ガヴリーロフ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲
2015-01-07(Wed)
ガヴリーロフの《フランス組曲》を聴き直していると、そういえば、《ゴルトベルク変奏曲》も録音していたのを思い出した。
《ゴルトベルク》を聴いていると、たいてい眠くなってしまって最後まで聴けないし、パルティータほどに凄く好きというわけでもないので、よほど気に入った演奏でない限り、異聴盤は買わないようにしている。
でも、あんなに美しい《フランス組曲》を弾いていたガヴリーロフなら、もしかしたら眠気を誘わないようなゴルトベルクを弾いているかも...と思い立って、早速Youtubeで聴いてみた。
やっぱり予想通り、このゴルトベルクを聴いていたら全然眠気が襲ってこない。
ソノリティもノンレガート&レガートのタッチの使い分けも、滑らかで明晰なフレージングも、私の好みにぴったり。
クリスピーなタッチで弾かれるのは好きではないので、ガヴリーロフの骨太で量感・力感ある音なら、ノンレガートでも重みがあって艶やか。
速めのテンポと切れ味の良いタッチで正確なメカニックが気持ちよく、アリアや緩徐系の変奏でのデリケートな情感は、寄り添うような親密感を感じる。
アリアは、とてもゆったりとしたテンポで、穏やかで物思いに耽るかのように内省的。
柔らかく重なり合うピアノの響きが密やかでとても美しい。
どこかしら、しみじみと何かを懐かしむかのような淋しさが漂っているようでもあり、脆く壊れやすいナイーヴな内面を垣間見る気もしてくる。第15変奏と第25変奏を聴いても印象は同じ。
第1変奏は、きびきびとして速いテンポながら、芯のしっかりした丸みのある木質感のある音で、ノンレガートでもフェルトのように柔らかな質感が心地よい。
それに軽くアクセントがついたように響き続ける持続音がとても綺麗。
ピアノの響きを生かしたソノリティの美しさは、ケンプの《ゴルトベルク》に近いかも。
ショパンのエチュードを聴いたときは、下手をするとコミカルに聴こえかねないところだったけれど、ガヴリーロフのバッハは、安定した技巧をベースに、現代ピアノの持ち味を美しさを生かした美しいソノリティと、飾ることなく内面からにじみ出てくるような情感が、とても魅力的。
CDを買って全曲聴く気になっていたのに、第5変奏以降を聴いていたら、(私のテンポ感だと)速すぎるテンポで弾いている変奏が次々と出てくる。
(第5・6・8・11・20・26・28・29変奏など)急速系の変奏では、ショパンのエチュード並みというか、それ以上に滅法速いテンポで、変奏によっては、せかせかと落ち着きなくてせわしなく感じる。
それに、あまりに速いので、装飾音やトリルが時々不鮮明でもつれたように聴こえる。
ショパンのエチュードなら、練習曲という性格があるせいか、猛スピードが逆に面白く聴けたけれど、《ゴルトベルク》では、それまでの潤いのある叙情感が吹き飛びそう。
でも、その直後にゆったりしたテンポの変奏になると、繊細な情感と綺麗な響きの演奏になって、やっぱり素敵と思い直したり。
何度か聴いていたら、その猛スピードにも耳が慣れて、さほど気にならなくなってきた。
CD買うべきかどうかちょっと迷ったけれど、猛スピードの変奏以外はとても魅力的だし、脆くて壊れそうな感受性を感じさせるアリアと第15変奏&第25変奏があまりに印象的すぎて、結局、CD買いました。
Bach: Goldberg Variations, Aria
Andrei GAVRILOV @ BACH Goldberg Variations (1/2) 1993 [Youtube]
《ゴルトベルク》よりも、《フランス組曲》よりも、さらに心に染み入るのは《平均律曲集》。
ガヴリーロフが《ゴルトベルク》を録音したのは、1992年。1993年10月には、《フランス組曲》をDGに再録音。
EMIやDGから次々とCDをリリースしていたガヴリーロフは、1990年代半ばまではキラ星の如く輝くスーパースターだった。
その後、ベルギー女王臨席のリサイタルを直前にキャンセルして以降、演奏会でのトラブルも多くなって、ピアニスト人生が暗転。
DGとの契約も家も家族も失い、コンサートもほとんど開くことができず、長らく表舞台から消えていた。
そんな苦境を経て、2000年にライブ録音した《平均律曲集第1巻》は、清々しく澄み切っていて、とても温もりのあるバッハ。
憑きものが落ちて自分自身と静かに向き合っているように聴こえる。
Bach - WTC I (Andrei Gavrilov) - Prelude & Fugue No. 1 in C Major BWV 846
ガヴリーロフの平均集曲集(音源リスト)
<過去記事>
ガブリーロフ ~ ショパン/ノクターン、バッハ/平均律曲集
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《ゴルトベルク》を聴いていると、たいてい眠くなってしまって最後まで聴けないし、パルティータほどに凄く好きというわけでもないので、よほど気に入った演奏でない限り、異聴盤は買わないようにしている。
でも、あんなに美しい《フランス組曲》を弾いていたガヴリーロフなら、もしかしたら眠気を誘わないようなゴルトベルクを弾いているかも...と思い立って、早速Youtubeで聴いてみた。
やっぱり予想通り、このゴルトベルクを聴いていたら全然眠気が襲ってこない。
ソノリティもノンレガート&レガートのタッチの使い分けも、滑らかで明晰なフレージングも、私の好みにぴったり。
クリスピーなタッチで弾かれるのは好きではないので、ガヴリーロフの骨太で量感・力感ある音なら、ノンレガートでも重みがあって艶やか。
速めのテンポと切れ味の良いタッチで正確なメカニックが気持ちよく、アリアや緩徐系の変奏でのデリケートな情感は、寄り添うような親密感を感じる。
アリアは、とてもゆったりとしたテンポで、穏やかで物思いに耽るかのように内省的。
柔らかく重なり合うピアノの響きが密やかでとても美しい。
どこかしら、しみじみと何かを懐かしむかのような淋しさが漂っているようでもあり、脆く壊れやすいナイーヴな内面を垣間見る気もしてくる。第15変奏と第25変奏を聴いても印象は同じ。
第1変奏は、きびきびとして速いテンポながら、芯のしっかりした丸みのある木質感のある音で、ノンレガートでもフェルトのように柔らかな質感が心地よい。
それに軽くアクセントがついたように響き続ける持続音がとても綺麗。
ピアノの響きを生かしたソノリティの美しさは、ケンプの《ゴルトベルク》に近いかも。
ショパンのエチュードを聴いたときは、下手をするとコミカルに聴こえかねないところだったけれど、ガヴリーロフのバッハは、安定した技巧をベースに、現代ピアノの持ち味を美しさを生かした美しいソノリティと、飾ることなく内面からにじみ出てくるような情感が、とても魅力的。
CDを買って全曲聴く気になっていたのに、第5変奏以降を聴いていたら、(私のテンポ感だと)速すぎるテンポで弾いている変奏が次々と出てくる。
(第5・6・8・11・20・26・28・29変奏など)急速系の変奏では、ショパンのエチュード並みというか、それ以上に滅法速いテンポで、変奏によっては、せかせかと落ち着きなくてせわしなく感じる。
それに、あまりに速いので、装飾音やトリルが時々不鮮明でもつれたように聴こえる。
ショパンのエチュードなら、練習曲という性格があるせいか、猛スピードが逆に面白く聴けたけれど、《ゴルトベルク》では、それまでの潤いのある叙情感が吹き飛びそう。
でも、その直後にゆったりしたテンポの変奏になると、繊細な情感と綺麗な響きの演奏になって、やっぱり素敵と思い直したり。
何度か聴いていたら、その猛スピードにも耳が慣れて、さほど気にならなくなってきた。
CD買うべきかどうかちょっと迷ったけれど、猛スピードの変奏以外はとても魅力的だし、脆くて壊れそうな感受性を感じさせるアリアと第15変奏&第25変奏があまりに印象的すぎて、結局、CD買いました。
Bach: Goldberg Variations, Aria
Andrei GAVRILOV @ BACH Goldberg Variations (1/2) 1993 [Youtube]
![]() | バッハ:ゴルトベルク変奏曲 (2006/11/08) ガヴリーロフ(アンドレイ) 試聴ファイルあり |
《ゴルトベルク》よりも、《フランス組曲》よりも、さらに心に染み入るのは《平均律曲集》。
ガヴリーロフが《ゴルトベルク》を録音したのは、1992年。1993年10月には、《フランス組曲》をDGに再録音。
EMIやDGから次々とCDをリリースしていたガヴリーロフは、1990年代半ばまではキラ星の如く輝くスーパースターだった。
その後、ベルギー女王臨席のリサイタルを直前にキャンセルして以降、演奏会でのトラブルも多くなって、ピアニスト人生が暗転。
DGとの契約も家も家族も失い、コンサートもほとんど開くことができず、長らく表舞台から消えていた。
そんな苦境を経て、2000年にライブ録音した《平均律曲集第1巻》は、清々しく澄み切っていて、とても温もりのあるバッハ。
憑きものが落ちて自分自身と静かに向き合っているように聴こえる。
Bach - WTC I (Andrei Gavrilov) - Prelude & Fugue No. 1 in C Major BWV 846

<過去記事>
ガブリーロフ ~ ショパン/ノクターン、バッハ/平均律曲集
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