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ヴェデルニコフ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番・第31番・第32番
ヴェデルニコフは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタのうち、1976年に第30番、1969年に第31番、1974年に第32番を録音している。
つくづく残念なのはピアノの状態がかなり悪いこと。(録音環境も悪かったのだろうけど)
第30番と、特に第31番の音が悪く、私の耳には、年代物のフォルテピアノのような滲んだ響きで、音に伸びがなく、高音はスカスカしているし、フォルテでは音がひび割れて和声の響きも濁ったりしているように聴こえる。まるで学校の講堂にある古びたピアノみたい。第32番はそれに比べれば、音はまだしもマシ。
たとえピアノの音が悪くとも、演奏そのものが素晴らしく思えるので、後期ソナタの録音では、特に好きなアラウ(Philipsの旧盤)やレーゼルと同じくらいに、魅かれるものがある。


ロシア・ピアニズム名盤選-4 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30/31/32番ロシア・ピアニズム名盤選-4 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30/31/32番
(2003/05/21)
ベデルニコフ(アナトリー)

試聴ファイル


最後のソナタ3曲のなかでは、第30番は作風どおり、一番明るくポジティブな演奏。
テンポも全体的に速めで、変奏によって非常にテンポを落としたり、沈み込むような弱音で内省的な雰囲気に落ち込むことなく、力強いタッチできりっと引き締まり、さっぱりした感情表現が爽やか。
一番好きなレーゼルのライブ録音と同じくらいに良く思える。

最後の3つのソナタの中で最も叙情的な第31番でも、情感におぼれることなく、明晰で強い精神力を感じさせる。
幸せな思い出を回想するかのようなロマンティックな第1楽章でも、繊細さに耽ることなく、硬質のタッチと甘くなりすぎないやや淡々とした表現で、さっぱりとした叙情感が清々しい。
第2楽章も、漠然とした不安感は薄く、来るべき嵐に立ち向かうかの如く、強い意思を感じさえる力強いタッチ。
第3楽章のadagioもあまり遅いテンポを取らず、アリオーソも抑えた表現で、強い悲壮感に耽ることなく。
フーガも速めのテンポで、揺るぎない左手の低音部が力強く響き、バッハ録音のときと同じく、声部がくっきりと浮き上がり、堅牢な構築感。
二度目のアリオーソは、最初のときよりもゆったりとしたテンポと、弱々しく途切れそうな弱音でとても悲しげなのに、どこか突き抜けたような明るさを感じてしまう。
二度目のフーガも冒頭から明るい色調。速めのテンポで、弱音であっても力強い。
テンポも速くから加速していき、急き込むように飛び跳ねるリズミカルな動きは、アリオーソの悲嘆を完全に払拭して息を吹き返したような生気がある。
最後のコーダも、ヴェデルニコフらしい、力強く鋭い打鍵で一音一音が明確に響き、ポジティブな意志と強い精神力を感じさせるエンディング。
情感過多になることなく、ほどよく抑制された叙情感と、一貫して流れる明晰さと精神力の強さが融合して、きりっと引きしまった美しさ。
これでピアノの音が普通に良かったなら...と思うところはあるけれど、それを忘れさせるくらいに演奏自体が素晴らしい。深い情感のあるアラウの演奏と同じくらいに好きになりそう。

Anatoly Vedernikov plays Beethoven Sonata No. 31 Op. 110 (1/2)



第32番の第1楽章は、鋭く力強い打鍵とたたみかけるような急迫感で切れ味が凄く良い。
厳しさとか、緩徐部分での内省的な雰囲気などは稀薄で、舞い上がるように颯爽として、力強くポジティブな意志を感じる。
対照的に、第2楽章は《月光ソナタ》を聴いたときのように、不思議な印象。
ゆったりとしたテンポの主題旋律には、安息感というよりも物憂げで、どこかしら諦観のようなものを感じる。第1変奏から第2変奏へと進むにつれ、その感じが強くなっていく。
変奏が進むにつれ、リズムが躍動的になっていく曲のはずなのに、テンポを速めずにリズムも平板。物思いに耽っているようにまったりとして、ゆったりまどろみながら、疲れた心を癒しているようでもあり。
さすがに第3変奏に入ると、テンポが速くなり、タッチも力強くなるけれど、躍動感や高揚感が湧き上がってくる..という風ではあまりなく。
終盤の第4変奏から第5変奏への移行部も変わった解釈で、遅いテンポで靄のかかったような響きが重たく沈み込んでいき、いくぶん鬱々とした内省的な雰囲気。
そして第5変奏に入ると、垂れ込めた靄が徐々に晴れていきはするけれど、どこかしら哀しげにも聴こえてくる。
緩やかな波がゆったりとうねるような起伏と、着実に一歩一歩踏みしめているようなタッチで、徐々に盛り上がりつつも、大きく高揚するというわけではない。
最後の第6変奏も、調和の中の安息感というよりは、どこか醒めて達観したものを感じないでもない。
この演奏自体には、魅かれるものがたくさんあって、好きとは言えるのだけれど、思索的な雰囲気が随所に漂い、さらに諦観めいたものを案じる。(気のせいかも?)
そういうしっくりこない何かがあるので、それがなぜなのか突き止めたくて、繰り返し聴いてしまう。

Anatoly Vedernikov plays Beethoven's Piano Sonata No. 32 op. 111 ( complete )



<風の音楽室>の”ヴェデルニコフのベートーベン”というページに、原盤である「ヴェデルニコフの芸術」シリーズのブックレットに載っている浅田彰の解説が引用されている。(「ロシア・ピアニズム名盤選」のブックレットには掲載されていない)


tag : ベートーヴェン ヴェデルニコフ 「ピアノ・ソナタ第32番」 「ピアノ・ソナタ第31番」 「テンペスト」

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お返事です
お久しぶりです。
またYoutubeが聴けるようになられて、何よりです。
それに、コメントをどうもありがとうございました。
そんなに気になさる必要もない内容だと思いましたが、ご連絡いただいたとおりに処理しておきました。

ヴェデルニコフの録音では、音が悪くとも、ベートーヴェンとバッハが特に素晴らしいと思います。
彼の演奏に共感するかどうかは、理屈以前の問題で、個々人の感性の違いでしょうし、素晴らしいと思えたなら、それは心の琴線に触れる何かが彼の演奏のなかにあったということでしょう。

もしソヴィエト時代のクラシック音楽界にご関心をお持ちでしたら、ソロモン・ヴォルコフの『ショスタコーヴィチの証言』をお読みになると良いように思います。
偽書だと言われていますが、細部の信憑性はともかくとして、全体的には当時の音楽界の状況がよく伝わってくる本です。
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お返事その2
こんにちは。
私も音楽を専門的に勉強したわけでもありませんので(ピアノは多少弾けますが)、単なる印象とか感想の類を記録として書いています。
自信があるかどうかといえば、好みとバイアスの問題もありますし、的はずれかなと思うこともよくあります。
それでも、他の人と印象が全く違っていても、自分の直観は信じます。

ショスタコーヴィチは、ピアノと室内楽曲の方はわりと好きなのですが、交響曲はほとんど聴きません。バルシャイの録音は有名ですね。

『ショスタコーヴィチの証言』で面白かったのは、モーツァルトのピアノ協奏曲録音に関するエピソードです。ヴォルコフの作り話ではなくて、実話です。
このエピソードを読むと、ユーディナの度胸の良さがよくわかります。
ユーディナは好きなピアニストですが、スターリンのお気に入りだったそうです。
スターリンへ辛辣な手紙を送ったり、反体制的な言動にも関わらず、収容所送りになることなく、貧困のなかでもピアニストとして生き延びました。
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プロフィール

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

愛聴するのはベートーヴェンとブラームス、それにバッハ。ロマン派ならリスト。​さらに現代(20​世紀)の音楽を探検中。特に好きなのはピアノ音楽(ソロ、コンチェルトに室内楽)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなピアノ曲:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30・31・32番,ピアノ協奏曲第3番&第4番。ブラームス/ピアノ協奏曲第1番&第2番、ヘンデル変奏曲、後期ピアノ作品集。バッハ:パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲

好きなヴァイオリン曲:バッハ・ベートーヴェン・ブラームスのヴァイオリンソナタ(ピアノ&ヴァイオリン)、シベリウス/ヴァイオリン協奏曲

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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