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ペンデレツキ:ピアノ協奏曲『復活』
ペンデレツキといえば、トーン・クラスターを使った前衛的な《広島の犠牲者への哀歌》(1960年)や《ルカ受難曲》(1965年)が有名。
(ただし、「広島の犠牲者への哀歌」は、もともと「広島の犠牲者」を想定して作曲されたものではなく、単なる哀歌であって、このタイトルは後で付けられたもの)
いつ聴いても虫が蠢いているようなイメージがするし、そういえば、弦楽がクレッシェンドしていく部分は、同時代に作曲された前衛期の武満徹の《アステリズム》に似ている。

ペンデレツキ作品は、随分昔、声楽曲ばかり聴いていた頃にCDを数枚買ったことがある。
1960年代に書かれた《広島の犠牲者への哀歌》と《ルカ受難曲》は、いかにも前衛的な作品で、どうにも好きにはなれなかった。
よく聴いていたのは、『Stabat Mater/無伴奏宗教作品全集』(Finlandia)
収録されている無伴奏合唱の《Agnus Dei》と《Song of Cherubim》は、古い時代の宗教音楽のような美しさと静謐さがあって、そういえばこういう曲もあったなあ...と多少記憶に残っていたけれど、他の曲はすっかり忘れていた。
聴き直してみると、《Stabat Mater》はまるでお経のように聴こえるし、《ルカ受難曲》の2曲はエクソシストの音楽みたい(?)に不気味な和声だし、トーン・クラスターで合唱曲を書くとこういう音楽になるのだろうか?
ペンデレツキの1960年代~21世紀の作品をいくつかピックアップして聴いてみても、1980年代あたりからロマン派風の作風へ回帰したらしく、調性感のあるメロディアスな旋律や調和的な和声が多くなったせいで、かなり聴きやすくなっている。

CDのブックレットの解説に、ペンデレツキの作風の変遷が載っている。
1959-61年:戦後前衛音楽のスタイルに前面依拠した時代
代表作は《広島の犠牲者に捧げる哀歌》(1960年)

1962-74年:前衛のスタイルと伝統的なスタイルとを折衷させた時代
12音技法やトーンクラスターの技法が、ルネサンス音楽のポリフォニーの技法と組み合わせて用いられたりしている。
代表作は、《スターバト・マーテル》、《ルカ受難曲》(1965年)。

1974-84年:新ロマン主義の時代
表情豊かなメロディーと3度和声、伝統的な主題労作のテクニック、ソナタ形式等の伝統的なフォルム等。
《Agnus Dei/神の子羊》は、長くポーランド教会の指導的地位にあったヴィシンスキ神父の葬儀のための作曲された作品で、最深の祈りと慰めの感情に満たされている。

1984-94年:作風の多様化の時代
ポスト・モダン風、表現主義風、ロマン派風、古典派風。
《Song of Cherubim/ケルビムの歌》はロストロポーヴィチの60歳の誕生日に捧げられた曲で、神の栄光への賛歌。

Penderecki;Stabat MaterPenderecki;Stabat Mater
(1995/12/13)
Penderecki、Kuivanen 他

試聴ファイル


Krzysztof Penderecki - Agnus Dei


Krzysztof Penderecki - Song of the Cherubim



ペンデレツキはピアノ作品を書いていなかったので、合唱曲以外は聴くことが全くなかった。
最近、フローリアン・ウーリヒが《ピアノ協奏曲「復活」》の新譜を出していたのを偶然発見。
Youtubeで、バりー・ダグラスの初稿版の音源を聴いてみたところ、重厚で壮大、華麗なロマンティシズム漂うピアノ協奏曲。
聴きやすいことこの上ないけれど、やや俗っぽい感じがするし、深く感動するというほどではなかった。
何よりも、前衛期のペンデレツキの作品を聴いていただけに、あまりの作風の違いにびっくり。
ポーランドでは、このコンチェルトを”Kitschy”(浅薄で通俗的、駄作.)と評する人もいるらしく、そう言われるのもわからないではない。
スペクタクル映画や戦争映画のサントラ音楽を聴いている気分にもなるし、過去の調性音楽の引用めいたところがあったり、終盤には、「復活」というサブタイトルに似つかわしく、鐘の音が聞こえてきたりする。(この曲を聴いていると、《交響曲第1番「HIROSHIMA」》を連想してしまった)

HMVの曲目紹介によると、「ペンデレツキのピアノ協奏曲「復活」は2001年6月に「オーボエと11つの弦楽のための狂詩曲」(1964/65)と「ヴァイオリンとオーケストラのための狂詩曲」(1967)をもとにピアノ協奏曲に再編・作曲し始めましたが、同年2001年9月11日に起きた同時多発テロに強い衝撃を受け、9.11の犠牲者追悼に捧げる作品として作曲し直し、カーネギーホールへの委嘱作品なりました。単一楽章ではありますが、5つのパートに分かれロマンティックなメロディとともに鎮魂の思いがつまった協奏曲」。

初稿版は、2001年~2002年の作曲。初演はサヴァリッシュ指揮フィラディルフィア管&エマニュエル・アックスのピアノ。
2007年再稿版の初演は、ペンデレツキ指揮シンシナティ交響楽団にダグラスのピアノ。
録音は少なく、調べた限りでは4種類。

(初稿版)
バリー・ダグラス/ペンデレツキ指揮ポーランド国立放送響(Polskie Radio)(2003)
ベアタ・ビリンスカ/ペンデレツキ指揮ポーランド国立放送響(DUX)(2007)

(2007年再稿版)
バリー・ダグラス/ヴィト指揮ワルシャワ・フィルハーモニー管(Naxos)(2003)
フローリアン・ウーリヒ/ボロヴィチ指揮ポーランド国立放送響(hanssler)(2013)


これは、ペンデレツキ指揮ポーランド国立放送響&ダグラスによる初稿版。
2007年版は、終盤の鐘の音がばっさり削除されているらしい。
Krzysztof Penderecki: Concerto per pianoforte e orchestra (2001/2002)
Barry Douglas, pianoforte -- National Polish Radio Symphony Orchestra diretta da Krzysztof Penderecki



冒頭のミリタリーな曲想は、プロコフィエフやショスタコーヴィチなどのロシア風、あるいはワーグナー風(?)。
すぐにペンデレツキ独特の3音のモチーフ(1992年のフルート協奏曲で使われていたという)が登場する。
1970年前後に作曲された《Capriccio for Violin and Orchestra》 (1967)や《De Natura Sonoris No. 2》(1971)と比べると、はるかにメロディアスで明確なリズムのドライブ感。
緩徐楽章では、深い情感と幾分のノスタルジックな雰囲気。曲想やテンポが度々切り変わる。

バリー・ダグラスの演奏を聴くと、ショスタコーヴィチかプロコフィエフ的な、屈曲したオドロオドロしさになまめかしい妖艶さ、ラフマニノフばりの濃厚なロマンティシズムで、聳え立つように壮麗なピアノ協奏曲。
ピアノがオケパートの一つのようにシンフォニックなので、協奏交響曲風に聴こえる。
今の時代に、こういうピアノ協奏曲を書く人はそう多くはないのでは。
ソリストがダグラスだったので、昔のペンデレツキの作品のイメージからすれば全く合わなかったけれど、こういう曲想なら違和感がない。



<ピアノ協奏曲のCDとレビュー>

ペンデレツキ指揮ポーランド国立交響楽団にBeata Bilinskaのピアノ(初稿版)。

Capriccio for Vn & Orch/De Natura SonorisCapriccio for Vn & Orch/De Natura Sonoris
(2007/09/18)
K. Penderecki、Polish National Radio Symphony Orchestra、Beata Bilinska

試聴ファイル


バリー・ダグラスのピアノとヴィト指揮ワルシャワ・フィルの2007年版の録音(NAXOS)
Piano Concerto Flute ConcertoPiano Concerto Flute Concerto
(2013/03/01)
Barry Douglas 、Warsaw Philharmonic Orchestra、Antoni Wit

試聴ファイル


2007年再稿版を録音した新譜は、 ドイツの俊英ピアニストらしいフローリアン・ウーリヒとウカシュ・ボロヴィチ指揮ポーランド放送交響楽団のhanssler盤。
ペンデレツキ : ピアノ協奏曲 「復活」 (2007年再稿版) (Krzysztof Penderecki : Piano Concerto ~ Resurrection[輸入盤]ペンデレツキ : ピアノ協奏曲 「復活」 (2007年再稿版) (Krzysztof Penderecki : Piano Concerto ~ Resurrection [輸入盤]
(2013/08/10)
Florian Uhlig (Piano) , Polish Radio Symphony Orchestra , Lukasz Borowicz

試聴ファイル


このコンチェルトを聴いたことがある人は少ないだろうから、レビューもあまり見当たらない。
見つけたレビューは、前衛期のペンデレツキを聴いている人が書いているせいか、なかなか手厳しい。
(NAXOS盤のレビュー)PENDERECKI/Piano Concerto・Flute Concerto[おやぢの部屋2]
(Polskie Radio盤のレビュー)PENDERECKI Piano Concerto"Resurrectionen"[おやぢの部屋2]

ダグラスとウーリヒの録音を比較したCDレビューは面白い。ウーリヒの演奏も聴いてみたくなる。
PENDERECKI/Piano Concerto"Resurrection"[おやぢの部屋2]

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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