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ガヴリーロフ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲
ガヴリーロフの《フランス組曲》を聴き直していると、そういえば、《ゴルトベルク変奏曲》も録音していたのを思い出した。
《ゴルトベルク》を聴いていると、たいてい眠くなってしまって最後まで聴けないし、パルティータほどに凄く好きというわけでもないので、よほど気に入った演奏でない限り、異聴盤は買わないようにしている。
でも、あんなに美しい《フランス組曲》を弾いていたガヴリーロフなら、もしかしたら眠気を誘わないようなゴルトベルクを弾いているかも...と思い立って、早速Youtubeで聴いてみた。

やっぱり予想通り、このゴルトベルクを聴いていたら全然眠気が襲ってこない。
ソノリティもノンレガート&レガートのタッチの使い分けも、滑らかで明晰なフレージングも、私の好みにぴったり。
クリスピーなタッチで弾かれるのは好きではないので、ガヴリーロフの骨太で量感・力感ある音なら、ノンレガートでも重みがあって艶やか。
速めのテンポと切れ味の良いタッチで正確なメカニックが気持ちよく、アリアや緩徐系の変奏でのデリケートな情感は、寄り添うような親密感を感じる。

アリアは、とてもゆったりとしたテンポで、穏やかで物思いに耽るかのように内省的。
柔らかく重なり合うピアノの響きが密やかでとても美しい。
どこかしら、しみじみと何かを懐かしむかのような淋しさが漂っているようでもあり、脆く壊れやすいナイーヴな内面を垣間見る気もしてくる。第15変奏と第25変奏を聴いても印象は同じ。
第1変奏は、きびきびとして速いテンポながら、芯のしっかりした丸みのある木質感のある音で、ノンレガートでもフェルトのように柔らかな質感が心地よい。
それに軽くアクセントがついたように響き続ける持続音がとても綺麗。

ピアノの響きを生かしたソノリティの美しさは、ケンプの《ゴルトベルク》に近いかも。
ショパンのエチュードを聴いたときは、下手をするとコミカルに聴こえかねないところだったけれど、ガヴリーロフのバッハは、安定した技巧をベースに、現代ピアノの持ち味を美しさを生かした美しいソノリティと、飾ることなく内面からにじみ出てくるような情感が、とても魅力的。

CDを買って全曲聴く気になっていたのに、第5変奏以降を聴いていたら、(私のテンポ感だと)速すぎるテンポで弾いている変奏が次々と出てくる。
(第5・6・8・11・20・26・28・29変奏など)急速系の変奏では、ショパンのエチュード並みというか、それ以上に滅法速いテンポで、変奏によっては、せかせかと落ち着きなくてせわしなく感じる。
それに、あまりに速いので、装飾音やトリルが時々不鮮明でもつれたように聴こえる。
ショパンのエチュードなら、練習曲という性格があるせいか、猛スピードが逆に面白く聴けたけれど、《ゴルトベルク》では、それまでの潤いのある叙情感が吹き飛びそう。
でも、その直後にゆったりしたテンポの変奏になると、繊細な情感と綺麗な響きの演奏になって、やっぱり素敵と思い直したり。

何度か聴いていたら、その猛スピードにも耳が慣れて、さほど気にならなくなってきた。
CD買うべきかどうかちょっと迷ったけれど、猛スピードの変奏以外はとても魅力的だし、脆くて壊れそうな感受性を感じさせるアリアと第15変奏&第25変奏があまりに印象的すぎて、結局、CD買いました。

Bach: Goldberg Variations, Aria


Andrei GAVRILOV @ BACH Goldberg Variations (1/2) 1993 [Youtube]


バッハ:ゴルトベルク変奏曲バッハ:ゴルトベルク変奏曲
(2006/11/08)
ガヴリーロフ(アンドレイ)

試聴ファイルあり




《ゴルトベルク》よりも、《フランス組曲》よりも、さらに心に染み入るのは《平均律曲集》。
ガヴリーロフが《ゴルトベルク》を録音したのは、1992年。1993年10月には、《フランス組曲》をDGに再録音。
EMIやDGから次々とCDをリリースしていたガヴリーロフは、1990年代半ばまではキラ星の如く輝くスーパースターだった。
その後、ベルギー女王臨席のリサイタルを直前にキャンセルして以降、演奏会でのトラブルも多くなって、ピアニスト人生が暗転。
DGとの契約も家も家族も失い、コンサートもほとんど開くことができず、長らく表舞台から消えていた。

そんな苦境を経て、2000年にライブ録音した《平均律曲集第1巻》は、清々しく澄み切っていて、とても温もりのあるバッハ。
憑きものが落ちて自分自身と静かに向き合っているように聴こえる。

Bach - WTC I (Andrei Gavrilov) - Prelude & Fugue No. 1 in C Major BWV 846


ガヴリーロフの平均集曲集(音源リスト)


<過去記事>
ガブリーロフ ~ ショパン/ノクターン、バッハ/平均律曲集

tag : バッハガヴリーロフ

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(非公開コメント受付中)

思ったよりもいい。
こんばんは。
ゴルトベルクというとグールドの旧盤、リヒター、P・ゼルキン、レオンハルト、グールドの新盤、リヒターの東京ライヴ、シフ、ガヴリーロフ、ペライア、シフ、どなたかのハープ版くらいが印象的です。なかでも好きなのは、グールドの新盤とガヴリーロフですねー。
あと、興味があるのはシトコヴェツキの室内楽版。今度、紀尾井ホールでやるというので、行くかどうか調整中です。
室内楽版、聴いてみたいです
芳野様、こんばんは。

ゴルトベルクは名盤が多いですね。
挙げられている録音のなかでは、ピアノ版はほとんど聴いてます。
グールドの新盤はとてもパーソナルな感じがして、旧盤とは随分違いますね。
そのうち、レガートでピアノの響きの美しいガヴリーロフが一番好きですし、他に好きなのは、ソコロフ、コロリオフ、カニーノ、ケンプです。

ハープ版は聴いたことがありますが、ハープの響きに眠気を誘われてしまいました。
室内楽版は、音色も多彩で対位法がはっきりとわかるので、面白そうです。CDで出ているかもしれませんね。

追伸です
シトコヴェツキの室内楽版、Youtubeで聴いてみました。
弦楽アンサンブルなので、音も歌いまわしも滑らかなせいか、ハープと同じく、眠気を誘われてしまいました。

どうやら、私の体内リズムと波長からいえば、硬くカチカチ感のある音とフレージングが明瞭に区切られているピアノの方が、眠たくなりにくいようです。
こんばんは
わたしもガヴリーロフのゴルトベルグは「結局、CD買いました派」です。わたしは、このようなちょっと個性的なゴルトベルグも好きです。ケンプのアリアはワルツみたいで面白いですね。でもディナースタインの演奏は、ちょっとロマンチックなレガートで、バッハではない様に聞こえ、わたしにはくすぐったいです。
この映像のガブリーロフは、指輪が重そうで気になるので、(´艸`*)平均律はCDでぜひ聴いてみたいです。自然な美しさが感じられますね。
ガヴリーロフの平均律、いいですね
Leafさん、こんにちは。

やっぱりガブリーロフのゴルトベルク、CD買いたくなりますよね。
フランス組曲同様、ピアノの音の美しいところが素敵です。

そういわれると、ケンプはワルツみたいですね。
装飾音を使わなくても響きだけで充分楽しめます。
私にとって一番催眠効果の高いのは、ディナースタインかも。

ガヴリーロフの指輪、私も気になります。
ヒッピーみたいな風体ですが、演奏を聴いていると、かなりナイーブなメンタルの人ではないかと思えてきます。
昔、一騒動起こしたので、CD出すのはなかなか難しそうですが、どこかの(マイナー)レーベルで平均律のCD出して欲しいですね。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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