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志賀勝栄『パンの世界 基本から最前線まで』
新しいホームベーカリーを買ってから、いろいろ試し焼きしているので、このところよく読んでいるのは、パンに関する本。
パンを作るための知識や理屈がよくわかるのは、『パンづくりに困ったら読む本』『パン「こつ」の科学―パン作りの疑問に答える』
手捏ねで作ることはほとんどないけれど、材料や製法の知識や原理を知ること自体は面白い。

テキスト風ではなく、読みもの的で読みやすいのが、超有名なブーランジェリ<シニフィアン シニフィエ>のオーナーシェフ志賀勝栄さんの著書『パンの世界 基本から最前線まで』。
こちらには彼のブーランジェリが出店していないので、そのお店のパンを食べたことがない。
通販もしているけれど、元々のパンの価格が高い上に送料も必要なので、そこまでして食べたいと思うほどにパン大好き人間ではない。

お店で作っているパンはハードパンや高加水パンがメインらしく、この本で取り上げられているのも、バゲット、カンパーニュ、チャバタなどが中心。
文章は簡潔で、実際にレクチャーしているようにわかりやすくて、読みやすい。
自分でパンをきちんと作れる人なら当然のことでも、手捏ねパンは作らない私には、なるほどと思うことがたくさん。
要点を書こうと思ったけれど、書くべきことが多すぎて挫折。
その代わり、目次の小見出しを全部メモしておいた。小見出しがかなり細かく付いているので、それを見れば、何がテーマになっているのか大まかにはわかるので。

「第1章 パンの歴史」では、発酵パンと無発酵パンの特徴と文化との関連、ドライイーストとニーダーの発明と大量生産時代、フランスで定められているパンの法律など、大きな流れがコンパクトにまとまっている。(詳しく知るには、専門的な研究書を読んだ方が良い)

「第2章 日本のパンの可能性」には、志賀シェフのパン職人としてのキャリア、長時間発酵・高加水パンづくりの道のり、「シニフィアン シニフィエ」のコンセプトとビジネスモデル。
- 最初は、添加物なしでパンが作れるとは思わず、福田元吉さんとの出会いで無添加パンができることに驚いた。
- 長時間発酵のパンを作るようになったきっかけ。
- 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師の依頼で糖質制限パン(Kコンプレ、1個あたりの糖質量8.5g)を開発。
- 日本のリテールベーカリーでは珍しいビジネスモデルかもしれない。全国50軒くらいのレストランへパンを納入。() オーダーに合わせてそれぞれ違うパン(自店で売っていないパン)を提供。
- レストランへの納入が店の売上の15%くらい。インターネット販売とあわせて、全売上げの3割。いつか6割ぐらいにしたい。従来の常識にとらわれて、焼き立てのパンを近所に売るだけがビジネスではない。

第3章~第6章は、小麦粉、発酵種、水と塩、製法上の基本的知識からプロのノウハウ的なものまで書かれている。
パン作りはほとんど素人の私には知らないことが多く、パン作りの難しさとか奥深さがわかって面白かった。
特に、小麦粉については、ホームベーカリー専門といえども、常時10種類くらいをとっかえひっかえ使っているので、興味のあるところ。
- 同じハード系のパンでもバゲットとカンパーニュの違い(形や食べ頃が違う理由)。
- フランスパンとドイツパンの特徴と違い。
- 国産小麦は収穫直前で追肥する。見た目は膨んだ小麦になっても、味が落ちる。
- 発酵種は、ドライイーストや天然酵母を使って予め発酵させた種のことをさす。発酵種=天然酵母ではない。
- 日本のパンの総売り上げの8割近くは大手パンメーカー(山崎製パンや敷島パンなど)のパン。
- 発酵種は不安定なので工場の大量生産には不向き。天然酵母を使っていても、風味付けが目的で発酵のために入れるわけではない。
- 個人店の「天然酵母パン」でも、ほとんどはイーストとの併用。天然酵母も自家製ではなくて、ホシノ天然酵母を培養して使っている場合が多い。
- フランスでも同様で、伝統的な製法のパンを作っていても、イーストとの併用がほとんど。
- 水の硬度や塩のミネラルが発酵に及ぼす影響。(硬水と軟水の使い分け、海洋深層水とコントレックスの効果の違い、塩のミネラル量の違いの影響)
- モルトのエキス/パウダーの使い方の違い。

(高加水パンについて)
- 私が作るパンは、世界的にみても加水率が圧倒的に多い。パン・ペイザン103%、チャバタ95%以下になることはなく、100」%を超えるときもある。パン・ド・ブランのような食パンでも90%はある。大半のパンは加水率75%を超えている。
- 普通は標準から10%も水を増やすことはない。たった0.5%増やすだけでも生地の状態がてきめんに変わってくるから。コントロールできなくなるので、そんな冒険をする人はほとんどいない。
- 同じ名前で売られているパンと比べ、私のパンは5-10%加水が多い。これだけ加水が多いと、まったく違うパンといっていい。本来なら別の名前をつけるべきもの。
- 水分が多いと酵素や酵母が生地全体に万遍なくゆき渡るぶん、発酵が進みやすい。長時間発酵させたりすれば、もうドロドロと手から流れ落ちるほど軟化する。
- だから、パンの形はシンプルなものばかり。丸い形か、ナマコ形が、棒形しかない。加水を増やすことを選んで、美しいフォルムを捨てた。
- どのパンの断面を見てもツヤツヤしているようなパン屋は、シニフィアン・シニフィエ以外にあまりないと思う。加水が少ないと、気泡を包む膜に光沢はできない。加水が多いと糊化がスムーズに進むので、断面がピカピカしてくる。
- 食感も変わる。非常にモッチリ。パンであって、パンでない。むしろ餅や求肥に近い食感・
- 加水が多いと発酵も進みやすいので、旨味は強くなる。

パンの世界 基本から最前線まで (講談社選書メチエ)パンの世界 基本から最前線まで (講談社選書メチエ)
(2014/10/11)
志賀 勝栄

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<目次>
まえがき
第1章 パンの歴史
パンとは何か?/米と麦の最大の違い/小麦が主役に/発酵パンの登場/石臼の発明/水車税・風車税/リッチなパンの登場/イーストの登場/焼きたてを食べる文化/「パン屋とは喧嘩するな」/パンの暗黒時代/伝統的なパンの復権/パンに関する法律

第2章 日本のパンの可能性
パリにもこんなエリアはない/日本のアドバンテージ/フランスからイギリスへ/ドイツ人捕虜の活躍/フランスパンの復権/「もう寝てもいいですか?」/福田元吉との出会い/部下が一人もいなくなった/42歳で肚を据える/長時間発酵バゲットの誕生/食事のなかのパン/グランメゾンを作る/具だくさんのフォカッチャ/掃除をしないパン職人/衣食同源がテーマに/発酵食品としてのパン/若者が希望を持てる仕事に/レストランに卸す

第3章 小麦粉を考える
人類が初めて経験するパン/グルテンの役割/なぜ雑穀を入れるか/ミネラル分で分類する/ロング挽きでないと平板になる/タンパクの多寡は何で決まるか/フランス産だからバゲットが生まれた/ライ麦パンは難しい/ドイツパンの種類は多い/なぜスペルト小麦を使うか/スペルト・ルヴァン/性質で使い分ける/なぜか梅干しの酸味に/たんぱくの少ない国産小麦を!/追肥の問題/穂発芽が問題/発芽小麦でパンを作る/酵母で酵素を圧倒する/前人未踏だから面白い/石臼で挽く意味

第4章 発酵種とは何か
イースト以前の世界/天然酵母とは何か?/イーストだけで作るパン/ヘゲモニー争いを利用する/イーストでは出せない香り/焼きたてがすべてじゃない/8つの発酵種を組み合わせる/事前に種を作る目的/レーズン種/なぜ液状のまま使うのか/ホップ種/米麹とモルトエキスの違い/パータ・フェルメンテ/ミキシングの前に7時間かかる/サワー種とは何か/ルヴァン・デュールとルヴァン・リキッド/噛みごたえのあるパン/酸味のあるクロワッサン/ルヴァン・リキッド/ザワータイク/種継ぎは5日が限界/Sブラン/パネトーネ種/副材料の多い生地に/少ししか使わない理由

第5章 水と塩の役割
カンパーニュであってカンパーニュでない/加水をとってフォルムを捨てる/限界を超える怖さ/硬水はどう役立つか/海洋深層水は硬度調整して/塩は発酵を遅らせる/なぜモルトエキスを入れるか/バターを入れる理由/食材屋でいたい/オーガニックの悩み

第6章 パンを作る
ミキサーのおかげ/休み休み生地を引っ張る/2回に分けて水を入れる/パンチの目的/パンチをしないのが基本/こね時間が少ないパンもある/なぜバゲットをこねないか/ナッツが骨格になる/寝かせる厚さがポイント/残されたフロンティア/遊離アミノ酸は3~4倍/なぜ17度になったか/フランスでは成形後の発酵/奈良漬のようなパン/長時間発酵に向くパン/長時間発酵に向かないパン/個人の感覚頼り/分割丸めはやらない/ナマコ形は平等に切れる/なぜ大きく焼くのか/最終発酵の目的/最終発酵をとらないパン/クープはなぜ必要か/フランスパンには炉床が不可欠/日本に2台しかないオーブン/オーブンの中で何が起きているか/なぜ蒸気をかけるのか/焼きあがりをどう判断するか/焼き色をつけない理由/焼いてすぐはスライスできない/ケーピングを防ぐ/1年365日働いている/次なるステージへ

<Signifiant Signifié/シニフィアン シニフィエ>(ホームページ)

<参考情報>
天然酵母表示[おいしいパンの百科事典]
天然酵母パンは、大量生産には不向きなパン。
そのわりには、量産されたらしき「天然酵母パン」を時々見かける。
業務スーパーの「天然酵母食パン」は、1日1万本も売れてるという。
この「天然酵母食パン」は、普通の食パン2斤分の大きさで200円くらい。この異常な安さでは、個人のお店や百貨店のベーカリーショップなどで売っているような「天然酵母パン」ではありえない。
店頭で表示を確認してみると、パン酵母中の天然酵母使用量は4.7%とわずか。
乳化剤とか添加物もいろいろ入っているので、天然酵母パン=添加物不使用(みたいな)というイメージとは程遠く、工場生産されたドライイーストパンのような...。買ったことがないので、味は?

ホシノ天然酵母の秦野工場を見学[パナデリア]
ホームベーカリーでパンを焼くときは、Safインスタントドライイースト、ホシノ天然酵母、白神こだま酵母の3種類を使っているので、食べ比べれば、焼きあがったパンが違うのはすぐわかる。
天然酵母のパンは、目が詰まって、バターなしでもしっとり、ふんわり。常温保存でも、パサパサにならずに、しっとり感が持続する。
私の味覚でいえば、一番美味しいのは、ホシノで作ったパン。白神こだま酵母よりも、しっとり感が強く、ホシノ独特の(味噌っぽい)風味がほんのり。小麦の味が美味しく感じる。
特に、ごはんパンは、ドライイーストで作ったものとは、比べものにならないくらい。
これを食べてしまうと、ドライイーストでごはんパンを作ろうとは全然思わなくなる。
ホシノ天然酵母は、米麹を使っているので、ごはんとは相性が良いのかも。

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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