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ウレーンとエマール ~ リゲティ/練習曲集
リゲティのピアノ協奏曲を聴いたら、《練習曲集》を久しぶりに聴きたくなってきた。
《練習曲集》録音のなかでは、よく知られているエマールと、スウェーデンの精神科医にしてピアニストでもあるフレドリク・ウレーン(Fredrik Ullén、ウーレンと表記されることもある)が双璧ではなかろうかと。

エマールとウレーンはピアニズムがかなり異なるので、その演奏も曲によっていろいろ違いがあって、聴き比べていると面白い。
エマールは、弱音の響きが多彩で繊細なニュアンスがあり、曖昧模糊とした雰囲気のなかで、万華鏡のように次々と色彩と形が変化していくように、美しく幻想的。
「Cordes a' vide 」、「Arc-en-ciel」、「Automne a' Varsovie」などの緩徐系の曲によく映える。
急速系の曲は、ウレーンに比べると、テンポが少し遅くてタッチやリズムがやや鈍く、音の輪郭に丸みがあるせいか、複数の旋律が絡みあうと、雑然としてもったりした感じがする。(ウレーンと比較して聴かなければ、気にはならないけれど)
そのわりに、表現が時々ハイテンションで激しかったりする。

ウレーンの方は、エマールに比べると、弱音の響きが明晰で、曖昧模糊とした幻想性は少し薄い。
その代わり、硬質で透明感のある響きが、冷たくしたたり落ちる水滴のように美しい。
テンポはエマールよりも速めで、旋律線とリズムの造詣が明瞭で、構造がくっくりと浮かぶあがるように明晰。
スピーディな躍動感があって、とってもスリリング。
テクニカルな切れ味が凄く、硬質の鋭いタッチで、細部まで一音一音が明瞭に弾かれているので、テンポが速い曲でも、個々の旋律の動きが独立して聴こえ、はっきり聴き分けることができる。(まるでバッハの対位法を聴いているみたい)
冒頭の「Disordre」などの急速系の曲を聴くと、そのシャープな切れ味と明晰さとがよくわかる。

私の好みとしては、緩徐・弱音系の曲や幻想性の強い曲では、エマールにかなり魅かれるものがあり、特に素晴らしいのが「Automne a' Varsovie」。
でも、どちらかを選ぶとするなら、明晰なウレーンの演奏の方が、頭のなかでクリアに曲が鳴り響くので、私にはぴたっとくる。
特に異なる旋律とリズムが錯綜する急速系のエチュードが素晴らしく鮮やか。

《Piano Etudes/練習曲集》
1. (Book 1) I. De'sordre - Molto vivace, vigoroso, molto ritmico
2. (Book 1) II. Cordes a' vide - Andantino con moto, molto tenero
3. (Book 1) (Book One): II. Touches bloque'es - Presto possibile, sempre molto ritmico
4. (Book 1) IV. Fanfares - Vivacissimo molto ritmico, con allegria e slancio
5. (Book 1) V. Arc-en-ciel - Andante molto rubato, con eleganza, with swing
6. (Book 1) VI. Automne a' Varsovie - Presto cantabile, molto ritmico e flessibile
7. (Book 2) VII. Galamb borong - Vivacissimo luminoso, legato possibile
8. (Book 2) VIII. Fe'm - Vivace risoluto, con vigore
9. (Book 2) IX. Vertige - Prestissimo sempre molto legato, sehr gleichmassig
10. (Book 2) X. Der Zauberlehrling - Prestissimo, staccatissimo, leggierissimo
11. (Book 2) XI. En suspens - Andante con moto, (avec l`e'le'gance du swing)
12. (Book 2) XII. Entrelacs - Vivacissimo molto ritmico, sempre legato, con delicatezza
13. (Book 2) XIII. L'escalier du diable - Presto legato ma leggiero
14. (Book 2) XIV. Coloana infinita' - Presto possibile, tempestoso con fuoco
15. (Book 3) XV. White on White
16. (Book 3) XVI. Pour Irina
17. (Book 3) XVII. A bout de souffle
18. (Book 3) XVIII Canon
※No.16~No.18の3曲は、エマールの『Ligeti:Works for Piano』(sony盤)には未収録。

急速系のエチュードは、曲によってはジャジーな雰囲気があって面白い。
リズムとメロディの違った複数の旋律が錯綜するので、声部の分離がしっかりしていないと、やや雑然として聴こえる。
第1曲「De'sordre/無秩序」はその典型。第4曲「Fanfares/ファンファーレ」もちょっと似ている。

György Ligeti - Etude no.4 "Fanfares"



緩徐系の曲は、ゆったりとした弱音の旋律がとってもファンタスティック。
第2曲「Cordes a' vide/開放弦」は、タイトルの即物性(?)に似合わず、とても幻想的で美しい。第5曲「Arc-En-Ciel/虹」もよく似ていてる。

Gyõrgy Ligeti by Pierre Laurent Aimard - Cordes à Vide



Gyorgy Ligeti - Etudes, Book I: No. 5 Arc-En-Ciel (Fredrik Ullen, Piano.)



第6曲「Automne a' Varsovie/ワルシャワの秋」:同音連打のオスティナートや下行していく旋律など、異なるリズムと配置の旋律が同時並行していくのが面白い。
幻想的で、不安定感や不安感も感じさせる。
第7曲「悲しい鳩」:音の動きとか雰囲気は、「Automne a' Varsovie」に少し似ている。

一風変わったタイトルが指し示すものが、音として具体的にイメージできるところも面白い。
第3曲「妨げられた打鍵」:タイトルどおり旋律がなかなか進行せずにもどかしげに、くるくると回転しているみたい。
第8曲「fem/金属」:似たような音型が、高音や低音など音程を変えて、メカニカルに動く。
第9曲「Vertige/眩暈」:高音で回転するような半音階の旋律に本当に眩暈がしそう。
第11曲「En suspens/不安定なままに」:行き場の定かでない旋律がふわふわ浮遊している。
第12曲「Entrelacs/組み合わせ模様:きらきらと煌くような色彩感とソノリティ。色とりどりのタペストリーか、万華鏡を見ている(聴いている)みたい。

Ligeti: Etude No.9 "Vertige", from Book II (Fredrik Ullen, Piano.)



第10曲「Der Zauberlehrling/魔法使いの弟子」
タイトルはデュカスを連想するけれど、何か繋がりがあるのだろうか。
幻惑的なトレモロは、ちょっと奇妙で、危なっかしくて、とっても面白い。
トレモロの強弱、テンポ、リズム、音程の変化が、魔法がかかっていく様子を表現しているみたいに聴こえる。
”魔法使い”といえば、今ならハリポタを連想するのだろうけど、なぜか子供の頃に見ていたアニメの「ドロロンえん魔くん」を思い出してしまった。

Aimard: Ligeti - Études pour Piano: X. Der Zauberlehrling (4K)



第13曲「L'escalier du diable/悪魔の階段」
低音部から細かい半音階の旋律が早いテンポで競り上がるように行して行っては、再び、低音部からやり直して、同じように上行していく。
最後はようやく階段の頂点にたどり着いたかのように、悪魔的な響きのするフォルテの和音でエンディング。

第14曲「Coloana infinita'/無限の円柱」
冒頭は「L'escalier du diable」によく似ている。「階段」ではなく、「円柱」だけど、螺旋状に上行する旋律は最後には鍵盤の右端に到達して途切れて、音が静止してしまう。

第15曲「White on White/白の上の白」
シンプルな2つの単旋律がゆっくりと進行していくところは、静かに深々とふりつもる雪のよう。
と思っていたら、終盤で、突如全く違う曲想の音楽に転換して、ダンスのように目まぐるしく踊り出して、最後は疲れたように減衰して止まってしまう。

第16曲「Pour Irina」
「White on White」と展開がよく似ている。
冒頭の旋律は、「White on White」と同じくシンプルな単旋律の組み合わせが綺麗。(もっと静謐でテンポを遅くすると、少しアルヴォ・ペルト風)
曲半ば過ぎると、速いテンポで細かいリズミカルな旋律が現われ、最後はあっけなく終わる。

第17曲「A bout de souffle」
”A bout de souffle”とは、「息を切らして、力が尽きて」という意味らしい。
タイトルどおり、呼吸が乱れたような旋律が、乱雑に飛び交っているような曲。
他の急速系の曲と違って、旋律が乱れた感じがするというか、コントロールされた感が弱い。
最後は、とうとう息が上がってしまったように、突如立ち止まって、静寂に。

第18曲「Canon」
第17曲と旋律や展開が似ている。左右両手の旋律が競走しているように疾走し、最後はゴールに辿りついたように低音の和音で打ち止め。
ポロンポロンと数音が静かに鳴って消える。




<CD>
エマールのSONY盤は、《練習曲集》第1巻&第2巻全曲(第1番~第14番)、第3巻から第15番「White on White」、 《ムジカ・リチェルカータ》全曲を収録。1995年12月に録音。
CD1枚で価格も1000円少々と安く、演奏も聴きやすいし、 《ムジカ・リチェルカータ》も聴けるのが良いところ。

Ligeti:Works for PianoLigeti:Works for Piano
(1997/01/30)
Gyorgy Ligeti、Pierre-Laurent Aimard 他

試聴ファイル
CDレビュー:No. 8 : Aimard plays Ligeti[(Onban-do) Okuzashiki]


ウレーンのBIS盤は、《練習曲集》を含めたリゲティのピアノ作品全集。
分売盤2巻と全集盤(2枚組)があるが、収録曲が少し違っている。
全集盤(2006年リリース)には、分売盤には収録されていなかった《練習曲集第3巻》のNo.17&No.18も入っている。
《練習曲集第3巻》(No.15-18)の作曲年は、1995~2001年。
ウレーンの分売盤は96年と98年に録音されているので、No.17とNo.18はまだ作曲されていなかったのだろう。

BISのホームページでは、分売盤が全曲聴ける試聴ファイルが公開中。(他にも全曲聴けるBISのCDは多数あり。BISはなんと太っ腹な!)


Complete Piano MusicComplete Piano Music
(2006/09/26)
Frederik Ullen

試聴ファイル(amazon)


リゲティ:ピアノ曲全集 Vol 1リゲティ:ピアノ曲全集 Vol 1
(2000/01/01)
フレデリク・ウーレン(Pf)

試聴ファイル(BIS)


Piano Music-Comp Vol.2Piano Music-Comp Vol.2
(2000/01/01)
Frederik Ullen

試聴ファイル(BIS)



<参考情報>
リゲティ ピアノのための練習曲集第1巻[ハインの好きなクラシック]
リゲティ ピアノのための練習曲集第2巻[同上]
リゲティの《練習曲集》の詳しい解説が載っている。推奨されているのは、ウレーンとエマールの録音。

リゲテイ資料集(野々村 禎彦氏作成)

tag : リゲティ エマール

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

愛聴するのはベートーヴェンとブラームス、それにバッハ。ロマン派ならリスト。​さらに現代(20​世紀)の音楽を探検中。特に好きなのはピアノ音楽(ソロ、コンチェルトに室内楽)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなピアノ曲:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30・31・32番,ピアノ協奏曲第3番&第4番。ブラームス/ピアノ協奏曲第1番&第2番、ヘンデル変奏曲、後期ピアノ作品集。バッハ:パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲

好きなヴァイオリン曲:バッハ・ベートーヴェン・ブラームスのヴァイオリンソナタ(ピアノ&ヴァイオリン)、シベリウス/ヴァイオリン協奏曲

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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