷えのする冬を経て、雪が解け穏やかな太陽の日差しの暖かさを感じさせるように、ピアノの音色の温度感が変わっていく。

嬰ト短調の”Postlude(Spring)”では、冷たい孤独感と自問自答するような短調の陰鬱な旋律。
”Postlude(Spring)”では、冒頭の嬰ト短調による主題旋律が、ト長調で演奏され、明るさと温もりが広がっていく。
疑問や不安、孤独感が、雪が解けるようにす~と消えていき、安息感が広がっていくところはとても”spiritual”。
このエンディングは清らかで美しい。

ハフは、”a collectiona of album leaves”ではなく、むしろ”branches from a single tree”なのだと言っている。
たしかに、一本の木が、季節の移ろいに合わせて姿が変わっていくように、心のうちでさまざまな感情が生起し変容していく様を表現したような音楽。

Stephen Hough: Broken Branches



チェロと管弦楽のためのエレジー「最深の孤独の荒野」”The Loneliest Wilderness”
ハフが以前に作曲したHerbert Readの詩による歌曲に基づいたもので、親交のあるチェリストのイッサーリスのために書かれた作品。
”Broken Branches”と同じく、曲名どおり内面的なものを感じさせる曲。
この曲も最初は静かな主題旋律がチェロで何度も繰り返され、徐々に盛り上がっていく。
厚みのある和声の響きは、《浄められた夜》にちょっと似ているときがある。



タグ:スティーヴン・ハフ イッサーリス

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コメント

良いです!

こんにちは!

ハフは6歳から作曲していたんですね!
ピッコロやファゴットなどマイナーな(?)楽器で、
面白い試みだと思います。
私はファゴットの音が好きなので、楽しく聴きました。
Bridgewaterが特に気に入りました。

そして歌曲までも!凄いですね。
ピアノ伴奏もとても素敵だし
聴きやすくて、これも良い感じです。
マーラーがちょっとクールになった感じ??

ピアニスト稼業が忙しいと思われますが、
これからの作曲活動も期待したいですね。

全曲全部視聴できるのは嬉しいですね。
私はこれで楽しませてもらいます(笑)。

予想外に良いアルバムでした

Tea316さん、こんばんは。

このアルバム、気に入られたようで良かったです~。
今更ながら思いましたが、ハフはやはり音楽の才能に恵まれた才人でした。

ピッコロやファゴットの曲って、やっぱり珍しいのですね。曲も面白かったです。
Bridgewaterもいいですね。ハフが懐かしさを込めて書いたような感じもします。
ファゴットとかオーボエとかの管楽器(に限りませんが)の違いは聴き分けられませんが、ファゴットの低音は精神的に落ち着く感じがします。

歌曲のピアノ伴奏は、単なる伴奏を超えているところが、ピアニストだけありますし、歌曲の雰囲気も”クールなマーラー”みたいで、マーラー歌曲が好きな私には馴染みやすいです。

それにしても、BISはとても気前がいいですね。
ハフのCDコレクターとしては、全曲聴いてしまうと購買意欲がいたく刺激されてしまいました。
CDを買うほどではないけれど、聴きたいBIS盤はいろいろあるので、聴いてみようと思ってます。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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