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スティーヴン・ハフ ~ グリーグ/抒情小曲集
ハフが《ピアノ協奏曲》に次に録音したグリーグ作品は、ちょっと予想外だった《叙情小曲集》。
ハフの演奏は、全体的にテンポが速めで、タッチは軽やか。
高音はきらきらとオルゴールみたいな煌きと可愛らしさが綺麗。
優しく触れるように(しつこくない)繊細さと硬質の透き通った音色で、さっぱりした叙情感とロマンティシズムが清々しい。

グリーグ:抒情小曲集 スティーヴン・ハフグリーグ:抒情小曲集 スティーヴン・ハフ
(2015年04月10日)
スティーヴン・ハフ

試聴ファイル(hyperion)

<収録曲>
Arietta / アリエッタ Op.12-1
Vuggevise / 子守歌 Op.38-1
Elegi / エレジー Op.38-6
Sommerfugl / 蝶々 Op.43-1
Ensom vandrer / 孤独なさすらい人 Op.43-2
I hjemmet / 故郷で Op.43-3
Småfugl / 小鳥 Op.43-4
Erotikk / 愛の歌 Op.43-5
Til våren / 春に寄す Op.43-6
Valse-impromptu / 即興的なワルツ Op.47-1
Melodi / メロディ Op.47-3
Elegi / エレジー Op.47-7
Trolltog / こびとの行進 Op.54-3
Notturno / 夜想曲 Op.54-4
Klokkeklang / 鐘の音 Op.54-6
Hjemve / 郷愁 Op.57-6
Sylfide / 風の精 Op.62-1
Hjemad / 家路 Op.62-6
Fra ungdomsdagene / 青春の日々から Op.65-1
Salong / サロン Op.65-4
Bryllupsdag på Troldhaugen / トロルドハウゲンの婚礼の日 Op.65-6
Bestemors menuett / おばあさんのメヌエット Op.68-2
For dine fötter / あなたのそばに Op.68-3
Bådnlåt / ゆりかごの歌 Op.68-5
Sommeraften / 夏の夕べ Op.71-2
Småtroll / パック Op.71-3
Efterklang / 回想 Op.71-7
(全27曲、曲順は作品番号順)

Edvard Grieg—Lyric Pieces—Stephen Hough (piano) (hyperion)
(アリエッタ、子守歌、エレジー、蝶々、孤独なさすらい人の冒頭の一部)


似たような曲想の曲が多くて、何度聴いてもどれがどの曲かこんがらがってきたので、曲順ではなくテーマの種類別にわけて聴いてみた。

(歌・メロディ)アリエッタ、エレジー、即興的なワルツ、メロディ、愛の歌、エレジー
(故郷、思い出)故郷で、郷愁、家路、青春の日々から、回想
(人々)孤独なさすらい人、おばあさんのメヌエット、あなたのそばに
(子守歌)子守歌、ゆりかごの歌
(情景)春に寄す、夜想曲、鐘の音、夏の夕べ、トロルドハウゲンの婚礼の日
(民話・妖精、小動物)こびとの行進、風の精、パック、蝶々、小鳥


曲を聴いて曲名がすぐわかるのは、冒頭の「アリエッタ」と最後の「回想」(こっちの方が好き)はもちろん、ノルウェーの情景、民話、妖精、小動物をモチーフにした曲。(「夏の夕べ」だけは全然覚えられない)
好きな曲の「夜想曲」、「あなたのそばに」も大丈夫。
それ以外の曲は、特に好きというわけではないせいか、長調の曲は似たような曲想なので、曲とタイトルを間違えそう。「子守歌」、「ゆりかごの歌」、「故郷で」、「愛の歌」(これも覚えられない曲)とか。
短調の曲なら、曲を聴けば、曲名はだいたいわかる。「孤独なさすらい人」、「エレジー」、「メロディ」、「即興的なワルツ」、「青春の日々」、「郷愁」とか。

冒頭の「アリエッタ」の旋律はとても印象的。完全終止ではなく、途中で途切れたように余韻を残しながら終わる。
最後の「回想」は、ワルツ風に変えたアリエッタの回想。過去の記憶の”回想”と掛け合わせているような。

「子守歌」は、子守歌というよりは、夢のなかの情景。オルゴールみたいにキラキラと輝く高音がとても綺麗。中間部は子守歌らしからぬ短調の旋律で、これも夢の出来事のよう。
「ゆりかごの歌」の方が、子守歌風の旋律。ゆりかごに揺られて、ぐっすり眠る赤ん坊の姿みたい。

とても描写的なのは、生き物や妖精をテーマにした曲。
「蝶々」は、ハフの演奏だと、優雅というよりは、華から華へと忙しそうに飛び移る蝶々のように快活で、躍動的。
「小鳥」も、トリルの音型や音域によって、小鳥が囀ったり、羽ばたくような様子が浮かんでくる。


「こびとの行進」の原題は「トロルの行進」。トロルは北欧の民話に出てくる妖精。
レーゼルはやや遅めのテンポで一歩一歩前進するような力強さがあるのに対して、ハフは速いテンポで切迫感があるので急ぎ足の行進風景みたいに聴こえる。これくらい速いテンポで弾く人が多い。

これはアンスネスのライブ演奏。速いテンポでハフよりもタッチが強め。駆け足で戦場に向かうような慌しさ。
Leif Ove Andsnes - March of the Trolls by Edvard Grieg


くるくると変化する風のごとく、軽妙なリズムが次々と移り変わる「風の精」
「こびとの行進」にちょっと似ている「パック(小妖精)」も、あちこち飛び回って、とっても急がしそう。


優しさに溢れた旋律の「故郷で」

Grieg Lyric Pieces Book III, Op.43 - 3. In my native country (piano:Håkon Austbø)


対照的に、異国で故郷を想う「郷愁」の冒頭旋律は、喪失感や寂しさが漂う。中間部は故郷での楽しい思い出を回想したように快活。
浮き浮きとした気分溢れる「家路」。学校や仕事を終えた帰り道というよりは、異国から帰郷する途上のはやる心と思い出の回想みたい。
「青春の日々から」の哀感と激しさのある短調の旋律は、ほろ苦い青春の思い出。こちれも中間部は長調に転調して、エネルギーに満ち溢れて快活。

どこかで聴いた気がする「エレジー」(Op.47-7)
記憶をたどると、ショパンの《幻想曲》の冒頭の旋律だった。
《幻想曲》のなかで、続いて出てくる旋律が《雪の降るまちを》(中田喜直作曲)の主題にそっくりなので、”雪の降る町を~”という歌詞が頭のなかでエコーしてしまう。

Grieg Lyric Pieces Book IV, Op.47 - 7. Elegie (piano:Håkon Austbø)



グリーグの作品のなかでも、特に有名らしき「春に寄す」
子供の頃に練習したピアノ名曲選に入っていたけれど、全然ピンとこない曲だった。今聴いてもやっぱり似たような印象。

ノクターンはあまり好きではないタイプの曲なのに、「夜想曲」は、なぜかとても気に入ってしまった。
ショパンの夜想曲がどちらかというと人間の感情を歌っているように感じるのと違って、この「夜想曲」は(ノルウェーの)少し温かい夜のしっとりした濃密な空気を感じる。

Edvard Grieg ~ Notturno (Lyric Pieces Op. 54 No. 4) (piano:Leif Ove Andsnes)


どこか遠くで鐘が鳴っているように、静かにリズムを刻む「鐘の音」
明るく希望に満ちた民謡風の楽しげな旋律の「トロルドハウゲンの婚礼の日」
とても可愛らしい「おばあさんのメヌエット」


安らぎと憧れに満ちて、うっとりするようにロマンティックな「あなたのそばに」。この曲はかなり好き。

音源はギレリスの《抒情小曲集》より。写真は(たぶん)ギレリス夫妻。(年恰好からいっても、ギレリスはかなり若いので、愛娘のエレーナではないはず)

Grieg At you Feet Gilels



グリーグの音楽を愛したリヒテルは、モンサンジョンによる伝記『リヒテル』のなかでこう語っている。

「ドヴォルザークの世代のほかの作曲家も、音楽家たちのあいだでもっとよい評判を得るに値するはずです。たとえば、私の格別に好きなグリーグのような人がそうです。グリーグは傑出した作曲家です。ほとんど天才です。アルフレート・ブレンデルはグリーグについて、「家政婦向きの音楽」と言っています。どうか彼に神の憐憫の下らんことを。それに何がグリーグの評価を下げているのか、私にはわかります。じつは美点なのです。それは演奏がとても易しいということです。」

tag : グリーグ スティーヴン・ハフ

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(非公開コメント受付中)

こんにちは。
この曲集好きです。ただ、やはりどの曲かこんがらがります。ハフのは良さそうですね。あとで聴かせていただきます。
リヒテルはやはりグリーグを高評価していたのですね。東京での全曲グリーグ・リサイタルは伊達じゃなかったんだ。
ブレンデルの言葉は何とも言えない。神の憐憫なんて、優しいですね。もし彼が自分のライバルだったなら、地獄へ落ちろくらい言うかもしれません。笑
 
芳野様、こんにちは。

リヒテルはやはりグリーグが大好きだったようですね。
グリーグのピアノ協奏曲の録音は、リヒテル自身納得の出来でした。

分析的なブレンデルなので、グリーグの音楽にはあまり魅かれるものがなかったんでしょうね。
リヒテルとブレンデルではピアニズムも何もかも全然違うので、仕方がないような気もします。

叙情小曲集は、ピアニストと曲によって演奏にかなり違いがありますね。
文中に上げたピアニストのなかでは、ハフはとても明晰に感じました。
ノルウェー人のピアニスト(アウストボとアンスネス)と、他国のピアニストとを聴き比べるのも面白そうです。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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