スコット・ロス ~ バッハ/パルティータ集

今年最後の記事は、バッハの《6つのパルティータ》。
バッハの鍵盤楽器の曲集のなかでは、もっとも人気のある《ゴルトベルク変奏曲》よりも、《平均律曲集》よりも、一番好きな曲集。次に好きなのは、《ヴァイオリンソナタ全集》と《イギリス組曲》。
パルティータでいつも聴く曲は、第1・2・6番。なぜか年末のこの時期に聴きたくなったのは、短調の第2番と第6番。
ピアノ演奏なら、曲によって好きなピアニストが違う。(第1番はフィオレンティーノ、第2番はソコロフ、第6番はエゴロフ)
チェンバロならスコット・ロス。チェンバロの音も演奏も一番私の波長にぴったり合っている。

Bach: 6 PartitasBach: 6 Partitas
(2005/02/21)
Scott Ross

試聴ファイル(allmusic.com)


ロスのパルティータを聴いていると、音は間違いなくチェンバロなのに、まるでピアノの演奏を聴いているように、私には全く違和感を感じることがないのが不思議。
そう感じる理由の一つは、(チェンバロにしては)金属的な響きの少ないまろやかな音色が耳に優しいこと、アゴーギクやルバートが強くないので(細かく緩いので)、インテンポにかなり近く感じること。
ロスのチェンバロの音は、今まで聴いたチェンバロのなかで一番好きな音色と響き。
CDのブックレットに記載されていないので、使用楽器が何かがわからない。
同年EMIに録音した《Goldberg変奏曲》ではDavid Ley、FrescobaldiではJean-Louis Valを弾いているので、このどちらか(バッハならDavid Ley?)なのかもしれない。

残響もほどよい長さで(EMIのゴルトベルク録音よりは長い)、厚みが薄めで軽やな弾力があって、ベタッとした叙情感が少なく、きりりと引き締まってすっきりした響き。
明るさと清々しさを感じさせる音が体の中にすっと入ってくる。
ロスのパルティータは、アゴーギクもルバートも強調せずに端正なくらいなのに、単調さを感じることはない。
何よりも、ひたすら前進していくような推進力と、生き生きとした生命力が湧き出て、瑞々しい躍動感のあるロスの演奏に惹きこまれて、じっと聴き入ってしまう。
そういう感覚は、ピアノ演奏を聴いたときでも、経験することは少ない。

パルティータ全集は1988年の録音。その1年後、ロスはエイズが原因で38歳で亡くなる。
<Scott Ross礼賛>に掲載されている『未完の運命-スコット・ロス伝(要約版)』の第7章を読むと、パルティータを録音していた頃にはロスは自らの死期を予感していたように受け取れる。
淀むことなく先へ進み続けるようなロス演奏は、限られた時間のなかで生き急いでいたようにも聴こえる。

パルティータのなかで最も好きな第2番。特に、Sinfonia、Rondeaux、Capriccioは聴く飽きることがない。
ロスの演奏は、鋭いタッチと速いテンポで集中力・凝縮力が高く、きりりと引き締まり、その生気と躍動感に惹きこまれてしまう。

BWV826 Partita No.2 in c Scott Ross 1988



第2番をピアノで聴くときは、美しい叙情感と力強い音の力が拮抗したようなソコロフの演奏。(30年以上も前に録音したもの)

Sokolov Bach Partita BWV 826




BWV830 Partita No.6 in e Scott Ross 1988




第6番のピアノ演奏なら、ユーリ・エゴロフのライブ録音。(エゴロフもエイズによる合併症のため33歳で亡くなっている)
特に素晴らしいのが、淡々と静かに語り掛けるようなトッカータ。
レガートな旋律と重なり合う柔らかな和声の響きは、天上から舞い降りたように清らかで美しい。

Youri Egorov Bach Partita 6 Toccata





末尾ながら、今年ブログをご覧下さった方、コメント下さった方、どうもありがとうございました。
どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。


タグ:バッハ スコット・ロス ソコロフ エゴロフ

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コメント

パルティータ好きです

こんにちは。
私もゴルトベルクよりパルティータのほうが好きかもしれません。
高校生の頃にカール・リヒターのLPで刷り込まれました。
他のレコードを買う余裕もなく、これしか聴いていなかったので、
CD時代となり、大人になり、いろんな演奏で聴くと、
各奏者のアプローチの多彩なこと、圧倒されました。

チェンバロで好きなのはレオンハルトの新録音と、スコット・ロスです。
ロスの演奏は華やかで生き生きしていて、死を意識しながら、衰えゆく体調の中で録音されたとは、
にわかには信じがたいものがあります。

レオンハルトは落ち着いた柔らかな演奏。
派手さはなく、一音一音を慈しむような弾き方がとても好きです。

ロスのパルティータ、素晴らしいです

木曽のあばら屋様、こんばんは。

ゴルトベルクは、途中で眠くなってしまうことが多いので、不眠症解消には良いのですが、やっぱり音楽は最後まで聴きたいですね。
パルティータは、曲自体が好きなのですが、6曲もあれば奏者によって違いがいろいろあるので、聴き比べる楽しみが多いです。

ロスのパルティータは、一度聴いただけですっかりはまりました。
不思議なくらいに、彼の演奏は音色も明るく明晰で、瑞々しい生命力に溢れていて、病の翳は全く感じられませんね。

レオンハルトのパルティータは新録音のCD持ってます。
旧盤よりもアゴーギクが緩くなって、穏やかな心境を感じました。

スコット・ロス!

お久しぶりです!
久々に訪問させて頂いたら、スコット・ロスではありませんか!

とは言っても、私は彼のスカルラッティのアルバム1枚持っているだけなのですが。
パルティータもすんごく素敵ですこと!生き生きしてます!
基本的にそれほどチェンバロは好きではないのですが、ロスのチェンバロだけはそういう域を軽々飛び越えてしまうものがあって、凄いなあ!と思います。

スカルラッティのアルバムでも、使用楽器は4台も書かれていました。
そんなにも曲によって弾き分けていると、今回初めて知りました。
全部同じ楽器だろう!と思っておりました(汗)。


You Tubeと試聴では音質がちょっと違って面白かったです。
試聴の方が鮮明でよく響いて聴こえる気がします。
アルバム、欲しくなってきました!!

今年も私の拙いブログにコメントを頂きありがとうございました。
来年もまた色々教えてください!よろしくお願いいたします。

楽器の違いを超えて

Tea316さん、こんばんは。

今年最後の締めくくりは、(私も予想外だった)スコット・ロスでした。
ロスのスカルラッティは有名なので、何曲か聴いた記憶はあります。
4台のチェンバロを使い分けているというのは、凄いですね!
直観に優れた天才肌の人だと思っていましたが、学究肌なところもあったのかも。

パルティータもとっても生き生きしてますよね!
私もチェンバロ演奏は苦手ですが、例外的にロスのチェンバロは、ピアノとの違いを全然意識せずに聴けるのが、不思議です。
それだけロスの演奏に惹き込まれているのでしょう。

パルティータ全集のCD、とってもオススメです。
CD自体は数種類あるのですが、軒並み廃盤になっているようです。(たまにヤフオクに出品されてます)
スカルラッティ全集は今年廉価盤が出てましたから、パルティータも早く再発売して欲しいものです。

私の方こそ、知らなかった音楽や演奏家のことを知るきっかけになって、Teaさんのブログを楽しく読ませていただきました。
それに、私のブログの方にもコメントくださって、どうもありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

年の最後はバッハでしたか♪

バッハの鍵盤楽器の曲集は大体大好きなのですが、パルティータは特に良いですね。2番は何とも心を打つものがあります。ソコロフの演奏は、憂いがあって素敵な響きですね。
バッハの曲は、計算して出来た譜面のなかにドラマがあって、たとえインベンションであっても物語がある様に思ってしまいます。

今年もためになる文章を沢山読ませていただき感謝しております。
よいお年をお迎えください。

ドラマティックなバッハ

Leafさん、こんばんは。
さっきまでおせち料理作ってましたので、昨日と今日はゆっくり音楽聴く暇もなかったです。(元旦には焼き物のお重も作らないと...)

パルティータの第2番、やっぱりいい曲ですよね!
第1番と第6番も好きですが、バッハの曲なら短調の方が好きな曲が多いです。
ソコロフの演奏は、しっとりした叙情感と、RondeauxとCapriccioでの毅然とした力強さがあるところに惹かれます。

インベンションは、子供の頃練習しましたが全然好きにはなれずに、これが元で長い間バッハは聴かなかったのですが、数年前にコロリオフの演奏を聴いて、こんなに面白い曲だったんだとようやく気がつきました。
(そもそも自分の下手なピアノで初めて聴いたのが間違いの元でした...)
おっしゃるとおり、バロックの音楽にしては、バッハを聴くとドラマティックに感じることも多いですね。
それに、現代の音楽と相通じるくらいにモダンに思うこともあります。(ヴァイオリンソナタ第4番の第4楽章とか)
こう書いていたら、お正月には、ヴァイオリンソナタを聴きたくなってきました。

いつもブログをお読みくださってありがとうございました。
興味のあることだけいろいろ書き散らしておりますが、何かのお役に立っていましたら幸いです。
Leafさんも良いお年をお迎えくださいませ。

yoshimiさん、こんばんは。

昨年末にこちらで紹介のあったスコット・ロスのパルティータ
少し前に中古のものを入手できました。
「今そこで生まれたような音」という表現を目にすることが
ありますが、そういう感じの生き生きとした瑞々しい音、音楽ですね。

いずれ入手できたらと思っていたので嬉しいです。
ご紹介ありがとうございました。

 

ANNAさん、こんばんは。

ロスのパルティータは、原盤・廉価盤とも廃盤になっているようですね。
首尾よく入手できて良かったです。

”生気溢れる”というのは、まさにロスの演奏のことですね。
ライブで聴く「今そこで生まれた音」のような生命力と躍動感があります。
チェンバロ奏法のセオリーからは外れているのでしょうが、ほぼインテンポで終着点を目指してひたすら前進するところは、まるで生き急いでいるかのように思えてきます。
チェンバロはあまり聴かないのですが、ロスのパルティータだけはこれからもずっと聴きたい音楽です。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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