『Yuri Egorov/a Life in Music』(1)

2014.10.10 18:00| ♪ ユーリ・エゴロフ
33歳で早世したピアニスト、エゴロフの貴重なライブ録音が収録されている『ユーリー・エゴロフ/ア・ライフ・イン・ミュージック~放送録音集(10CD)』

エゴロフの録音シリーズは、今までEMIとChannel Classicsからリリースされてきた。
『Yuri Egorov The Master Pianist』(EMI盤)はスタジオ録音集(一部ライブ録音あり)。
『Yuri Egorov: Legacy』(Channel Classics盤)は、ほとんどソロのライブ録音集で分売盤が4枚。BOXセットもあったらしく、いずれも廃盤。
これに加えて、数ヶ月前にリリースされたほとんどが初出音源のライブ録音集『ア・ライフ・イン・ミュージック』があれば、エゴロフのディスコグラフィの大半がカバーできる。

A Life in Music -CD+DVD-A Life in Music -CD+DVD-
(2013/11/21)
Youri Egorov

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BOXケースと同じく、ブックレットとCDも、ピンクと白を基調にしたスタイリッシュなデザイン。
エゴロフの写真が、モノクロ、カラー、ネガフィルムなど多数掲載。
亡命後に書き始めたというエゴロフの日記の一部が、とびとびに合計7頁(ピンク色の背景に白文字)に載っている。
亡命時の不安や孤独感、家族への想いなどが綴られている。
エゴロフのプロフィールやエピソード、年表も丁寧に書かれていて、充実したブックレット。

<収録曲>
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調(1979)
シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調 D.667『ます』(1987)
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 Op.162, D.574(1977)
シューベルト:ソナチネ第3番ト短調 D.408(1977)
ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 Op.21(1982)
バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第2番 Sz.76, BB85(1982)
ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34(1977)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37(1978)
ベートーヴェン:合唱幻想曲ハ短調 Op.80(1978)
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43(1978)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第3番変ホ長調 Op.75/79(1974)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調 Op.15(1981)
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.83(1986)
ショパン:12の練習曲 Op.10、Op.25(1979)
シューベルト:ピアノ・ソナタ ハ短調 D.958(1984)
シューベルト:6つの楽興の時 D780(1987)
※CDのブックレット・カバー・盤面ラベルは、「D783」とミスプリント。「D780」が正しい。

<DVD収録曲>
シューマン:謝肉祭 Op.9(1984)
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番変ロ長調
リスト:ラ・カンパネラ

『a Life in Music』の収録曲は、音質にかなりばらつきがあって、演奏の印象に随分影響する。
室内楽曲は好きな演奏があまりなかったので、もう一つ。
ピアノ協奏曲の方は好きな曲が結構あり、演奏も良い印象のものが多く、BOXセットを買った甲斐があった。
このBOXセットはちょっと価格が高めだし、エゴロフはあまり知られていないので、そんなに多くは売れなさそう。
そのうち、音質の良い録音を抜粋して(ブラームスのコンチェルト、ラフマニノフ、ベートーヴェンの「合唱幻想曲」、ショパンの協奏曲とソロ、シューベルトとか)、廉価盤BOXで出しても良いのでは。

特に好きなのは、ベートーヴェン《合唱幻想曲》、ブラームス《ピアノ協奏曲第1番&第2番》、すでに分売盤で聴いていたシューベルトピアノ・ソナタ第19盤D958》と《楽興の時》。
普通に好きなのは、ラフマニノフ《パガニーニの主題による狂詩曲》と、ブラームス《ヴァイオリンソナタ第3番》(ヴァイオリンの音色と演奏は好きではないけれど)と《ピアノ五重奏曲》。
なかでも、ブラームスの《ピアノ協奏曲第1番》は、音質もとても良くて、演奏が私の好みにぴったり。このBOXセットのなかで、一番気に入った録音。
それに、改めて聴き直した《楽興の時》は、その時のエゴロフの心境を垣間見せるような演奏が深く心に残る。

                          

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調(1979)
キーキーと線の細い神経質な音色のヴァイオリン(あまり好きな音色ではない)と対照的に、柔らかく温かみのある音色のエゴロフのピアノ。音がやや後方から聴こえ、少しもこもこと篭った感じはする。

ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34(1977)
ヴァイオリンソナタに比べて、音質はずっと良く、ピアノの音も明瞭。
ピアノが前面に出て目立つというのではなく、弦楽とほぼ対等なくらい。
ブラームス的な陰翳と重厚さはそれほど強くなく、どちらかというと、明るい色調で伸びやか。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37(1978)
ピアノの音が、まるで室内楽を聴いているような質感とややデッドな残響。
エゴロフのピアノの音は、狭い部屋のなかで聞いているように空間的な広がりがないので、やけに生々しく聴こえる。
この録り方だと、エゴロフのピアノの響きの美しさがあまり聴き取れないのが残念。

ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 Op.21(1982)
久しぶりに(10年ぶり以上?)聴いた第2番のコンチェルト。
こちらは、音質も良く力強さもあり、感情移入過多だったり、しなしなと甘ったるかったりしないので、この演奏はわりと好きかも。

Chopin - Piano Concerto No. 2 in F minor, Op. 21 (Youri Egorov)



ベートーヴェン:合唱幻想曲ハ短調 Op.80(1978)
リマスタリングのせいか、金属的な感じが多少する音だけれど、協奏曲らしい空間的な広がりと残響も長くて、ピアノ協奏曲第3番に比べれば、響きは綺麗に聴こえる。

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43(1978)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第3番変ホ長調 Op.75/79(1974)
ラフマニノフは、シャープで軽快なタッチと、第21変奏は優しく歌うように柔らかい情感があって素敵。
ロシアのピアニストらしく、この曲はかなり弾きなれているような印象。

苦手のチェイコフスキーは、ほとんどまともに聴いたことがない珍しいピアノ協奏曲第3番。
第1番のように暑苦しくなくて、どちらかというと、ピアノパートは時々ラフマニノフ風に聴こえる。(伴奏はいかにもチャイコフスキー)
曲としても、第1番よりもちょっと変わっていて(長いトレモロのあるカデンツァとか)、ヴァイオリン協奏曲に似た旋律がでてきたり、面白いところがある。

シューベルト:ピアノ・ソナタ ハ短調 D.958(1984)
これは1984年録音だけれど、私の持っている1982年録音のChannel Classics盤と同じ演奏に聴こえる。
両盤とも、音源はVARAのラジオ放送。各楽章の演奏時間も、音響もほぼ同じ。
第1楽章の最初のところ(2分経過する手前)でミスタッチしているのも一緒。
どちらかが録音年を間違っているとしか思えない。
久しぶりに聴いたエゴロフのD958は、ライブ特有の緊張感が張りつめて、ベートーヴェンの影響を感じさせるようにテンション高くて、やはり素晴らしい。
この後に収録されている《楽興の時》の静けさとは対照的。

Schubert - Piano Sonata in C minor, D. 958 (Youri Egorov)


シューベルト:6つの楽興の時 D780(1987)
病気がかなり進行していたエゴロフにとって、コンセルトヘボウでの最後のリサイタルとなった1987年11月27日のプログラムの1曲。
まったりとしたような空気が流れ、静けさに満ちている。
エゴロフ自身、(ソ連からの亡命後に暮らした)オランダのコンセルトヘボウで弾く最後のリサイタルだとわかっていたに違いない。
病気のために足が腫れ上がっていたので、オランダ水兵用のスリッパを履いて演奏したという。
その後、12月5日のミラノでのリサイタルを最後に、88年3月に失明し、4月に亡くなった。

リスト/ラ・カンパネラ
DVDのライブ映像のシューマン《謝肉祭》を聴くと、内面から自然に湧き出た感情が揺れ動くように感じるせいか、シューマンが、エゴロフのメンタリティと一番親和性が高いように思える。
プロコフィエフの《ピアノ・ソナタ第8番》は、ソコロフとガヴリーロフの録音でも聴いたことがある。
第7番までのピアノ・ソナタと違って、かなり内省的で、濃密でまとわりつくように粘着的な叙情感が独特。

リストの《ラ・カンパネラ》はもともと好きな曲ではなかったけれど、この前聴いたデュシャーブル、それにエゴロフのライブ演奏を聴くと、好みがすっかり変わってしまった。
特にエゴロフの《ラ・カンパネラ》は、ピアニスティックな華やかさよりも、ピアニストと曲が対話しているような内面的なものを強く感じる。

Youri Egorov TV Recital, Part 3 - Liszt 'La Campanella'



                          

一番最後のCDに収録されているのは、シューベルトの《楽興の時 D.780》。
1987年11月27日、アムステルダム・コンセルトヘボウでのエゴロフ最後のリサイタルのライブ録音。
このリサイタルの数ヶ月後に、彼はAIDSが原因の合併症のため、33歳の若さで亡くなってしまう。
この後にもリサイタルのスケジュールが決まっていたけれど、彼自身これが最後のリサイタルになると思っていたらしい。(実際に、12月5日のミラノでのリサイタルが最後となった)
静けさと愛惜の念に満ちた《楽興の時》の演奏を聴けばそれが良くわかる。
特に第2番と第6番は異様なくらいの静寂さが漂い、柔らかな弱音は、常に深く沈みこんでいく。
短調とはいえ明るい色調の第3番も穏やかでどこかしら寂寥感のようなものが漂っている。
第5番だけは、抑えていた感情が一瞬噴出したかような激しさがあり、最後に一段と明るさを増して燃える線香花火のよう。
続く第6番は、最後はまるでこれから深い眠りに落ちていくように終っている。
ゆったりとしたテンポで、一つ一つの音を名残り惜しそうに丁寧なタッチで弾いているのが感じられて、彼がこのリサイタルが”Farewell Concerto"になることがわかっていたのだろうと思わずにはいられない。
シューベルトの音楽について、エゴロフは、”苦しみはなくあるのはただ悲しみだけ”と言っていた。

《楽興の時》に流れている(ように感じる)来るべき死の予感と抑制された悲痛さと、ピアニストの投影している感情とが共鳴しているようにも感じられて、こんな《楽興の時》を聴くことは二度とないに違いない。

Youri Egorov - Schubert Moment Musicaux No.3


<過去記事>
エゴロフ ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番,楽興の時

<関連記事>
『Yuri Egorov/a Life in Music』(2)ブラームスピアノ協奏曲第1番&第2番(次回アップロード予定)

タグ:エゴロフ ブラームス ベートーヴェン ラフマニノフ ショパン チャイコフスキー シューベルト プロコフィエフ フランツ・リスト

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コメント

白鳥の歌

yoshimiさん、こんにちは。

こちらでご紹介のエゴロフの放送録音集、おかげさまで私も入手しました。
収録曲の中では、シューベルトのピアノソナタと楽興の時が素晴らしいと
思いました。特に楽興の時は、その時のエゴロフの心の色を映し出している
ようで…言葉にできない思いでいっぱいになります。
心から紡ぎだされた歌というのは、聴いているこちらの胸に迫ってくるもの
ですね。

先にご紹介いただいたサヴァリッシュとの「皇帝」とともに、私にとって
忘れられない特別な演奏になると思います。
ご紹介ありがとうございました!

シューベルトが特に素晴らしいですね!

ANNAさん、こんばんは。

BOXセットを入手されて、本当に良かったですね!
おっしゃるとおり、私もシューベルトが一番素晴らしいと思います。
特に、「楽興の時」は、演奏解釈というものを超えて、エゴロフ自身の想いが伝わってくるように感じます。
コンサートホールの息詰まるような雰囲気から、聴衆もこのリサイタルが特別なものなのだとわかっていたようにも思えます。

数曲収録されているピアノ協奏曲も、ソロとはまた違ったエゴロフのピアニズムが聴けて、とても楽しめました。
でも、コンチェルトでは、スタジオ録音の「皇帝」が音質もよく、エゴロフの美しい和声が映えて、一番良いものだと思います。
短いピアニスト人生のなかで、素晴らしい演奏をたくさん残してくれたことに感謝です。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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