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ヴェデルニコフ ~ バッハ/6つのパルティータ
ヴェデルニコフの録音は、国内盤の『ヴェデルニコフの芸術』と、その一部を廉価盤にした『ロシア・ピアニズム名盤選』でシリーズ化されている。
ソ連時代に冷遇されていたヴェデルニコフなので、録音状態がかなり悪いものが多いけれど、演奏を聴けるというのはとても貴重。
残念なことに、この国内盤シリーズには、リヒテルが高く評価したというバッハの《6つのパルティータ》の全曲録音が収録されていない。
全曲録音は、原盤が露Melodiya。国内盤も発売されていたが、両方とも廃盤。
それを復刻した廉価盤を露Veneziaレーベルが数年前にリリースした。
VeneziaのCDは、初回出荷分が完売するとそのまま廃盤になるらしい。すでに『イギリス組曲』はメーカー在庫がないらしく、新品入手が困難。


ヴェデルニコフ/バッハ:6つのパルティータ(2CD)ヴェデルニコフ/バッハ:6つのパルティータ(2CD)
(2009年08月28日)
ヴェデルニコフ(アナトリー)

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第1番のみ1968年のモノラル録音。他5曲は、1972年のステレオ録音。
ヴェルニコフの録音のなかでは、音質は比較的良い方だと思うけれど、(フォルテピアノのような)滲むような音や残響の響き方から、ピアノの状態も録音環境もそれほど良くはなかったのかもしれない。


かなりストイックな演奏だった《イギリス組曲》よりも、《パルティータ》は作風の違いもあって、叙情性がいくぶん増して聴きやすい。
《パルティータ》も、適度に抑制が効いた感情表現で淡々とした演奏ながら、隅々まで曖昧さも濁りもなく、堅固な造詣で明晰。
ノンレガートを使いながらも柔らかいレガートなフレージングで、さっぱりとした清々しい叙情感と、時に深い瞑想にふけるような深みがある。
”精神性”という言葉は嫌いなので使わないのだけど、ヴェデルニコフのパルティータを聴くと、その言葉を使いたくなる。

CDリリース直後に聴いた時は、淡々としてとっつき悪く感じたけれど、それから聴き直すたびに、惹き込まれるくらい。
外面的な装飾性や音色の繊細さに拘泥することなく、筋が一本すっと通って揺らぐことない毅然とした佇まいが潔い。
パルティータの一つ一つの曲をとってみれば、好きな録音は他にもある。(第1番のフィオレンティーノ、第2番のソコロフ、第6番のエゴロフ)
全曲録音としては、名だたる”バッハ弾き”を含めていろいろ聴いても、私の好みから言えば、今はヴェデルニコフがベスト盤。


ヴェデルニコフの伝記ドキュメンタリーでは、50歳を機にバッハのパルティータと組曲全曲の録音を始めたという。
ヴェデルニコフ自身の肉声で、「私が再びバッハの収録を始めたのは、組曲パルティータが以前とは違うように弾けるにではないかと思ったからです。バッハは。一生をかけて引き続けるべき作曲家です。一生をかけても極めることのできない作曲家なのです。」
夫人の回想では、ヴェデルニコフはバッハをよく研究していて、パルティータを理解するために全てのカンタータの研究に取り組んだという。

パルティータのなかで、ヴェデルニコフのピアニズムと曲とがぴったり合っているように思えるのは、第2番と特に第6番。(第3・4・5番はほとんど聴かないのでよくわからない)


第2番は、最も好きなソコロフの演奏から叙情性を薄くしたような印象。
第6番と違って、それほど瞑想的な雰囲気は深くなく、淡い哀感がさらさらと流れている。
「Sarabande」でさえ淡々として、透き通った水のような清々しさや仄かな明るさを感じてしまうくらい。
「Rondeaux」と「Capriccio」は、力強いタッチで弾むような躍動感が爽やか。
余計な装飾のないシンプルな演奏は、潔いくらいにきりりと引き締まって、ソコロフと同じくらいに素晴らしく思える。

BWV826 Partita No.2 in c Anatoly Vedernikov 1972


第6番は、他の曲と同じくペダルを(ほとんど)使わずに、淡々としたタッチで静かに弾き進んでいく。
演奏のなかに厳格な重苦しさは感じないけれど、叙情に溺れることなく、引き締まった情感があり、深い思索と瞑想に浸っているような静けさが流れる。
「Toccata」は、静かな祈りのように黙々と、時にフォルテになると力強く。
叙情的な「Allemande」「Sarabande」とも、静かで落ち着いたタッチで、情緒過剰になることないしっとりした叙情感。「Sarabande」は一人静かに深い瞑想にふけっているよう。
舞曲風の「Corrente」「Air」「Tempo di Gavotta」は、一音一音力強く、明晰。躍動的で軽やかというよりは、一歩一歩踏みしめているように力強く。
終曲「Gigue」は弾力のあるタッチで力強く、全てが終点へと向かっていくよう。


Anatoly Vedernikov - Bach Partita No. 6 in E minor BWV 830



第1番は、装飾音やフレージングに凝らず、ノンレガートではなくとも、一音一音力強く明確なタッチ。
この愛らしい第1番にしてはあまり愛嬌のある演奏ではないけれど、控えめな優しさとさっぱりとした爽やかさが、しなしなベタベタしなくて気持ちよい。
意外なのは、終曲「Gigue」。普通は速いテンポで躍動感のある演奏が多いけれど、ヴェデルニコフはゆったりとして、慌てず騒がず、柔らかくて、優しい。

BWV825 Partita No.1 in Bb Anatoly Vedernikov 1968 mono




[2015.4.2 追記]
イギリス組曲、パルティータのCDは、両方とも廃盤になっていたところ、2曲がセット化されて昨年末頃に再発売されている。
現在、HMVタワーレコードで販売中。


tag : バッハ ヴェデルニコフ

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ヴェデルニコフ
 ヴェデルニコフのパルティータを初めて聞きました。特に6番は素晴らしいので大変気に入りました。私はピリオド、それもバッハしか聴かないのでピアノ演奏はあまり聴きません。グレン・グールドも、あえて聞きたいとは思いません。シャオメイも私には合いませんでした。
 今はフィリップ・ヘレヴェッヘの教会カンタータに傾倒しています。もう高齢で先が短いので、バッハだけを聴こうと決めたのです。
 貴兄は最近バッハにも凝っているとのことなので、これからもよろしくお願いします。
コメントありがとうございます
MK様、こんばんは。

ヴェデルニコフのパルティータ、お気に召して何よりです。
ピアノ演奏については、グールドのバッハは避けて通れないですね。私も好きではありませんが、リファレンスのために聴いています。

バッハのカンタータに限らず、合唱音楽はめったに聴くことがありません。
10年以上前に、たまたまヘレヴェッヘのフォーレとブラームスのCDを店頭で見て衝動買いした覚えがあります。
特に最近バッハに凝っているというわけではなく、数年前から、気が向いたときに、時々聴いてます。
バッハといっても、聴くのは鍵盤楽器曲のピアノ演奏ですので、チェンバロ演奏(も含めて古楽演奏)はほとんど聴くことがありません。
好みは人それぞれ。自分が魅かれるものだけ、聴けばよいことだと思います。

またお時間がおありのときでも、お立ち寄りくださいませ。
またお邪魔します。
今までバッハのピアノ演奏はあまり聴かなかったので、Youtubeで探して聴き比べをしてみました。その中でマレイ・ペライアの演奏するパルティータ第6番を見つけました。ヴェデルニコフほどダイナミックな演奏ではありませんが、この演奏も大変気に入ったので、ご意見を聴かせていただけたらと思います。
http://www.nicozon.net/watch/sm19147373
たまにはチェンバロも聴いてみてください。パルティータはレオンハルトがなかなか良い演奏をしています。
パルティータの録音について
MK様、こんばんは。

ペライアのパルティータのCDは持っています。
ペライアのバッハは昔よく聴きましたが、今は聴かなくなりました。
6番については、もたれる表現で情緒的に感じた記憶があり、あいにく私の好みとは違いました。

チェンバロ演奏は、リファレンスとして聴く必要を感じた時くらいしか、聴くことはないですね。
レオンハルトのパルティータ(1986年録音)のCDは持っています。パルティータに限らず、レオンハルトはアゴーギクが強すぎて、残念ながら私の好みではありません。
好きなパルティータのチェンバロ演奏をあえてあげるとすれば、ピノックの新盤(Hanssler)と、スコット・ロスです。
yoshimiさん、こんばんは。

yoshimiさんが「パルティータ」の録音を色々ご紹介くださるので
お気に入りの演奏が増えてきて、とても嬉しいです。
パルティータ6番、ご紹介いただいたエゴロフが、とても気に入ってますが
ヴェデルニコフもいいですね。

私が、ヴェデルニコフに出会ったのは一年ぐらい前だから、つい最近のことなんです。ドヴュッシーの「沈める寺」が好きで、お気に入りの演奏を探す中で出会いました。瞑想に耽るような深い静けさを感じる演奏で、とても気に入ってます。
ヴェデルニコフの「パルティータ」もゆっくり聴いてみたいので、買い求めたいと思ってます。

 
ANNAさん、こんばんは。

パルティータは、バッハ弾きの名盤と言われる録音以外にも、良いものがいろいろあって、聴く楽しみが多いですね。
エゴロフとヴェデルニコフはピアニズムが異なりますが、第6番はどちらもとても感動した演奏でした。

ヴェデルニコフの弾く緩徐系の曲は、瞑想しているような深さと静けさを感じます。
ドビュッシーの「沈める寺」なら、彼のピアニズムに似合っていると思います。

パルティータは、少なくとも第1・2・6番はオススメです。(3・4・5番はほとんど聴かない曲なので何とも言えませんが)
久しぶりに2番と6番を聴いてみましたが、一音たりとも揺るぎなく、心洗われるような静けさと清々しい叙情感に毅然とした潔さは、ヴェデルニコフらしい演奏です。
やはりヴェデルニコフのパルティータは素晴らしいです。

パルティータのCDは廃盤になっていましたが、今調べてみると、イギリス組曲とセットで昨年再発売されていますね。
イギリス組曲はパルティータよりもずっとストイックで、少し聴きづらいかもしれませんが、セットで廉価盤になってますからとてもお買い得です。
早く入手できるといいですね。

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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