「にがり」で自家製硬水

高加水パンを作るときに硬水を使うと、加水率90%くらいでもホームベーカリーで上手く焼ける。
プロのパン職人さんのレシピでは、硬度を300~350mg/lくらいにするために、少量の硬水(コントレックス)と冷水(水道水などの軟水)を混ぜている。
私は、試作した高加水パンでは、硬度300mg/l弱(中硬水)のエヴィアンで水分を100%代用。
毎回エヴィアンのボトルを買うのも、バター以上にコストがかかるので、硬水を必要量だけ自分で作れないか調べてみた。

軟水よりミネラルが多い水が硬水なのであれば、ミネラルのサプリメントを軟水に入れたら硬水にならないのかな?と安直な思いつき。
でも、サプリで作る方法が見つからず、代わりににがりを使って硬水を作れるのがわかった。
これを「にがり水」という。珍しい方法でもないらしく、にがりに関する情報サイトではたいてい載っている。

『にがり水』でミネラル補給[にがり研究所]

「にがり」という製品名でも、ミネラル含有量はかなり違うし、原液タイプと水で薄めたものがある。

(参考)にがり100mlあたりのマグネシウム含有量
 「天塩の天日にがり」 950mg
 「球美のにがり」 2500mg (久米島海洋深層水のにがり)
 「浜御塩の海水にがり」 4757.6mg (カルシウム10.01mg、カリウム1377.2mg)
 「塩田産にがり」 950mg
 「赤いにがり」 6400mg
 「天草のにがり」 6300mg (カルシウム14.1mg、カリウム2200mg)
 「あらなみの本にがり」 4600mg (カルシウム2200mg、カリウム3600mg)

マグネシウム含有量が950mg/100ccだと、硬度は約39000mg/l。
硬度1550くらいのコントレックスよりもはるかに硬度が高い。
硬度350のにがり水を作る場合、必要なにがりは200ccの冷水に1.5ccくらいと微量。
にがりが100~200ml入った小ボトルなら1本数百円なので、パンを焼くときのコストは1回あたりせいぜい数円。(少なくとも市販の硬水を使うよりは低コスト)

硬度がさらに高いにがりなら、必要量はさらに少なく1cc以下。
これだけ微量なにがりは正確に計量できないので、冷水の使用量を増やせば、にがりの使用量が増えて計量できる。
パン作りに使って余ったにがり水は、硬度350mg/lくらいなので、飲んでもOK。
にがり自体も、パン作りだけでは使い切れないので、お米を炊くときに入れたり、無調整豆乳に入れて自家製豆腐作りにも使うこともできる。

問題なのは、開封後、保存できる期間。長期保存できないなら、エヴィアンを時々買った方が良いかも。
原液タイプのにがりは、殺菌作用があるので保存可能期間は塩と同じとか、3年間とか諸説あるけれど、ミネラルウォーターとは比べ物にならないくらい保存性が良い。
製品がにがりの原液でない場合は、もともと賞味期限が短いし、開封したら普通の水と同じで、冷蔵庫保存でも数日しかもたない。
なかには、マグネシウム含有量950mg/lで、開封後は冷蔵保存で1ヶ月...という製品もあり、これは原液タイプのような、そうでないような...。
パッケージの表示を確認して、原液タイプで長期保存が可能と思われるにがりを買わないといけない。


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にがりの硬度と使用量の計算
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【にがり硬度の計算方法】

「水の硬度計算」サイトで自動計算できます。

硬度(mg/L)=Ca(mg/L)×2.497 + Mg(mg/L)×4.118

※カルシウム塩・マグネシウム塩の量を炭酸カルシウム (CaCO3) の量に換算するアメリカ硬度を使用

【硬水を作るためのにがり使用量の計算方法】
「水の硬度(にがりでコントレックスの硬度の水が作れる)」[アルーチパン教室]
パン作りのためという目的が同じなので、必要硬度の硬水を作る計算式がとても便利。

記事を元にExcelで設定値を自由に変えられる関数式を作成。
この関数式があれば、水量やにがり硬度の違っても、すぐに必要にがり量が算出できる。

「目的硬度の水を作るための必要にがり量の算出式」

硬度(W)の水道水(A)ml に、硬度(N)のにがり(X)mlを加えて、硬度(C)の硬水を作る。

目的硬度(C) (にがりを加えた水の硬度) C=(N*X+W*A)/(A+X)
水道水硬度(W) (地域によって違う)
水道水量(A)
にがり硬度(N) (製品によって違う。パッケージに硬度が記載されていない場合は、計算要)

必要なにがり量:X=((W-C)*A)/(C-N)

※変数C・W・A・Nを固定セルに入力して、excelの関数式で各セルを参照させれば、変数の数値を変えるたびに、excelが自動的に計算してくれる。

(計算例)
マグネシウム950mg:硬度39,121mg/l ⇒ 冷水200ccを硬度350mg/l にするための使用量 1.55ml
マグネシウム6300mg:硬度259,434mg/l ⇒ 冷水200ccを硬度350mg/l にするための使用量 0.22ml
※カルシウムの含有量は考慮せず


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「ミネラル・サプリメントとしてのにがり」(橋本壽夫、日本海水学会誌、2005, Vol.59, 189-194)
この論文によれば、「にがり」として販売されている商品でも、その成分と比重から考えれば、「にがり」と言えない商品も多いという。
チェックポイントは、「比重が1.3程度で、組成を見てMgが6500 mg/100 mlまたは5000 mg/100 g程度の商品を選ぶ」こと。
購入を勧められないのは、「MgよりもNaの方が多い商品、Caがある商品(イオン交換膜製塩にがりは除く)、なめて塩味がするにがり」。

健康増進のためのミネラル摂取ではなく、パン作りに硬水を使う目的なので、にがりの品質自体にそれほど拘りはなく、それよりも、にがりの摂り過ぎの影響の方が問題。
実際、誤って硬度の高いにがりを大量(100cc以上)飲んだために、死者や健康被害が出た事例もあり。
誤飲の原因で多いのは、水で薄めていないにがりを別容器(ペットボトルなど)に入れていたこと。
健康に良いといっても、過剰摂取すれば、身体に悪いのは塩と同じ。

誤解されている健康情報の事例1:「にがり」と「痩身効果」について[「健康食品」の安全性・有効性情報,厚生労働省]


<参考情報>
志賀勝栄『パンの世界 基本から最前線まで』

<第5章 水と塩の役割> 硬水はどう役立つか

- 水の質もパン作りに大きな影響を与える。硬水か軟水か、という問題。
- パリの水道水の硬度は300以上、東京の水道水は硬度60程度。パリの水は硬水、東京の水は軟水。両都市の水道水に含まれているミネラル分は5倍も違う計算になる。
- ミネラルがなぜパン作りに役立つのは、グルテニンの結合を進めて、強いグルテンを作ってくれるから。グルテンが少ないフランス産小麦粉を使っても、気泡を抱きこめる強い生地に仕立ててくれる。さらにミネラルは補酵素として発酵を助けるので、より多くのガスを作り、より複雑な風味を出してくれる。
- 硬水が生地を強くし、旨味も作り出す。パリで食べるパンがどれも美味しい理由はそこにあるとしか思えない。
- いっさいの不純物を逆浸透膜で取り除いたRO水でパンを作ってみると、どんなに発酵の工夫をしても、その努力がまったく意味をもたないほど味気ない、まるで薄力粉で作ったようなパンになる。
- パン作りには硬水が絶対不可欠というわけではない。日本の食パンに使われている北米産のタンパク量(グルテン)が多い小麦粉であれば、軟水でも問題ない。水でミネラルを補給しなくても、十分に強いグルテンが出来上がる。
- 問題になるのは、タンパク量の少ないフランス産小麦を輸入して、パゲットを作るようなケース。日本の水道水では難しいので、フランスの硬水を使っているパン屋さんが多い。硬度が高くて値段も安いという点では、コントレックスがポピュラー。

<第5章 水と塩の役割> 海洋深層水は硬度調整して
- 室戸沖でとれる海洋深層水を使っている。マグネシウムやカルシウムはもちろん、50種類以上の微量元素が入っていて、組成としてはミネラルウォーターというより、人間の体液に近い硬水。
- 使っている海洋深層水の硬度は1000で、これを水道水で割る。硬度1000のままだと、発酵が進みすぎて、生地が軽くなりすぎた。クラムがスカスカで、味の濃いお麩のようなパン。硬度500でもカスカスになるし、苦味も出てダメ。
- パゲット・プラタヌで硬度200ぐらい、チャバタで硬度100ぐらいに調整。パリに合わせて硬度300でも作ってみたが、さほどおいしくならない。海洋深層水を使って日本人好みの味を出そうとすると、なぜか硬度300より低い硬度になる。コントレックスを使う場合は硬度300でいい。
- 硬水はパゲットや食パンには向くが、パン・オ・ルヴァンとかパン・ド・カンパーニュとか、ルヴァン種を使って大きく焼くパンで使うと、生地が軽くなりすぎる。ボリュームが出すぎて、しっとりした感じがなくなってしまう。中身を充実させた重たいパンを作りたい場合は、軟水の方がいい。
- 生地にハチミツを入れたパンに硬水を使うと、にがりの臭いを強く感じすぎてしまう。ハチミツを入れる目的は茶色い粉のエグ味をとるためなので、茶色い粉を使うようなパンにも向かない。
- パンによって、海洋深層水を使う場合と、使わない場合がある。素材がシンプルなパンを中心に、3~15%入れている感じ。

タグ:ホームベーカリー 志賀勝栄

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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

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