2015_08
30
(Sun)18:00

デュシャーブル ~ ベートーヴェン作品集(テンペスト、ワルトシュタイン、告別、創作主題による32の変奏曲) 

注文後2日でアマゾンから届いたデュシャーブルの新譜。
CDで全曲聴いてみると、試聴ファイルで聴いて期待していた以上に、聴けば聴くほど素晴らしく思えたベートーヴェン。
今まで聴いたベートーヴェンのピアノ・ソナタ録音のなかでは、(方向性は違うけれど)レーゼルと同じくらいに好きになりそうなくらい。
冴えた技巧が素晴らしく、若いころのポリーニよりも技巧的には優れているのではなかろうかと。
ポリーニと違うのは、どんなに技巧の切れ味が鋭くても、無機質的なメカニカルさは全くなく、力感・量感を備えつつ、品の良い叙情感とパッションが伝わってくるところ。

試聴時の印象どおり、デュシャーブルらしく、かなり速めのテンポで、駆け抜けるように推進力があり、明快でメリハリの効いたフレージングと、切れ味良く軽快ながら、粒立ちのよい力感豊かなタッチで、引き締まって颯爽としたベートーヴェン。
技巧的に正確で安定感があり、タッチが強く硬めのわりに、響きに丸みがあって柔らかい。
力で押し通すような威圧感はないし、弱音は柔らかく、細やかで奥ゆかしさのある情感が品が良い。
どの曲も、過剰な感情移入もなく、軽やかで落ち着いた叙情感がとっても爽やか。

どの曲も外れることなく良かったけれど、特に好きなのは、ベートーヴェンのソナタのなかでもとりわけ好きな楽章のひとつ、《テンペスト》の第3楽章。
速めのテンポとバネのように弾力のあるタッチで、強弱のコントラストが強く、大きな起伏とうねるようなフレージングで、嵐というよりは、荒々しい波が岩に打ち寄せてくるようなイメージ。
特に、左手低音部がバネのように弾力があって、力強い。時々、第1拍目の音がつながって、くっきりと浮かび上がって、今まではあまり気がつかなかった隠れた旋律が聴こえてきたりする。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」、第21番「ワルとシュタイン」、第26番「告別」 他2015ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」、第21番「ワルとシュタイン」、第26番「告別」 他
(2015/7/22)
デュシャーブル(フランソワ=ルネ)

試聴ファイル


「ワルトシュタイン」は、起伏が大きくメリハリが良く効いて力感豊かで骨っぽく、構造がくっくりと浮かび上がって隅々まで明晰な演奏。
ペダルを浅く短く入れているのか、残響が少なく響きはクリアで、細部まで明瞭に聴き取れる。
第1楽章はポリーニの最初のスタジオ録音並みにテンポが速く、それでいて、一音一音明瞭で骨っぽいタッチ。バタバタとした慌しさは全然なく、疾走感が小気味良い。
左手低音部の同音連打は、まるで機関車がトットットットッと.疾走しているような感覚がする。
軽快だけど軽すぎず、強音部はほどよい力感でいかめしすぎず。
弱音部では、若干テンポを落とし、柔らかいタッチで歌い回しは穏やかで滑らか。落ち着いて優しげな情感が品良い。
緩急・硬軟のコントラストも強すぎることなく、このバランス感覚が私にはちょうど良い。
第3楽章も速めのテンポで、弱音部は軽やかで滑らかで、強奏部はアクセントがよく効いて、歯切れ良いタッチでリズミカル。
この楽章は第1楽章ほど好きではないのだけど、デュシャーブルの演奏は強弱・硬軟のコントラストが明瞭でダイナミックなので、最後まで面白く聴ける。
終盤のグリッサンドの部分は、グリッサンドにしては滑らかではないので、バックハウスと同じように、両手のオクターブでスケールを弾いていると思う。それにしては、テンポがほとんど落ちず、タッチも軽やか。

FRANCOIS-RENE DUCHABLE plays BEETHOVEN Sonata No 21 "Waldstein" (1995)



「告別」の第3楽章も、速いテンポで勢いよく、生き生きとした躍動感があって、再会の喜びが溢れ出てくるよう。
《自作主題による32の変奏曲》は、ヴェデルニコフの暗い色調で、峻厳で息き詰るような演奏とは違って、全体的にテンポがかなり速く、色調は明るめ。歯切れのよい打鍵で一音一音曖昧さも曇りもなく明瞭。急速の同音連打も精密。
急速系の変奏は切れ味良い技巧で一気呵成に弾き込むような勢いよく、、緩徐系の変奏は音色も叙情感も美しく、緩急の変奏のコントラストが鮮やか。


<参考情報>
デュシャーブル [ぴあのピアの徒然日記]
CDの解説にも書いていたけれど、コンサートピアニストの世界から引退するときに、ヘリコプターに吊るしたグランドピアノを池のなかに投げ捨てたという。

カツァリスのインタビュー記事[ものごっついピアニスト シプリアン・カツァリス]
デュシャーブルについて、かのルービンシュタインが「若手の中で私が理想と するピアニスト」と高く評価した話は有名。
カツァリスも、「同世代のピアニストでは誰に関心がありますか?」という質問に対して、「まず、デュシャーブル。彼は非常にタフで演奏に安定性があり 尊敬しています。」と答えている。


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