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テレンス・ジャッド ~ ヒナステラ/ピアノ・ソナタ第1番
22歳という若さで謎の死をとげたテレンス・ジャッド (1957-1979) はイギリスのピアニスト。
たまたまバーバーのピアノ・ソナタの音源を探していて、ジャッドのCDを見つけた。
聴いたことがない名前だったので、初めはジャズ・ピアニストかと勘違いしたけれど、1978年度の第6回チャイコフスキーコンクールで第4位に入賞するほどの若手ピアニストだった。

英文Wikipediaによると、ジャッドのファミリー・ドクターが、ジャッドが亡くなる10ヶ月前にうつ病治療をしていたと証言し、それ以前にも、神経衰弱のために治療施設で電気ショック療法を受けていたという。
Coroner's jury(検屍陪審)の評決は、”open verdict”(死者の死因または殺害者について不明と認定した評決)だった。
ジャッドを追悼して設けられた”The Terence Judd Award”の優勝者のなかには、スティーヴン・ハフ、ニコライ・ルガンスキー、児玉桃がいる。


ジャッドの録音のなかでは、アルベルト・ヒナステラの《ピアノ・ソナタ第1番》の評価が極めて高い。
CDレビューの参考にしている「楽譜の風景~What's new/雑記帳」「Kyushima's Home Page」の両方で絶賛されていたし、他に見たいくつかのレビューでも、ジャッドの演奏が最高という人がほとんど。

たしかに、Youtubeの音源でジャッドの演奏を全楽章聴いてみると、評判どおり素晴らしい。
特に、急速楽章が素晴らしく、速いテンポとシャープで力感のあるタッチは、フォルテの和音連打でも変わらない。
引き締まった響きと鋭いリズムで、骨格がくっきりと浮かび上がるように明晰。
パッショネイトで駆け抜けるような推進力があって、とってもスリリング
対照的に、弱音部は硬質で線の細い透明感のある音色が美しく繊細。

ジャッド以外の録音も結構あるのでいくつか聴いてみると、力感が強いとテンポが遅かったり、逆にテンポが速いとタッチが軽かったりリズムが平板だったり、フォルテの和音連打で響きが混濁したりと、一長一短。(その中では、ミハエラ・ウルスレアサが一番スピード感があって、切れ味の鋭い演奏だった)
ジャッドの演奏が最高という評判はどうやら間違いなさそう。

Terence Judd plays Ginastera Sonata No. 1 Op. 22


「Sonata No. 1, Op. 22 ソナタ第1番、作品22」(作品解説)[中南米ピアノ音楽研究所]


”南米のバルトーク”ともよばれるヒナステラは、アストル・ピアソラの先生だったらしい。
彼のピアノ作品の代表作《ピアノ・ソナタ第1番》(1952年)は、曲自体が素晴らしい。バルトークが好きな人ならとても気に入ると思う。
現代音楽のピアノソナタのなかでも、こんなに印象が強烈で、一度聴いたら忘れられない旋律とズムを持っている曲は少ない。
無調ではないけれど、調性音楽のもつメロディアスさはあまり強くなく、シンプルな旋律と躍動的でシャープなリズムが次から次へと煌くように交錯していき、とってもスリリング。
十二音技法で書かれているところがいくつかあるらしく(私にはよくわからないけど)、それにしては難解さや不可解さを全く感じることがない。
ジャッドの演奏を聴けば、この曲の素晴らしさが最も体感できる。

第1楽章 Allegro marcato
第1楽章は、スペインの民俗音楽風な雰囲気があり、なぜか東洋風(オリエント風?)のエキゾティシズムを少し感じる。
冒頭の力強くずしりと響く和音の旋律とリズムは忘れ難いくらいに印象的。(イントロクイズで出てきても、すぐに曲名を当てられる)
特に、低音の濁ったような重たい響きが厳しくもダイナミック。和音の連打も響きが混濁することなく、シャープ。
ジャッドは、腕力にまかせてバンバン鍵盤を叩くのではなく、研ぎ澄まされた鋭さと引き締まった響きで、灼熱感よりも冷徹なパッションを感じる。
対照的に、第2主題の高音の旋律はちょっとロマンティック。
演奏時間は4分少々とかなり速い。Naxos版のヴィアーニも同じくらい速いけれど、4分20秒~30秒くらいで弾いているピアニストが多い。この20秒くらいの差でスピード感が全く違う。

第2楽章 Presto misterioso
練習曲みたいなシンプルなパッセージがいろいろと繰り返し出てきたり、途中でスペイン風(それともアルゼンチン風というのか)のパッショネイトな旋律が、突然フォルテで現われたりする。
冒頭のユニゾンの旋律が何度も現われて、不安げな雰囲気が漂っている。
旋律も構成もとてもシンプルなのだけれど、旋律自体の持つ雰囲気や、速いテンポでリズミカルな演奏には単調さは全くなく、弱音のパッセージがとってもミステリアス。

第3楽章 Adagio molto appassionato
ねっとりとまとわりつくような妖艶さに加えて、不安感も漂っているような旋律。
特にアルペジオが美しくもドラマティック。エンディングで、ポツポツとゆっくりと静かに散りばめられたアルペジオの旋律が神秘的(ここは12音技法のように聴こえる)。

第4楽章 Ruvido ed ostinato
この曲のリズムは、ヒナステラがよく使っていてトレードマークのような「マランボ」。ガウチョ(アルゼンチン版カウボーイ)の野生的な音楽のこと。
3分近い演奏が多いなかで、ジャッドは2分半くらいで弾いているので、やはり速い。
同音連打も重厚な和音で進行するパッセージも、鋭いタッチで重戦車のように怒涛のごとく力強く疾走して、スピーディで迫力満点。
最初から最後まで、一瞬も弛緩することなく弾き切って、まさに圧巻。


ヒナステラの《ピアノ・ソナタ第1番》が収録されているジャッドのCD。
LP時代にリリースされたジャッドのソロ録音3枚から、抜粋して編集されたもの。
ヒナステラを聴くだけでも価値があるCDなので、早速オーダーしたけれど、ヒナステラ以外の演奏にもかなり魅かれるものがある。
試聴した限りでは、バーバーの《ピアノ・ソナタ》も切れ味が鋭くて、良い感じ。
爆走する演奏だけではなく、(ちょっとデッドな音質でも)流麗な旋律のリストやラヴェルは、硬質のクリアな響きで造詣が明瞭でクールな美しさ。
ショスタコーヴィチは、(戦車みたいに)力強くてちょっと騒々しい。もっと軽快でユーモアがあった曲だったように思うんだけど。

Terence Judd 1957-1979Terence Judd 1957-1979
(2001/06/26)
Alberto Ginastera、 他

試聴ファイル(amazon.de)

<収録曲>
リスト:巡礼の年第3年~第4曲「エステ荘の噴水」
リスト:巡礼の年第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」
ヒナステラ :ピアノ・ソナタ
バーバー:ピアノ・ソナタ
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ~第15曲
ラヴェル:鏡~「悲しい鳥」

tag : ヒナステラ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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