2014_11
08
(Sat)12:00

アラウ ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番 

久しぶりに聴いたアラウのブラームスの《ピアノ協奏曲第1番》。
このコンチェルトのアラウの録音は、かなり残っていて、2つのスタジオ録音とライブ録音が数種類。
アラウのブラームスは、しなやかで繊細なブラームスとか、若々しい爽やかなブラームスとかとは全然違っていて、アラウらしいゆったりとしたテンポと深い呼吸で、重厚で濃厚な情感のあるブラームス。
昔からアラウのブラームスは凄く好きというわけではなくて、たまに聴くとかなりもたれる感じがする。
それが、今聴いてみると、なぜかその濃厚な味わいがだんだん体のなかに浸み込んできて、とっても心地良い。

年をとるにつれてテンポが遅くなっていったアラウは、"maestoso"(威厳を持って)という指示がある第1楽章でも、この曲の数ある録音のなかでも、テンポの遅さではベストではないかと思うくらいにゆったり。(たぶん同じくらいに遅いのは、グリモー)
ハイティンク指揮のPhilips盤が最も遅くて、演奏時間は実に24分近く。(その9年前に録音したEMI盤でも演奏時間は数十秒短いだけ)
私が好きな演奏はテンポが速いものが多いのに、なぜかこのスローテンポのアラウのコンチェルトだけは、テンポの遅さも気にならない。

アラウが力説していたのは、この"maestoso"と指定された第1楽章のテンポが、どのピアニストも速すぎるということ。

「速く弾くことと情熱とを結びつけて考えることは誤りです。音楽では、情熱はゆっくりと演奏すべきものです。速いことは情熱とは対照的なものです。緊張感がまったく失われるのです。私としては、このニ短調協奏曲に解釈が二通りあるとは思いません。第1楽章は4分の6拍子で書かれています。それにアレグロですらありません。マエストーソ、威厳を持って、とあります。もし、速く弾いたら、どこに威厳があるというのでしょう。」(『アラウとの対話』(みすず書房))

「私としては、このニ短調協奏曲に解釈が二通りあるとは思いません。」というのは、とてもアラウらしい言葉。
アラウの弟子だったピアニストのギャリック・オールソンが、アラウについて語っていたことを思い出す。

「アラウ先生は何事もいったん思い込んだら頑として強く思いこむ人です。絵を壁に架けること一つでも、別の架け方というものはないのです。一度架けたら、それが絶対なのでした。」(同上)

この喩え方が面白い。アラウは20歳前後の若い頃に深刻な悩みと迷いを抱えて、精神分析医にかかっていたことがある。
そのメンタル面の問題を克服してからは、確信に満ちた人だったに違いない。


クーベリック指揮バイエルン放送響(1964年、orfeo、ライブ録音)

ライブ録音で持っているCDはクーベリックとイッセルシュテットが指揮したもの。
昔からスタジオ録音よりも好きだったのが、クーベリック指揮のorfeo盤。(イッセルシュテット盤はモノラルで音が良くないので今は聴かない)
アラウのマルカートのような一音一音克明で骨っぽいタッチは、スマートではなくて朴訥な感じがするけれど、力感・量感豊かな重みと、振幅の大きいアーティキュレーションでドラマティック。
スタジオ録音よりもテンポが速くタッチに鋭さがあり、急速部は力感と疾走感が増してテンション高く、ライブが本領のアラウらしいところ。
特に第3楽章はアラウにしてはテンポもかなり速くて、アクセルを踏んだような疾走感と急迫感があり、気力漲る演奏。
スタジオ録音とはまるで別人みたい。

Brahms Piano Concerto No.1 Claudio Arrau Rafael Kubelik 1964


ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 他ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 他
(1999/04/20)
ORFEO DOR *CL*

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ジュリーニ指揮フィルハーモニア管(1960年、EMI)
ジュリーニが指揮したEMI盤を聴き直してみると、今ではライブ録音と同じくらいに好きになっているのに気が付いた。(こういう好みは聴くときによってよく変わるので)
1960年のスタジオ録音は、もともと音質の良くないEMIの録音なので、音の分離が良く無く篭り気味。
音質の悪さのせいで、ピアノの線の太さと響きの厚みがさらに増し、ゆったりとしたテンポも相まって、重厚で悠然と流れる大河のよう。
アラウの骨太で克明なタッチで弾く旋律は、語りかけるような歌い方でニュアンス豊か。悲愴感を帯びた深く濃い情感が漂う。
厚い響きに包まれて、音の川のなかでゆらゆら流れているような感覚がする。
緩急の変化が大きく、急速部になると、テンポもあがってタッチもシャープで力強くなり、メリハリがあるので緩みを感じることはない。
第1楽章半ば(11分20秒~)では、突如覚醒したようにテンポが上がって、疾走していくところが爽快。緩徐部がゆったりしているせいで、よけいにコントラストが鮮やかに聴こえる。
第3楽章もテンポはそれほど速くはないので、強い疾走感や急迫感はなくても、慌てず騒がず丁寧なタッチで表情豊かで朗々とした語り口。
エンディングに向かって一歩一歩着実に前進し、じわじわと高まっていく高揚感が爽やか。


ARRAU / GIULINI, Brahms Piano Concerto no.1 in D Minor, op.15 (1)


ARRAU / GIULINI, Brahms Piano Concerto no.1 in D Minor, 0p.15 (2)


Brahms: Piano Concertos Nos. 1 & 2Brahms: Piano Concertos Nos. 1 & 2
(2002/05/18)
Arrau、Giulini 他

試聴ファイルあり


Symphonies Ouvertures Concertos Pour PianoSymphonies Ouvertures Concertos Pour Piano
(2010/10/18)
J. Brahms

試聴ファイル(amazon.de)


ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管(1969年、Philips)
EMI盤よりも音がクリアで(それにオケも違うし)、もやもやした霧が晴れたように音の厚みが薄くなって、アラウのピアノの音の美しさがしっかり聴けるのが嬉しい。
そのせいか、ピアノの音の線が少し細くなり、重厚さと陰翳や情感の濃厚さも少し薄れた感じがする。
EMI盤とはそれほどテンポが遅いわけではなく、克明なタッチでじっくりと弾き込んで、深い呼吸で丁寧な語り口なのは変わらない。
疾風怒濤の若者風や、しなやかで繊細な叙情的なブラームスとは全然違うけれど、堂々としたスケール感と悠然とした懐の深い包容力を感じさせるところがアラウならでは。

Johannes Brahms - Piano Concerto no. 1 in D minor, op.15



ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、他ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、他
(2014/08/27)
アラウ(クラウディオ)

試聴ファイルあり


この3種類の録音は、それぞれ音質も特徴が違っているので、どれも好きとは言えるけれど、Philips盤はアラウのピアノの音色が綺麗だし、EMI盤は音が悪くても(むしろ悪いから?)重厚で陰翳のある濃い叙情感が味わえる。
スタジオ録音は、ライブ録音のような急迫感や白熱感はないけれど、落ち着いた安定感があって、(今は)スタジオ録音の方がじっくりと聴き込めて、アラウのゆったりとしてコクのある音楽の流れにシンクロできるので、とても心地良い。
冬に近づいて寒くなったので、ゆったり濃厚な味わいのブラームスを聴くとほっこり暖まる気がするからかも。
アラウのブラームスは、カッチェンやブレンデルとは方向性が違っているけれど、逆にその違いが魅力的。
聴けば聴くほどアラウ独特の重厚で濃密なロマンティシズムが味わい深くて、やっぱりアラウのブラームスはいいなあ。
マイベストのカッチェンと同じくらいに好きになれそう。


<過去記事>
アラウ ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
アラウ&クーベリック指揮バイエルン放送響 ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
昔書いた記事を読み直していると、今感じていることとは違っていることも結構多い。数年たったら、また違っているのかも。

タグ:ブラームス アラウ ジュリーニ クーベリック

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2 Comments

ポンコツスクーター  

アラウのブラームス

こんばんは。
アラウの1番は、クーベリック盤とジュリーニ盤を愛聴しています。どちらも懐の深い美しい演奏で気に入っています。この2枚さえありゃ他はいらない、といってはまあちょっと乱暴ですが、いざとなったらそうするでしょう(どんなときだ?)。

レーゼルのブラームス、1楽章まで聴きました。もったいないので続きは明日以降。ヤバいですね。軽いんですよ。このくらい軽やかな演奏が、ブラームスなのじゃないかと思います。

2014/11/10 (Mon) 21:15 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

惚れ直してしまいました

ポンコツスクーター様、こんばんは。

アラウの第1番なら、クーベリックとジュリーニの盤ですね!
ハイティンクのPhilips盤は音は良いのですが、なぜか音が悪くてもジュリーニの方を聴いてしまいます。
それに、昔聴いたときよりも、ジュリーニ盤がとても気に入ってしまいました。

レーゼルのブラームスは、ルバート多用で淀んだりがしないので、とても軽快ですね。
芯のしっかりした音と低音部が力強く響いて、明るく爽やかなところが好きです。(もう少しコクとタメが欲しいと思うときもありますが)
ライブなのに、テクニックの切れの良さと安定感はさすがです。
昔ギレリス&ヨッフムを聴いたときは、なんだか重くて暗かったような気がしました。
やっぱり第2番は、イタリアの陽光が差し込んでいるような明るく晴れやかな演奏が似合いますね。

2014/11/10 (Mon) 22:10 | EDIT | REPLY |   

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