*All archives*



バックハウス晩年のライブ録音集 ~ ザルツブルク&ベルリンリサイタル
バックハウスのソロ録音はほとんど持っているけれど、そのなかでも晩年のライブ録音は味わい深く、しみじみと感じさせるものがある。

1968年のザルツブルク音楽祭リサイタルのライブ録音(orfeo盤)では、すでに84歳という高齢。
随分以前に聴いたときはそれほど感動するというわけではなかったのに、聴き直していくうちに、技巧を超えた何かを感じるようになってきた。
モノラル時代と比べれば、技巧的にかなり衰えているとはいえ、音質がはるかに良い上に、ライブならではの臨場感や生気がひしひしと伝わってくる。


『ザルツブルグ・リサイタル』(1968年8月10日)[ORFEO]

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番 他 [Import]ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番 他 [Import]
(1992年11月05日)
Wilhelm Backhaus

試聴ファイル(allmusic)


当日のプログラムは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタから第12番「葬送」、第14番「月光」、第17番「テンペスト」、第26番「告別」。
いずれもライブ録音でよく登場する曲ばかり。
このライブ録音では、音楽が自然に流れていて、本当に体にしみこんでくるような感じがするくらい。
こういう感覚は他のピアニストで弾くベートーヴェンではめったに味わった覚えがない。
音の粒が揃っていなかったり、速いパッセージで指がもつれ気味だったり、ミスタッチが多かったりと、技巧的なキズは多々あるとはいえ、85歳にしては、驚くほどにタッチが力強く安定している。
さらに、テンポも若い頃に比べれば多少遅くなっているけれど、これでも普通に速いのが驚き。(高齢のピアニストは、テンポがかなり遅いテンポで弾いている人が多いので)
何よりも、演奏に緩みがなく、生き生きとした躍動感と活気が溢れているのが凄い。
まろやかなベーゼンドルファーの音と録音音質とが影響しているのもあるかもしれないけれど、暖かみのある音色と力みのない表現がとても自然な歌いまわしになっている気がする。
特に、「葬送ソナタ」は、ピアノの軽い柔らかで暖かい音色と淡い叙情感が、この曲に良く似合っていて、このCDでは一番好きな曲。
冒頭の主題旋律を聴いただけで、しみじみとした情感に惹きこまれてしまう。
第2楽章は、速いテンポでリズミカルだし、最終楽章は葬送行進曲の重い足取りから解放されて、息を吹き返したように生き生きとして、軽やかに舞うよう。


これはモノラル録音の「葬送ソナタ」
ベートーヴェン ピアノソナタ第12番「葬送」第3楽章 (Piano : Wilhelm Backhaus)


ベートーヴェン ピアノソナタ第12番「葬送」終楽章 Op.26 (Piano : Wilhelm Backhaus)





『ザルツブルグ・リサイタル』(1966年7月30日)[ORFEO]

Wilhelm Backhaus Plays Beethoven, Mozart and BachWilhelm Backhaus Plays Beethoven, Mozart and Bach
(2000/10/17)
Wilhelm Backhaus

試聴ファイル(allmusic)


プログラムは、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第23番<熱情>、第32番、バッハ「前奏曲とフーガ」、モーツァルト「ピアノ・ソナタ第5番/ピアノ・ソナタ第11番トルコ行進曲付」。
珍しくもバッハとモーツァルトのライブが聴ける。
スタジオ録音があるのは、BWV884が1956年、K283が1966年、K331が1955年。
モーツァルトは、甘くはないけれど、柔らかいタッチで優しく語るような歌いまわし。
「トルコ行進曲」はリサイタルのアンコールでよく弾いていたようなので、バックハウスはこのピアノ・ソナタが好きだったのだろう。
56年のライブ録音のアンコールと比べると、(加齢の影響のためか)タッチの鋭さと力強さが減っていて、10年前の「トルコ行進曲」の方が活気に満ちている。

CDレビュー:バックハウス@ザルツブルク(1966年7月30日)[クラシック音楽CDの雑談]



ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 (第15,18, 21, 30番) (1969)[audite]

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 (Beethoven : Piano Sonatas Nos. 15, 18, 21 & 30 / Wilhelm Backhaus (1969 LIVE)) (2CD)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 (Beethoven : Piano Sonatas Nos. 15, 18, 21 & 30 / Wilhelm Backhaus (1969 LIVE)) (2CD)
(2010/07/08)
ヴィルヘルム・バックハウス

試聴ファイル

これは、ベルリンのフィルハーモニーでのリサイタルをステレオ録音したもの。
音質が素晴らしく良く、残響も豊か。それに、ベーゼンドルファーではなくベヒシュタインを弾いているので、やや硬質でかなり輝きのある音色。
亡くなる3ヶ月前のリサイタルなので、齢85歳。高齢でテンポが遅くなるピアニストが多いなかで、バックハウスはテンポは相変わらず速く、音も瑞々しい。
クリアの音質とピアノの音色のせいか、1年前のorfeo盤よりも、タッチに力強さと、演奏に緊張感が感じられる。
ライナーノートでは、このプログラムはバックハウスにとっては”taking risk”と書かれている。
長年弾き慣れた曲ばかりとはいえ、和音と跳躍が多い「狩」や、音域が格段に広がりアジペジオも多い「ワルトシュタイン」が入っているし、最後の30番ソナタも終楽章のトリル、85歳という年齢を考えると、このプログラムを弾くというのは凄い気がする。
指がもつれるようなところや急き込んだようなところは時々あるけれど、最晩年までバックハウスの技巧が大きく損なわれることなく、テンポは速く、打鍵も明瞭で、強弱の起伏も大きくダイナミックで、演奏に淀みなく勢いがある。
瑞々しく輝きのある音と生き生きとした躍動感で、”枯れた”ところは全くなく、若々しさを感じさせるくらい。
思弁的にも精神的な深遠さにも陥ることがないのは、バックハウスらしいところなのかも。
最晩年のリサイタルを、これだけ良い音で、最後まで崩れることなく、テンション高く生気に満ちた演奏で聴けるのは、本当に嬉しい限り。
特に、今までライブ録音では聴けなかった「田園」と「第30番」、最後のリサイタルでは最後まで弾くことができなかった「狩」が聴くことができる。

この4曲のなかでは、一番惹きこまれたのは第30番。
曲想のせいもあるのかもしれないけれど、それまでの曲の演奏で感じられた力強さと緊張感が和らぎ、泰然自若というか、自然な緩やかさと自由さがあるような感じがしてくる。
第31番の方は叙情性が強いけれど、こちらはそれと比べて変奏が入っているせいか、形式的にかっちりと整った感じがする。
バックハウスの演奏を聴くと、第31番と同じくらいに好きになれそう。
特に、最後のトリル部分は、第32番の最終部分と相通ずるように、天上の高みへと飛翔していくように聴こえる。

これはモノラル録音(1950年)の第30番。
Wilhelm Backhaus plays Beethoven Sonata No. 30 in E major Op. 109



<参考情報>『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第30番作品109』の謎』(大村 英堯)

tag : ベートーヴェン バッハ モーツァルト バックハウス

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。