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高橋悠治 ~ モンポウ/沈黙の音楽
モンポウといえば、有名なピアノ作品は《内なる印象》や《歌と踊り》。
たしかラローチャのモンポウアルバムで聴いたことがあるけれど、それほど好きな曲集ではなかったので、CDはラックに眠ったまま。ハフの『モンポウアルバム』も試聴どまり。

例外的に好きな曲集は《Musica Callada》。
《ひそやかな音楽》と訳された曲名をよく見かけるけれど、高橋悠治のアルバムでは《沈黙の音楽》。
彼のディスコグラフィをチェックしていて、モンポウを録音しているのが意外だった。
よく考えると、サティのピアノ作品集(全3巻)を録音があるくらいだから、”スペインのサティ”と言われるモンポウを弾くのは、そんなに不思議でもない。

《Musica Callada》は、母や友人を亡くしたモンポウが、1959年~1967年にかけて書いたピアノ曲集。
曲名は詩人サン・ファン・デ・ラ・クルスの詩の“La Musica Callada, la Soledad Sonora(鳴り響く孤独、沈黙する音楽)”からの引用。全4巻に小品28曲を収録。

《Musica Callada》について、モンポウはこう語っている。
「・・・この音楽は静か(callada)で聴く人の内側にある。控えめで抑えた情感はひそやかで、冷たい社会の表面の下で共鳴する。この音楽がいのちの温もりと、同じでありながら変わりつづけるひとの心の表現をもたらすことを望んでいる。」

モンポウの曲の中では、複調や無調的な部分があるので最も前衛性が高いと言われるけれど、そういう部分であっても、比較的メロディアスで響き自体も美しく、とても聴きやすい曲集。
高橋悠治の録音を聴いていると、全編に静けさが漂い、音と音楽が沈潜していくような沈鬱さが流れている。
明るく楽しげな曲想であっても、音と音楽とが晴れやかに浮き立つことはなく、どこか静的で陰りがさしている。
リアリティが稀薄で夢遊的な浮遊感を感じるせいか、現実の世界とは異なる閉ざされた内面の世界のドラマを見ているような感覚。
暖かい春の季節ではなく、寒さが厳しい秋冬の静かな夜に聴きたくなる。


モンポウ:沈黙の音楽モンポウ:沈黙の音楽
(2008/05/21)
高橋悠治

試聴ファイル


冒頭の「第1巻: I. Angelico」は、人気のない庭で静かに水が流れているような静寂さ。
「第2巻」の幻想的なアルペジオの「XVI.Calme」や「X. Lento - cantabile」、「第4巻: XXV. Quarter Note = 100」、比較的前衛的な作風。
「第1巻:VI. Lento」、「第2巻」の「XII. Lento」「XIV. Severo - serieux」はサティ風。サティは有名な曲しかほとんど聴かないので、他にも似た曲はありそう。
意外なことに、とても好きなヤナーチェクを連想したのは「第1巻: III. Placide」、「第2巻」の「X. Lento - cantabile」、「XI. Allegretto」、「XIII.Tranquillo - tres calme」。


《ひそやかな音楽》の全集録音のなかで、おそらく一番有名なのは、現代音楽しか弾かない(らしい)はヘンクのECM盤。
ソノリティが柔らかく響きも多彩でカラフル。曲想の違いによってかなりテンポ・タッチ・ソノリティを変え、静動の変化が顕著で、情感豊か。
夢の中で戯れているようにファンタジックで、繊細な叙情感が強く、曲によっては、饒舌で生気が強く感じる。(私には、叙情的すぎる)
ヘンクの演奏なら”沈黙”ではなく「ひそやかな音楽」というイメージの方が似合っている。

Musica CalladaMusica Callada
(1995/05/15)
Herbert Henck

試聴ファイル




ヘンクとは逆に、高橋悠治は”ひそやかな”というよりも、まさしく「沈黙の音楽」。
全体的にヘンクよりも遅いテンポ設定で、色彩感はヘンクよりもモノクローム的。
音の輪郭とフレージングが明確で、骨格のしっかりした硬骨な骨太さがあり、静的でストイック。
幻想性や叙情性はヘンクよりも薄く、モノローグ的。


<ピティナの作品解説>
ひそやかな音楽 第1巻 / Musica Callada [1959年]
ひそやかな音楽 第2巻 / Musica Callada [1962年]
ひそやかな音楽 第3巻 / Musica Callada [1965年]
ひそやかな音楽 第4巻 / Musica Callada [1967年]


<参考情報>
高橋悠治のピアノ [森のことば、ことばの森]
特集 ピアノの時間その5 インタビュー 高橋悠治 [「考える人」2009年春号、新潮社]

たまたまブログ記事で見つけた高橋悠治のインタビュー記事。
ネットやCDのブックレットに載っている公式のプロフィールには書かれていないことがいろいろ載っている。
7歳にして作曲家になりたいと思い、「ピアニストになりたいと思ったことはなかった」という話からして面白。
「オクターヴのパッセージなんかは弾いたこともなかった」のに、アントルモンの代役で急遽お鉢が回ってきたバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」のソロピアノ演奏で、(少しは練習して?)オクターブを弾いたらしい。
たしかに、コンサートピアニストを目指していたとは思えない...。

tag : モンポウ 高橋悠治

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モンボウ
モンボウの「ひそやかな音楽」は
ハビエル・ペリアネスも録音していて、
以前から試聴して欲しいな…と思いつつ買っていません。
ペリアネスと高橋さんの演奏を試聴だけで比べてみても、
雰囲気が違うもんだなあ…と思いました。
高橋さん、かなり個性的な演奏ですね。
三者三様、随分違います
Tea316さん、こんばんは。

ペリアネスは聴いたことがないので、試聴してみました。
音色が落ち着いていて、静けさもありますね。
ヘンクよりは好きな演奏かもしれません。

高橋さんの録音は、自作品以外の録音はかなり集めましたが、(モンポウに限らず)どれも個性的です。
今のピアニストに多い音色の多彩さや繊細さで聴かせる人ではないですね。
リスナーの好みははっきり分かれるので、(私も含めて)波長の合う人には、ベスト盤になる演奏が多いです。
入手しました
ヘンクの盤は気に入って、一時、よく聴いていました。ECM盤特有の音の温度の低さと呟くような演奏が印象的でした。
この高橋悠治の盤は、もっと鋭く、演奏そのものが低温で歯切れもよく、現代音楽っぽい味付けが気に入りました。
モノクロームのような
ken様、こんばんは。

ヘンクのモンポウは、色彩感豊かな音色が綺麗で、それに饒舌ですね。
高橋悠治の温度感の低さは、モノクロ的な色調があるからかもしれません。
彼は、モンポウに限らず、昔から硬派なピアノを弾いていましたが、「沈黙の音楽」というタイトルに似つかわしい演奏だと思います。
お気に召してよかったです。
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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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