ケンプ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲 

2014, 06. 06 (Fri) 12:00

私には不眠症解消に最適な《ゴルトベルク変奏曲》。
演奏を聴いている途中で眠くならないことは、極めて稀なので。
でも、例外的に眠りに誘われない演奏がいくつかあって、ケンプのゴルトベルクがその一つ。
久しぶりに聴き直してみたけれど、数年前に初めて聴いたときよりも、この演奏の良さがずっとよくわかってきたと思えるくらいに、とっても素敵なゴルトベルク。
私のスタンダードな定番でかっちりした構成感のあるコロリオフのゴルトベルクよりも、好きになれそう。

ケンプは好きなピアニストの一人といっても、定番的に頻繁に聴くことはなく、ときどき思い出したように無性に聴きたくなる。
聴き直してみると、そのたびに今までわからなかった何かが聴こえてくる新鮮さがあって、以前よりもさらに素晴らしく感じてしまう...という不思議な経験をさせてくれるピアニスト。

ケンプのゴルトベルクは、滑らかなレガートと、色彩感豊かで親密感のある音色がとても綺麗。
特に、ペダルを使った和声の響きの美しさは、ケンプが弾くピアノならでは。
装飾音をかなり省略しているので、巷で演奏されているゴルトベルクとはかなり違った曲に聴こえてくる。
斬新さと独自性という点でいえば、高橋悠治の新盤(2007年録音)と方向性は随分違っていても、オーソドックスと思われるバッハ奏法という枠に捉われないというところは、相通じるものを感じる。
でも、高橋悠治が既成の枠を壊して”脱構築”したようなポストモダン的とでも言いたくなる演奏だとすれば、ケンプはピアノ奏法を駆使して”伝統的なバッハ”を蘇らせたようでもあり、二人が目指したものと終着点は違っているのではないかと感じるところはある。

Goldberg Variations Bwv 988Goldberg Variations Bwv 988
(2002/05/30)
Wilhelm Kempff

試聴ファイル



Bach, Variaciones Goldberg, BWV 988. Wilhelm Kempff, piano



ケンプのゴルトベルクを聴き直していたら、平均律曲集も録音していたのをふと思い出した。
分売盤は廃盤になっているけれど、ソロ録音を集めたBOXセット『Wilhelm Kempff:The Solo Repertoire』に収録されている。

Wilhelm Kempff Complete Solo RepertoireWilhelm Kempff Complete Solo Repertoire
(2012/01/31)
Wilhelm Kempff

商品詳細を見る

DGとDECCAに録音したピアノ・ソロ作品の大部分を収録。
ただし、モノラル盤の《ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集》やリストの《伝説》などは収録されていないので、「Complete」なソロ録音集ではない。

収録音源のうち、分売盤で持っている重複音源が半分くらい。
ベートーヴェン・バッハ・ブラームスのほとんどは分売盤で持っているけれど、シューベルト・シューマン・モーツァルトは、シューベルトの2枚組の抜粋盤くらいしか持っていない。
35枚組セットなので、1枚あたり250円くらいと、コストパフォーマンスが抜群に良い。
さらに、このBOXセットで貴重な録音といえば、ボーナストラックに収録されているオルガンのライブ演奏。1954年に広島の世界平和記念聖堂に設置されたパイプ・オルガンの除幕式のために来日して、バッハのオルガン曲を数曲弾いたという。
それに、今まで試聴ファイルでも聴いたことがなかったショパン録音も興味深々。
このBOXセットは、そのうち手に入れたい気はする。


ケンプのCDで一番良く聴いているのが、バッハ作品とケンプによるバッハ編曲集のCD。
ケンプのバッハ録音のなかでは、選曲にバラエティがあって一番聴きやすい。
ケンプ編曲版は、他のピアニストの録音も多数あるけれど、ケンプの自作自演はやはりしみじみとした味わいがある。
柔らかくて繊細で色彩感豊かな音色が美しく、品のよい親密感を感じさせる演奏が心に染み渡る。

English Suite No. 3 / Capriccio BWV 992 / Transkriptionen fur KlavierEnglish Suite No. 3 / Capriccio BWV 992 / Transkriptionen fur Klavier
(2002/05/30)
Wilhelm Kempff

試聴ファイル



これは《シシリアーノ》(フルート・ソナタ第2番BWV.1031)のモノラル録音の音源。
ケンプのDG盤BOXセット『Schumann / Brahms: Complete 1950s Solo Recordings』に収録。

Bach - W. Kempff (1955) - Siciliano from Flute Sonata No 2 in E flat major, BWV1031


タグ:バッハ ケンプ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

4 Comments

Kaz  

No title

はじめてこのゴールドベルク聴きましたが、とてもいいですね。いつもいい音楽をありがとうございます。

2014/06/08 (Sun) 19:50 | REPLY |   

yoshimi  

本当に素敵なゴルトベルクです

Kaz様、こんにちは。

ケンプのゴルトベルクは、他の誰も決して弾かないような演奏解釈とピアノならではの美しいソノリティですね。
好みは分かれるでしょうが、お気に召して何よりです。

最初は多少違和感を感じたこともありますが、聴いているとその違和感も全く消えて、不思議と自然に思えてきます。
ケンプのピアニストとしての素晴らしさを再認識しました。

2014/06/08 (Sun) 19:57 | EDIT | REPLY |   

ポンコツスクーター  

これは面白い!

こんにちは。
ケンプの演奏というと、わたしの世代だとライトナー/ベルリン・フィルとやったベートーヴェンのコンチェルトをよく聴きました。ただ、いまひとつ馴染めなかったのは、ケンプがすでに高齢だったせいじゃないかと思っています。同じベートーヴェンですと、50年代にN響とやったものが以前FMで放送されていて、そちらのほうがよかった。

さて、ケンプのゴルトベルクは聴いたことがありませんでした。
冒頭のアリアを聴いてびっくり! 一瞬、違う曲かと思いました。これは面白そう。
改めてじっくり聴いてみます。

2014/06/10 (Tue) 13:27 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

モノラル時代のケンプなら

ポンコツスクーター様

ケンプの50年代の演奏はいくつか聴きましたが、(特にライブは)テンション高くて覇気がありました。
技巧的には、後年のステレオ録音時代の方が、鍵盤の微妙なコントロールが巧みで、音色やソノリティはずっと美しいと思います。
私は総じてステレオ録音の方が好きなのですが、リストの「海を渡るパラオの聖フランチェスコ」は、モノラル録音の方が素晴らしいと思います。
ライトナーとのコンチェルトなら、ベートーヴェンの第3番が特に好きな演奏です。
ケンプの1954年の来日公演は、TBSのアーカイブシリーズで「皇帝」の第2&3楽章が最近CD化されましたね。こちらのオケは、上田仁指揮の東京交響楽団でした。

ケンプのゴルトベルクは、とてもユニークですね!
こんな風に弾く人は、他には絶対にいないでしょう。
ケンプらしい妥協のなさと、確固とした信念を感じます。
通常のバッハ演奏で装飾音が多いのは、タッチや強弱の弾き分けが難しいチェンバロ演奏の裏返しだと思えば、微妙な強弱もタッチもいろいろ使い分けられる上に、ペダルを使えば響きも多彩なピアノなら、装飾を省略して弾いてもかまわないように思えてきます。

2014/06/11 (Wed) 00:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment