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ハンネス・ミンナール『Bach Inspirations』(2)
CDを見つけてたからすぐに注文したのに、最初の注文は在庫切れ、次の注文は配達までに3週間。結局、1ヶ月待ってようやく届いたミンナールの『Bach Inspirations』。
それだけ待った甲斐もあるくらい、今まで聴いたバッハ編曲集のなかでも、とりわけ素晴らしく思えたものの一つ。

Bach InspirationsBach Inspirations
(2014/02/11)
Hannes Minnaar

試聴ファイル

<収録曲>
J.S.バッハ(リスト編): 前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543
J.S.バッハ(ブゾーニ編): コラール 《目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声》 BWV.645、コラール 《いざ来ませ、異邦人の救い主よ》 BWV.659、コラール 《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》 BWV.734
フランク: 前奏曲, コラールとフーガ M.21
J.S.バッハ(ラフマニノフ編): 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ短調 BWV.1006より
J.S.バッハ(バウアー編): カンタータ第127番 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ》 BWV.127
J.S.バッハ(ヴォーン・ウィリアムズ編): コラール 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.253、コラール前奏曲 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.649
リスト: BACHの主題による幻想曲とフーガ S.529(第2版)
グレインジャー: 陽気な鐘の音 after BWV.208
録音:2013年6月 Westvest90(スキーダム/オランダ)

Gramophone MagazineのEditor's Choiceで、”The recorded piano sound is a real pleasure to hear; the programme is artfully conceived...lastly, every single performance by this 28-year-old Dutch pianist is out of the top drawer.”とコメントされていた。CDを聴けば、それも納得。

Youtubeのライブ演奏やCDの試聴ファイルで聴くよりも、CDの音質が良く、ほどよい残響で柔らかみがあり、透明感と伸びやかさのあるピアノの音がとても綺麗。
一音一音が特に繊細で美しいというのではなく、声部ごとに変えている音色・ソノリティ・強弱の違いがコントラストになって、色彩感豊か。
旋律の横の流れが明瞭で、歌い回しがさりげなく語るような抑揚があり、音楽が立体的に聴こえてくる。
特に鮮やかなのは、対位法を駆使したフーガの演奏。アンデルシェフスキやコロリオフの演奏に劣らないくらい(と私には思える)。
それに、持続音やアクセントをつけた時に、打鍵後の音が混濁することなく綺麗に鳴り続けるのも、とても印象的。
細部の微妙な繊細さに拘ったり情感過剰なところがなく、深遠さや厳粛さとかは少し薄いかも。そこが私には重たくなりすぎなくて、ほどよく抑えられた澄んだ叙情感が爽やか。
演奏としては、やや淡々とした表現がいくぶん地味な気はするけれど、聴けば聴くほど自然で身体に浸み込んでくるような感覚が心地よい。

リスト編曲/前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543
「前奏曲」よりも、清々しく細やかな情感漂う「フーガ」がとても美しい。
ほぼインテンポで複数の声部がさらさらと淀みなく流れて、さっぱりとした叙情感。
劇的に盛り上がるというよりは淡々とした印象なので、最初は(いつも聴いているコロリオフの演奏のように)もう少し重みとコクが欲しく感じたけれど、聴き慣れてしまうと全然気にならない。
逆に、清流のように清々しい叙情感と繊細さがとても爽やかでほどよく思えてくる。
ミンナールの後でコロリオフの演奏を聴くと、いつもとは違って、重厚で情感濃厚に聴こえてきてしまった。

Hannes Minnaar - Bach/Liszt - Prelude and fuga in a



ブゾーニ編曲/《目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声》 BWV.645、《いざ来ませ、異邦人の救い主よ》 BWV.659、《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》 BWV.734
最初の2曲はゆったりしたテンポでも重たくなりすぎずに、落ち着いたトーン。
《いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV.659》は、この曲にしては悲愴感を強く出すという感じではなく、色調もやや明るめで穏やかな印象。

Hannes Minnaar plays Bach-Busoni: Nun komm' der Heiden Heiland, BWV 659


ブゾーニ編曲のコラール前奏曲3曲のなかでは、《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》の演奏が一番鮮やかで見事。
速いテンポの軽快なタッチでも、3つの声部の色彩感・ソノリティが異なっていて、(1人ではなく、2人が3本の手で弾いているみたいに)それぞれがくっきり独立して立体的。


フランク/前奏曲, コラールとフーガ M.21
高い密度の音がタペストリーのように織り込まれて、深い陰翳と濃厚な情感と神秘的な雰囲気が漂い、ロマンティックというよりも、ずっしりと息詰まるような圧迫感を感じる。フーガの終盤だけ、長調に転調して明るい開放感で終わる。
聴き応えはあるけれど、このアルバムのなかでは、リストと並んで一番重たい曲。
ミンナールのタッチは明瞭な打鍵で音の粒立ちもよく、これだけ多数の音に加えてペダルを使っていても、音がごちゃごちゃと混濁せずに、旋律や和声がくっきりと鮮やかに聴こえてくる。

リヒテルが言うには、最も宗教的な作曲家は、バッハではなくてフランク。「自分の内面に宿る神だ。すべてが主観的であり、かつ他者から隠されている。自分自身がイコン(偶像)なのだ。」(『リヒテルは語る』より)

フランクには、《前奏曲、フーガと変奏曲》(Prélude, Fugue et Variation、Op.18)というオルガン曲集があり、ピアノ編曲版では、バウアー編曲の第3曲ロ短調が有名。《前奏曲, コラールとフーガ》と同様、濃密な叙情感が美しい曲。


ラフマニノフ編曲/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ短調 BWV.1006
軽快が明るい《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番》の3曲(Preludio、Gavotte en Rondeau、Gigue)。
バッハのコラール前奏曲と同じく、多彩なソノリティと声部が立体的に絡みあって、室内楽曲のアンサンブルを聴いているような気がする。


バウアー編曲/カンタータ第127番 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ》 BWV.127
ヴォーン・ウィリアムズ編曲/コラール 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.253、コラール前奏曲 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.649

バウアーとヴォーン・ウィリアムズのピアノ編曲版はどれも初めて聴く曲ばかり。
特にバウアーの 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ BWV.127》 は、哀感流れるとてもロマンティックな編曲で、とても素敵な曲。
(Youtubeの音源)Bach - Bauer piano scores BWV 127 Die Seele Ruht in Jesu Händen b-flat minor



リスト/BACHの主題による幻想曲とフーガ S.529(第2版)
これも初めて聴いたリストの『BACHの主題による幻想曲とフーガ』。
ワイマール時代に書いたオルガン曲《バッハの名による前奏曲とフーガ》(1955年)を1971年にピアノ用に編曲したもの。
リストらしい華やかな技巧と、陰鬱で厳粛な曲想が融合して、ピアニスティックで荘重華麗な曲。

グレインジャー/陽気な鐘の音 after BWV.208
最後に収録されているのは、『羊は安らかに草をはむ BWV 208』の珍しいグレインジャーによるピアノ編曲版。
有名なのはペトリの編曲で、他にもいくつか編曲版がある。
(ピアノ編曲版の作品解説)BWV 208 カンタータ 第208番 楽しき狩こそわが悦び(狩のカンタータ)[バッハの音楽の曲目データベース]


複数の編曲者による編曲版に、フランクとリストのオリジナル曲が加わって、多彩な選曲。
中盤のフランク《前奏曲とフーガ》、終盤のリスト《BACHの主題による幻想曲とフーガ》は、濃密な音と陰翳で息詰まるような曲なので、集中して聴くには結構気力がいる。
どうやら両曲とも息を詰めて聴いていたらしく、フランクの後のラフマニノフ編曲《無伴奏ヴァイオリンパルティータ》、リストの後のグレインジャー編曲《陽気な鐘の音》は。両曲とも霧が晴れたように明るくて、身体から緊張感が抜けて、ほっと一息。
アルバムの録音時間は75分くらいなのに、CD2枚分くらい聴いた気がする。

tag : バッハ フランク ミンナール リスト ブゾーニ ラフマニノフ グレインジャー バウアー

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お返事です
このミンナールのCDは偶然見つけましたが、試聴ファイルを聴いて、カラフルな色彩感と立体感のある声部の弾き分けがとても鮮やかで、驚きました。
表情自体は抑え気味で少し淡々としているので、地味な感じはするのですが、これはこれで品の良さがあって良いのではないかと思います。

コラール前奏曲は、ケンプかジェイコブスをよく聴いてます。
3曲目のBWV.734は、今まで聴いたなかではソコロフが一番良かったのですが、ミンナールはソコロフを上回るくらいに鮮やかでした。

このCDは、選曲もいいですね。
珍しい編曲版や重厚なフランクとリストのオリジナル曲もいろいろ入っているので、とても聴き応えがあります。
ミンナールは(本国オランダ以外では)まだそれほど有名ではないようですが、こういう素敵なピアノを弾く人に出会うと、とても嬉しくなってきますね。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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